- Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
- / ISBN・EAN: 9784406023061
感想・レビュー・書評
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時代背景や書かれた時期も大正末期であるが、内容も構成も古さを感じさせない普遍的精神模索の小説である。
あらすじは主人公「伸子」が19歳で父に連れられアメリカはニューヨークへやってきていた。時は1918年秋、第一次世界大戦終結が近かった。父は仕事、彼女は勉学と恵まれた中流の生活を満喫しているかにみえた。
人間として成長したい彼女は内に秘めた自由と独立へ希求を持っていた。つまり、彼女は自己に目覚めていた女性だったのだ。
彼女は若かった。15歳も歳の差がある苦学生「佃」と自分の情熱のほとばしりのまま恋をし、結婚してしまう。しかし、ふたりを結婚で理想の精神的上昇の同志としたい彼女の思いは裏切られる。
それはそうだろう、生まれも育ちも違い、気質も違う男女であることに彼女は気づいていなかったのだ。否、気づいていたとしても愛の力で矯正できると信じていた、若さの愚かさであった。
「佐々伸子」は情熱的で前向きの性格。一途な気質で自分の理想を「佃一郎」に幻想した。ないものを無理に引き出せると自分の力を過信した。
「佃一郎」は15年の放浪苦学の末、世間ずれし労なくつかめる安定を求めて小さく小さくまとまり、避難してしまっていた。消極的で守りの気質になってしまったのも仕方がない。
ふたりが精神的不一致に悩むのに加えて、時代背景の「家」制度、階級制度にも苦しまされる。そしてその葛藤は苦闘となって深い淵へなだれ落ちていくのである。
結婚とは何ぞや?
宮本百合子は作家魂のかぎりをつくして誠実に、正直にそして克明に綴っていく。文章も上品で潤いがある。80年近く経った作品とは思えない。
さて現代はすべて自由と独立の時代、ところが結婚の生態は相変わらず混沌である。でなくて若い人が結婚しなくなり、熟年離婚がこんなに増えはしない。
若い人これ読むべし、熟年これ読んで熟考せよ、と思うよ。
「女性は一途、男性はずるい」という言葉があると思った方がいいのではないか。いえいえ、この節は「男性は一途、女性はずるい」から、まとまるものもまとまらないのかな?
「ずるい」とは経験を積んでいい意味、悪い意味推し量れない、精神構造になっているのではないかと思う。
宮本百合子(1899~1951)は後に共産党委員長もした宮本顕治とも結婚、めざましい活躍のかたわら、いい文学も書かれた。これに続く長編「二つの庭」「道標」や「播州平野」詳細をみるコメント0件をすべて表示