私は存在が空気

著者 :
  • 祥伝社
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本棚登録 : 823
レビュー : 127
  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396634841

感想・レビュー・書評

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  • 様々な特殊能力を持った人たちの
    おかしな日常と
    悲しみや孤独、痛みや恋を描いた短編集。


    それぞれの話の簡単なあらすじを言うと

    一瞬にして空間を飛び越える能力「ジャンプ」を身に付けた
    引きこもりの男子校生の恋の結末と成長を描いた
    『少年ジャンパー』、

    漫画「ドラえもん」に登場するひみつ道具「石ころぼうし」をかぶったかのように、
    存在感を自由に消すことのできる少女の初恋の相手とは…
    『私は存在が空気』、

    愛する彼氏とスクランブル交差点を渡ろうとすると、
    なぜか必ず人混みにもみくちゃにされ、違う人の手を握りしめているどんくさい彼女。
    そんな二人が自らの未来を賭け、
    東京最大のスクランブル交差点、渋谷の人混みに挑む!(笑)
    『恋する交差点』、

    物体を縮小させるスモールライトによって小さな体になった少年は、
    誘拐されたクラスメートの女子を救うため、
    愛犬ペスに乗り冒険の旅に出るが…
    『スモールライト・アドベンチャー』、

    パイロキネシス(火を発生させる超能力)を持つロシア人のクォーターの女性と
    ボロアパートの雇われ管理人である青年との奇妙な触れ合いを
    ほのぼのと、時にハードボイルドに描いた
    『ファイアスターター湯川さん』、

    他人には見えない透明な腕で、
    遠くの物体を触って動かすことができる特殊能力(テレキネシス)を持つ少女は、
    妹を交通事故で亡くした少年とコックリさんを通じて知り合う…
    『サイキック人生』


    などバラエティ豊かな計6編を収録しています。


    個人的には
    中田永一の本領発揮とも言える、
    オープニングを飾る『少年ジャンパー』のなんとも言えない切なさ加減と、

    『ファイアスターター湯川さん』の
    映像が浮かび上がる文章と
    (宮部みゆきの某作品とも設定はダブるけど笑)

    詩的とも言える、
    ほのぼのとして
    どこか冷たい空気感(北国の話だけに笑)がとにかく、ツボだった。


    しかし、中田永一は
    思春期特有の危うさや脆さを描くのが本当に上手い。

    全編を彩る切ない詩情と甘酸っぱい郷愁が胸を打つし、
    この作品では、特に、
    乙一名義の作品にも常に根底に流れている
    『逸脱した者』や『アウトサイダー』の哀しみを描いていて、
    無条件に惹かれてしまう。
    (冴えない者や異形の者や落ちこぼれたちを好んで描く映画監督ティム・バートンと中田永一および乙一は同じ匂いがする)


    周りの環境や体制や暗黙のルールに馴染めず、
    どこにいても自分は黒い羊だと感じていた思春期の僕。

    だからこそ、乙一や中田永一の描く
    はみ出し者たちの悲しみや痛みに胸を貫かれるのだろう。


    そして、彼の書く物語の主人公たちは、
    引きこもりや
    なんの取り柄もないと思い込んでる、
    いわば、弱い人たちなのだけど、
    彼ら(彼女らは)簡単に諦めたりはしないのだ。

    弱ければ弱いなりに、
    1ミリでもいいから
    ままならない人生というものに抵抗してやろうという姿勢で、
    それぞれがそれぞれの見えない敵と戦っていく。

    この、なにくそという気概、
    いわば不器用な『ドン・キホーテの精神』に
    僕の心はいつも撃たれてしまうのだ。



    そんなの、ただのラノベ風味の物語じゃないかと言うのは簡単だ。

    けれど、誰かが作った物語や表現を
    確かに必要とする人たちがいる。

    そしてたったひとつのラノベに助けられたり、
    ただのフィクションの物語が
    読む人を照らす光になり得ることを
    誰が否定できるだろう。


    逸脱した者たちを描いたこの物語が、
    同じ悲しみに暮れる誰かの心を照らしますように。

    黒い羊に寄り添う三日月の存在でありますように。

  • 乙一、じゃなくて中田さんの優しさが心に染みる短編集でした。

    中田さんは作品の中で、弱々しく、馬鹿にされている人間達に‘超能力’という‘力’を与える。
    それは『サイキック人生』の少女の一世一代の‘優しい嘘’みたいなものかもしれない。
    それを偽善と思う人もいるかもしれないけど、偽善でも救われる人もいる。

    『私は存在が空気』は『暗いところで待ち合わせ』を、『ファイヤースターター湯川さん』は小説『ジョジョ』を思い起こさせる。

    お気に入り作品は『少年ジャンパー』。
    博多弁が心地よく、スケールが小さいようで大きいのが好み。

    お気に入りキャラは『ファイヤースターター湯川さん』の片腕がなく、吃音でチック症の溝呂木。
    ギャップにしびれる。

    『ファイヤースターター湯川さん』のラストのあの台詞は、もしかしたら中田さんが自分の息子に捧げた台詞かな。前読んだ『ダヴィンチ』で二年前に息子が生まれた、とか書いてあった気がする。

  • 乙一さんの別名義である中田永一さんの新刊です。普段はこのテの表紙の作品は敬遠してしまうのですが、このたび山本周五郎賞にノミネートされたということで手に取ってみました。確かデビュー作以来です、乙一さんの作品を読むのは。
    6編から成る短編集ですが、どの作品も重くなく軽妙で、すらすら楽しく、あっという間に読み終わりました。適度にひねりを利かせて、適度なところに着地し、適度に感動を与えるプロの作品に仕上がっている、という印象です。もっとも、もうひと押しあれば絶対傑作になっていたのになあ…と思えたものもありました。
    個人的に一番面白かったのは「ファイアスターター湯川さん」かな。これを読んで宮部みゆきさんの『クロスファイア』を思い出したのは私だけではないはず。

  •  中田永一とは、乙一さんの別名義の1つである。作風としては青春物が多いだろうか。長編『くちびるに歌を』は素直に良い作品だったが、一方で苦手意識もある。今回は超能力者×恋物語? 苦手を覚悟しつつ、手に取ってみたが…。

     「少年ジャンパー」。タイトルから想像できる人もいるだろうか。容姿にコンプレックスを持ち、不登校になった少年の能力とは。彼が一歩踏み出す物語という側面もあるもの、うーん、利用されているだけのようで、切ない…。

     表題作「私は存在が空気」。こんな能力があったら悪用されそうだが、少女にとっては自衛のためだった。そんな彼女の恋の結末とは…。「空気」からシンデレラに華麗に変身する話ではないとだけ書いておきましょう。あなたらしいですわ。

     短い「恋する交差点」。これって超能力なの? よ、よかったね…。これまた短い「スモールライト・アドベンチャー」。きっかけは小学生らしい下心だが、気になるあの子のピンチに立ち合がる。少年も頑張ったけど、最も褒めたいのは「彼」か。

     一転して本作中最も長い「ファイアスターター湯川さん」。タイトルで能力がバレバレ。あの作品を思い出すところだが、あれほど重くはない。しかし、軽くもない。映像化には向いているだろう。こういうネタの料理法のうまさは、著者らしい。

     「サイキック人生」。天然キャラで通っている少女は、実は超能力者だった。天然キャラが不本意な彼女は、いたずらが過ぎて、霊能者として評判になる。そんなことしなければ、騒ぎにならなかったのに…。で、恋の行方はどうなるの?

     というわけで、全6編、恋愛ベタベタな作品はほとんどなく、自分としては「乙一」作品として楽しんで読めた。本人が別名義を公表後も、中田永一名義で発表しているのは、照れ隠しなのだろうか。作品が読めるなら、名義はどうでもいいのだが。

     時間がかかってもいい、これからも、乙一さんにしか書けない作品を。

  • 作者お得意のコミュニケーションが苦手だったり、コンプレックスを抱いている少年少女の物語。そこに少し不思議な要素がプラスされています。
    ひきこもりの少年は瞬間移動の超能力を持ち、存在感の乏しい少女は完全に存在感を消すことができるようになる。そんな不思議により、一歩踏み出す物語が展開されます。しかしそれはコンプレックスが消え去ることでなく、コンプレックスはコンプレックスとしてそのままであり、でもそのコンプレックスも含めて自分なのだと受け止めたかのような一歩なのです。だから、その一歩がとても大きく強く感じられるのです。
    その中で異彩を放つのが発火能力をもつ少女の出てくる「ファイアスターター湯川さん」。裏社会に生きる超能力少女がつかの間平凡な暮らしを体験するというのは、昔からあるパターンではありますが、作者特有の淡々とした描写が重さを消し去り、ラストの清々しさを生んでいます。これもまた大きな一歩を踏み出す物語ですね。その姿は読み手のこちらの背も温かい手で押してくれます。

  • 最初の「少年ジャンパー」はたいへん良かった。軽やかで、福岡弁の会話も生き生きしてて、「ジャンプ」自体はラノベ的な感じではあるが(SFやファンタジーって感じではない)ちょっと切ない成長小説で、才能あるなあと感心したのだが、他はそうでもなかった。

    乙一名義の作品とは違って中田永一は爽やかな青春小説というイメージだったが、学校で人気者の先輩が強姦魔で、しかも後輩を襲ったり(「私は存在が空気」)、少女がヤクザに始末された人の遺体処理を行ったり(「ファイアスターター湯川さん」)、結構ダーク。
    おかしいことには違和感を感じる才能のある少女が、憧れの先輩が強姦魔だということに気づかないのも変だし、配偶者(になる人)には自分の特殊能力を知られてもいいが、それ以外の人に知られたら殺さなければならないって(「サイキック人生」)、離婚したらどうするのさ。ありえない能力の物語なんだから楽しめばいいのかもしれないが、そういう「ほつれ」は気になる。
     乙一(中田永一)はうまい作家だと思うけど、これはいまいち。「少年ジャンパー」だけ読めば十分。中高生は喜ぶだろうけど、大人の鑑賞に堪えるものではない。

  • 乙一さん大好きな人沢山いますよね。僕も結構好きです。追いかけはしなかったけれど暗いところで待ち合わせ読んだ時なんて感動感動また感動でした。天才だなと思いました。いつしか本でないなと思っていたら変名で出していたんですね。
    この本はとっても漫画的でするする読めます。するする読める事が褒め言葉かどうかは分かりませんが、それだけ整理されて読みやすいし一本道の話というのは頭が疲れなくていいですね。
    ほぼ超能力者の話の短編です。一個一個の話が全て変化があるしそれぞれに感情移入させる力があるので大したもんだと思いました。自分がこの能力だったらどうだろうかと考えながら読んでいましたね。
    その分特に引っ掛かりが無いので読んだこと忘れちゃうかもなあとも思いました。

  • タイトルと表紙の女の子が印象的だったので読むことに・・・
    何篇かの短い小説が収められていてこのタイトルのお話は2話目でした。
    ひきこもりの子供のお話かと思いきや、存在感がないことを活かして
    レイプ犯を検挙するという勇ましい展開に・・・(笑
    彼女はこの中で恋をするのだけれども
    人を好きになる事によってだんだんと自分の輪郭がはっきりしていく・・・
    きっとその先は失恋が待っているのだろうけど、
    人を愛する事を第一歩として彼女の人生がはっきりと形づくられていくのだと思った。

  • 図書館にて。
    乙一さんお久しぶりです、という感じ。
    「ZOO」を初めて読んだ衝撃を思い出した。
    あの作品より柔らかくて読みやすいかな。
    中田永一さんとしての本だし、ホラーではないし。
    「少年ジャンパー」すごく良かった。
    「私は存在が空気」この人にしか描けない世界だと思う。
    「ファイアスターター湯川さん」これも良かった。ありがちなようで、風景が見える素敵な作品。
    でも表題作が一番良かった。
    好きな作家の作品はやっぱり間違いがない、と思わせてくれる作品だった。

  • タイトルに惹かれて読んでみました。
    超能力があるからと、大それたことを考えるでもなく日常を送る人たちとちょっとした恋のお話でした。
    少年ジャンパーと私は存在が空気、サイキック人生が面白かったと思います。

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著者プロフィール

1978年福岡県生まれ、2008年『百瀬、こっちを向いて。』でデビュー。他の著書に『吉祥寺の朝日奈くん』『くちびるに歌を』『私は存在が空気』。別名義での作品も多数。

「2017年 『僕は小説が書けない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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