婚活中毒

著者 :
  • 実業之日本社
3.52
  • (31)
  • (139)
  • (154)
  • (12)
  • (5)
本棚登録 : 850
感想 : 148
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408537115

作品紹介・あらすじ

崖っぷち女が紹介された運命の相手は連続殺人犯?(『理想の男』)。街コンで出会った美女の暴走に戸惑うマニュアル男は…(『婚活マニュアル』)。本命男を絶対に落とす"婚活ツール"の中身とは?(『リケジョの婚活』)。息子の見合いで相手の母親に恋心を抱いた父親は…(『代理婚活』)。運命の出会いはいのちがけ-『暗黒女子』の著者が贈るサプライズ満載の傑作ミステリー。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  「結婚」。世間的なプレッシャーは昔ほどではないものの、ある年齢になると意識してしまう人は多い。自由を謳歌しているうちに、気づけば適齢期を逃している。
     でも焦って婚活にのめり込むとロクなことにはならないようで……。

     現代の結婚事情をサスペンスタッチで描いた短編集。
             ◇
    吉本沙織は近ごろ散々だ。40歳直前になってリストラに遭い、さらに3年つきあった恋人にフラレてしまった。やむなく実家に戻り傷心の日々を送っている。

     思えば仕事にもプライベートにも充実した毎日を送っていた 30 歳過ぎまでが華だった。楽しい日々はずっと続くものだと思っていたから、いくつもあった見合い話に見向きもしないで今日まできた。
     ところが、アラフォーとなった今の沙織には出会いどころか見合い話も来なくなっている。

     ため息をつく沙織に母親が勧めてくれたのはフェイトという結婚相談所。そこはオーナー所長の女性が1人で運営する地域に根ざした相談所で、親身になってくれるので成婚率も高いという話だ。
     フェイトに入会した沙織に、所長の井上幸恵がさっそく紹介してくれたのが、杉下圭司という42歳の男性だった。

     圭司のスペックは高かった。
     すっきりしたハンサムな顔立ちで、長身かつスマートな体型をしている。
     年収は600万。ギャンブル等に興味はなく、ドライブが趣味なのは沙織と同じだ。
    42歳の今まで独身なのは、恋愛にオクテだったのと両親ともすでに他界していて世話を焼いてくれる人がいないためらしい。
     量販店のスーツを着ているという野暮ったさはあるが、結婚相手としてのマイナスにはならない。

     理想的とも言える相手を紹介された沙織は、圭司に夢中になったのだが……。
        (第1話「理想の男」) 全4話。

         * * * * *

     現代の結婚事情がドラマとして象徴的に描かれていました。

     例えば第1話「理想の男」に登場する2人。 
     沙織の方はリアルが楽しすぎて結婚について考えるのを後回しにしているうちに婚期を逃してしまうパターン。
     圭司の方は恋愛にオクテであり、自力で結婚相手を見つけられないでいるうちにアラフォーになってしまったパターンです。
     どちらもよくありそうですね。

     こうして2人の交際がめでたくスタートしたのですが、ただのラブストーリーで終わらないところが秋吉理香子さんです。

     圭司はフェイトに入会して3年。実は沙織と会う前にも3人の女性を紹介されています。あれだけのスペックを誇る圭司なのに、誰とも結婚に至りませんでした。そのことを知った沙織は、密かに理由を探ろうとします。

     ここからはサイコミステリーの要素を孕んだハラハラする展開です。
     ステキな人なのになぜ独身なのか。その理由に焦点が当たるのですが……。
     

     他の3話についても、イントロ代わりに出だしを紹介しておきます。

    第2話「婚活マニュアル」
    矢部圭介は30歳。まだ結婚を焦る必要はないのだが、独身仲間の友人が自室で脳溢血を起こして孤独死していたことを知り、独り暮らしに不安を感じるようになっていた。
     けれど結婚しようにも、高校から理系で独身女性のいない職場に勤める圭介には、恋人どころか女性と知り合う機会もないまま現在に至っている。そこで街コンに参加して相手を見つけることにしたのだった。

     圭介は恋愛に不慣れなところをカバーしようと、本屋で買った「婚活マニュアル」を熟読。そして街コン当日。圭介はマニュアル通り清潔そうに見える服装で臨むことにした。 
     割り振られたテーブルは4人がけ。男性陣が真面目な圭介と馴れ馴れしくチャラい高木。女性陣が見るも可憐な愛奈と太って不器量な靖子と、それぞれ対照的な2人。

     愛奈を巡る圭介と高木の激突は、コミュ力に勝る高木に軍配が上がり、圭介は愛想笑いするぐらいしかできない。同じく放っておかれる形になった靖子もニコニコして聞き役に回っている。そこで圭介は靖子に話しかけ、ついでに愛奈の情報を聞き出すことにした。もちろんマニュアル通り紳士的かつ爽やかに。

     そしてお待ちかねのマッチングタイム。圭介は諦め半分で自分のカードに愛奈の名前を書いて提出した。
     いよいよ発表の時がやってきた。さてその結果は……。

    ☆圭介くんは、きっと真面目な人なんでしょうね。何かを始める際には予習を欠かさないタイプのようです。特に仕事がITのエンジニアだけあってマニュアルを重んじることこの上ありません。
     でも打算が先行する婚活の世界では、マニュアルで何とかなるほど甘くはないのですよね。


    第3話「リケジョの婚活」
     根っからの「リケジョ」を自認する後藤恵美。まだ 30 歳で特に結婚など意識したことはなかったが、ある日テレビで偶然目にした男性に一目惚れしてしまった。
     放映されていたのは花嫁募集中の男性たちを紹介して女性の立候補者を募るという合同お見合い番組で、恵美が一目惚れしたのは次回出場予定の男性陣のリーダーだった。

     迷わずエントリーして出場権を得た恵美は、この恋を実らせるため緻密な計画を練ることにした。リケジョの恵美にとっては過去のデータを分析して傾向を掴み、目標達成に向けて対策を立てることはお手のものである。
     こうして過去の番組のデータを愛用のモバイル PC で分析し、万全の対策を立てた恵美。あとは実践するだけだ。
     そして番組収録日を迎えたのだった。

    ☆目的に向かってひたすら突き進む。あらゆる事態を想定して対策を立て、粘り強く取り組んでいく。そんな、研究者に必要な資質を備えたリケジョの恵美。
     目当ての男性の情報をすべてデータ化して過去の成婚例を分析したパターンに当てはめシミュレーションしていく。
     恵美のその飽くなき探究心には頭が下がるほどです。

     でも恋愛成就というより、結婚という目標を達成することの方に情熱を燃やしているように感じました。サイコホラーめいた女の執念の描写。味わってみて下さい。


    第4話「代理婚活」
     都内にある某一流ホテルの瑞兆の間。パーテーションで仕切られたいくつものブースで、年配の夫婦同士がテーブルを挟んで真剣に話し合っている。ここは代理婚活会場だ。
     代理婚活とは、結婚の気配のない子どものために親が結婚相手を見つけてやる活動を言う。今日は石田夫妻もこの会場を訪れていた。

     石田家の一人息子の孝一は 35 歳の男盛りだが身辺に女っ気はまったくなく、バイク好きが高じて仲間と3人で立ち上げたバイク専門の整備工場にかかりきりになっている。
     このままでは不惑などあっという間だと心配した母親の郁子が独断で婚活パーティに申し込み、夫の益男を無理やり引っ張ってきたというわけである。

     来てみて益男は驚いた。子ども、特に息子の婚活に励む熟年夫婦のなんと多いことか。娘を持つ親のブースに並びつつ、益男が就職活動のことを思い出していると、やっと順番が回ってきた。
     自宅でピアノ教師をしている娘を持つ先方は品の良さそうな夫婦で、益男たち夫婦と同年齢ぐらいに見える。仲も睦まじそうだ。
     だが妻の女性を見て、益男は年甲斐もなくときめいてしまったのだが……。

    ☆昔は町内にお節介好きのおばさんや仲人が趣味という初老の夫婦がいて、せっせとキューピッド役を務めてくれていました。だから町内などの生活圏で縁づく若者が多かったそうです。

     時代は変わり恋愛結婚がスタンダードになった今、親身に世話を焼いてくれるような気のイイ大人たちは姿を消し、内気な人やオクテの人はなかなか結婚相手に巡り会えなくなったと言われます。
     だから結婚相談所やマッチングアプリに活路を求める人が少なくないのはわかるのです。

     けれど、代理婚活については首を傾げてしまいます。
     特に石田家の一人息子・孝一には、結婚を考える気がまったくありませんでした。なのに強引に結婚させようと画策する。これは過保護を通り越してただの押しつけのように思います。
     結局、生活に金銭的・時間的余裕がある熟年世代の親たちの楽しみとしての活動に感じてしまうのですが……。

     それはさておき、この第4話には、益男の道ならぬ恋が引き起こす波乱がメインとなるハラハラした展開が描かれています。

     落とし穴はどこにあるかわからない。

     そんな教訓を肝に銘じないといけないと思いました。


     「婚活」ということばが生まれるぐらいに、現代では結婚に向けた努力が必要になっているのでしょうか。
     それでも本作に登場する「中毒」ということばで括られるような主人公たちには、それが本人であれ親であれ、どこかズレているような滑稽さを感じました。
    ( 第1話の沙織さんはお気の毒だったと思いますが。)

  • 婚活がテーマの4つの短編集
    理想の結婚相手を求めて
    繰り広げられる狂騒曲
    どのお話にも「えっ?」あります
    4話はハラハラしますが
    どこかスッとします
    最終話がこのお話で良かった
    図書館本

  • 婚活にまつわる短編集


    終活中毒が面白かったので
    こちらも読んでみました(^^)


    終活中毒と手法は見ていましたが
    すっかり忘れていて
    読む度驚かされました(^^)


    なかなか楽しめました(^^)


    が、やっぱり短編集なので
    心に残るような話はなく
    星は3つで

  • 婚活にまつわる4つの物語。
    『終活中毒』が面白かったので続けてこちらも読了。『終活中毒』以上にサイコパスレベル高めで面白く、1日で読了!

    「理想の男」
    40歳手前で彼氏に振られた沙織。母の勧めで『フェイト』という結婚相談所に登録し、オーナーの井上に勧められた杉下は、沙織にとっては理想以上の男だった。何故杉下のような完璧な男が結婚せずに残っているのか…。
    井上は何か裏があるなと思いつつも、杉下の挙動もかなり不審で、最後までどっちが犯人かわからなかった。現実は井上みたいな結婚相談所オーナーより、杉下のような男の方が数としては多そう。気をつけないといけないな…(汗)

    「婚活マニュアル」
    婚活初心者の圭介が街コンで射止めた愛奈はお金目当ての腹黒女だった。マニュアル通りの言動で愛奈をエスコートしてきた圭介だが、愛奈に嫌われたくない一心で次第にマニュアルの忠告を無視するように…。
    愛奈がサイコパスで、引き立て役だった靖子と結ばれると思っていたらまさかのチーム戦だったとは(笑)"ブスは内面を知ってもらうチャンスすら与えられない"は悲しいけどリアルだと思う。出逢い系アプリも写真の印象がマッチ率を左右するし…。正攻法がダメなら美人を武器として利用する…か。チーム婚活恐るべし。

    「リケジョの婚活」
    『ミッション縁結び』という人気婚活番組の番宣で典彦に一目惚れした恵美は番組に応募し、出演することに。リケジョの恵美は典彦を落とすべく、徹底的な分析、傾向と対策を練り、告白に挑むが…。
    ラジコンに小型カメラは怖すぎるて…。
    「婚活マニュアル」の作戦も怖かったけど、個人的にはこっちのストーカーの方が粘着質で怖い。

    「代理婚活」
    35歳の一人息子の孝一の為に代理婚活に参加した益男と郁子夫妻。初めは乗り気じゃなかった益男だが、容姿端麗で家柄もしっかりした吉村家の妻 久恵に惹かれ、息子達の婚活を利用して久恵と逢う機会を無理やり拵えるが…。
    家族ぐるみで結納金詐欺グループとは想像の斜め上だった。現実にもこういうことってあるのかな?親に代理婚活やってもらう予定はないけれど、もしもこういう状況に置かれたら見抜ける自信ないな…。

  • 婚活にまつわる4つの短編。どれもゾクッとする怖さやハラハラ感があっておもしろかったです。サクサクッと読めました。
    終活中毒も読みたいです!

  • 婚活を巡る短編集。
    怖かったり、うわっと思ったりと
    ほのぼの系ではなく、人間の嫌な面を見ることになるけど、先が気になってドンドン読み進められて、結果的に楽しめた。

  • 初読みの作家さん。

    4話の短編集で、読みやすく、面白かった。
    ただ、いつものことだけれど、私はすぐに内容を忘れてしまうと思う。

    本書で今年200冊目になった。
    自己最高記録だ。
    昨年末198冊になったと私が言った時に、「あと2冊、絵本でも読めばいいのに」と娘に言われた。
    普通に絵本も読んで記録してはいるが、あえて無理に200冊達成しようなどとは思わなかった。
    今年、何故こんなに沢山読めたのか。
    それは、先月骨折して以来、ひきこもっているからだ。
    手術入院の間にも2冊読了した。
    図書館の返却と取り置きの引き取りに、家族に行ってもらっている。
    年末までにまだ記録更新しそうだ。

  • 女性の婚活がこれほどまでにすごいとは読んでいてびっくり仰天、幸せになりたい一心で起こす行動は命がけ。
    さすが秋吉さん一気読みであきませんでした。
    思いもよらない結末にさああなたも浸って下さい。

  • 婚活がテーマの4編。短編ながらもどんでん返しもあり楽しめました!
    少なからず結婚を焦ってる人達だから、視野が狭くなって足元を掬われる。生涯を共にする相手だからこそ慎重に見抜かなきゃいけないのに…という焦り感が伝わってきて面白かった。4編の中だったら『リケジョの婚活』『代理婚活』が好きだったな。自分はバリバリの文系&恋愛で計算とか出来ないタイプなので、知らない世界をしれた気がする。

  • 順番が逆になったけど、終活中毒からこちらに。
    負けず劣らず面白かった!
    ちょっとブラックなどんでん返しは、完全に自分の予想外。
    人間のちょっと裏の部分が見えるようで、4編全て興味深く読んだ。

全148件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学院で映画・TV製作の修士号を取得。2008年、短編「雪の花」で第3回「Yahoo!JAPAN文学賞」を受賞、翌年、同作を含む短編集『雪の花』で作家デビューを果たした。ダークミステリー『暗黒女子』は話題となり、映画化もされた。他の作品に『絶対正義』『サイレンス』『ジゼル』『眠れる美女』『婚活中毒』『灼熱』などがある。

「2021年 『息子のボーイフレンド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

秋吉理香子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×