星々たち

著者 :
  • 実業之日本社
3.70
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感想 : 114
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408536453

作品紹介・あらすじ

奔放な母親とも、実の娘とも生き別れ、昭和から平成へと移りゆく時代に北の大地を彷徨った、塚本千春という女。その数奇な生と性、彼女とかかわった人々の哀歓を、研ぎ澄まされた筆致で浮き彫りにする九つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 咲子31歳…18の時に産んだ娘をリウマチの母親に預けて小さなスナックで働いている。
    娘を産みっぱなしで男が変わるたびに流れるように生きてる女。
    一章は咲子の恋と久しぶりに会う13歳の娘の話で物語の主人公はこの娘の千春です。
    千春が関わった人が一緒にいた時間を語る形でストーリーが進んでいく。
    その時その相手といた時間、千春が何を思っていたのかはわからない。
    ただ読んでいると母親同様に流されるまま生きていると感じられる。

    ただ読んでいてもロクデナシの母親や千春もなぜだか嫌いになれない。
    終始流れる昭和の北海道の寂しいほどの空気感、千春の身体に惑わされる男達…
    桜木さんのエロス漂う物語は千春が行き着く先はどこなのか、引き込まれていきます。

    ラストの章で千春の子供・やや子の話で終わりますが、流れるまま生きてきた3人の生き方はこの作品のタイトルなのだとわかります。

    あ〜この作品好きだなぁ _φ(・_・
    もし若い頃に読んだら☆2かも…
    歳を重ねるのも悪くない笑

    • 土瓶さん
      桜木紫乃さんキャンペーン中ですね^^
      雄が読んでもいけるだろか?
      桜木紫乃さんキャンペーン中ですね^^
      雄が読んでもいけるだろか?
      2023/05/27
    • みんみんさん
      ろくでなし
      退廃的
      したたかでしなやか
      ぜひ一作読んでみて〜♪
      ろくでなし
      退廃的
      したたかでしなやか
      ぜひ一作読んでみて〜♪
      2023/05/27
  • 桜木さん、またしてもこれですか!
    ホント、どうしようもない人達ばっかり。
    ろくでもないし、救いようがないし、ときにこざかしい。
    でもね、愛すべき人達なんだよね。
    彼女の作品の根底には常に“赦し”がある。
    どんな非道なことをしてもそこを責める姿勢はない。

    そもそも清廉潔白な人間なんてそうそういるもんじゃない。
    白黒つけるばっかりが正しいばかりじゃないと思う。
    そんな優しさが桜木さんの作品にはあるんだよね。
    そこがたまらなく好きだな。
    なんだろう、この余裕って昭和な感じがする。
    この物語の舞台が昭和40年代ってのもあるのかな。
    なんだか懐かしいんだよね、レトロで。

    この作品な千春という一人の女性とそれにかかわった人達のそれぞれの物語が描かれている。
    連作短編集って微妙だけど、桜木さんは巧いですね。
    一つ一つの物語もそれだけで成り立つし、そこから千春の生きざまもリアルに浮かび上がってきて。

    ラストの短編「やや子」、良かったです。
    最後に希望を残して終わって良かった。
    千春とやや子、出会う事があるんだろうか。
    気になるところです。

  • 桜木さんの筆で描かれる「やるせなさ」全開!
    「どうにもこうにも仕方のない家族関係」が陰鬱な北国の風景に重ねながら短編で綴られる。

    登場人物が少しずつリンクしつつ、中心に据えられた女性 千春に関わっていく。
    千春本人からの視点は皆無ながら、各章で登場人物たちから見た彼女への印象によって千春の人物像が浮き出てくる。
    既読の有吉佐和子さん『悪女について』、貫井徳郎さん『愚行録』もこういうカテゴリーで好み。

    幸薄い千春が思う「こうありたい自分」が完全に封印され、ただただ周囲の欲望や期待に流され、翻弄されていく。「自分を持たない」彼女が都度味わう思いを想像する。

    と同時に各章で彼女に関わる人々の状況の「のっぴきならなさ」に類似の私自身の感覚や経験が蘇る。

    虐待、ネグレクト、義理父からの性的虐待、「家族」という型を保つためだけに存在する人々の怒り、嫉み、憎しみ…。列挙すれば露悪的だが、そぎ落とされた筆致のなかで人々の想いを想像する。

    家族って何だろう。
    自分が自分であることを諦め、通い合いたい夫婦の心を持て余し、息子を独占し肩入れしずぎてみたり、仕事に逃避したり、やり場のない気持ちを他の人で誤魔化したりする。

    諦念に満ちた人々の描き方、ピカイチ。
    「仕方がない」諦めきった人々の溜息が終始充満する作品ながらも、光が指す先には「自分で判断する」千春のほのかな決意が見えたから。

    私自身が欲しているのは、「自分で自分の舵を取る」という生き方なのだなと感じ頁を閉じた。
    実家を離れた選択で自分を責め続けてきたが、「これでよかったのだ」と思えた気がする。

  • 結局人は、自分の見たいようにしか他者のことを見れない生き物である。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    北海道の地に生まれた、千春という女性の半生を「他者目線で」断片的書いた連作短編集。
    話がひとつ進むたび、千春もすこし歳をとっていきます。
    前の話で結婚していたはずの千春が、次の話では独り身になっていたりするにも関わらず、なにがどうなって独り身になったのかはよくわからなかったりするので、まさに「断片的な」千春の姿しかわからないのが、一冊通しての特徴かもしれません。
    そして「なにがどうなって離婚した??」とおもってしまう自分は、ゴシップ週刊誌を読んでいるような気持ちになってしまい、そんな自分にもやもやしてしまいました。

    ゴシップ週刊誌もそうですが、千春がどうなってそこにいるのか、千春の事情を知ったとしても結局「そうなんだ」で終わりですよね。
    しかも、その情報が真実とは限らない。
    むしろ他者からはそう見えるおもえる、ということが書かれているだけであって、当事者たちにとっては真っ赤なウソということのほうがほとんどな気がします。

    この連作短編集は、千春目線のお話は1つもなく、すべて他者から見た千春の姿しか書かれていません。
    だから、前の話でみた千春のイメージが、次のお話では変化していることもあり、しょせん人間という生き物は、自分のイメージしたいようにしか人のことを見られないものなんだなあ…としみじみ思ってしまったのでした。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    1冊を通して、千春という女性の人生は薄幸な雰囲気が漂います。
    薄暗く、いい香りとはいえないような空気が常にお話のなかにまとわりついています。
    落ちこんでいる時に読んでしまうと、こころが負の方向にもっていかれるかもしれませんので、そうではない心持ちのときに読むことをお勧めします。

  • 9編から成る連作短編集。母親とその娘、孫、3人の人生を追っている。

    最初の短編の女性が全体の主人公かと思っていたら、全編を通して語られるのはその娘だった。
    主人公の周囲の人間が順に語り手となり、彼女はそこにちらちらと見え隠れしながら登場するのみ。しかし、垣間見られるその姿を追っていくと、社会の底辺で生き抜く一人の女性像がくっきりと現れるという手法だ。

    奔放に生きる母親に捨てられ、高校時代には隣家の息子に遊ばれて堕胎し、親の借金を背負ったストリッパー暮らしを経て二度結婚し、一児をもうけるもその子を捨てて、さらに事故で片足を失う……と粗筋だけなら昼メロのようにも思えるが、これがなかなかのもの。

    怒濤の嵐のように不幸が襲ってくるにもかかわらず、愚鈍とも言える性格で、不幸を不幸と感じているのかいないのか、深く考えずにすべてを受け入れる主人公。感情をあらわにすることなく、かといって内心にくすぶるものがあるとも思えず、ひたすら淡々と底なしにすべてを飲み込んでいく姿には、したたかさを越えて恐怖すら覚える。
    誰の言うなりにもなってしまう彼女は、じつは誰も太刀打ちできない最強の女性と言えるのではないだろうか。

  • 心情を一切明かさなかった千春が最後に言った言葉、
    「母を頼ろうと思って」が、心に重く響いた。
    身も心もボロボロで彷徨の果て、行き場もなくて。
    そんな時、まだ母を頼ろうとした千春がいじらしく哀れだった。
    何度も裏切られたのに。

    どんよりと重い空気が作品全体を覆っていて、
    読んでいる間ずっと息苦しさを感じていたが、最後の明るい兆しに救われた。
    作者は不幸を追求することにより、
    今は光の届かないどん底でも、そこからまた立ち上がれるんだよと、
    逆説的に読み手の心に希望の灯をともしているように思えた。

  • なんて幸薄い親子なんだろうか。でも、それでも自分ではこれでいいと思っているのだろうか。
    時代なのかな。千春がああいう人生を歩むのは。
    私も幼い頃は母と離れて暮らしていた。だからなんとなく読んでみたかった。
    情が薄い。それは私も感じてた事だった。そういうものなのか。
    やや子は幸せになってもらいたい。

  • 母であるよりも、女であることを優先させた。そんな人の娘として生まれた千春。千春を巡る連作短編集。愚鈍な千春は人生に流され、辛い経験をし、それでも時にしたたかさを感じさせる不思議な娘だ。千春を中心に様々な人の人生が、時に胸掻きむしりたくなるほどやりきれない気持ちとなって心に広がる。しかし読後は、暗闇の中、蛍の光ぐらいにぼんやりした明かりを確かに感じられる。そして千春からの視点が一切ないのがまた物語の完成度を高くしているな、と感じる。ラストの美しい言葉に感動した。でも典型的ザ・桜木ワールドというお話でやんす。

  • これといって他に特徴の無い胸の大きい女、千春が別々の物語で存在感うすく登場する。
    ちらちら出て来てだんだん気になり出し、物語に引き込まれた。

    素晴らしい演出だなぁ。

    巨乳とは縁遠い体型の私は、もし巨乳だったらどんな感じなのか想像もつかない。
    まず、走るのに邪魔だから困るよね。
    でも1日だけなら巨乳になってみたい気もするなぁ。
    とか関係ない妄想をした。

    なかなか面白かったです。

  • 桜木さんの本は「ホテルローヤル」に次いで2冊目。
    北海道の地に生きる、母、娘。
    娘の塚本千春の来し方を中心に描かれる。
    桜木さんは「生き方」ではなく「来し方」という言葉を使われているが、その言葉が深く心に残った。

    最後の「誰も彼も、命ある星だった。夜空に瞬く、なもの愛星々たちだったー。」が良いなぁ…

    桜木さんの本はまだ2冊しか読んでいないのだが、何となく同じ風を感じる。
    他の本もぜひ読んでみなくては。

  • 「濃厚な昭和だ~」という感じがしました。表現がおかしいですが。もちろん物語の背景のほとんどが昭和から始まっていることも大きいのですが、テイストが昭和というか、ビジュアルで言えばセピアめいていると言うか。

    愚鈍で、官能的で(悪く言うとオマタが緩い…?)流されるように生きていく女、というもはや定番と言っていいような
    桜木さんワールドがこれでもか、これでもかと展開。

    「案山子」「やや子」が個人的には好きです。
    桜木さんのテーマがどこまでもこういう女性像なのだろうと思うのですが、正直言うとこのテイストの主人公ではない女性の話もそろそろ読んでみたいところ。

  • 各話に同じひとりの女性が出てくる。その人にすごく惹き込まれる自分がいる。ついつい気になってすぐ読んでしまいました。読めてすごくよかったです。

  • …ちょっと苦手でした。

  • 正直あまり共感できなかった…。
    登場人物は良い意味でも悪い意味でも人間味溢れているのだけど、主人公の千春だけはどこか掴めない。何を考えてるか全くわからない。

    「渚のひと」では、千春が圭一に犯されて妊娠してしまう。この章は、読んでいてかなり気分が悪くなった。
    その後も結婚、妊娠と、次々に男性のもとを渡り歩くけれど、どの人とも長く続かない。
    千春は、自分が安易に性の対象になることに慣れてしまったのか、愚直だという印象が抜けない。

    物語の展開がどんどん暗くなり、流されるままに生きて淡々と語る主人公の姿に不気味さすら覚えました。




  • 色んな人が関わり合う物語はよくあるが、主人公の意思がいくつものベールの奥にうっすらみえる感じが面白かった。
    最期までどうやって生きていくんだろう。
    頭の中で想像が止まらない。

  • 一気読みしてしまった。

    軸になるのは千春と言う女性だが、物語の主人公は彼女と関わりを持つ人々。
    彼らの心情の描写がすごく生々しい。
    それに比べ千春の心情の描写はなく、最後まで彼女をつかめないまま物語は進んでいく。

    親子3代の物語でもあり、切なくやるせない気持ちになるけど、読み応えがあった。

  • じつは、「ホテルローヤル」を読んだ時にどうしようもなく暗くていたたまれず、放り出していた。なのに今は、どうしようというくらい、怒涛のように、毎日桜木紫乃さんの作品を発表順に、読み続けた。このハマり方って、あれ?韓流に入れ込むひとの気持ちって、こんななのかな?(違う?)今はいったん収まってるが、まだ読みたい作品がある。

    咲くに咲けない咲子(母親)と、どこか無表情でありながら、したたかに生きてゆく千春。その娘、やや子。昭和から平成へ、時代が進むに連れ、少しずつ明るくなっていくのが救い。どうしてこんなに悲しい運命の人たちばかりなのかと思うのは、自分が体験していない世界を知らなかっただけ、無知だったから。都会のOLの悩みや生き方とは違う。悩みの種類も違う。選択肢も違う。北海道の自然や風景が織り込まれているのも、都会ではありえない生き方をしなければならない、必然性を生むからだ。死んでゆく人の描写にあって思うのは、この人の人生が幸せだったのかどうかということ。死の形はいろいろあるが、必ず訪れるもの。最後を考えながら生きていくことも、時には必要だな、と思う。一見普通の暮らしをしている理髪店の育子の「親切」にゾッとしたり・・・。
    最後の「やや子」では3代目のバトンを受け継いだやや子が、血縁には囚われない新しい人間関係を作っていく。やや子は自分の過去を知るだろう。その時、やや子は河野に会いにいくだろうか。未来のやや子へつながる終わり方で、ほっとした。というか、まだ続編があってもいいくらい。ありますか?

  • 初めて読んだ桜木紫乃。
    よかった。
    次もなにか読みたい。

  • さて困りました。
    世評は高い。読むと、構成の面白さ、随所に見られる独特の感性溢れる表現など、良い作品だと思います。でも好きかと問われれば「否」という答えになってしまいます。

    短編集です。北海道を舞台に塚本千春、その母・咲子、娘・やや子の生涯を描いた女性三代記です。
    面白いのは、全体を通しての主人公は塚本千春なのですが、個々の短編の主人公は別人で、この三人はバイプレーヤだったり、単なる背景人物のように描かれます。また、各編の間には全く空白の時間的隔たりがあり、がらりと違う形で三人が登場します。そのことについて著者の桜木さん「読まれた方がご自分で想像していただければ、その数だけ新しい物語が生まれます。そうなるとうれしいです。」とインタビューで答えています。
    また主人公の千春はそのたびに性格が変化します。無口でちょっとトロ臭く見えるけど学校の成績はそこそこ良い少女時代。愚鈍で感情が希薄、周りの言いなりになりそうな娘時代。家事・育児を放棄しダイヤルQに嵌る新婚時代。そして詩や小説に興味を持ち、レストランのフロアー係としてちゃんとした接客をするアラフォー時代。少し違和感を感じましたが欠点というほどでもなく、むしろ変わることによって次の展開を面白くしているように思えます。これについては「千春に関わる人たちは、自分が見たいように、都合のいいようにしか千春を見ていません。それでも千春は淡々と自分の人生を生きていきます。」と桜木さんは語っています。
    さらに、この本のタイトルと同じ「星々たち」という本が2回出てきます。一つは千春自身が書いたもの。もう一つは一夜の宿を提供し、千春のそれまでの生き様を聞いた元編集者の河野保徳が書いた小説です。そして、その小説をやや子が手にしたシーンで物語が完結します。何か面白い構成です。
    空白期間、登場するたびに変わる性格、何度も登場する同名の本。それらのちょっとした違和感や疑問点は、読者自身に色んなことを考えさせる面白い構成で、この本の魅力の一つだと思います。

    私が好きになれないのは、情念的な世界観です。
    短編の舞台の多くはスナックやストリップ劇場、場末の一杯飲み屋であり、ダメ男たちに簡単に体を開いて行く咲子や千春。どこか演歌/艶歌の世界です。桜木さんは「『血の縁の濃さ薄さ』『血縁に縛られない生き方』というものを感じていただけたら…と思います」と語っています。逆に言えば桜木さん自身が「血」というものに縛られ、そこから物語が始まる作家さんなのだと思います。しかし、私は因縁的な「血」は嫌いで「縁(えにし)」。血の繋がりは無くとも家族にはなれると思う家族派なので、入って行けないのだと思います。

  • 連作短編。全9編。
    10代でを千春を産み、母に預けて家を出た咲子。千春に見捨てられた娘のやや子。親子三代にわたる女性の様々な生き様を、塚本千春中心に描く。
    幸せとはほど遠く、切なく、そして悲しく感じてしまうが、何故か最後まで読み終えるとほっとした気持ちにも。それも生きてさえいればこそなのだろう。

  • 初めて読んだ作家の本。
    1話読んで、自分に酔っているような文章だと思った。
    登場人物の言動も陶酔っぽい。
    読んでも読んでも内容が頭に入ってこず、何度読み返しても同じ。
    手ごたえがないというか・・・。
    文章にクセがある。
    かっちり話の筋を追っていくというよりは雰囲気を味わうタイプの小説だと感じた。

    内容はひと言で書くと、千春という女性の半生を彼女の周囲の目線で描いた話。
    最初の話は彼女の母親目線で描かれた「ひとりワルツ」という話で、千春は放蕩者の母親に置いて行かれ祖母と暮らしている。
    そしてそろそろ胸の膨らみが気になる歳になっている。
    2話目「渚のひと」は千春の隣人の主婦目線で描かれた話。
    彼女には出来のいい自慢の息子がいるが、彼と高校生の千春がつき合っていると気づいた彼女はヤキモキして千春に嫉妬する。
    その後も、千春に関わる人たちの話が続く。
    全9話。
    後半の2話はそれまでと趣きが変り、「ああ、そういう事か」となる仕掛けがある。

    よくある形式の話で、複数の人の目線から一人の女性が見えてくる、という風になっている。
    ただ、人によって千春という女性の違う側面が見えるというよりはその人物像が固定されていくという感じ。
    この本でよく使われている言葉は「愚鈍」。
    うまく生きられない女性の姿が多くの人の目線から浮彫になっていく。
    最初から最後まであまり恵まれた環境で生きてこなかった千春という女性。
    ただ、同情なんて感情は一切わかない。
    彼女はなるべくしてそうなった、という人生を生きているし、周りがどう変わってもそうなってたんだろうな・・・と思う。
    それだけ自分を客観視して淡々と生きてきた人生が見えてくる。
    読み終えて、何がどうだったと具体的によく覚えてないが全体的な雰囲気を味わう事はできた。
    私には読みにくい文章だったが、これは個人の好き嫌いによって分かれると思う。

  • 2012〜14年に「月刊ジェイ・ノベル」に掲載された9話の単行本化。

    少女期から中年期までの塚本千夏という女性を取り巻く人々[星々]の物語。
    華奢なのに胸が大きく愚鈍な印象を与える千夏の心は多く語られず、周りの人々が千夏との関わりでその心の中の闇をのぞかせる。

     千夏をシングルマザーで産み、祖母に預けたまま男を追いかけて各地の夜の町を転々としてきた母咲子。
     医大生の息子を溺愛するあまり、妊娠した千夏の中絶の面倒を見る隣家の育子。
     自分が原因で父を殺した兄の出獄を、ストリップ小屋に身を潜めて待っていたあさひは、新入りの千夏に衣装と成人式用の振袖を譲る。
     裁判所の窓口係で40代独身の木村は、クレーマーの母親のお膳立てで千夏と結婚する。
     根室で理髪店を営む夫婦は、息子[田上高雄]と結婚した千夏が出て行ったため、やや子という名の子供を引き取る。
     現代詩講座を主宰する巴五郎は、参加する38歳の千夏が書いた「女体」という赤裸々な告白の詩を冷ややかに見たが、抱いた千夏の死が新聞社の賞を取ったことに恐怖する。
     港町の居酒屋に居着いた逃亡殺人犯の能登は、死の床の咲子の頼みで札幌の店にいるという千夏を見つけ、名乗らずに千夏の私家版の作品をもらって帰るが、置き忘れた傘を届けようとした千夏は交通事故にあう。
     小説誌の編集長を外され退職、離婚し、南十勝の野中の一軒家で暮らす河野は、迷い込んだ片足のない千夏生涯を聴き取り。『星々たち』という小説にまとめる。
     田上やや子は祖父母が死ぬと根室を出るが、祖母宛の手紙が回送されてきて、死んだ父と暮らしていた三浦知子のいる旭川に出かけ、父が育てたという米をもらって帰る。

     千夏の一生はどうだったのか、千夏が出てこない最後のやや子の話で、「なんだかね、いいような気がするの。すべてが、良い方に向いて、それぞれが自分で選択した場所で生きて死んだって、そう思えるの。」というやや子の言葉で救われる思いがした。

  • 伊藤咲子さんの「乙女のワルツ」の書き出し。おぉーっと引き込まれる。短編集と思いきや千春の物語だった。
    話すことは最低限。掴みかねる思ひ、哀しさが全体を覆うっている。

  • ひとりの女性が辿る、幾人もの男との遍歴と、いくつもの身の処し方。一体彼女は何を考えて生きたのか。だれかを愛して生きられたのか…。北海道の厳しい自然にさらされる地方の地で、ささやかに日々を生きる人びとの生き様を掌編ごとに描き出しながら、一人の女性の生きざまをあぶり出していきます。
    希望も夢もないようなその生き方には同情も覚えないし共感もできません。けれども彼女はそのようにして生きるしかなかったという事実だけが、心をえぐるように印象を残していきます。生きるということはこんなに強いものなのか、哀れなものなのか、醜いものなのか。という本質について、考えさせられるような気がしました。
    そんなものだから読んでいくとどんより気分は重くなってしまうのですが、ラストの短編では少し希望が添えられていてとてもほっとしました。せめて彼女には、少しでも寄り添い続ける温かなものがあり続けていますように、と願います。

  • 何でこうなってしまうんだろう。結局血なのかなと思ってしまう。
    悲しいだけかと思いきや、そうでもない。あらゆる場所で自分の輝きを発揮する千春は、したたかで強い女なのかもしれない。
    H26.12.23読了

  • そこにいた名もなき星々のような、人々


    水商売と男から抜け出せない生活でろくに娘の千春にも会わずにいる咲子。
    医大生の息子だけが自慢の育子が作った秘密。

    刑期を終えた兄を待ち続けたあさひの思いと現実。
    公務員として母と独身生活にも慣れた40代の春彦に訪れた結婚の話。

    根に持つ夫とダメ息子から引き取ったやや子の世話をする床屋一筋の桐子。
    詩教室を開く五朗の小説家になりたかった劣等感をくすぐった出来事。

    指名手配犯として逃げる忠治の人生で看取った咲子とその娘の居場所。
    編集者を引退し田舎暮らしの矢先に出会った千春からインスピレーションされたもの。

    千春の娘、やや子が父の危篤を知り、自分の人生を前に進んでいく一歩。

    中学生だった鈍臭さそうな千春が成長しながら登場してくる感じ。
    40代くらいで交通事故でボロッボロになって亡き母を頼りに旅してるところが、なんか怖い。

    やや子が一応ちゃんとした感じに成長してて安心した。)^o^(

  • きちんと書かれているし、面白くもあったのだが、作者がこの本を書いた必然性がわからない。
    主人公3代の心理描写が少ないせいなのか、感情移入できず、やや喰い足らず。

  • 『ホテルローヤル』の清掃婦の話を思い出していた、読んでいる間ずっと。何かを思う事から逃げて、いや、その感覚もなく、無意識に感情に蓋をしてただ生きている。芯が強い訳じゃない。だけどがらんどうでもない。千春の人生をたどって読み進めると、じわじわ哀しみが胸をひたす。憐れみとも違う。共感する訳じゃない。ただ哀しみが音もなく雪のように降り積もり、身動きがとれなくなってしまった。

  • まさに桜木紫乃っぽいけど、またこのスタイル?って感じもします。
    情に薄いとか執着心が弱いといえば、聞こえはいいが、子どもを捨てて逃げちゃうとか、
    あまりにも感情が死んでいるところとか、
    まったく彼女たちのことが好きになれないので、この作品も好きになれないなぁ。

  • 彼女自身の思いは本人の口から語られないのに、作中の時間の流れと共に徐々に立ち上がってくる塚本千春という人間像。彼女と彼女を取り巻く人々の人生は、暗い、重い、酷い、悲しい、救いがない、痛ましい、そんなふうに形容することしかできない。それなのに、そんな彼ら彼女らに対して時折ふとよぎる、かけがえがない、という感情。あらゆる人間に対し、徹底して肯定的であることが著者の凄みだと思う。

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

桜木紫乃の作品

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