宮本百合子名作ライブラリー 2

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  • 新日本出版社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784406023061

感想・レビュー・書評

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  • タイトルが女性の名前ほどインパクトのあるものはないと思う。目を引いて手に取った一冊。まさかの舞台は紐育(これでニューヨークと読むのは、以前何かの古い映画のタイトルで経験済み!)で、これも話に引き込まれる要因となった。日本が世界大戦に入っていく前の束の間の平和な時代(少なくとも庶民はそうだろう)に、1人の男性に惹かれるも、不安と疑念、そして愛情から憎しみに変化していく1人の女性の物語。時代を超えて、男女の関係(特に結婚という体制が面倒臭いものに感じてしまう)と、家族の関係(身内ほど仲がこじれると大変なものはない)、そして知人、友人を含む小社会(世間体が人を惑わせる)の中で生きていかなければならない若き主人公の内面が綴られていて最後まで飽きなかった。
    こんなにも不器用で歪んだ性格の男性(しかも泣く)に5年間も振り回される伸子の忍耐力がすごいと思うし、時折見せる伸子の毒舌(実際に言った訳ではなく、怒りが爆発して心の中で旦那さんや実の母をどついている。笑)に共感するも悩み続ける伸子のやるせなさに早く読み終わりたい気持ちが募る作品でもあった。
    100年くらい前の女性の独立心が影響した婚前契約の内容も面白い。彼女の生活ぶりが返って我儘娘の域を出ないとも取れるので、結局旦那も旦那なら、嫁も嫁だなと思う2人のやりとりは滑稽である。
    後で知ったが、作者の自伝的小説ということで旦那のモデルが実在することに驚愕、といってもどこからどこまでが作品のために作られた人物像なのかはわからないので何ともいえないが、モデルにされた元旦那はどのような心境でその後を過ごしたのだろうか。
    一言言えるとしたら、「とにかく女性は強い。」

  • 時代背景や書かれた時期も大正末期であるが、内容も構成も古さを感じさせない普遍的精神模索の小説である。

    あらすじは主人公「伸子」が19歳で父に連れられアメリカはニューヨークへやってきていた。時は1918年秋、第一次世界大戦終結が近かった。父は仕事、彼女は勉学と恵まれた中流の生活を満喫しているかにみえた。

    人間として成長したい彼女は内に秘めた自由と独立へ希求を持っていた。つまり、彼女は自己に目覚めていた女性だったのだ。

    彼女は若かった。15歳も歳の差がある苦学生「佃」と自分の情熱のほとばしりのまま恋をし、結婚してしまう。しかし、ふたりを結婚で理想の精神的上昇の同志としたい彼女の思いは裏切られる。

    それはそうだろう、生まれも育ちも違い、気質も違う男女であることに彼女は気づいていなかったのだ。否、気づいていたとしても愛の力で矯正できると信じていた、若さの愚かさであった。

    「佐々伸子」は情熱的で前向きの性格。一途な気質で自分の理想を「佃一郎」に幻想した。ないものを無理に引き出せると自分の力を過信した。

    「佃一郎」は15年の放浪苦学の末、世間ずれし労なくつかめる安定を求めて小さく小さくまとまり、避難してしまっていた。消極的で守りの気質になってしまったのも仕方がない。

    ふたりが精神的不一致に悩むのに加えて、時代背景の「家」制度、階級制度にも苦しまされる。そしてその葛藤は苦闘となって深い淵へなだれ落ちていくのである。

    結婚とは何ぞや?

    宮本百合子は作家魂のかぎりをつくして誠実に、正直にそして克明に綴っていく。文章も上品で潤いがある。80年近く経った作品とは思えない。

    さて現代はすべて自由と独立の時代、ところが結婚の生態は相変わらず混沌である。でなくて若い人が結婚しなくなり、熟年離婚がこんなに増えはしない。

    若い人これ読むべし、熟年これ読んで熟考せよ、と思うよ。

    「女性は一途、男性はずるい」という言葉があると思った方がいいのではないか。いえいえ、この節は「男性は一途、女性はずるい」から、まとまるものもまとまらないのかな?

    「ずるい」とは経験を積んでいい意味、悪い意味推し量れない、精神構造になっているのではないかと思う。

    宮本百合子(1899~1951)は後に共産党委員長もした宮本顕治とも結婚、めざましい活躍のかたわら、いい文学も書かれた。これに続く長編「二つの庭」「道標」や「播州平野」

  • 見かけたある1行の表現にひきこまれ、図書館で借りた。帰る前に少しだけ読んでみるつもりが、そのまま200ページまで読んでしまった。予定がなければ最後まで読み切ったであろう なんという力のある

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