焼け跡のハイヒール

著者 : 盛田隆二
  • 祥伝社 (2017年10月11日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396635305

焼け跡のハイヒールの感想・レビュー・書評

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  • 老親の介護を綴るノンフィクションと、その両親の青春の日々を描くフィクションとを組み合わせたような作品である。

    母は看護師として長年働いてきたが、パーキンソン病と診断され、以後、緩慢ではあるが悪化の一途をたどる。父は亭主関白で母なしでは身の回りのこともできず、母を亡くした後は認知症の症状が現れ始める。そこから、著者の長い介護の日々が始まる。そして父を送る日がやってくる。
    生前は喧嘩の絶えない2人だった印象があるが、果たして最初からそうだったのか?
    作家である著者は、2人の青春の日々をフィクションとして描いてみようと思い立つ。
    古いアルバムや手紙、親戚に聞いた思い出話がかすかな頼りだった。

    両親の青春時代は戦争の只中だった。
    父は通信兵として中国に赴いた。凍死者が出る寒さの中で行軍し、難聴にもなった。
    母は大空襲直後の東京で看護師になるべく、看護師養成所で死に物狂いで働いた。食糧事情も悪い中、仲間と励ましあって必死に知識を身に付けた。
    やがて終戦。2人は患者と看護師として出会う。

    母に出会う前の父の儚いロマンス。初任給で買った母の赤いハイヒール。
    父と母の交際のこそばゆいような日々。
    それらの中には、著者の想像に負う部分も多そうで、実際そうであったのか疑問を感じるエピソードもなくはない。だが、戦時中ではあっても人々はそれぞれの人生を生き、何より両親にも困難な中にも輝いていた季節があったはずだという祈りにも似た思いが本作を駆動しているように感じられる。
    記憶に残る両親は老い、病み、苦しいことも多かったけれども、もう一度、たとえ小説の中だとしても、青春を生きてほしいという願い。それは作家という職業の息子でなければなしえない、哀悼の1つの形であったのかもしれない。

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