Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

著者 :
  • シンコーミュージック
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784401639526

感想・レビュー・書評

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  • 中身が濃くて良かった。Becca Steven bandやTigran Hamasyan、その他様々な現代ジャズアーティストを知ることができた。ドラムに比較的焦点が当たっているのも◎。

  • ・ロバートグラスパー
    クラスパー、若いジャズミュージシャンが聞いておくべきはJディラ『fantastic vol.1』『vol.2』『welcome to Detroit』『donuts』。好きな音楽は、ビョーク、レディオヘッド、リトルドラゴン、ホセゴンザレス、ニルヴァーナ、アトライブコールドクエスト、ピートロック、メロディックなもの。同世代で気になるのはビラル、ジョージアアンマルドロウ、エリザベス&カタパルト、ベッカスティーヴンス。グラスパーの母は、ブルースジャズゴスペルシンガー。祖父、叔母も歌手。教会でピアノ演奏。ゴスペル、R&B、ジャズ、ラテンを組み合わせたカークフランクリンのような曲をやりたい、というのがルーツ。ハービーハンコック、ロイエアーズ、ジョージデュークへのリスペクト。マルグリューミラーからのレッスン。キースジャレットのスタンダーズトリオ、オスカーピーターソン、チックコリアの語法も学んだ。ブルースホーンズビー、ビリージョエルについても度々言及している。2003年25歳の時moodでデビュー、最初にストレートアヘッドを作ることは決めていた。ゴスペル、ヒップホップ、ロックも織り込む。2005年ブルーノートと契約しcanvasリリース。ループが鮮明になり、多彩なエッセンスを織り込んだ。2007年、ジャズとヒップホップを結びつけるin my elementで有名に。ハンコック、レディオヘッド、Jディラ。クロスオーバー的融合より共存。
    "年代には特有のトラディションがあり、その時点までの過去と現在がくっつくことで、その時代特有のものが生まれる"
    2009年、アコースティックなトリオとヒップホップ的なエクスペリメントを半々に収録したdouble bookedリリース。
    "トーンやテクスチャーは音楽をスピリチュアルにする。それでこそヴァイヴスがもたらされる。"
    2012年、エクスペリメント名義でblack radioリリース。
    →ジャズファンに受け入れられる準備をdouble bookedで行い、移行した。
    "Jディラからジャズメンが学ぶことは山ほどある。""ジャズも他のジャンルと競争しなくちゃいけない。プロモーションもヒップホップで、sns、ミックステープ、パーティ。狭い世界に固まってるくせに気付かれないことに苛立つジャズメンはおかしい。"
    "マイルスの時代にYouTubeがあればジャズは全然違うものになった"
    ジャズの歴史はblack radioからスタートする。
    ・ライヴレポート
    "自分からメンバーに何か求めたことはない。打ち合わせもセットリストもない。偶発性を大事にしているから。"
    ゲストヴォーカルによって自在なバンドがブレーキを踏むことが多い。ビラルとレイラハサウェイくらいがフィットできる。
    ・pre-storyジャズとヒップホップの変遷
    70年代後半イギリスDJポールマーフィが踊るための音楽としてジャズをかけたのがアシッドジャズの始まり。ヒップホップ的な自由解釈に通ずる。アメリカに輸入されDJスマッシュのクラブイベントgiant stepに影響。グールーjazzmatazzへ。
    グレッグテイト、早い段階で気づいていたのはハービーハンコック。ジャズに若者を取り込むと同時に、ヒップホップに知的な格式を与える。future shockとsound-systemは、 headhuntersのジャズファンクフュージョンからmonsterのディスコへのグルーヴの追求。主にリズム面。ソロ性とループ性のバランスは確立されていなかった。クラブジャズはドラムンベースが支配するようになる。Jディラのよれて跳ねたビートはヒップホップやネオソウルのトレンドだけでなく、若いジャズドラマーに大きな影響を与えた。Qティップkamaal/the abstractでジャズミュージシャンとの接近も新たな流れを生む。
    グラスパー、エクスペリメントはheadhuntersとJディラの融合、若い世代にわかってもらいたい。ディラと1週間過ごし共作した。moodより前の話。Qティップ、ディラはトラック構成、プログラミングが独特で、フィーリングがリアル。クォンタイズをしないことで、グルーヴを活かす。ブレイクビーツ上でソロが生々しさを欠くことの真逆の現象。最良の実践サンプルはディアンジェロvoodoo。参加したロイハーグローヴのrh factor hard grooveはその影響下にある。Qティップはジャズバンドの構想を練る。amplifiedリリース後、ピアノや音楽理論を学び、ギターなどを買いジャムセッションに参加。その結果kamaal the abstractが2001年に完成したが、売りにくいということで2009年まで日の目を見なかった。double bookedと同年。black radioのシャーデーのカヴァーcherish the dayはアシッドジャズからの音楽的な変遷を表している。
    ・ドラミング
    ドラムが際立ち、ヒップホップの最新の共通言語としてグラスパーはジャズで使ってみせた。沼澤尚、クリスデイヴはトニーウィリアムスのプレイ、サンプラーのような音、ターンテーブルが二台ずれて行く感じをテクニックでやり遂げる、これは歴史的になかった例。ディラはこういうのもありでしょと扉を突然開いた。不正確、ズレ、合ってないと認識されていたものが、気持ちいいグルーヴになった。マークコレンバーグ、アーロンスピアーズ、テディキャンベル、クリスコールマン。教会ゴスペルで学ぶドラム。ゴスペル、ジャズ、ヒップホップ、R&B、ソウルを横断する活動がblack radioやエスペランサのradio music societyを準備した。ビートの改革がジャズの内部にも起こっている。21世紀ジャズはドラマーが牽引している。ケンドリックスコット、ネイトスミス、リチャードスペイヴン、マークジュリアナ、マーカスギルモア、ジャマイアウィリアムス、ジョナサンブレイク。
    ・クリスデイヴ
    僕は色んなジャンルの音楽を1人でやってしまおうと考えていたし、実際にそれをやっている。一つのことだけに限定するのが嫌。旅するように演奏するうちに自然と身につく。black radioでのビートは、画家が何も考えず絵を描くように、何も考えずに叩く、ただ演奏した。グラスパー、ホッジ、コモン、ンデゲオチェロに共通するのは、フリーネス、イマジネーション、クリエイティヴィティ。ドラムヘッズのミックステープは、あまりジャズが好きじゃない人のために、なんでもいつでも自由に何にもとらわれずに好きなことを演奏すればいい(誤植:だ)ということを知ってもらうためのプロジェクトだ。形式にとらわれるとつまらない。
    ・デリックホッジ
    black radioは全てワンテイク、あとから一切手をつけていない。楽器で喋りすぎると耳の勘みたいなものを失ってしまう。周波数がヒューマニティに働きかけるのが音楽で、ハートにあるもの、フィーリングを譜面にしようとするのが音楽理論というだけ。音楽から何かを感じなければいけない。
    ・グラスパーの交流関係
    ニュースクール大学には、ケイシーベンジャミン、キーヨンハロルド、ホセジェイムズ、黒田卓也、ベッカスティーヴンス、マーカスストリックランド、バーニスアールトラヴィスなどのグラスパー世代がいた。ビラルとの出会いが大きく、共にライヴを回りグラスパーの名が知れ渡る。1st born secondコモンやモスデフも参加し、それを契機にグラスパーはツアに参加する。グラスパーがディレクター役を務めた、モスデフはヤシーンベイ名義に変更。ホセジェイムズno beginning no endのプロデューサーを務めるピノパラディーノとも出会う。
    "新しいものはジャズ以外とのコラボからしか見出せない。ハンコックはそうしたし、マイルスも今ならそうしただろう"
    モスデフが連れてきたカニエウェストがグラスパーのライブに飛び入り。sa-ra経由でドゥエレなどとも繋がる。
    "ヒップホップR&Bとジャズのギャップをなくし、音楽だけでなく、関わる人も繋げようとしている。"
    ・対談 村井康司、原雅明、柳楽光隆
    村井、スポーツと同じで、絶対できないと思われたものが、1人がやると不思議と誰でもできるようになる。
    原、マークコレンバーグはバディリッチが好きで、バディリッチはスネア中心。デリックのアルバムでマーチングバンドみたいにとリクエストされ、スネアで対応した。
    村井、グラスパーがジャズじゃないと言われるのは、ヒップホップの曲調だけでなく、インプロヴィゼーションがないこと。
    原、DJにとって長いソロは扱いに困る。弾きすぎると嫌だし、プレイヤーは割り込まれたくない。
    村井、退屈なソロも含めて楽しむのがジャズの醍醐味。いい印象だけ残る。
    柳楽、即興の意味合いが一発どりということに変わってきている。インプロでこれだけスムースすぎるものが作れてしまうことが驚異。
    ・ジャズの歴史が終わったあとに 中山康樹
    パーカーとディズを起点におくと第二のパーカーは生まれようがない。歴史とスタイル変遷を切り離し、断面を横から貫く作業が必要。ジャズはクインシージョーンズのワッツプロフェッツ起用、ハンコックのボコーダーに引き継がれる。ウィントンマルサリスの失敗はインストゥルメンタルのスタイルに固執したこと。ジャズ歴史は終わった。そこから出発しよう。
    ・ケニーギャレット
    マーカスベルグレイヴはデトロイトにおける重要な存在。モータウン発祥の地はデトロイトで、ビバップを学んだジャズミュージシャンがいたからこそ生まれた。ジェマーソンのようにジャズから稼げるソウルへ転身する者もいる中でスティーヴィーワンダーのような天才も現れた。ジャズもヒップホップもアフリカから生まれたリズムだからプレゼンテーションが違うだけ。ニュージャックスウィングはアルグリーン、ドラムンベースはスピードアップしたファンク。音楽を愛しているならオープンであるべき。クリスデイヴは定型的なファンクではできないことを、ジャズの即興の幅の広さでリズムテンポをスリップさせたりしてスタイルを確立した。ジャズはミュージシャンのための自由な乗り物。クリスデイヴ、ジャマイア、コレンバーグ、エリックハーランド、ケンドリックスコットは、ヒューストンにおける競争を勝ち抜いてきた。また、先人たちの歴史を研究することも重要。自分の進むべき道が見える。
    ・ホセジェイムズ
    14歳でデュークエリントンでジャズに出会い、ジョンコルトレーンの影響を受ける。ビリーホリデイ、マーヴィンゲイ、アイスキューブ、ビースティボーイズ、デラソウルを聴き倒す。ミネアポリスで高校在学中から歌手活動をスタートさせ、セロニアスモンクコンペティションでニュースクール大学の奨学金を勝ち取る。28歳のとき、ロンドンインターナショナルジャズコンペティションでコルトレーンのequinoxのカヴァーを耳にしたジャイルスピーターソンがレーベルに引き入れ、dreamerリリース。
    ・黒田卓也
    ロイハーグローヴの世代はジャズの筋力を鍛え上げ、その力でどうやって新しいものを作るかという二つの顔があった。しかし、グラスパーは一つの顔で、「ジャズじゃなくてもいいや」というのがムーブメントになっている。力勝負よりも、自分のスタイル音色ヴォイスを作る作業がグラスパー、ホセを筆頭に広がっている。個人よりも協力して作ることが多く、自分のトランペットが入ってなくてもいいと思うこともある。いい演奏を録音するだけのジャズから飛び出そうとしている。
    ビートを作ってメロディを乗せるやり方が増えてきている。フライングロータス、マーラ、DJスピナからの影響も大きい。グラスパーがジャズはこうでなければならないという枠を取っ払った。クリスバワーズを見ていると、ジャズだけをやるジャズミュージシャンはいなくなるかもしれない。ホセに連れられて行ったブロンクスの奥の危険なところにある教会で毎週木曜日夜中1時からシェドという地下室ジャムセッションでチャーチミュージシャンが集まって朝5時まで演奏する。カークフランクリン、タイトリベットのようなコンテンポラリーゴスペルを追いかけているミュージシャンが集まる。彼らは耳だけでコードを体得する。そのあとで学校で複雑なジャズ理論を学ぶ。
    ・5ポストジャズ 若林恵
    伝統という引力から遠く離れた音楽圏においては、ジャズの進化の速度はほかよりも速い。
    ・インターネットとカルチャージャズ
    ミックステープ、現在では無料配信音源集を指す。音楽的チャレンジ、不特定多数への拡散。盤は存在せず、Bandcamp、サイト無料配布、サウンドクラウドライブやデモアップ。

  • 新しい"ジャズ"の聴き方。何か別の名前を付けてもいいと思うし、そうしたほうが(マーケティング的には)美味しそうな気がするのだけれど、それでも(監修者は)ジャズにこだわりたいのだろうなぁと門外漢としては思うのであります。
    名著!

  • Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

  • これはいい。まずロバート・グラスパーを教えてもらった。最近はオールドジャズとクラシックに硬直していた僕の音楽を解いてくれた。プライムミュージックで沢山フリーになってるので、ゆっくりと聞こう。

    17.12.9

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著者プロフィール

ジャズをメイン・フィールドに執筆している音楽評論家。世界で初めて21世紀以降のジャズを新しい視点から俯瞰して紹介したムック『Jazz The New Chapter』シリーズを監修し、シーンの活性化に大きな貢献を果たしている。同シリーズは2014年にスタートして、Vol.5まで刊行。ムックでは『MILES: Reimagined』(2016)の監修も務める。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談『100年のジャズを聴く』(2017、以上シンコーミュージック・エンタテイメント)などがある。1979年、島根県出雲市生まれ、元レコード店店長。

「2020年 『〈music is music〉レクチャー・シリーズ ポップ・ミュージックを語る10の視点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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