渡辺治の政治学入門

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  • 新日本出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784406056502

作品紹介・あらすじ

新自由主義に終止符を。現代の日本政治を見る確かな目と方法を磨くための入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 今回の秘密保護法をめぐる報道では、NHKを除く民間メディアは一定頑張ったと言っていいかもしれない。それは何故か。変わったのか。いや違う。彼らは彼らの価値観で動いていて、それは少しも動じていないし、これからも絶えず警戒しなければならない。ということを、これを読んで強く思うのです。


    小沢一郎とは何だったのか。菅下ろしの真相。なぜマスコミはダメなのか。橋下の正体。あゝそうだったのか!という指摘満載でした。2010.7-2012.9までの情勢がわかると同時に、渡辺治氏の情勢を見る方法も養ってくれるお得な一冊です。

    小沢一郎の正体について興味はなかったが、「菅下ろし」について、ここでやっと腹落ちをした。結局菅は(最初から向いていなかったから当たり前なのだが)国民の側に立たなかったから人気が落ちたのであり、財界・自民党は人気が落ちて消費税増税、TPP実現が危ういので一刻も早く落としたかったのである。国民と財界の願いは正反対の処にあった。それを橋渡ししたのがマスコミだというわけだ。

    橋下はよく「一度目は悲劇で、二度目は茶番」の政治家といわれる。一度目は小泉とよくいわれる。しかし、彼は石原の二番煎じであり、小泉の二番煎じだった。そしてさらに小沢の二番煎じでもあったという。 反原発や消費税増税に消極的という、時にマヌーバー的なパフォーマンスを行うのは「決定出来る政治」の基盤を作るための手段にすぎない。それは小沢が保守二大政党つくりになりふり構わないマニフェストを作ったのと同じである。

    しかし、この本で最も腹落ちしたのは、「現代日本のマスコミ論」だった。著者は講演で必ず「マスコミはどうしてこんなに悪いんですか」と質問されるという。少し長いが、その答えをここに書き写したい。

    私は、マスコミが結託して悪い企みの下、世論を誘導しているという「陰謀論」にはくみしません。しかし、マスコミに世論の形成や誘導の意図があることは事実ですし、大きな力を発揮していることは否定しようもありません。とくにマスコミが足並みをそろえたとき、その効果は抜群です。
    ではマスコミはどうして、あんなにたくさんあるのに、しばしば論調が同一方向に収斂するのでしょうか。それはマスコミの執行部、論説委員らが、保守支配層の「常識」を共有しているからです。この常識は、保守支配層内の様々なアクター(役者)、アメリカ政府、財界人、官僚、有力保守論客などの言説、彼らへの取材を通じて得た情報を基に形成されます。問題は、近年、メディアの違いを超えて、強固な常識が形成され、メディア報道の同一化が進行していることです。
    強固な常識とは二つ。日本の発展のためには日米同盟の強化と構造改革が必要だという常識です。冷戦終焉により、世界は自由な市場で統一され、中国の市場開放をはじめグローバル企業には大きなビジネスチャンスが到来しましたが、進出先の市場秩序維持のためには「世界の警察官」としての軍事力が必要となった。日本も世界の自由な市場秩序での恩恵を受けて発展している限り、日本も世界の秩序維持のために貢献すべきであり、そのためには日米軍事同盟は強化されねばならず、既存の防衛政策は変更されなければならない。米軍のせか的プレゼンスを擁護し協力することこそ国益にかなうという常識です。
    他方、構造改革推進についても強固な合意が存在しています。それは、大企業の世界競争激化のもと、日本企業の競争力強化のための構造改革は不可避だ。もちろん改革の痛みは緩和しなければならないが、それも改革の遂行、経済成長により克服すべきであり、痛みの緩和のために利益誘導や福祉支出に走り、大企業負担を増加する財政肥大を招くようなことがあってはならない、という常識です。
    そうはいっても、その大枠の中で、メディアには無視しがたい色彩の違いがありましたが、昨年(2009年)の政権交代あたりから、各メディアの論調が急速に収斂しはじめたのです。マスコミ陰謀論台頭の理由もここにあります。
    昨年の政権交代、民主党政権成立からの一年は、国民にとってだけでなく、マスコミ人にとっても大きな未知の経験でした。なにしろ戦後日本の政治の中では初といってよい、本格的な政権交代だったからです。当初は、マスコミも、産経をのぞいて、熱に浮かされたように、鳩山政権に熱い期待をかけるところが多く、「常識」も脇に追いやられること、しばしばでした。ところが、鳩山政権が国民の期待に背中を押され普天間基地のグアム移転に固執し、福祉のマニフェスト実現にこだわって保守の不動の枠組みから逸脱を見せる頃から、マスコミは俄然「常識」に目覚め、鳩山政権に危惧を表明し始めたのです。財界・アメリカ政府の危惧も、政権交代熱病からの覚醒を助けました。今年(2010年)に入り鳩山政権が、普天間で迷走を繰り返し、日米同盟の強化どころか危機に陥りかねない状態が生まれました。構造改革問題でも大きく後退、ジグザグを繰り返したものの最後まで消費税引き上げを肯んじない。ここに、マスコミの強力な常識バネが発動したのです。鳩山政権はジグザグを繰り返したあげく5月28日、日米合意に至りましたが、もう遅い。もはや鳩山政権では沈没する、鳩山降ろしで新聞各紙、メディアは一致したのです。(75p)

    このマスコミ「常識」は、強弱はあるが、ここ10数年のマスコミの我々に対する「裏切り」の基調だったと思う。朝日が消費税引き上げに賛成したのも、その時から裏切ったのではなく、構造改革路線に同調した時から始まっていたのである。最近の新聞各紙の秘密保護法反対の論調は、このふたつの常識から外れる可能性(日米同盟にヒビが入る可能性)があるだけでなく、自らの情報獲得機能の崩壊に繋がるからに他ならない。

    2013年11月18日読了

  • 民主党政権がなぜ「自民党化」したのか。鳩山・菅・野田の変遷を追って説明。結局、アメリカ・財界の圧力に取り込まれていく権力構造が強固にあることが分かった。

  • 複雑怪奇な現代日本の進行~その中で、今とこれからをどう運動の視点でとらえ、見通しを立てていくのかという点で、秀逸な本。
    生活保護法の改悪案が審議開始された。またしても、社会保障の改悪だ。「社会保障と税の一体改革」という名目で、なぜ、次々と社会保障が劣化させられていくのか。その本質が実に良く見えてきた。福田内閣で開始された「社会保障国民会議」の時点では、社会保障を改善するかわりに、増税やむなし、の論理があった。しかし、野田政権と自公民の三党合意の時点から、「一体改革」とは、社会保障の完全な改悪★と、増税とが一体になって進行するという形に変質=本音の露呈に変わったのだ。

  • 複雑怪奇な現代日本の進行~その中で、今とこれからをどう運動の視点でとらえ、見通しを立てていくのかという点で、秀逸な本。
    生活保護法の改悪案が審議開始された。またしても、社会保障の改悪だ。「社会保障と税の一体改革」という名目で、なぜ、次々と社会保障が劣化させられていくのか。その本質が実に良く見えてきた。福田内閣で開始された「社会保障国民会議」の時点では、社会保障を改善するかわりに、増税やむなし、の論理があった。しかし、野田政権と自公民の三党合意の時点から、「一体改革」とは、社会保障の完全な改悪★と、増税とが一体になって進行するという形に変質=本音の露呈に変わったのだ。

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著者プロフィール

1947年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学社会科学研究所助手・助教授を経て、一橋大学大学院社会学研究科教授。専攻:政治学・日本政治史

「2007年 『新自由主義 その歴史的展開と現在』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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