羊は安らかに草を食み

  • 祥伝社
4.18
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636036

作品紹介・あらすじ

認知症を患い、日ごと記憶が失われゆく老女には、それでも消せない “秘密の絆” があった――
八十六年の人生を遡る最後の旅が、図らずも浮かび上がらせる壮絶な真実!

日本推理作家協会賞 『愚者の毒』 を超える、魂の戦慄!

過去の断片が、まあさんを苦しめている。それまで理性で抑えつけていたものが溢れ出してきているのだ。彼女の心のつかえを取り除いてあげたい――
アイと富士子は、二十年来の友人・益恵を “最後の旅” に連れ出すことにした。それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。大津、松山、五島列島……満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは? 旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、老女たちの運命は急転する――。

感想・レビュー・書評

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  • 宇佐美まことさんの作品は3作目ですが、前作とはレベルが全く違うハイレベルな作品だと思いました。

    都築益恵(まあさん)86歳、持田アイ(アイちゃん)80歳、須田富士子(富士ちゃん)77歳は俳句教室で知り合った長年の友人同士でこれまでも一緒に旅行をしてきましたが、益恵の50代で再婚した夫の三千男が「まあちゃんが認知症になったようなので、最後に旅に連れていってほしい」と言い出し三人は大津、松山、佐世保市の國先島という順番で益恵のなつかしい友人と「カヨちゃん」を探す旅に出ます。

    旅と共に益恵が11歳のときに家族全員が亡くなり一人で生き残って帰ってきた、満州での凄惨な体験が明らかになります。

    益恵が満州にいたとき、日本は戦争に負けて、家族全員が殺されたり自決しましたが、益恵だけは孤児となりましたが、同じ孤児の佳代ちゃんと出会い二人で筆舌に尽くしがたい大変な経験をして、生きながらえて、日本に戻り、佳代の実家へと帰ってきたのでした。
    満州での幼い二人の経験は壮絶な生と死の戦いでした。
    二人の日本人の女の子は少しづつ賢くなって、頭を使って生き抜くための術を考えたのです、日本まで生きて帰るために。
    益恵は満人に襲われた佳代を助けて石でうち殺したし、佳代が腸チフスに罹ったときは効くという死人の骨を煎じて飲ませました。
    そして國先島で、二人は一緒に働き、二人共そこで所帯を持ちます。

    その二人が何故、益恵が島を出てから今まで一度も会おうとしなかったのか…。
    「カヨちゃん」にアイが連絡をとっても、佳代は手紙の返事すら寄こしません。
    この旅行で果たして「カヨちゃん」に会うことはできるのか…。

    最後は前半の満州の空気とはうって変わって日本のミステリー調になり、最後の最後は本当にスカッとしました。
    益恵と佳代、アイと富士子も、人生最後までよくやったと思いました。

    • くるたんさん
      こちらでもおつかれさまでした♪
      読んだあの時の思いがまたよみがえってきました。

      生き抜く…人間って強いな、そうも思いました。
      戦争のトラウ...
      こちらでもおつかれさまでした♪
      読んだあの時の思いがまたよみがえってきました。

      生き抜く…人間って強いな、そうも思いました。
      戦争のトラウマを抱えている人もたくさんいるんでしょうね。
      ほんとうに平和を願います。

      老女達、それぞれの旅仕舞いも良かったですね。
      2021/05/07
    • まことさん
      くるたんさん。

      本当に壮絶なすごい物語でした。
      でもこれは、きっと実際どこかで本当に経験していらっしゃる方がたくさんいたのですよね。...
      くるたんさん。

      本当に壮絶なすごい物語でした。
      でもこれは、きっと実際どこかで本当に経験していらっしゃる方がたくさんいたのですよね。
      平和な時代に生まれた幸運をありがたく思います。

      私も、この作品の老女たちのようにちゃんと旅仕舞いができるのだろうかとも思いました。
      2021/05/07
  • 壮絶な物語でした。
    想像を絶していました。
    認知症になった益恵は、友だちのアイと富士子と人生最後の旅に出ます。
    かつて暮らしていた土地を次々とめぐる現在のパートと、子どもの頃過ごした満州での過去のパートが順番に繰り返されます。
    満州での出来事がとにかく想像を絶しています。11歳で孤児となった益恵。そこでの暮らしがとても悲惨で何度も読むのが辛くなりました。
    現在のパートでも、益恵の元夫が戦争で体験したことが語られる部分では耳も目も塞ぎたくなりました。
    それでも満州で親切にしてくれる人もいたと。以前、日本人に親切にしてもらったから日本人の子どもには親切にしてあげようという中国人。情けは人の為ならず。この精神が広がれば優しい世界になるんだろうなぁと思います。

    益恵の心のつかえを取り除くお手伝いをしていたアイと富士子にとっても、人生の最終章をどう迎えるかの答えを求める旅になってゆく。
    彼女たちは私の母と同年代なので、父や母を思い浮かべながら読んだけれど、何年後かにはまた違った思いで読むことのできる作品だろうと思います。
    とても良いお話でした。お薦めです。

    • かなさん
      こっとんさん、初めまして。
      私もこの作品、すごく印象に残っています…。
      この3人の変わらない友情、いいですよね!
      年を重ね、たとえ認知...
      こっとんさん、初めまして。
      私もこの作品、すごく印象に残っています…。
      この3人の変わらない友情、いいですよね!
      年を重ね、たとえ認知症になってもこんなにも親身になってくれる友人、
      私にはいるかなぁ…とか、考えてしまいました。
      こっとんさんのおっしゃるとおり、
      何年か後に改めて読みたいと思いました。

      こっとんさんの本棚には、私がこれから読みたいと思っている作品とか
      今までに読んだ作品もあったりするので、
      これを機会にフォローさせていただきますね!
      今後もよろしくお願いします。
      2022/09/19
    • こっとんさん
      かなさん、初めまして♪
      フォロー、コメントありがとうございます。
      私もこの作品を読んで、こんな友だちがいることが羨ましいと思いました。
      同じ...
      かなさん、初めまして♪
      フォロー、コメントありがとうございます。
      私もこの作品を読んで、こんな友だちがいることが羨ましいと思いました。
      同じくらいの年齢になった頃、こんな友だちになっていることが理想だなぁと思います。

      かなさんの本棚、私と重なっている部分が多く、フォローさせて頂こうと思っていたので、フォローして頂き嬉しいです♪
      今後ともどうぞよろしくお願いします。
      2022/09/19
  • 認知症を患い日ごと記憶が失われていく「まあさん」が頻繁に口にする「カヨちゃん」
    献身的に介護する夫は妻の詳しい過去を知らず、それで良いと共に生きてきた。
    記憶の断片に怯えるまあさんの為に二十年来の友人二人にまあさんの過去を辿る旅へ連れて行って欲しいとお願いするが…

    開拓団の家族として敗戦を満州で迎えたまあさんは当時11歳。ここからの日本にたどり着く話は凄まじすぎて、読むことが辛かった。゚(゚´Д`゚)゚。
    とにかく生きて日本に帰るんだ‼︎
    生きていく為には何でもやる‼︎
    たくましいです!
    生きて帰れるのはわかっていても辛い(T_T)

    まあさんの生きてきた人生の壮絶な真実は辛く悲しいけど、人生の最後に大切な人々に囲まれた幸せがあったことに救われます。

    まあさんと共に旅をした読書時間でした。
    読み終えた時にはかなり疲れましたが_| ̄|○


    • たださん
      みんみんさん
      壮絶な読書体験、お疲れさまでした\(^^ )
      お気持ち、よく分かるような気がいたします。しかも、実際に体験できるのかと言われた...
      みんみんさん
      壮絶な読書体験、お疲れさまでした\(^^ )
      お気持ち、よく分かるような気がいたします。しかも、実際に体験できるのかと言われたら、とてもとてもと、私の想像を軽く超える領域にあるような、そんな壮絶さに於いても、「人の命とは?」 と問い掛けている、非情とも感じられそうなクライマックスが、私には印象的でした。
      2023/05/31
    • みんみんさん
      たださん♪こんにちは〜!
      ほんと実際に生きて帰った人達がいるんだと思うと辛いですね。゚(゚´Д`゚)゚。
      ちょっとやそっとの悩みがぶっ飛びま...
      たださん♪こんにちは〜!
      ほんと実際に生きて帰った人達がいるんだと思うと辛いですね。゚(゚´Д`゚)゚。
      ちょっとやそっとの悩みがぶっ飛びましたよ!
      2023/05/31
    • たださん
      こんにちは!
      確かにぶっ飛びますよね(^^;)
      こんにちは!
      確かにぶっ飛びますよね(^^;)
      2023/05/31
  • 圧倒された一冊。

    のめり込まざるを得ない、友が友の為に長い過去を紐解く物語。

    次第に浮き彫りになる、秘められた過去の重圧に押しつぶされそうな感覚はまさに老女達と懸命に旅した気分。

    生と死、常にギリギリ危うい綱渡りのような瞬間をたかだか11歳の子供が手を携え生き抜く恐怖、飢えよりも孤独への恐怖はまさに生き地獄だったと思う。

    そして同時に生きるとは、生き抜くとはこういうこと…を見せられ、ただ涙を流し圧倒されるだけの自分がいた。

    あの時の繋いだ手が結ぶ、心と旅の結び。

    歴史の重み、人の強さ、想いの仕舞い方を最後に噛み締め…感涙。

    • まことさん
      くるたんさん。おはようございます!

      やっと読みました。
      くるたんさんのレビューを拝見していたので、覚悟はして読み始めましたが、本当に...
      くるたんさん。おはようございます!

      やっと読みました。
      くるたんさんのレビューを拝見していたので、覚悟はして読み始めましたが、本当に圧倒される話でしたね。
      今のコロナ禍もかすんでみえるくらいの、すごい話でした。
      二度と起こしてはいけないことですね。
      2021/05/07
    • くるたんさん
      まことさん♪おはようございます♪
      読了おつかれさまでした!
      そうそう、こんな壮絶な経験をしたら、たしかにコロナ禍なんて甘いでしょうね。
      本当...
      まことさん♪おはようございます♪
      読了おつかれさまでした!
      そうそう、こんな壮絶な経験をしたら、たしかにコロナ禍なんて甘いでしょうね。
      本当にすごい筆力で読ませてくれた物語でしたね。
      2021/05/07
  • 読み友さんお薦めの1冊。今年2冊は第二次世界大戦と関わる内容、1冊目は独ソ、2冊目は中ソ。戦争(略奪、虐殺、子捨て、集団自決)、家庭内暴力、妻への嫌がらせ、この不条理の連鎖が人間の本性なのか?引き揚げを体験した2人の女子の人生をたどる旅を通し、3人の老女もまた自分の人生の意味を探していく。人生の意味とは何か?それは人それぞれ違うのだが、お互いの苦労は共感できるものであり、その困難に立ち向かい、いつの間にか解決できている。しかし1人では難しい。人間は工夫し、カタルシスによって解決できると老女から教わった。⑤

  • 記憶が欠落することで、何とか保たれる心の平安。
    そういうことは あるのかもしれないと思う。

    認知症を患う86歳の益恵の過去は、あまりにも壮絶。
    各章に挟み込まれる満州での体験には、恐怖で心が震える。

    病のため、感情と外への興味を失いつつある益恵。
    足が弱った彼女の夫は、妻を施設に入れようと決心する。
    しかし、入居の順番が来る前にと
    妻の吟行友だちに頼みごとをする。
    「妻が今までに住んだ土地に連れて行ってもらえまいか。
    孤立した不安な魂を救ってやりたいんだ。
    嘘でもいいから安心して住める世界を用意してやりたい」

    益恵の過去を巡る旅に同伴するのは、80歳と77歳の友人二人。
    彼女たち自身も、それぞれ問題を抱えていて
    一緒に旅をすることで、自分なりの答えを見いだしていく。
    「背負ってきたものがどんなに重くても、
    今 笑っていられることが幸せ」
    歳を重ねているからこそ、女性たちは賢く、強く、逞しい。

    旅を続けることで浮き彫りになる益恵の心の奥の深い傷。
    それと同時に、
    生きることに迷いのない、毅然とした益恵の姿が美しく映える。

    生きるって、決断の連続。
    一筋縄ではいかないですね、誰にとっても。

    • コッチさん
      初めまして、「羊は安らかに草を食み 」のレビューを拝見して是非読みたいと思いました。心して拝読します。
      初めまして、「羊は安らかに草を食み 」のレビューを拝見して是非読みたいと思いました。心して拝読します。
      2022/11/05
    • yyさん
      コッチさん

      コメントありがとうございます。
      少し重いテーマながら、愛に溢れた作品でした。
      お読みになったあと、コッチさんの心にも
      ...
      コッチさん

      コメントありがとうございます。
      少し重いテーマながら、愛に溢れた作品でした。
      お読みになったあと、コッチさんの心にも
      何か温かいものが残りますように☆彡
      2022/11/08
  • 美しい装丁とバッハ作曲と同名の作品。

    人生の終盤、認知症を患ったまあさんの過去を辿る旅。思い出を紡ぐ旅というのでしょうか。

    大戦後の満州からの引き上げの件、壮絶過ぎて読むのが辛かったです。あれ…こんなつもりで読み始めたんじゃない…心の準備が出来てない…えっ?そういう話なの?と戸惑いながら読み進めました。
    戦争の話とかは、どうしても直視出来ず意図的に避けてしまうところがあるのですが、フィクションだとしても少し触れることが出来て感じるところがありました。

    最後の章では「えっ!?本気で!?」と、また話の感じが変わり、そしてこの装丁と作品名の意味を知ることが出来ました。

    出てくる人がみんな70歳を過ぎているという、あまり見ない物語でした。でも、だからこそ、人生の終盤をこれから迎える私にも色々思うことが出来るお話でした。

  • 思ってた話と全然違いました。
    面白かったです



    あまり前情報を入れたくないタイプなので
    感想などは見ないで読むんで、

    認知症の話なのかなーと読み進みたら
    どちらかというと戦時中の話でした。



    仲のいい老女3人。
    そのうちの1人は認知症で
    その人の人生を辿る旅に出る話です


    戦後の満州での生活が
    あまりにも過酷で…


    なんの心構えもせずに読んでたので
    ガツンとやられました。


    小さい子どもが送るには
    あまりにも壮絶な生活で
    読んでいて苦しくなります



    戦争は本当に人を狂わせるんですね。



    共に満州での生活を乗り越えたカヨちゃんと
    なぜ会わなくなったのか
    その展開もなかなか面白かったです


    ラストは人道的にどうかはわかりませんが、
    私はスカッとしました(^^)


    アイさんの娘たちとのその後も
    知りたかったです



    自分ではまだまだ想像の域の年齢の話ですが
    自分がどうやって人生をたたんでいくか
    少し考えをめぐらせました

  • 認知症の友人とともに旅をする話かー、と軽い気持ちで読み始めたら、各章の半分は満州での益恵の壮絶な過去が綴られており、ものすごい読み応え。
    認知症の話ではなく戦争の話がメインだった。
    戦争ものは辛くて怖くて苦手。いつもならなるべく避けるので、そうと知っていたら読まなかったと思う。
    でも、やっぱり読んでよかった。
    今の自分の悩みなんてどうってことないな、と思う。ありきたりな感想だけど、何不自由ない暮らしに改めて感謝。
    『別れる辛さを思うより、この世で出会えたことを喜びましょう』こんな風に思える人生の終わりって素敵だな。

  •  壮絶な物語だった。益江の半生があまりにも壮絶で、戦争の悲惨さを物語を通して知ることができた。もちろん、実際は私たちが読んだ世界よりももっと悲惨だったに違いないのは言うまでもないだろう。

     アイと富士子、益江の3人は、短歌教室で知り合い、ずっと親交を深めてきた親友である。近頃、益江の認知症が酷くなり、施設に入れる前に旅行に連れて行ってあげてほしいと夫の三千男に頼まれたアイと富士子。益江の半生を振り返るべく、益江の生まれ故郷に付き添っていった2人は益江の過去と向き合うことになり。

     益江の口から度々出てくるカヨちゃん。宝塚出身の月影なぎさ。益江のシコリを取り除きたいと思うアイと富士子。旅先で聞く益江の半生はあまりに壮絶だった。

     物語は、旅先で聞く益江の過去と、益江が幼い頃に経験したことが交互に展開していく。やがて、益江とカヨがずっと秘密にしてきたことが明かされるのだが・・・。

     物語のほとんどは満州時代の益江の物語であり、戦争という大きな問題が目の前に立ちはだかる。そして、終盤、カヨとの交流がなぜ途絶えていたのかという理由が明らかになる。
     そこまでは素晴らしい展開だったのだが、現在のカヨを悩ませている問題に差し掛かってからの展開は、正直肩透かしであり、痛快でもあるという、なんとも複雑なものだった。

     せっかくのこれまでの壮絶で壮大なストーリーが無駄になってしまうとも感じだが、それでもこれで良かったのかも知れないという気持ちにもなった。

     個人的には富士子に対するアイの感情に心乱された。

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著者プロフィール

(うさみ・まこと)1957年、愛媛県生まれ。2007年、『るんびにの子供』でデビュー。2017年に『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉を受賞。2020年、『ボニン浄土』で第23回大藪春彦賞候補に、『展望塔のラプンツェル』で第33回山本周五郎賞候補に選ばれる。2021年『黒鳥の湖』がWOWOWでテレビドラマ化。著書には他に『熟れた月』『骨を弔う』『羊は安らかに草を食み』『子供は怖い夢を見る』『月の光の届く距離』『夢伝い』『ドラゴンズ・タン』などがある。

「2023年 『逆転のバラッド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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