感情8号線

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396634803

感想・レビュー・書評

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  • 敢えて、冒頭ではなく最終節より───

    「見合いしろ、見合い」
     そう言って、公太君は電話を切ってしまう。
     しつこくかけなくても、また会うだろう。
     二子玉川にある瀬田交差点を通りすぎ、上野毛の駅前を通りすぎる。もうすぐ田園調布に着く。
     家に帰ったら、母にもお見合いはしないとはっきり言おう。
     恋愛する相手は、自分で決める。(270P)
    ──────


    人間誰しも内に秘めた感情というものがある。
    泣きたいけど、笑ったり。
    怒りたいけど、何気ないようにごまかしたり。
    口に出したいけど、黙っていたり。

    感情をそのままぶつけたり、他人に態度で表したりすると
    正常な社会生活を送ることができなくなる。

    ぼくが高校の頃見たのだから、もう40年以上前になるが、
    「それぞれの秋」というテレビドラマがあった。
    註:WIKIで調べたら下記のように記載されていた。
    (1973年9月6日から同年12月13日までTBS系列の木曜22:00 - 22:56(木下恵介・人間の歌シリーズ)で放映されたテレビドラマである。第6回テレビ大賞本賞受賞作品、第11回ギャラクシー賞受賞作品。)

    家族の物語で、父親役の小林桂樹が突然脳の病気にかかってしまう。
    頭の中で感じたことを全てそのまま言葉にしてしまい、
    同時に感情や態度として表してしまうという厄介な病気だった。
    ちょっと思ったことでもすぐ口にして、感情を露わにするので、
    その父親と、母親、息子、娘との関係は荒んだものになっていく。

    たとえば、どんなに仲の良い友達であっても「嫌なことを言うなあ」とふと感じる瞬間が誰にでもあるだろう。
    普通の人間はそう思っても心の中にしまっておく。
    友達との関係性を壊したくないという感情が先に働くからだ。
    それをいきなり怒鳴りたてるように口走ったらどうなるか?
    すぐに険悪な雰囲気になり、友情にひびが入るのは間違いない。

    当時そのドラマを見たぼくは、「人というのは、感情をそのまま言葉にしてしまうと、他人との関係なんて成り立たなくなるんだ」とあらためて思ったものだ。

    この作品は東京の幹線道路である“環状八号線”になぞらえ、その沿線に在る「荻窪」「八幡山」「千歳船橋」「二子玉川」「上野毛」「田園調布」に住む女性六人の恋愛にまつわる“感情”の揺れ、起伏といったものを見事に描写している。

    静岡から役者になるため上京し、餃子屋でバイトしている真希。
    インテリアショップでバイトをし、彼と同棲している絵梨。
    思い描いていた通りの新婚生活を送っているはずの亜美。
    社内結婚で専業主婦となり、二人の子供を持つ芙美。
    容姿に恵まれ、キャリアウーマンとして仕事も有能な里奈。
    他人が羨むような裕福な家に育ち、お嬢様として育てられた麻夕。

    それぞれ立場は異なるが、彼女たちの心の中を、恋人や夫、友人、家族に対する、焦り、苛立ち、不満、不安、等の様々な感情が駆け巡る。
    彼女ら六人は色々なところで接点を持ち、結び付いている。

    初出を見ると「Feel Love」だったり「小説NON」だったりと本来は微妙に異なる短編のはずだと思うのだが、この六篇が見事にリンクし重なり合い、一つの完成された作品となっている。最初から落としどころを定めていたかのように。

    しかも第一章の「荻窪」から最終章の「田園調布」まで、北から南に下って行くに従い街の生活レベルが高くなっていくというのは実際その通りで、それに合わせた登場人物の設定という構成も見事だ。
    (そんなことを感じたので、敢えて冒頭部分ではなく最終節を引用してみた。これを読んでも、結末を知るとか、内容が分かるとか、そういうものとは一切無縁なはずなので)

    読み終わった時より、このレビューを書いているうちにあらためてその凄さに気付き、唸ってしまった。

    これほど素晴らしい連作短編で、かつ最後が締まっている作品を読んだのは、現在日本一の短編の名手である吉田修一氏の「日曜日たち」を読んで以来という気がする。
    註:あの作品は名作です。ずっと読み進めて来て最後の1P(最後の三行?)で突然涙が零れ落ちるという稀有な作品。未読の方は是非お読みください。<(_ _)>

    畑野智美さんの作品をこれまで何作か読ませてもらったが、不安に揺れ動く女性の心理描写もさることながら、章立ての構成をあらためて分析すると、この作品は出色のでき栄えであり、彼女の最高傑作ではないかと思う。
    お薦めです。

    • 杜のうさこさん
      こちらでもこんばんは~♪

      畑野智美さん、アンソロジーで読んだだけで、ずっと読みたかった作家さんです。
      この本も、少し前にブクログのお...
      こちらでもこんばんは~♪

      畑野智美さん、アンソロジーで読んだだけで、ずっと読みたかった作家さんです。
      この本も、少し前にブクログのお仲間本棚さんで拝見してから読みたくて~。
      最高傑作ですか!
      吉田修一さんの「日曜日たち」もメモメモです。
      あ~24時間本だけ読んでいられる別の頭脳が欲しいです(笑)
      2016/02/06
  • 環八沿いの街で暮らす6人の女性達の連作短編。
    片思いをしていたり、DV被害にあっていたり、新婚なのに元カレと再会したり、キャリア志向だったのに専業主婦だったり、不倫をしてたり、みんな色々。
    それぞれの話がリンクしているので、見る人の立場で、それぞれが違うように見え、それが面白かった。
    よそから見れば幸せそうでも、別の立場では悩んでいたり、人の暮らしや気持ちをのぞき見てるような気分になります。

    途中、人間関係が複雑に感じ、思わず相関図を書いてしましましたが、なんてことはなかった(笑)

    里奈の新しい恋の行方が気になります。

  • 切なかったけど、いろんなことを感じて、勇気ももらえた本。

  • 電車を使うと不便だけど、環8を使うとスムーズに。
    それは地理的な話なのか感情的な話なのか・・・

著者プロフィール

1979年東京都生まれ。2010年「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞を受賞。13年に『海の見える街』、14年に『南部芸能事務所』で吉川英治文学新人賞の候補となる。著書にドラマ化された『感情8号線』、『ふたつの星とタイムマシン』『タイムマシンでは、行けない明日』『消えない月』『神さまを待っている』『大人になったら、』『若葉荘の暮らし』などがある。

「2023年 『トワイライライト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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