シネマ今昔問答

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784403210846

感想・レビュー・書評

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  • 和田さんの映画愛がいっぱい詰まった本。古い映画を見るときの絶好の指南書になる。図書館で借りてしまったがぜひこのインデックスつきで文庫化を希望する。

  • 吉本隆明や、なだいなだの本でよく見る形式だが、主と客二人による問答形式で話が進行してゆく。客は往々にして年少者であり、主の話を伺うものと決まっている。経験のある年長者が、世間知らずの若者に蘊蓄を垂れるという、落語のご隠居さんが八っあんや熊さんにご託を並べる塩梅で、語る側の楽しさが伝わってくる。ただ、相手が若すぎて話について行けず、会話のリレーが続かないのがさみしい。

    和田誠は座談を得意とする人である。形式張った話よりも気楽なおしゃべりの中にきらっと光るものが出る、そういうタイプであることを本人がいちばんよく知っていて、三谷幸喜や瀬戸川猛資、川本三郎らを相手に、映画の話をしては、それに自作のイラストを入れた、映画の本を何冊も出している。瀬戸川猛資亡き後、鼎談の席に空きができ、その後が埋まらないのだろう。主客問答形式は苦肉の策とも考えられる。

    題名通り、若い頃に見た映画体験と最近の映画を見比べての感想が中心だが、いちがいに昔がよかったなどという立場はとらない。著者がよく映画を見た高校時代というのは、戦後十年立つか立たない頃で、戦争中には公開されなかった映画が、国の内外を問わず堰を切ったように配給された頃である。質量ともに充実した映画を感受性豊かな時代に経験しているのだから、昔の方がよく思えて当然というところもある。

    しかし、歳をとって初めて分かる映画もあれば、その逆もあって、簡単にまとめることはできない。そこで、チャップリンから初めて、戦争映画、リメイク、西部劇とジャンルやテーマに沿って実際の映画について語っていくことになる。邦画もヨーロッパ映画もあるが、主としてハリウッド映画が中心で、日本公開されたものばかりだから、TVで再放映されたものも多く、今の人でも、話題についてゆくことは可能である。ただ、古い映画好きでないと、ちょっと苦しいかも知れない。

    ミュージカル映画について、『ウェストサイド物語』以後、大作化し、それ以前のミュージカル映画が持っていた軽さのようなものが失われ、それと同時に楽しさも失われたのではないかという指摘には考えさせられた。また、アステアとジーン・ケリイの比較、ボブ・フォッシーにおけるフェリーニの影響等、読みどころ満載。大好きな『オーシャンと11人の仲間』について、『オーシャンズ11』と比較してシナトラという人の人間的な魅力を書かずにいられないところなど、客観的な語りの中に透けて見える著者の人間味があたたかい。

    カバーや表紙、本文に挿入される挿絵は描き下ろしで、本来はモノクロの映画にも彩色してあるのが楽しい。特にカバー表は『インカ王国の秘宝』におけるチャールトン・ヘストンと『レイダース/失われた秘櫃』のハリソン・フォードを上下二段に並べて見せたものだが、ぱっと見には、まちがい探しのクイズかと思えるほどよく似ていて、中を読まないと本当の面白さは分からない仕掛けになっている。

    「今昔問答」は、「こんにゃく問答」のもじり。禅寺に参禅したこんにゃく屋が、無言で手振りによって行われる禅問答に対し、取り違えた解答を返すのに、禅僧が、勝手に解釈をして「畏れ入った」と頭を下げる半可通の名僧知識をからかった落語からきている。和田一流の謙遜が入っているが、並み居る本職の監督を尻目に『麻雀放浪記』『快盗ルビイ』で賞をさらった映画監督としての立場はとらず、一映画ファンの立場をここでも貫いているのは見識である。

著者プロフィール

一九三六年大阪生まれ。多摩美術大学図案科(現・グラフィックデザイン学科)卒業。
五九年デザイン会社ライトパブリシティ入社。六八年に独立し、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしてだけでなく、映画監督、エッセイ、作詞・作曲など幅広い分野で活躍した。
六五年創刊の雑誌「話の特集」アート・ディレクターを務める。
講談社出版文化賞、講談社エッセイ賞、菊池寛賞、毎日デザイン賞など受賞多数。
七七年より「週刊文春」の表紙(絵とデザイン)を担当する。二〇一九年死去。

「2022年 『夢の砦 二人でつくった雑誌「話の特集」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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