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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784408538723
感想・レビュー・書評
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あなたは、『函館』と聞いてどんな光景を思い浮かべるでしょうか?
“コロナ禍”が過去のものとなり、2024年には外国人の入国者が過去最高を記録するなど、日本各地に観光客が溢れる状況も伝えられています。ようやく普通に観光旅行ができることを喜ぶ一方で、どこに行っても、人、人、人という中に逆にうんざりもしてしまう、なかなか上手くはいかないものです。
そんな観光地の中で、春節を迎える中国からの観光客に北海道が人気を博しているというニュースを目にしました。100万ドルの夜景が見れるとも言われる函館山がニュースに上がるのを見るにつけ、訪れてみたい思いが私の中にも込み上げます。一方でそんな『函館』には他にも訪れるべき場所は多々あります。
『三十秒ほどで、地上九十メートルに位置する展望フロアに到着した』。
そこには、
『紅葉で彩られた五稜郭が誇らしげに輝いている』。
これも『函館』観光にはなくてはならない光景です。
さてここに、そんな『函館』を含め、『八戸』、『盛岡』、そして『仙台』と、東北・北海道新幹線が停車する街を観光するかのように展開する物語があります。紅葉の季節を描くこの作品。そんな物語に、人と人との繋がりを見るこの作品。そしてそれは、彩瀬まるさんが描く『誰か』の存在を思う物語です。
『会いに行こう、と決めたものの、たいした用事はない』、『初めて会ったのは二十代の頃』と『長い付き合い』になる鳴海遥(なるみ はるか)のことを思うのは主人公の高木志津夫(たかぎ しづお)。『札幌に本社を置く住宅用建材を扱う会社で営業をしていた』高木は、『青森支店で事務をしていた鳴海』と『若手を集めた勉強会で幾度となく顔を合わせ』ます。『鳴海が会社を離れた三十代以降も、なにかと縁があって交流が続いた』という二人は、『還暦を過ぎてなお、年に一度は鳴海が函館に立ち寄る機会』に昼食を共にしています。しかし、『新型コロナウイルス感染症のせい』で『三年近く会っていない』という二人。『会えるときに会っておかなければ後悔する』という『年代になった』こともあり、『津軽海峡を越えて会いに行こう』と高木は鳴海に連絡を取ります。
『二十七歳のときに上司の知人の娘だという女性を紹介され、見合い結婚した』高木でしたが、結婚当初から『根本的に性質が合わ』ないことがわかったものの『早くに娘の麻衣が生まれ、辛うじて家族のかたちは保たれ』ました。しかし、『麻衣が札幌の大学に合格し、キャンパス近くの女子寮に入ることになった』『直後に、直美から離婚の意志を伝えられた』高木は『異論』なく了承し、『財産を分け』『自宅も売却』し、『五稜郭のそば』の『中古の分譲マンション』に移ります。そして、『五稜郭タワーが建て直されるらしい』という噂を耳にした』高木は、土方歳三が好きだった鳴海への年賀状にその旨記します。『五稜郭タワー、建て直されるんですね!…新しい五稜郭タワー、行ってみたいと思います。久しぶりに高木くんにも会えたらうれしいです』という手紙を受け取った高木。それを起点に『手紙の末尾に』記されていた『メールアドレス』を打ち込む高木でしたが、『なかなか休みの日程が合わ』ず、『やっと落ち合えたのは二〇〇八年の春で、最後に東京で別れたときから実に十八年の歳月が過ぎてい』ました。『いやーお互い、アラフィフだねえ』と再会した二人。そんな中で『高木が離婚したことを告げると、鳴海はずいぶん驚いた様子』。そんな鳴海は『転倒由来の骨折で寝たきりになった父親の介護を、長いあいだ母親と分担して行って』きており、『結婚は結局しなかった』と語ります。そんな起点から一年に一度は会うようになった高木と鳴海。鳴海の暮らす新青森へと向かう高木の姿が描かれていきます…という最初の短編〈ひとひらの羽〉。2016年に新幹線で繋がった北海道と新青森を舞台に大人な男女の姿を印象深く描き出す好編でした。
2025年1月30日に刊行された彩瀬まるさんの最新作でもあるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、2024年11月に寺地はるなさん「雫」と南杏子さん「いのちの波止場」の二冊、12月には瀧羽麻子さん「さよなら校長先生」、そして年明け1月には村山由佳さん「PRIZE」と、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを毎月一冊を目標に行ってきました。そんな中に、「くちなし」、「新しい星」で直木賞の候補となる一方で東日本大震災の被災体験に基づく作品も出されるなど幅広い作品展開も魅力な彩瀬まるさんの新作が出ることを知り、これは読まねば!と発売日早々この作品を手にしました。
そんなこの作品は、内容紹介にこんな風にうたわれています。
“古い友人。遠くの恋人。業界を去った恩人。すれ違う家族。途切れかけたつながりを、どうしたら取り戻せるのか。紅葉の季節に、東北・北海道新幹線で青森、盛岡、仙台へ向かう人々を描く、心に深く響く連作短編集”
なるほど、東北を舞台にした短編集なのか…それがこの内容紹介から読み取れるこの作品の概要だと思います。しかし一方で、彩瀬まるさんのファンの方にはこれだけでピン!とくるものがあると思います。内容紹介にはこんな文章が付記されています。
“『桜の下で待っている』で、東北新幹線でふるさとへ向かう人々を描き大きな支持を得た著者。あれから10年、著者がひらく新境地!”
はい、「桜の下で待っている」という作品名が登場しました。2018年1月23日に刊行された彩瀬まるさんのこの作品は、今回の新作同様に東北を舞台にした連作短編集となっており、私も3年前に読了、印象深い作品として今も記憶に残っています。この度刊行された「嵐をこえて会いに行く」も「桜の下で待っている」と同様な趣向ではあるのですが、この前者と後者の間にある7年の歳月がこの作品ならではの色合いをつけています。まずはこの側面から見ていきましょう。それこそが、この作品の執筆時期にも関係するであろう”コロナ禍”の描写です。”コロナ禍”を前提とした作品はここ数年で数多刊行されました。この作品の私のレビューのタグにも”「コロナ禍」を描写する”とつけてありますが、クリックして見ていただくと私のレビューした作品だけでなんと30冊もの作品がリストアップされます。”コロナ禍”はこれほどまでに小説の世界にも影響を与えたことが改めてわかります。この作品には5編の短編が収録されていますが、”コロナ禍”をかなり具体的に描写しているのが特徴です。
『近年巷を騒がせている、やっかいな新型コロナウィルス感染症のせいだ。県境をまたぐことが制限され、遠出の際には鼻に綿棒を突っ込む検査がマナーとされた。若者と年寄りは出歩くべきではない、なんて言説も流れた』。
“コロナ禍”初期のこの状況が、これから先まさか三年も続くことになるとほ誰も予想できなかった時代の今となっては懐かしい描写が第一編に登場します。
『四月に入って早々に、新型コロナウィルス感染症に関する報道がきな臭さを増し、中旬には北海道のみならず全国に緊急事態宣言が発令された。県境を越える人の移動は制限され、マスクと消毒液があっという間にドラッグストアから姿を消した』。
こちらは『緊急事態宣言』の頃の話です。まるで歴史の教科書を読んでいるような感覚にも陥りますが、これがリアルだった時代はまだほんの4年前のことに過ぎないという事実の方に驚きます。
『県外ナンバーの車への落書きやあおり運転、営業中の店に対する執拗な嫌がらせ、マスクをつけていない人を激しく罵倒するなど、いわゆる「自粛警察」と呼ばれる過激な言動を行う人々が増加し、社会問題となった』。
こちらも同じですね。日本人のある意味での怖さを思い知らされた時代、それが”コロナ禍”でした。もう二度とあんな時代はごめん被りたいと思います。
それもあって、次第に”コロナ禍”の描写がある作品を敬遠する、もしくは古臭く感じられる時代にもなってきたと思います。この作品は2025年の新作です。元となる作品は2023年5月から2024年11月に「Webジェイ・ノベル」という場で発表されたもののようですが、流石に新作としての”コロナ禍”描写はそろそろ打ち止めかなあという気はしました。
そんな物語は、「桜の下で待っている」同様に主人公たちが新幹線に乗って旅をする様が描かれています。
『ホームにすべり込んできた美しい翡翠色の新幹線を迎えた。鼻が長いな、と見るたびに思い、人なつこい犬を連想する』。
そんな風にも描写される『新幹線』。主人公たちは北海道、東北のそれぞれの都市でその土地ならではのものに触れることになります。そんな主人公たちの物語に色濃く描かれるのが、それぞれの都市の観光スポットと食べ物です。「桜の下で待っている」が『東京』を起点に北へ北へと上がっていったのに対して、この「嵐をこえて会いに行く」では、『函館』を起点に『東京』へと南下していくところが興味深いです。また、書名に『桜』が入る「桜の下で待っている」がまさしく春の情景を映し取っていたのに対して、この作品では秋の情景が描かれていくのも特徴です。
『奥深い緋色のカエデ、黄金色の輝きを帯びたイチョウ。風が吹くたびに豊かな色彩のかけらがちぎれ、はらりはらりと宙を舞う』。
鮮やかに描写される紅葉の美しさを感じさせる物語はこの作品の大きな魅力にもなっています。そしてそれが、この作品で描かれていくそれぞれの街の魅力を何倍にも高めています。物語ではそれぞれの街で紡がれる人と人との繋がりに光を当てた物語が描かれていきます。
では、それぞれの章で取り上げられる物語と、それぞれの街で取り上げられる観光スポットや食べ物の描写をまとめてみたいと思います。
● この作品で描かれる北国のさまざま
・〈ひとひらの羽〉: 『函館』
- 注目: 五稜郭、雪虫、土方歳三
- 描写:『「鰊みがき弁当」だ。函館駅の名物駅弁で、「鰊」と大きく印字がされた弁当の包み紙をはがして蓋を開くと、ふっくらとした数の子が四本、そして大きな鰊の甘露煮が三枚、白米の上に広げられている』
- 概要: 『鳴海遥とは長い付き合い』という主人公の高木志津夫。『二十七歳のときに上司の知人の娘だという女性』と『見合い結婚した』高木ですが『冷え切った』夫婦仲の人生を送るも娘の一人暮らしをきっかけにやがて区切りをつける瞬間が訪れました。一方でかつての同僚だった鳴海と再会する高木は…。
・〈遠まわり〉: 『八戸』
- 注目: 巨大な金属製の肋骨を思わせるホームの天井、種差海岸、七福の岩
- 描写: 『きれいだよねえ。鮫角灯台。「日本の灯台50選」に選ばれてるらしいよ。写真撮る?』
- 概要: 『八戸駅のホームに降り』、『重厚な三味線の音色を響かせた印象的な発車メロディに迎えられた』のは主人公の三浦慎治。そんな時、『まあすぐかな?本八戸駅前の公園にいるよー』と『待ち合わせをしている奥平拓海』からメッセージを受けた慎治。大学時代に知り合った拓海の暮らす『八戸』に『函館』から通い続ける慎治は…。
・〈あたたかな地層〉: 『盛岡』
- 注目: さんさ踊り、冷麺、盛岡八幡宮
- 描写: 『盛岡では、冷麺は焼き肉の締めの一品ではなく、ラーメンのようにそれ一杯で食事として成立するものと見なされているようだ』。
- 概要: 『もう何度読んだかわからない』松山紫苑の『夜にしか摘めない花』に没頭する中に盛岡に到着したのは主人公の藍井円香。『藍井にとって特別な作家』という松山の小説との出会いの先に自身も小説家となった藍井は、松山の死を編集者の金森から教えられます。そして今、編集者を辞めた金森を『盛岡』に訪ねる藍井…。
・〈花をつらねて〉: 『仙台』
- 注目: 錦ヶ丘ヒルサイドモール、牛タン、萩の月
- 描写: 『二十年ぶりに訪れた仙台ヒルサイドアウトレット改め、錦ケ丘ヒルサイドモールは平日の午後ともあって空いていた』。
- 概要: 『仙台に住む母親の俊子から』『ホームに入居している祖母の具合が悪い』と連絡を受け『ひ孫に会うのを楽しみにして』いた祖母のことを思い、娘の聡美と『仙台』へやってきた主人公の大原凛子。そんな凛子は聡美の『癇癪』を宥める中に普段聡美の世話を一手に抱える夫の克彦のことを思います。
・〈風になる〉: 『仙台』→『東京』へ
- 注目: 牛タン
- 描写: 『切れ込みが入った肉厚の牛タンが下に敷かれた白米が見えないくらいたっぷりと盛り付けられている。たまらず割り箸を割り、脂でつやつやと光る牛タンを口へ運んだ。弾力のある肉は嚙めば嚙むほど肉汁があふれ、口の中がうまみでいっぱいになる』。
- 概要: 『東京行きの新幹線のグリーン車』に腰を下ろし、スマートフォンのメッセージを確認するのは主人公で国会議員の相庭知子。『とにかく今は早く昼食を済ませ、永田町に戻った後のプランを立てなければ』と思う知子ですが、夫の信治から届いたメッセージにはまさかの内容が記されていました…。
5つの短編をご紹介しましたが、いずれの短編にも東北・北海道新幹線ゆかりの地を舞台にした物語が描かれています。上記した通りそこには、それぞれの地に由来する場所や食べ物が次から次へと登場します。それは、誰もが知る知名度抜群のものから、これって?というものまで多々ですが、共通するのはまるで読者もその場を観光しているような気分にさせてくれる彩瀬さんのリアルな描写の数々です。まるで紀行文を読むかのようにそれぞれの地を、時には歴史を交えて語られていく物語はそれだけで読み味抜群です。そして、そんな物語に描かれていくのが本の帯にこんな風に記される”存在”です。
“大切な「誰か」の存在に気づかせてくれる、5つの物語”
その『誰か』は短編によって全く異なります。〈ひとひらの羽〉の高木志津夫は、かつて会社の勉強会で知り合った鳴海遥と還暦を過ぎても会い続けています。〈あたたかな地層〉の藍井円香は、自身が小説家になるきっかけをくれた亡き松山紫苑のことを思い続けています。そして、国会議員という珍しい設定で登場する〈風になる〉の相庭知子は、きな臭い永田町のことを考える一方で『仙台』を守る夫の信治のことを思い浮かべます。それぞれの人物が思う『誰か』は同じ場所にはいません。物理的に離れた場所に暮らす中にそれぞれの起点を元に『誰か』のことを思い『会いに行こう』と起点の先に進んでいく主人公たち。この作品には、例え物理的な距離が離れていようともそれぞれが持つ太い絆で繋がれた相手を思う気持ちの存在が背景となる物語が、北海道、東北の美しい自然を背景にしっとりと描かれていました。
『会えるときに会っておかなければ後悔する。そういう時代になったし、自分たちもそういう年代になったのだ』。
何かしらの理由で離れた土地に暮らす二人の人物の繋がりに光を当てるこの作品。そこには、離れているからこそ気づくお互いの相手に対する思いやりの心が浮かび上がる物語が描かれていました。北国の旅情たっぷりに描かれるこの作品。そんな土地を読者も旅しているかのように感じさせてくれるこの作品。
季節感豊かに風景を映し取っていく彩瀬まるさんの上手さ際立つ素晴らしい作品でした。詳細をみるコメント2件をすべて表示 -
東北、北海道新幹線で出かける北の街が舞台の短編集。行ったことのない街も多かったけど、それぞれの街の良さがさりげなく伝わってきて、読んでいるうちに旅に出たくなった。
物理的な距離、心が離れてしまった人との関係が、取り戻されていく様子が静かに描かれている。
この静かさが彩瀬さんらしいなと思った。
帯の「結局その人が去ったあとに残るのは、他者に渡せた幸福だけかもしれない」は、その通りだと思う。でも、「花をつらねて」で母俊子の言っていたセリフは、自分勝手な気がしてイラッとしてしまった。子ども相手でも発言には気をつけてあげて欲しい。 -
北海道、東北新幹線で目的地へ向かう人々が描かれた5つの短編集。彩瀬まるさん、人の心境を表現するのがうまいなと思いました。
私は、始めの「ひとひらの羽」と「花をつらねて」がお気に入りでした。
「ひとひらの羽」の鳴海遥と高木志津夫の関係は、恋愛を主体としてなくて、いいなと思う関係でした。互いを気にかけながらも縛らない、ほどよい距離感です。鳴海遥が夢中になり続けている歴史上の人物の捉え方が、彼女の生き方に繋がっているのが、高木と同様に目から鱗でした。そして、どんな状況でも前向きで素敵な女性だなと思いました。「そういうことか、ですませていいことなんてひとつもない」と気づいた高木への遥からのとっさの贈り物は、今の彼にぴったりのものでした。2人がこれからも何度も会えますように、と思いました。
「花をつらねて」
読み終えて、年を重ねて変わっていく家族の関係について考えました。すっきりと解決できないことが増えてきます。重い岩がごろりと転がるように、という表現はぴったりだと思いました。「いいとこだけ覚えておいて」と言った、作中の母親の言葉がなんとなくわかる年齢になり、色々と思うことができた物語でした。共に暮らしていないとわからないことが増えていき、色々と歪みが生まれるのは仕方ないのかもしれませんが、なんだか寂しさも感じました。たくさんの岩の間をぬって咲く花を渡せる大人になりたいと、思いました。
物語全ての舞台が行ったことがない場所だったのに、風景や食べ物などがとてもリアルに感じられました。物語と共に旅する気分が味わえたような感じもしました。
「ひとひらの羽」
「遠回り」
「あたたかな地層」
「花をつらねて」
「風になる 」
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5つの短編集。
北海道•東北新幹線の、停車駅の町が舞台になっています。第一話が函館から始まり、最終話の東京駅到着まで、新幹線が南下するように話が進みます。
読み終わって思ったことは、「大事な人には会いたい時に、ちゃんと会って話をしよう」です。
この本の登場人物達は、コロナが収束し、やっと会いたい人に会いに行きます。もちろん、新幹線を使って。しかし、久しぶりに会えて、嬉しい、懐かしい、という感情だけではありません。大事な相手ほど、会えない時期が長いと思いは募ります。その思いをどう伝えて行くか…。そんなストーリーです。
第四話までは、相手に直接思いを伝える直球なお話。しかし、最終話は、ちょっと変化球を交えたお話。変化球の後の、大切な相手との直球勝負になるのかな。気になった方は読んでみて下さい。
それぞれの話には、その土地の見所も書かれています。盛岡が、喫茶店の多い町だということを初めて知りました。
すべて、紅葉の時期のお話なので、丁度良い時に読めました。
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さまざまな問題から前向きになれる瞬間が印象深く描かれている。よき方向の結果まで描かれているともっと爽やかな気分になれるんだけどなぁと感じる。
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一時期は彩瀬まるの禁断症状に苦しんだが、現在は強い意志を持って定期的摂取に努めている。前回読んだのは去年の11月、三カ月ぶりの彩瀬まるです。戻ってきました!
今回も全体を流れるテーマ「嵐をこえて会いに行く」が共通して出てくる。この共通概念という纏め方が彩瀬スタイル。今回もその素晴らしさを個々に書き記して永遠に心に留めておきたい。
〇「ひとひらの羽」古い友人
いいね。この距離感。友達でうまくいっているのならそれで充分。どう転んでも愛ではないのだ。自分の価値観の範囲内で留まる世界というものもある。自分にそう言い聞かせる。別に冒険なんてする必要はない。このままで良い。それでお互い幸せなのだ。絶妙なバランスで生き続ける。
〇「遠まわり」遠くの恋人
三浦の前世はウミネコ。読んでいくと自分もウミネコになりそうな気がする。お決まりのハッピーエンドで油断していたら・・・びっくりしたぁ。最後の最後でどんでん返しがやってくるとは。
〇「あたたかな地層」業界を去った恩人
鬼によって人が刈られる村。まるで作物の如く刈り取られるように。中学の図書館では、犯人を突き止めることを諦める推理小説が人気、書いたのは松山紫苑。プロになって憧れの松山紫苑にもう一歩で近づけところまで行くが、寸前で松山紫苑は鬼に刈られてしまう。なるほど、取材先の岩手には二戸市や一関市に鬼滅の刃関係の場所があるようだ。そこで藍井は葛藤する。傑作を求めて自分を追い込む。そして自分のスタイルを恩人と共に確立した。これって私小説ですか?
〇「花をつらねて」すれ違う家族
普段からコミュニケーションを密に取ってやれば良いというものでもない。昔気質の、昭和の人々にとっては優劣が当たり前という価値観を持ってきたのだから、今更新しい考えという正論を持ち出しても解決するのは程遠い。骨肉の争いは避けられないもの。ならば古い考え方を持つ人とは疎遠にならざるを得ない。すれ違うべくしてすれ違うのだろう。現代社会でも人間関係は希薄になってきており、これもまたすれ違いの要因となる。つまりどの世代でも家族関係には一長一短があり、良好な関係というものはごく恵まれた環境でしか存在しえないのだろう。すれ違いとどう向き合うかは永遠の課題と言える。
〇「風になる」途切れかけたつながり
国会議員を目指すか決断するには十分に考慮しなければならない。それに尽きる話。国会議員になってお金を稼ぐ、大幅な特権を得る時代はもう過去の話になりつつある。現行の国会議員も同様な心構えが要求される。不埒な幻想を抱く大馬鹿者は政治には参加できない時代が到来しつつある。厳しいようだが、国民の生活を豊かにするためには家族を犠牲にする覚悟や、ナイスバディな愛人と楽しむくらいの享楽追及者にならなければならない。現代はそういう政治家像が国民に求められているのだ。世界は、日本はこんなにも変わってしまった。 -
コロナ禍を経て、東北・北海道新幹線で、会いに行く。友人へ、恋人へ、恩人へ、家族へ…。東北新幹線での旅を描いた短編集「桜の下で待っている」が大好きだったので、続編にあたる本作の刊行が待ち遠しかった!
函館、八戸、盛岡、仙台…北海道・東北の各地を舞台に紡がれる物語。どれも好きだが、とりわけ心をギュッと掴まれたのは、盛岡を描いた「あたたかな地層」だ。偶然なのだが、2週間前に盛岡を旅しており、何というタイミング!!私が旅先で訪れた施設も描かれており、冷麺じゃじゃ麺喫茶店と盛岡のフード描写もバッチリで、読みながら楽しかったひとときを追体験していた。読み始めはこの短編は民話調か?と思うほど引き込まれた「鬼」の物語が素晴らしく、作中での鬼という存在の捉え方もまた好きで、ついでにいうとこの短編の元タイトル「鬼のゆくさき」も、個人的には岩手県らしくて気に入っている。そして、実在するのかと錯覚するほど、登場するブックカフェが最高に素敵で!全てにおいて、盛岡という地をよくわかった上で描かれているなと胸熱だった。
仙台が舞台の「花をつらねて」、登場する仙台の施設が地元民にとっては意外で、そうだよな、ここ、当初はそういう位置付けだったよとちょっと感慨深くなった。家族間のごたつきが何ともリアルだが、そのごたつきにこの施設を絡めてくる構成がまたうまいなと唸る。
五十嵐大介さんによる、本作の魅力を余すことなく描いたカバーイラストも素晴らしい!!
実家を出て以来、特にこの二十数年、旅や帰省で東北新幹線を頻繁に利用する身としては、本当に好きな作品だ。ホームにエメラルドグリーンの車体が滑り込んできたときの高揚感を、読みながら何度も思い出した。いつかは未踏の八戸や北海道にも、新幹線で訪れたいなと思っている。 -
コロナ禍とは何だったのだろう。
私もその間に祖母を亡くした。
直接的な関係はなかったものの、自分だけでなく誰かでさえ外出することに神経質になっていた姿を見ていて、間接的な影響はあったように思う。
この作品に入っている短いお話たちも、コロナ禍がメインに描かれているわけではない。
けれど、その時期を通り過ぎるということは、どこかで間接的な影響を受けている。
個人的には「遠まわり」という作品が好き。
自分にとって縁のある人に、お礼を言いたくても言えずにいたあの時期。
それっきり、もうずっと、機会が失われてしまった出来事。
オンラインでのミーティングは「メイン」にはならないまでも、今に至るし。
在宅ワークは、働き方の選択肢を増やした。
間接的な影響に触れながら。
あの頃を思い出す。 -
「ひとひらの羽」
「遠まわり」
「あたたかな地層」
「花をつらねて」
「風になる」
東北・北海道新幹線で青森、盛岡、仙台へ向かう人々を描いた5話収録の短編集。
本書の7頁に書かれている
「会えるときに会っておかなければ後悔する。そういう時代になったし、自分たちもそういう年代になったのだ」の一文が心に刺さる。
全話共通してコロナ禍が背景になっている事もあり、当時の閉塞感と大切な人に会えなかった苦しさが蘇った。
会いたい対象は友人、恋人、家族と様々だけれど、愛しい人達と共に過ごす時間がいかに尊いものかを改めて感じさせてくれる。 -
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お久しぶりの彩瀬まるさん…過去に何冊か読んできたのですが、今の今まで「綾瀬まる」かと思っていたのは内緒にしといてください。東北とか北海道、人生で行ったことがないのでイメージがしにくかった。今作は5つの物語。最近読んでいたのは人の嫌なところを描く作品が多かったせいか、インパクトと言う点では全体的にちょっと物足りなさを感じる。のだが、さすがのリーダビリティは健在。人と人との関わりの上での心の機微が面白いというか、深みと気付きを感じられた。コロナ禍真っ只中で移動が厳しく制限されていた数年前のことを思い出す。
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ひとひらの羽
遠まわり
あたたかな地層
花をつらねて
風になる -
Amazonの紹介より
闇を抜け、私たちは羽ばたき続ける――
大切な「誰か」の存在に気づかせてくれる、5つの物語
古い友人。遠くの恋人。業界を去った恩人。すれ違う家族。途切れかけたつながりを、どうしたら取り戻せるのか。
紅葉の季節に、東北・北海道新幹線で青森、盛岡、仙台へ向かう人々を描く、心に深く響く連絡短編集。
『桜の下で待っている』で、東北新幹線でふるさとへ向かう人々を描き大きな支持を得た著者。
あれから10年、著者がひらく新境地!
函館から仙台、そして東京へ。再会をテーマにした短編集で、それぞれの場所の特色が色々盛り込まれていて、旅をしている気分でした。
新幹線に乗っていると、どこか気持ちが落ち着き、過去を振り返ったり、昔を懐かしんだりとどこかゆったりとした気持ちになっていきます。
終始ゆったりとした空気感があって、癒されました。
コロナ禍によって会えなかった日々。今では懐かしく感じますが、一旦離れたからこそわかる魅力さもあって楽しめました。 -
コロナ禍で会いたい人に会いに行く短編集。
「ひとひらの羽」の二人の関係が羨ましい。
「自分でものを考えて、自分の羽で飛ぶ方向を選んでいて、かっこいい」って言える相手にめぐり逢いたい。
「あたたかな地層」に出てくるブックカフェがステキ!
「読書って内容に没入するまで、読み手に集中力を要求するじゃないですか。音楽や動画は受けて側がなにもしなくても、なんなら町を歩いているだけでも、目や耳に飛び込んでいけるけど。読み始めがスムーズにいけば、読書には読書だけの強みや快楽があるので」読み始めの集中力が守られる場所でじっくり読書したい。 -
【ひとひらの羽】
鳴海さんの生き方、彼女と高木さんの関係が素敵だなと思った。結婚していてもしていなくても本人の生活が充実していたら幸せだよね。二人を見ていたら私も何だってできる気がしてきた。そして、会いたい人には会えるうちに会っておこうと思った。
【遠まわり】
不思議な話だった。私にも前世での思い入れのある場所があるのかな。そんな場所に今世で辿り着けたら素敵だなと思った。でも前世の記憶が一切ないから気づかないかなぁ…笑
【あたたかな地層】
作家さんの苦労が少し分かった気がする。シリーズ化してるものって本当に凄い。鬼の話はとても興味深くて私も岩手県に行ってみたくなった。もちろん、ご飯が魅力的だったのも行きたい理由のひとつ。笑
【花をつらねて】
赤ちゃんの体重が増えない問題、とっても共感できたのと克彦さんが素敵な旦那さんすぎた。母親方の家はゴタゴタがありながらも、兄弟それぞれが姪やその娘に良くしてくれている温かさを感じた。「いいところだけ覚えておいてよ」には言葉の意味の深さを感じた。
【風になる】
政治家って悪いイメージしかなかったけど、この話を読んで私が知らなかった裏側を知って少し好感度が上がった。知子が新幹線の中での出会いをきっかけに良い方向に向かう事を願わずにはいられない。 -
物語の色は違うけれどどれにも覚悟を感じた。
どう生きるのが自分らしいのかに気付き、目の前が開けていく清々しさが良かった。
特に最後の「風になる」は自分の弱さを受け入れ理想を現実にするべく腹をくくる主人公が格好良くて痺れた。 -
函館、青森、盛岡を先月、旅行で訪れたばかり。
そこに立つ主人公と、同じ目線で景色を感じられた
コロナ禍を経て、人との関係、生き方、色々見直した
感謝したり、反省したり
それすら忘れていた今、また改めて 考えさせられる -
す、すごいよかった。東北・北海道新幹線で青森、盛岡、仙台へ向かう人々を描いた短編集なのだけど、なんと地元が舞台の短編があるのだ。私の地元はこう、どっちつかずで舞台映えがしないのでフィクションでもあまり取り上げられないのだけど、大好きな作家である彩瀬まるさんが書いてくれるのがうれしくて。そういう背景もありたぶん判定がかなり甘くなっている感は否めないが、小説なんて主観で楽しむものなので別にいいか。いや、どれも本当によくて、人の感情の切実さとか世間一般にはこうでしょというものへの刺々しさみたいなものへの抗いがどれも胸に迫る内容だった。
連作短編だし、どれも感情が揺さぶられつつ読後は爽快感があってこれからあたたかくなる今の季節にはぴったりな本だと思う。あとでファンレター書きます。素敵な小説をありがとうございます
著者プロフィール
彩瀬まるの作品
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