銀杏手ならい

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396635336

感想・レビュー・書評

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  • 子供ができず離縁され実家に帰り、父親の代わりに手習所の塾長を継ぐことになった萌。ある日、塾の前に赤子が置き去りにされているのを発見。自身も捨て子であったことや子宝に恵まれなかったこともあり、情が捨てられず養子にする決心をします。母や近所の人たちに助けられながら親として先生として成長していくというお話です。

    萌や筆子たち、赤子の美弥の成長ぶりが季節の移ろいと共に描かれています。手習所にある銀杏の木がそれを見守り、時に金色の扇のように祝福しているのが素敵です。
    萌が子供の個性に寄り添いながら導いていきます。昔も多動とかギフテッドとか概念や定義はないけど色々あったのだろうということが伺えます。「こどもも親の不遇をかこつことになる」親の家業を継ぐのがあたりまえだった時代、自分の特性を押し殺して大人になった子供もたくさんいたんだろうなぁ。

  • 手習所は、年齢も、職業も違う子供たちを
    萌先生が、子供一人ひとりに目を向けて教える姿が
    眩しく、美しく、これが本来の教育と思えてなりません。

    江戸は小日向水道町で一軒家を借りて、手習所銀杏(ぎんなん)堂を営む師匠・嶋村萌23才の奮闘の物語です。

    【銀杏(ぎんなん)手ならい】
    嶋村萌は、1年前に婚家である御家人の琴平家から戻って来た。それは、嫁いできっかり3年で、突然に離縁を申し渡されて嶋村家に帰された。理由は、萌には子供が授からなかった。そして家業の銀杏堂を手伝いだした。1年経ったときに義父・承仙は、萌に銀杏堂を任せて旅に出て行った。萌の筆子14人は、百姓、商人、職人、武家の男女を6才から11歳まで預かって、子供一人ひとりの習熟度にあわせて教えている。10才をこえる女の子5人への作法や茶道、生け花は、義母・美津が担当している。あわせて銀杏堂へは19人が通っている。承仙から萌に変わったときに6人がやめていった。

    【捨てる神 拾う神】
    頑固な萌は、早朝に銀杏堂の門前にある銀杏の大木の前に捨てられていた生後半年くらいの女の子をしっかり抱いていた。そして美津にこの子は、私が育てますと宣言する。名を美弥とつける。美津は、23年前の自分を見ている様であった。美津と承仙の間には、子が授からず。門前に捨てられていた萌をお不動様の授かりものとして大切に育ててきた。

    【呑んべ師匠】
    手習所「椎塾」の椎葉は、常に酒を飲んでいる。萌は父・承仙が、旅に出る時に困ったことが起きた時は、椎葉先生に頼ってみてはと言っていたことを思い出し、椎塾に行ってみると。4人の子供が行儀も悪く、寝たり、立ったりととても手習所とは思えない。よく見ると、絵を描いたり、彫刻したりと様々だか。どれも子供の作とはとてもおもえない良いできだ。椎葉は、この子たちは、他の手習所からぼろくずのようにはじき出された子だと。私は、この子たちに自信をつけさせて、己の長所を伸ばしたいと。

    【春の声】
    手習所では、学問を教えるとともに行儀作法をも教える。それは、子供たちが手習所を出て奉公にあがった先でまず見られるのは、行儀作法だからです。家では、どうしてもできないことを手習所で躾けられることを親が期待して手習所を選ぶ。手習所は、子供のことを思って教えるより、親の意向を踏まえて教育する事の方が多い。萌は、そんな中でより子供たちに寄り添った教育を志したいとおもっている。

    【五十(いそ)の手習い】
    萌の筆子・信平は、父を流行風邪で亡くし、母と幼い弟妹を食べさせるために働かなければならなかった。萌は、学問がないのは、大海で板切れもなく漂っているだけだ。家計を助けながら、学問を続けることが出来ないかと模索する。信平が好きな型彫職人の五十蔵に相談すると。五十蔵も小さいときに父を亡くして手習所にもいけづに働いたために字も書けずバカにされて苦労した。萌の思いが、五十蔵を動かして頑固に弟子を取らなかった五十蔵が信平を弟子として。二人で月に何回か萌の手習所に通うこととなる。

    【目白坂の難】
    萌の筆子・桃助は、姉の咳止めの薬を求めて薬種問屋へ行くがとても高くて買うことが出来ない。手代から薬草のソウマオウを持ってきたら代わりに咳止め薬をくれると聞き。ソウマオウを探しに幼い弟と行く、そのことを知った筆子で御家人の倅・増之介、百姓の倅角太郎が一緒になって昔薬草園があった目白坂の大名屋敷に向かったが。あまりにも広大な屋敷で迷い何十匹もの野犬に囲まれた時に増之介と角太郎が、幼い子を庇って動き、無事に野犬を撃退する。その話を聞いた萌は、感激し二人を褒める。

    【親ふたり】
    萌がちょっと仕事仲間と話している間に、2才の美弥が攫われる。萌は、半狂乱に。そんな時に美弥の生みの親が銀杏堂を訪ねてきた。萌が、半狂乱から立ち直り、自分も捨て子であったがこの銀杏堂で両親に大切に育てられたことを思い。美弥の生みの親から里子に出した先を聞き。駆けつけます。そこに居た美弥を抱きしめた時のぬくもりに、萌は、まことの母になったと。

    【読後】
    読みやすく、展開が早く、次へ次へとページをめくる手が止まりません。手習所は、年齢も、職業も違う子供たちを萌先生が、子供一人ひとりに目を向けて教える姿を見て。ふと自分を振り返るといろんなことがあり、小さな時に自分の長所、短所を知っていたらもう少し違った人生があったように思えてきます。なお、この本を読む前日に舌を噛んだために読み終るのに時間がかかりました。

    【読むきっかけ】
    この本を手に取ったのは、音読で読んだ西條奈加さんの「善人長屋」「まるまるの毬(いが)」がよくて西條奈加さんの大活字本を調べたら4冊でていました。残りの「六花落々(りっか ふるふる)」と「銀杏(ぎんなん)手ならい」と続けて読んで行きます。

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    【音読】
    2022年7月19日から8月1日まで、音読で西條奈加さんの「銀杏(ぎんなん)手ならい」を大活字本で読みました。この大活字本の底本は、2017年11月に祥伝社から発行された「銀杏(ぎんなん)手ならい」です。本の登録は、祥伝社で行います。大活字文化普及協会発行の大活字本は、第1巻~第3巻までの3冊からなっています。
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    銀杏(ぎんなん)手ならい
    2021.12大活字文化普及協会発行。字の大きさは…大活字。
    2022.07.19~08.01音読で読了。★★★☆☆
    銀杏(ぎんなん)手ならい、捨てる神 拾う神、呑んべ師匠、春の声、五十(いそ)の手習い、目白坂の難、親ふたり、の連載短編7話。
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  • ココロにしっとり染み込む一冊だったな。
    西條奈加さん、やはり好き!

  • 親子の絆は血ではなく情をテーマに主人公の成長を描いた物語。確かに情は絆を作るのに大切だとは感じるものの、血のつながりとかない人にそこまでの情をかけれるのはなかなか大変だなぁと思う。情が大切とか血のつながりが大切とかではなくて本質的な何かがあるのかな…少し情について考え直したくなった本。

  • 親と子を繋ぐのは血ではなく情。
    子を慈しむ情こそが、その年月こそが本当の絆。
    それは江戸の手習所の師匠と筆子(生徒)もまた同じ。
    筆子たちが自分の人生を生きていく上で必要な知恵を身につけるため、叱咤しながらも筆子一人一人に寄り添い導く。
    もちろん武家の子も百姓の子も町人の子も等しく同じ。そこには身分の分け隔てなどない。

    父の跡を継ぎ、実家の手習所・銀杏堂で筆子たちに読み書き算盤を教える萌の物語。
    子供たちが一筋縄にはいかないのは、いつの世も同じ。
    そんな子供たちと一緒に成長していく萌の姿に好感を持った。
    西條さんの描く江戸の物語は人情に溢れていて安心して読める。
    筆子たちや美弥のその後、のんべえの椎葉先生との関わりなど気になることが沢山あるのでまた続編が出るといいな。

  • 今作の主人公である萌は、嫁ぎ先で子を成せず、出戻り先の実家で「銀杏堂」という手習指南所を父親から引継ぎます。教え子から女先生と軽んじられたりしつつも、新米手習師匠として子供たちに一生懸命向き合い、彼らと一緒に成長していく姿が描かれています。
    最初こそ、出戻りの自分に気が引けてか、自信なさげに振る舞う萌でしたが、読み進めていくうちに意外と芯の持った、それでいて先輩師匠の教えもきちんと聞き入れる柔軟さも持ち合わせる、賢明な女性だと気づかされました。手習師匠としての萌の成長だけでなく、子供たちも著しく成長を見せ、特に悪童の二人の人間的な成長ぶりにはこちらも嬉しくなります。萌の肩肘張らずに変な意固地さも見せないその素直な姿に、気持ちよく読書を進めることが出来ました。
    捨て子の萌が、同じく捨て子を拾って養女として育てるエピソードは少々詰め込み過ぎでクドいかと思いましたが、シリーズとして師匠ならびに母親としての萌の成長を今後も観れたらいいなと思います。

  • 2020.3.6

  • 久しぶりの西條作品ですね。この作家さんの作品はいつ読んでもほっこりします。でも個性的な筆子たちや師匠仲間はいいんですが、肝心の萌先生のキャラがちょっと弱いような気がします。美弥との関わりも薄いというか、乳母に任せきりのように見えるというか…手習所の師匠をしながらの子育ては確かに大変かもしれないけど、専業主婦とはいえ3人の子を育てた私としては「乳母とか、羨ましーっ!」と思いましたよ(^-^; 続編を期待したいです。☆3・5

  • 手習指南所「銀杏堂」を舞台に、新米“出戻り”女師匠・萌と、そこに通う筆子たちの成長と交流を描いた連作です。

    江戸の人たちの識字率の高さは、こうした手習い所があちこちにあったからなのでしょうね。
    “のんべ先生”の「椎塾」は今でいう、フリースクールみたいだと思いました。
    西條さんの江戸モノは安心して読めるので好きです。

  • 続編希望。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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