よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

著者 :
  • 実業之日本社
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本棚登録 : 915
レビュー : 100
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408550992

作品紹介・あらすじ

著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる-。見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出した傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 「終わらない歌」を先に読んでしまい、その前作のこちらをやっと読めました。
    この本の一章めにあたる短編の「よろこびの歌」は読んでいたのですが。

    あの女の子達の高校時代の話。
    とてもいい感じです!

    御木元玲は受かると思い込んでいた音大付属高校に落ちて、新設の明泉女子高校に行くことになった。
    母親は有名なヴァイオリニストで、高校受験に特別な準備は要らないと言っていたため、どこか軽く見ていたのだろうと考える。
    母親へのコンプレックスと葛藤、つまらない毎日。
    目的を見失い、高校とは別に声楽の勉強をする予定だったのが、そんな気にもなれなくなる。
    孤立する玲をクラスメートは遠巻きにしていた。

    校内声楽コンクールで、御木元玲に指揮をやってもらおうという声が上がる。
    玲の才能はちょっとした指導にも現れるが、専門的に過ぎるやり方についていけないという生徒も。
    だが、マラソンに苦戦する玲を見ていた彼女らは、一人二人とあの歌を歌って声をそろえ、玲を応援する。
    その声を聞いた玲は‥

    どこか他と違う玲へ向ける級友のまなざし。
    小柄で元気な原千夏は、うどん屋の娘。音楽をやりたかったがピアノを買ってはもらえない環境だった。
    音楽室で玲に歌を教わるようになり、父の自慢のカレーうどんを玲に食べてもらいたいと思う。

    中溝早希は、十六にして余生と感じている。
    中学ではソフトボースのエースだったが、肩を壊したからだ。

    牧野史香は、人には見えないものが見え、それを伝えようか迷う。
    思い切って伝えたとき‥?

    里中佳子は、南君に初めて家に呼ばれた後、ふったのかふられたのか‥
    いきなり地下の核シェルターを見せられて驚き、引いてしまったのだ。
    自分には取り得がないと感じている佳子だが‥

    周りを見ていなかった玲も、少しずつそれぞれの事情や気持ちに気づいていく。
    教師の浅原は、もう一度、玲を送り出すために合唱しようと皆に声をかけるのだった。

    それぞれの事情がわかりやすく、悩む様子もはっきり描かれ、切なさとさわやかさと共に、情景がすっと入ってきます。
    極端な不幸というわけではないのだけれど、当人にとっては人生が変わるような大問題というのがよくわかります。
    互いにすべてを知るわけではないけれど、刺激し合い、交差し、時に寄り添う。
    こんな時期を過ごせたら、幸せですね。
    また音楽を聴きながら~再読したい小説でした。

  • 先日、ゴスペルを聴いた。
    地元の駅前広場にステージが設けられ、カルチャースクールの生徒とおぼしき女性達が歌声を披露していた。『アメイジング・グレイス』に始まり、クリスマスらしいナンバーが次々に歌われる。
    普段は地道にお仕事をされているであろうOLさんや、自転車の前後ろに子供達を乗せてペダルを踏んでいるお母さん達。この日ばかりは精一杯のお洒落をして「ハレルヤ!」と満面の笑みで声を上げる姿には、ちょっと感動するものがあった。
    文庫化されて気になっていた『よろこびの歌』をすぐに買った。

    挫折と諦めから始まるそれぞれの高校生活。

    ばらばらだったクラスメイト達が合唱を通じて一致団結......って感じじゃないのがいい。そこがいい。
    それぞれに独立したパートが、微かにふれあい影響しあいハーモニーを奏でていく。すべての人々がみんな普通で特別。どんな人にも自分にしかわからない思いがあるし、また自分が思っている以上に人はそれぞれ素敵なんだということ。

    第一話『よろこびの歌』の終盤から『カレーうどん』は震えた。
    そして、明るく開けていく様なラストが素晴らしい。
    読了後、「あそこ良かったよね」と感想を分かち合っているかのような、大島真寿美さんの解説も良かった。

    時節柄、市民参加の第九コンサート等も各地で開かれるようだ。
    「合唱なんて、俺興味ないし」なんて思っていたけど、今はちょっとやってみたい気もする。

    • まろんさん
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      同じ本を読んで、花丸をいただいたのが恥ずかしくなるくらい素晴らし...
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      同じ本を読んで、花丸をいただいたのが恥ずかしくなるくらい素晴らしいレビューで
      この本を読んだときの感動が鮮やかに甦ってきました。
      「すべての人々がみんな普通で特別」という言葉が、この本の印象にあまりにもぴったりで
      趣味も嗜好も家庭環境も、クラスの中での立ち位置もまるっきり違う少女たちが
      ひとりひとり集まって、それぞれの思いを抱えて歌う、そのことを
      こんなに短い言葉で伝えられるなんて、とため息が出ました。

      どのレビューも、そのまま本のあとがきや帯に使えてしまえそうなkwosaさんの
      本棚もレビューも、これから心待ちにさせていただきたいと思います。
      今後ともどうぞよろしくお願いします(*^_^*)
      2012/12/21
  • とある新設女子高。そこに通う女の子達。みんな、それぞれ事情があって不本意ながらもこの女子高に入学し、毎日を淡々と生きている。そんな淡々とした人生の中に合唱という光が差す。
    ちょっとしたきっかけから合唱する事になり、それぞれが様々な想いを乗り越え、心を一つにし、偶然じゃなく必然だったと思える。学生の頃の合唱コンクールでは、私自身そんなに深く考えた事なかった。この本を読みながら、私も一クラスメートになり一緒によろこびの歌を歌えた気がした。

  • 様々な事情で滑り止め的な新設の私立女子高校に進学してきた生徒たち。それぞれの事情を抱えていて、なかなか自分をさらけ出せずにいる。そんな生徒達が、恒例イベントの合唱コンクールに参加するが、うまくいかないまま終わってしまう。ところが、音楽家の母を持つ、ある女子生徒がマラソン大会で一番ビリを走り、ボロボロでゴール前で苦しんでいるところで、ごく自然にクラスメート達が集まりだし、応援しようと合唱コンクールの歌を歌いだす。それは心の中から相手を思いやる気持ちで自然に歌った曲で、走っている女子生徒の心に大きく響き、心の中の大きなわだかまりを溶かしていく。次第にクラスの雰囲気が変わり、ついに2年の最後に3年生を送る会で再度、その合唱に挑戦しようとするが、、、

    実に爽やかな青春小説でした。もっと合唱コンクールの詳細な様子が描かれている小説かと思ったのですが、全然違いました。焦点があたっているのは、様々な事情を抱えて心の中で葛藤する女子生徒達の繊細な心の中の変化でした。一つのことをきっかけに、徐々に影響しあって心境が変化していく、青春時代特有の団結心みたいなもの、しかしそれは作られた(与えられたもの)ではなく、ごくごく自然発生的に生まれいく様子がすごく優しく描かれており、ラストでは本当に鳥肌がたってしまいました。

    人間いくつになっても悩みは尽きないし、心を閉ざしたくなるときも何度あるか分かりませんが、青春時代というのは独特の甘酸っぱさ、思いつめてしまう感じ、でもやっぱりうまくきっかけさえあれば素直になれる、そんな独特の大切な期間だと思います。小説を通じて、疑似体験させてもらうだけで、自分の心も何かに拘っていた殻が破れたような、そんな清々しい気持ちになりました。

  • まさに青春小説だと思った。
    女子校生の話だけど、男の自分もすごく共感できる部分があり、満足の内容。

    すべてをやり過ごすことだけで過ぎていく高校生活。
    個人的によくわかった。
    すべてが宙に浮いてて何も実感のない感じがある。
    そんな感覚の主人公とその周りの女の子たちが奏でることになる歌の物語。
    みんな一緒だと思っていたり、あの子は特別だと思っていたり、
    さまざまな出発点だけど、そういった周りの音に気付き、
    耳を澄ませて、自分の音に気付き、認め、一つになって歌になる。

    そんな本人たちにとってきれいとは決して思えないプロセスがとても美しく描かれていたように思う。

    宮下さんの作品独特の雰囲気、和やかさと琴線に触れる漂う緊張感みたいなものが好き。

  • 素晴らしかった!
    読後「2009年小泉今日子さんが推薦」という帯を改めて見て
    小泉今日子さんのことまでますます好きになってしまった・v・
    あと、すさまじく
    ハイロウズとブルーハーツを聴きたくなりました・v・!


    以下、1話ずつの感想。

    「よろこびの歌」
    鬱屈、とか、閉塞感、とか
    静かに押し込められて死んでいくみたいな空気を感じ取っている。
    くせに、たぶんものすごくプライドが高くてある意味自信過剰なんだろうな、という主人公が可愛い。笑
    あの「周囲に比べて熱量が高すぎて空回りしている、でもどうしても漏れて来てしまう」力み具合とか
    けっこう思い当たる節もあったりして、ますます可愛い。
    マラソンのシーンは泣きそうになった。

    「カレーうどん」
    泣いた。
    千夏が本当にステキだ。
    この
    「よろこびの歌」→「カレーうどん」の流れは
    本当に神がかっていると思う。
    だからこそきいてくる「__うれしいな」だと思う。(ここで泣いた)。
    サンタクロース問題から至った想いは、
    すごく大きくて厳然とした真理だったはず。
    自分のしあわせさに気づいた彼女が、
    でも、いつか
    「それで満足しきらなかった人たちの声が社会をベターに変えてきた」
    ことに気づくのだろうか、とか
    物語とは少し関係ないところで考えたりもした。
    でも、彼女がしあわせでいることで周囲はかなり救われているし、
    彼女は彼女のままがやっぱり一番ステキなのかな。

    それにしても、
    玲と千夏の関係性は、本っ当ーーーにステキだ!!

    「No.1」
    余生だ、という表現にドキっとした。
    どちらかと言うと自分ももう余生を過ごしている人間な気がしてしまっているのだけれど
    彼女はまた本道を生き始めた。
    ただ、「余生」だと思えるからこそできることもあったりするのよーとか
    少し思わずにもいられなかった^^;
    “余生感”は、けっこう大事だと思う。

    「サンダーロード」
    可愛かった。
    三谷くんがイケメン。
    「メカに弱い」(笑)
    玲がサンダーロードに力強く立ち、やがて羽ばたいていく姿を想像する
    彼女の持つビジョンの豊かさにうっとりした。

    「バームクーヘン」
    南くんには正直、ひいた。
    だから、彼(シェルターをつくった彼の家族、か?)を
    「しあわせだと思う」と言ったキャラクターがいたことに
    とても新鮮な気持ちを抱いた。
    …でも、やっぱいきなりシェルターに連れ込むのはいくない。きもい。けど。
    それにしても
    ここまでの話を通して一貫していたのだけれど、
    ボーズ(=入道)が効いている。

    「夏なんだな」
    春が好きで夏が嫌いな私には
    個人的には多々「いやいやいやいや!!笑」というところもあったけれど
    とても鮮明な話だった。
    好き。
    ひかり、は
    季節だって問わず、きっとおだやかにぽかぽかと
    あたたかく在り続けられる人になるのだろうな、と
    ちょっと憧れの気持ちすら持ちそうになった。
    姉ちゃんもステキだ。

    「千年メダル」
    集大成。
    まさに合唱のような、ひとつになって広がっていくような章。
    玲が見違えるようにカッコよく、
    柔らかく、強くなっていて
    そんなにイケメンなのに「鼻息荒いよ」とか突っ込まれていて
    なんとも愛おしい。
    千夏との関係性も相変わらずしなやかに強固で、よかった。
    「すごいと思う。どれも間違っていない。」が
    素直すぎてホレそうになった。
    こう本心から思えているのだな、ということが伝わって来た。
    また
    「昔の私とどこが変わっただろう」以降の全ての流れには泣いた。
    2つ目の泣きポイントだった。
    「当日は、よく晴れた。」からの
    最高潮への怒濤のステップが
    文字通り、凄まじく晴々としていてよかった。
    最高のfin.に向けての軽やかなステップだった。


    ステキな作品だった。

  • 音楽家ってしあわせな職業だ。人生にひとつも無駄なところがない。つらかったことも、悲しかったりさびしかったりしたことも、人を恨んだことさえと、みんな地肉になる。いいところも、悪いところも、私は私で、私から生まれる音楽はどう転んでも私の音楽だ。立派なところだけじゃなく、駄目なところも含めて、どう生きてきたか、どう生きていくか。


    音楽家が主語になっていますが、いろいろなものが主語になりそうな文章です。
    様々な葛藤を内面にもちながら、過ごしている少女達一人一人の輪郭が、本の後半になるにつれ明確になっていきました。
    それぞれが影響しあって、少しずつお日さまに向かって伸びていく、瑞々しさを感じます。

    春の日の暖かさを感じるこの日に、この本を読めたこと、幸せに感じます。

  • 3月に入り、受験生の皆さんも長い努力からほっと息ついている時期かもしれません。志望校に入れた方も、そうでなかった方も、新しい生活に自分の道を見つけられると良いですね。

    本書に登場する玲も声楽家を目指し音大の付属高校を受験しましたが失敗。普通科高校で自分の行くべき道を見つけられず、著名な音楽家の母とも上手くいかず、クラスの中でも自ら孤立していました。

    7音階のお話しの中に登場する学生たちも皆、思春期の中それぞれの心の悩みを抱えて過ごしています。純粋に歌う事のよろこび、合唱を通じて響き合う歌声の魅力、やがて皆、自分の殻から外に出て繋がっていきます。そして玲は本来の目指すべき道へ。

    合唱コンクール「手紙 十五の君へ」をアンジェラアキと合唱部の子供たちが泣きながら歌っていたシーンを思い出します。皆の歌がつながった時、いろいろなこころの中の感情が吐露されるのでしょうか。素晴らしい経験だと思います。

    仕事を早めに切り上げて図書館に寄ると、受験生の皆さんが机で一生けん命頑張っている姿をいつも見かけす。閉館時間ぎりぎりまで、赤本と格闘する姿、ちゃんと見てましたよ。

  • 自分らしさとは何かを模索している女子高生たちの、合唱をめぐる物語。友人たちと関わる中で、自分に足りないものや、将来の不安などさまざま悩みながら、合唱をきっかけに自分自身と向き合ったり、他者を認めたりしながらそれぞれが成長していく。
    進路や挫折など私自身も悩んでいたのがよみがえってきた。自分らしさや個性について悩むことは、今でもある。自分らしさの捉え方はいろいろあって良いんだと再認識した。

  • 宮下奈都さんの本は2冊目だけど、この方の文章、すごく好きになった。
    青春とか成長とかくすぐったいような気がしてたけど
    素直にすっと心に入ってくる。さりげなく大事な事がかかれてると思う。
    自分が、とても恵まれてて幸せな環境にいることを、押し付けがましくなく教えてくれると思う。

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著者プロフィール

宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月映画化。『静かな雨』が2020年新春映画化が決まり、2019年6月6日文庫化される。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。

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