フーガはユーガ

著者 :
  • 実業之日本社
3.71
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本棚登録 : 8032
感想 : 871
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408537320

感想・レビュー・書評

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  • 基本的にファンタジーは好きなのだが、「好き」の範囲が限定的且つ、ファンタジー=ふわふわ感の定義が苦手なので失敗を恐れてあまり頻繁には手を出さない代物ではある。
    そして伊坂幸太郎氏。彼の作り出すスッキリ解決痛快ハピネスストーリーと、闇に居住する(厨二病発症)私との相性の悪さは言うまでもない。のだが、この作品は事前情報無し、私の遅れた耳に話題作と入る前から気になっており早々に本棚の一員となっていた。何故だろうか。シンパシーとしか言い様がないが惹かれたのだ。
    ーーーーーーーーーーーーー

    風我と優我。この双子の兄弟は暴力的な父親と無関心な母親の元で育ち、日々の屈辱と暴力と孤独からお互いを助け合い、支え合い生きていた。
    彼等は誕生日の日、お互いの体が入れ替わるー心ではなく身体ごとー現象が起こるようになる。不思議な二人だけの秘密を共有し更に強固になる兄弟の絆は彼等の名前の響きも相まって、幻想的で優美な主題に感じた。いとも簡単にファンタジーにトリップする事に成功した。

    主に 暴力的な父親の支配、幼児行方不明事件、いじめられっ子のワタボコリ君、弟である風我と恋人の馴初め、ある親子との出逢いを、優我が自称フリーのディレクターの肩書きを持つ高杉に語る構築で話は進む。
    瞬間移動を使い、時に悪戯にいじめっ子達を驚かせ、時に正義の名の元 風我の恋人 児玉を助けるヒーローとなり、時に純粋無垢な男の子を喜ばせる為に驚かす計画を練る。
    父親の暴力という地盤で重苦しい雰囲気が蔓延る中、彼ら兄弟の言動は強く逞しく、そして何より(父親の支配はあれど)自由で美しかった。

    終盤に関しては、仔細語るべからずである。
    そして粗探しとなる細かい事を言うのも野暮だ。割愛。

    まるで初めて小説を手にした子供のように夢中で文章を追い続けていた。そして読み終えた私の目には涙が浮かんでいた。
    おっとっと、仔細語るべからずだった。もうこれは読んでくださいとしか言い様がない。中身のないレビューとなり大変申し訳がない。

    ハッピーエンド ではない事に違い無いのかもしれない。だが私自身は、切なく胸が張り裂けそうな気持ちの隅で、彼ら兄弟なりの「支配からの脱出劇」に読者として誇りを覚えたし、心から敬意を評したいと思った。
    苦手なのだが、久々に自分の涙の味を思い出させてもらった。塩辛くなかった。感動の涙である証拠だ。


    なんだよ、シンパシー、馬鹿に出来ないっすね(´・ω・`)

  • 伊坂作品は5冊目。住んでいた仙台繋がりで読んでいるが、中々ハマらない。この作品もファンタジー的な内容と親や親戚からのDVや学校でのイジメなど読むのが辛くなる表現が多かった。
    フーガとユーガという双子の兄弟が毎年の誕生日に2時間単位で入れ替わる、という事を制作会社のディレクターに説明するのだが、嘘を付いているかもしれない、と何度も言うので、この話もどこまで本当か疑ってしまう。混乱の中、父親や兄弟の死など、真実かどうか、また疑う。
    後半に来て、一気に伏線回収。謎解きが始まって俄然面白くなってくる。最後の解決の場面はこの方法しかなかったのだろうか。悲しすぎた。

  • 「フーガはユーガ」フーガは、風我。ユーガは優我。主人公は双子の常盤風我と優我。兄が優我で、弟が風我。「風我は優我(優我は風我)」ふたりでひとりの物語。

    この作品の雰囲気、言い回し、表現がやっぱり今まで通り「作者らしさ」が感じられた作品。私の感じるこの作者の描く主人公は冒頓で、無口。描写は「ひょっとして、この言葉何か意味する?」と引っ掛け、最後に「あれ?そんな展開?」と、しかもあっさり、主人公が亡くなってしまう…
    世の中の悪人と呼ばれる人が実は意外にも気が弱かったり、善人だったりと、物語の中では何かしら悪なんだけれど憎めないキャラ設定である。(あくまでも私見なので、井坂幸太郎ファンの読者の方から見たら異議ありと言われるかもしれませんが、そこはご容赦ください)
    そしてもちろんステージは、仙台。

    今回も仙台。そして、訳ありの生い立ちである。本作は兄の優我の語りで、物語が進んでいくが、今回もすでに「犯人がここにいた!」なんていう展開で、主人公も「そんなところにこだわるなんて!」といつもながらの性格でありながら、そこに筆者のこだわりを感じる。

    彼らは誕生日限定で2時間おきにふたりが入れ替わる。ふたりで生きる。ふたりの意味を考えるときに、こんなこともありうることかもしれないと思う。

    双子の家庭は貧しく、父親はDVで父親におびえる毎日を過ごす。そのために、家にいる時間を少なくするために関心を持っているのではなく、誰かを助けたいという気持ちではなく、単に暇つぶしのように誰かの手伝いをする。「暇な僕たちにとって一番、楽しい時間の過ごし方は、誰かを手伝うことだった」
    この言葉が目に飛び込んできた時、これが本当の善意というものではないのかと、なぜか心が熱くなった。

    DVを受けているので、無関心、日常に怯えるというわけではなく、自分たちは気がついていないが、実はすごく優しい双子の物語とまとめたい。

  •  伊坂幸太郎さんの小説、初めてです。
     登場人物達があまりにも痛めつけられるので、「得意分野ではなかった」と後悔しながら読みはじめました。
     けれど、優我が語っている〈現在〉についての謎と、主人公たちの優しさや地味だけど印象深い登場人物に惹かれて、読み続けました。
     一卵性双生児の風我と優我は暴力ばかりふるう父とその父親から子供たちを守らず無関心な母という最低の家庭環境で育ち、二人協力しあいながら、世の中のややこしいことには当たらず、触らず生きていきます。
     クラスの中でみんなに軽蔑され、苛められている〈ワタボコリ〉というあだ名の男子に「決して同情などせず」クールに見ているだけなのてすが、理由のない暴力をふるい続ける苛めっ子が自分たちの父親と重なり、それは許せなくて、少しだけ彼らだけに出来る秘密の技を使って助けます。
     こういう虐げられている人とか、底辺にいる人への視点が確かに「同情」であれば、もうその時点で上から目線だと気付きました。だから、彼らの行いは気持ちがいい。
     岩屈おばさんというあだ名のリサイクルショップ経営者にも惹かれました。ケチで無愛想で事務的なことしか言わず、人使いも荒い人ですが、実は人間関係をすごく大事にしている人です。
     彼らと仲良くなる人たちは、みんな耐えられないくらい不幸なはずですが
    、毎日耐えて生きることに一生懸命で、高みを目指すことはありませんが、自分の不幸を誰かのせいにすることもありません。

     中盤以降はやるせなくて、やるせなくて、「嫌ミス?」と思いましたが……そこが伊坂さんの凄いところなんでしょうね!
     切なかったですが、最後は癒やされました。
     〈瞬間移動〉とか超自然現象ものが最近多いような気がして、正直安易に話を展開かせる技法のような先入観を持っていたのですが、最後まで読むとそれは二人の運命に関わるものであったような気がして、「上手いな」と思いました。
     こないだNHKの朝イチに出ておられたヤマサキマリさんが、「人は誰かに助けてもらおうと思っているうちは幸せになれない。一人で生きていこうと決意した時に良い出会いがある」とおっしゃってたのですが、その言葉を思い出しました。

    • Macomi55さん
      まことさん、おはようございます。
      「いいね」&コメント有難うございました。
      初めて読む作家さんの作品、選択が大事ですね。
      特に、伊坂さんの世...
      まことさん、おはようございます。
      「いいね」&コメント有難うございました。
      初めて読む作家さんの作品、選択が大事ですね。
      特に、伊坂さんの世界は作品によって全然違うのですね。
      他の色んな作品を読んでから今回の作品を読んでいたら感じ方が全然違っていたかもしれませんね。
      教えて下さって有難うございました。
      今度、『逆ソクラテス』読んでみますね。
      2020/10/13
    • ksk84さん
      「逆ソクラテス」大賛成です(^^)
      最近の伊坂さんの作品の中で、最も伊坂さんっぽい作品だと思います。
      読んで「おかえりーっっっ( ̄∇ ̄)」っ...
      「逆ソクラテス」大賛成です(^^)
      最近の伊坂さんの作品の中で、最も伊坂さんっぽい作品だと思います。
      読んで「おかえりーっっっ( ̄∇ ̄)」って思いました、良ければぜひ。
      2021/06/17
    • Macomi55さん
      ksk84さん、はじめまして。コメント有難うございます。
      「逆ソクラテス」まだ読んでないですけれど、お二人に勧められたので、早く読んでみます...
      ksk84さん、はじめまして。コメント有難うございます。
      「逆ソクラテス」まだ読んでないですけれど、お二人に勧められたので、早く読んでみますね。
      有難うございました。
      2021/06/17
  • 読み終えた感想としては、すごく切ない。

    読みながら苦しくなるところもあり
    そこがさらに世界観に惹き込まれる要素であった。

  • 半分過ぎたあたりからなりふり構わず一気読みでした。あまりに一気に読みすぎて、せっかく散りばめられた比喩や文学的表現をすっ飛ばしているかもしれません…伊坂先生、ごめんなさい。

    毎度のことながら、伏線をキレイに回収する伊坂さんの作品はお見事です。

    次々浮かんでくる疑問…
    ①ボーリングの球はどこへ行ったのか?
    ②風我のこと以来、小玉はどうしているのか?
    ③優我の話の「嘘と矛盾」とは?
    ④母親はどうしているのか?
    ⑤ハルコさんはどうしているのか?
    ④と⑤に関しては明確には描かれていないから、描かれていることで全て、なのかな?

    伊坂さんはいつも究極のエンターテイメント!といっても過言ではないほど、面白い作品を描いてくださいます。そこに潜む悪、それが苦しいことも多く、時にしんどい。「アヒルと鴨のコインロッカー」は、特にそんな印象があって。
    「フーガはユーガ」も、とても苦しい作品なのに、最後はほっこりする終わり方をする。今回は、いつにも増して、しんどかった印象があって、それでも、代償の大きさはあれど、スッキリとした読了感をくれた。あまりの読了感に、次にどんな作品を読むか、考えさせられます。まさに放心状態。

    勧善懲悪、伏線の回収、案山子の登場、言葉遊び、等など、ファンにはたまらない新作です。案山子に気づいた時にはとても嬉しくて、長年伊坂作品を読んできてよかったなーと、しみじみしてしまいました。サイン本で読ませていただきました◎

    • 1学期さん
      苦しい作品…簡潔に的を得てますね
      ここんとこの伊坂さんの(裏⁇)テーマを
      何といったらいいんだろー
      って思ってましたー笑
      苦しい作品…簡潔に的を得てますね
      ここんとこの伊坂さんの(裏⁇)テーマを
      何といったらいいんだろー
      って思ってましたー笑
      2019/04/15
    • naonaonao16gさん
      コメントありがとうございます。
      そのように言って頂けると嬉しいです\(◡̈)/伊坂さんの作品を言葉にするのは難しくて…
      新作の「シーソーモン...
      コメントありがとうございます。
      そのように言って頂けると嬉しいです\(◡̈)/伊坂さんの作品を言葉にするのは難しくて…
      新作の「シーソーモンスター」は読まれましたか?あの作品も、SF要素も含まれていたりして、この作品とは異なる味わいがありました!
      最近、背景にはいつも、社会に対する警告のようなものがある気がします…この作品で言えば、性暴力・性被害でしょうか。
      2019/04/15
  • 誕生日にだけ2時間ごとに「入れ替わり」が起きる双子の風我と優我の物語。

    設定が独特だし、児童虐待や誘拐など、重い内容を描いているせいか、序盤はなかなか読み進められない。
    でも、伊坂さんの軽妙な語り口は相変わらず。だからこそ、残酷なシーンもより身近に感じる。この世の中、常に暴力と隣り合わせだ。

    後半に進むに連れて、物語に引き込まれて読むスピードも格段に上がってくる。伏線も回収され「さすが伊坂さん!」という感じ。
    ただ、読後にモヤモヤっとしたものも残る。

    「俺の弟は、俺よりも結構、元気だよ」この物語で最も重要な、印象的なセリフ。



    〈ここからネタバレ〉
    物語はほとんどの部分が優我の一人称で進む。そして、優我が死んだ後も優我の一人称が続く。
    「フーガはユーガ」というタイトルも相俟って、語り手もどこからか入れ替わっているのか?とも考えたがどうなんだろう?再読が必要かな。
    今のところは、2人が優我の死により統合してより「手強く」なった、と解釈しておく。優我には死んでほしくなかったし。

  • 風我と優我は一卵性の双子の兄弟。
    誕生日限定で、なぜか瞬間移動が出来るという現象が起こる。
    そんな不思議な設定で進む物語。

    風我と優我は、父親の暴力に怯えて育った。母親は無関心という悲惨な環境。
    弟の風我は運動が得意で、入れ替わることができると気づいてから、時にはそれを利用するようになった。
    同級生がいじめられているのが気になり、正面からではなく手助けを試みる。

    風我の恋人の小玉が親戚の家でひどい目にあっていると知り、計画を練ることに。
    かなり暗い状況だが、ただ辛いだけではなく、二人で一人のパワー、たくましく生きる人との出会いにも支えられています。
    いかんともしがたい重苦しい現実を混ぜっ返し、洒落のめしながら描かれる成り行き。
    市井に生きる普通の人の、ある一瞬の勇気や善意が事態を動かします。
    ちょっとしたモチーフや現実離れした要素を盛り込み、読ませてくれました。

  • p216のあたりで、この話は悲惨すぎる。もうやめて、読みたくない!
    伊坂さん史上最悪の話ではないかと思い、目を覆いたくなりました。
    でも、最後まで読んで、全部すっきりとはしなかったけれど、かなり救われました。
    悲しい話でした。

  • 双子の兄弟”優我”と”風我”に起こった出来事が描かれたSF小説。

    優我の口から語られる、2人の生い立ちから現在までは、辛く壮絶なものですが、淡々とした語り口なので、あまり感情移入せずに読めるのが救いでした。同時に、辛い日々を受け入れるしかなく、ただ過ぎていくのを、淡々と眺めているような虚しさも感じました。

    2人の兄弟愛というか、繋がりの深さが、呼び起こした事象であり、読み手にとっての救いだったと思います。強い意思と、立ち向かう心の強さは、正にヒーローでした。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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