はれのち、ブーケ (実業之日本社文庫)

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  • 実業之日本社
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  • / ISBN・EAN: 9784408551043

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『結婚式』という言葉にどんなシーンを思い浮かべるでしょうか?

    『チャペルの裏口で裕人(ひろと)と別れ、父娘ふたりだけ』となった時間、『しっかりな』と言う父に『無言でうなず』く理香子。『大丈夫、お父さん。裕人は約束を破らない。なにがあっても、幸せになる。きっと、ふたりで、幸せになる』と強く思う理香子。その時、『ゆっくりと扉が開』き『真っ白なチャペルに、パイプオルガンの柔らかい音色が響き渡る』という荘厳な瞬間。そして、『バージンロードの一番向こうには、裕人が笑顔で立っている』のを見る感動の瞬間。

    こんな風に書かれているその場面も、人によって見えている景色は違います。視点が違えば見えるものも違う、そんな風に考えたことはあるでしょうか?上記した文章を読んでいる時、あなたは、知らず知らずのうちに、その視点を自分の経験に当てはめていたのではないでしょうか?そして、今までの経験からそんな場面を迎えた人の気持ちに自然と感情移入していたのではないでしょうか?

    一方で『結婚式』という場は、主役の二人に関係する、もしくは関係した人たちが集う場でもあります。かつて大学時代という青春のいっ時に苦楽を共にした友人たち。そんな彼らは、卒業後それぞれの人生を経て再会を果たします。かつて、将来の夢を語りあった者たちが10年の時を経て集う時、そこにはそんなかつての夢の先にあるそれぞれの人生の結果をそこに見ることになります。誰一人として同じ人生を歩む者などいません。それぞれが、それぞれに信じた道の先に生きています。

    この作品は、結婚式を迎えた一組のカップルの今を見る物語。そんな二人を見守ってきた四人の旧友たちの今を見る物語。そして、そんな彼らがここからまた次の未来へと新たに歩み始める様を見る物語です。

    『遮光カーテンの間から、うっすらと朝日がさしこんできた』とカーテンの隙間から眼下に広がる海を見るのは最初の短編の主人公・理香子。そんな理香子が振り向くとそこには『むにゃむにゃと何事かつぶやき』眠り続ける裕人の姿がありました。『たたき起こしてやっても文句を言われる筋あいはない』と思うも『今朝はさすがに喧嘩したく』ないと思う理香子。そう、『なにしろ一生に一度の大切な日なのだ』と思う理香子は、『午前に結婚式、午後には披露宴と二次会』という今日のスケジュールを思い浮かべます。そして、時間となり『タクシーに乗った』二人は『北野のチャペル』へと向かいます。そんな時、理香子の携帯が鳴りました。『おめでとう』と『親友の鈴子からのメール』には、『タイトルよりもさらに短く、”ついに!”の四文字』が書かれていました。『ついに、ここまできた』と、『十年にわたる裕人とのつきあいを最初から見届けてきてくれた』鈴子のことを思う理香子。『時に励まされ、時にたしなめられ、のろけ話も愚痴もよく聞いてもらった』と鈴子に感謝すると共に、そんな裕人との十年を思い返します。『大学に入学した年に裕人と知りあった』という理香子は、『なにを考えているかよくわからない』という第一印象をもちました。しかし、大学へと向かうバスの中でのある日の出来事がそんな印象を大きく変えます。『雨の日だけあって、バスはやはり混んでいた』という車内で理香子と隣同士になった裕人。『ひとりでふたつの席を占領』するなどマナーの悪い前席の少年たちを不快に思う理香子。そんな時『杖をついた老婦人が乗って』きました。『前の少年たちに注意しようか迷った』という瞬間に『どうぞ』と、『老婦人に声をかけ、席に座らせて、吊革につかまる』という動作を流れるように行った裕人。『あくまで自然で、気負いや照れが全く感じられない。おそらく正義感も義務の意識もない』とそんな裕人を見る理香子。その後、『グループで一緒にいるときに裕人とよく目が合うように』なり、『ふたりとも、それぞれが互いに好意を持っている』ことがわかったものの理香子を『しつこく誘い続け』る共通の友人のせいで言い出せないまま一年が過ぎました。そして、二回生となり『偶然を装って裕人と同じゼミに入』った理香子は『やっと裕人に告白し、晴れて恋人どうしになれ』ました。そして今、鈴子への返信に『ついに!』と同じように入力して『力いっぱい送信ボタンを押した』理香子。そして、『タクシーがするすると上っていく坂道の行く手に、チャペルの屋根が見えてき』ました。『おはようございます』、『よく寝られました?』とにこにこと問いかけられる理香子。『更衣室にはすでにスタッフが揃い、花嫁の到着を待っていた』と、結婚式へと臨む裕人と理香子。そんな二人を祝うために集まった大学時代の四人の友人たち。そんな彼らが過ごす一日の中に、過去の青春の日々の記憶が織り交ぜながら描かれていきます。

    神戸のチャペルでの結婚式、そして披露宴に臨む一組のカップル、そしてその場に招待された大学時代の友人四人に六つの短編で視点を切り替えながら展開していく連作短編の形式を取るこの作品。単行本と文庫本が刊行されていますが、その両者には違いがあり、文庫本には、本編の後に〈あおい芝生、あかい花〉という短編が追加で収録されています。レビュー後半に詳述しますが、この作品はこの追加の短編あってこその作品であり、これを結末に読むか読まないかで作品の印象が大きく異なってきます。まず書きますが、これからこの作品を読もうと思われる方は、必ず文庫本を手にしてください。そして、この追加の短編こそが本来の終章という意識で読んでいただくと、六編目で終えるのに比べて遥かに大きな感動が得られます。ご本人の談は見つけられていませんが、恐らく単行本だと物語が尻切れトンボになっていると感じられた瀧羽さんが、この短編を追加されたのではないか?そんな風に感じられるくらいに、説得力のある終章がこの追加の短編です。

    と、レビューの前に単行本と文庫本の違いから入ってしまいましたが、この作品は「はれのち、ブーケ」という書名から想像される通り、一組のカップルの結婚式が催されたある一日を描いています。そして、短編ごとに視点が切り替わっていく中でそのカップルが如何にして今日を迎えたのか、そしてそんな式に参列した友人たち、10年前の大学時代に同じゼミで学んだ友人たちが、今日までをそれぞれどのように歩んできたか、そして、お互いとどのように関係し合ってきたのかを振り返りながら進んでいきます。最初の短編から最後の短編までに進む時間は結婚式の日の朝から夜まで、そこに過去の振り返りが織り交ぜながら進んでいくという非常に面白い構成になっています。そんな作品の全体像をまず俯瞰すると、それぞれの短編は以下のように構成されています。
    ・〈ハーバーランド 6:00 ウェディングベル〉
    視点: 理香子、場面: 起床〜着付け〜チャペルへ移動〜バージンロードへ
    注目場面: 『大丈夫、お父さん。裕人は約束を破らない。なにがあっても、幸せになる。きっと、ふたりで、幸せになる』
    ・〈異人館通 10:00 ブーケトス〉
    視点: 鈴子、場面: チャペルから出る〜ブーケトス〜写真撮影
    注目場面: 『ナイスキャッチ、と章太郎が邪気なく言う。「これって、取れたら次に順番が回ってくるんよな?よかったやん」』
    ・〈北野 13:30 スポットライト〉
    視点: 裕人、場面: 披露宴(主賓挨拶〜新郎挨拶)
    注目場面: 『不安要素には事欠かない。それでも、理香子が助けを必要としたときにどうするべきなのか、裕人はちゃんとわかっているつもりだった… 一番大事なものもわかる…理香子は自分が守る』
    ・〈新神戸 17:00 プロポーズ〉
    視点: 奈緒、場面: 二次会
    注目場面: 『「綺麗だねえ」鈴子が目を細めた。実際、理香子は美しかった。頬を紅潮させ、自信にあふれた笑みを浮かべて、裕人にぴったりと寄り添っている。お姫様のようなティアラが様になっていた』
    ・〈東遊園地 21:00 ダッシュ!〉
    視点: 亮、場面: 三次会
    注目場面: 『発車のベルが鳴り出した…扉はまだ閉まっていなかった…亮は再びホームに降り立った。あのときにできなかったことが、今ならできる』
    ・〈六甲台 23:30 フルーツサンド〉
    視点: 章太郎、場面: 帰宅後
    注目場面: 『あの瞬間に心が決まったのだ。章太郎は思い出す。迷いは感じなかった。ためらいも不安も忘れていた。ゆかりと子どもと三人で、生きていこうと決意した』
    ・〈あおい芝生、あかい花(文庫本のみ収録)〉
    視点: ゆかり(章太郎の妻)、場面: 結婚式前日までの数日
    注目場面: 『「隣の芝生はあおい」… 章太郎は説明し、でもな、とつけ加えた。「自分の芝生もあおいんやで」』
    という、六つの短編+追加の短編が結婚式というハレの日の一大イベントの一場面一場面を丁寧に描写する様は、新郎新婦として経験した方も、その経験はなくとも参列したことはあるという方にも、まるで目の前にその光景が浮かび上がるかのようにリアルに描かれていきます。さらに、瀧羽さんと言えば「左京区七夕通東入ル」での京都の街並みの臨場感溢れる描写が印象的でした。この作品では、それを神戸の街で再現してくださいます。神戸の街を知る人も知らない人も、こんな場所で自分も式を挙げたい!神戸の魅力をたっぷり感じさせるこの作品、結婚式というもの自体に憧憬を持つ人には是非手にしていただきたい、そんな作品だと思いました。

    そんなこの作品は一方でその視点回しが今ひとつ腑に落ちない印象も受けます。
    花嫁→女友人A→花婿→女友人B→男友人X→男友人Y
    と視点が切り替わっていく物語は、そもそも上記した通り、女友人B=奈緒が登場する四つ目の短編で二次会まで終わってしまいます。花嫁=理香子が朝を迎える場面から始まった物語は、結婚式〜披露宴〜二次会という誰もが知るイメージの中に進んでいきます。その中では自然と読者の気持ちも高揚していきます。しかし、流石に二次会まで終わってしまうと、どこか物語も終わったような雰囲気を感じてきます。また、亮、章太郎という二人の男性に視点が移る二つの短編では、二人の人生の語りが中心となってしまって、結婚式の興奮もどこへやら、とどこか興醒めしてしまう、そんな雰囲気をどうしても感じてしまいます。そして、そのまま結末となる物語を読み終えた時、私の中に浮かんだのは、なんて尻すぼみな物語なんだろう!というこの作品への不満でした。同時に、最後を新郎=裕人とすれば良いだけなのにどうしてこんなおかしな視点回しをしたのか!と瀧羽さんにクレームをつけたくもなりました。それほどまでに前半の物語が素晴らしいものだったからです。しかし、不満やる方ない私は、その先にもう一つ物語が存在することに気付きました。それが、文庫本にのみ収録された〈あおい芝生、あかい花〉という短編でした。章太郎の妻に視点が移るというその物語は、花嫁花婿からさらに遠い人物を描く物語であり、最初のうちは不満がさらに募りました。それが、後半になって、次の一文で全ての思いがひっくりかえりました。

    『隣の芝生は、あおい。でも、自分の芝生も、きっとあおい』。

    そう、この作品は結婚式を迎えた新郎新婦だけが主人公の物語なんかじゃない。その場に集った様々な立場の人物たちの生き様、そのそれぞれに光を当てる物語。それが、瀧羽さんがこの作品で描こうとしたもの、そのことに気付きました。男性三人は、結婚の話の出ない亮、花婿の裕人、そして子供までいる章太郎。一方で女性四人は、結婚の話の出ない鈴子、結婚を決めきれない奈緒、花嫁の理香子、そして章太郎の妻・ゆかりと、それぞれの今の境遇は見事にバラバラです。しかし一方で、七人は全員が同い年であり、かつて大学時代に同じ時代を過ごした共通点を持つ者たちです。そんな彼らが歩んだ10年先には、かつて抱いた夢を未だ追い続けている者、夢が叶った者、そして夢の形が変わった者と、それぞれの未来が待っていました。10年という歳月は人の立場を、人の心を、そして人を取り巻く環境を大きく変化させるには十分すぎる時間です。そんな中では分岐点も数多く通過することになります。『なにが一番大事かは、そのときになってみればちゃんとわかるはず』という瞬間の到来。『そしてたぶん、決めてしまったその後は、信じるしかない』というそれぞれの人生。その中で大切なことは、

    『自分の芝生のあおさを、美しさを、ひたむきに信じる』ということ。

    『あのときもし雨が降らなかったら、もし別の肥料を試していたら、と思い悩むことに、意味なんてない』ということ。

    そう、それこそがこの作品で瀧羽さんが描こうとされた

    『隣の芝生は、あおい。でも、自分の芝生も、きっとあおい』。

    という考え方なんだ、そう思いました。そして、七人の登場人物がそれぞれに語った人生を思う中に、物語がストンと自分の中に落ちるのを感じました。

    『横並びだった六人は、今や皆さまざまな立場で、離れた土地で、それぞれの生活を送っている』という六人が、かつて同じ時代を同じ場所で過ごした仲間の結婚式で再会を果たす様を描いたこの作品。そこには、『学生時代と同じくひとりで暮らす者もいる。家族を持つようになった者もいる』とそれぞれの今を生きるそれぞれの人生を見ることができました。

    神戸の街の魅力と、結婚式の描写の魅力に思わず気持ちが高揚させられるこの作品。その先に続く未来をふわっと予感させながら場面を切っていく瀧羽さんの絶妙な筆致とともに、結婚式の一日の流れを物語の中に見事に落とし込んだとても素晴らしい作品だと思いました。

    • さてさてさん
      ゆうママさん、ごめんなさい。大変申し訳ありません。お名前を間違えてしまいました。
      大変失礼しました。私はキリスト教式でした。懐かしいです。
      ゆうママさん、ごめんなさい。大変申し訳ありません。お名前を間違えてしまいました。
      大変失礼しました。私はキリスト教式でした。懐かしいです。
      2021/11/10
    • アールグレイさん
      ハハハッ さてさてさんはりまのさんとコメントすることが多いのかなーと思いました。
      私にふさわしいホテル、風が強く吹いている。この2冊を超...
      ハハハッ さてさてさんはりまのさんとコメントすることが多いのかなーと思いました。
      私にふさわしいホテル、風が強く吹いている。この2冊を超える本、なかなかありませんね。この本はどうでしょう?
      good night★
      2021/11/10
    • さてさてさん
      ゆうママさん、本当に失礼しました。私にふさわしいホテルは今もって今年印象に残る一冊です。一年色んな作品を読んでくると結構忘れてしまっているの...
      ゆうママさん、本当に失礼しました。私にふさわしいホテルは今もって今年印象に残る一冊です。一年色んな作品を読んでくると結構忘れてしまっているのも多くて…。でも、あの作品はハッキリ残ってます。このはれのち、ブーケは強い印象というわけではないですが、結婚式の進行を小説に埋め込んでいるので結婚式を見ると反射的に思い出しそうです。
      ありがとうございます。
      2021/11/11
  • 瀧羽麻子さん七冊目。大学で同じゼミだった仲良し男女のグループ6人+そのうちの1人の奥さんの短編連作。キラキラしていて、映像化しても映えそうだと思った。
    主な舞台は6名の中にいたカップルの神戸での結婚式。30歳という節目の年齢を迎えたそれぞれの心境が描かれている。学生の頃は皆似通っていた境遇が、年齢とともに住む場所も、職業も、独身/結婚/子供の有無の状況も、違いが出てくるのは仕方ない。印象的だったのは「隣の芝生は青いけど、自分の芝生はもっと青い」という言葉。人はないものねだりをしがちだが、羨ましいと思った人の歩んできた道と全く同じ人生を歩めるのか、歩みたいか、と問われるとそれはどうかなと思う。世間一般の「幸せ」の価値観に振り回されることなく、自分の幸せや価値をいかに自覚し感謝できるかは本当に大事なことだと再認識した。
    それぞれが色々な思いを抱えているものの、こんな「ザ・青春」な時間を過ごしたゼミの仲間と卒業後も付き合いが続いているのは(部外者は入りづらいが苦笑)素敵だなと思った。

  • 結婚式を思い出した

  • 見てばっかりじゃ意味ないとわかってるのに、見てしまうのが隣の芝生。
    年齢的にもなんだかジャストな本だった。
    最後の章が、すき。

  • 最初は「それ程のめり込まないかな」と思いながら読んでいました。でも、読み進めるうちに、それぞれの人物が抱く想いに惹き込まれていきました。
    ふんわりと優しい読後感。

    ただ、文庫の解説の一言に違和感がありました。
    「章太郎の将来を変えてしまった」
    子どもを授かり、環境や将来設計に変更が生じるのは当然のこと。犯罪行為がない限り、男女どちらかが「変えてしまう」ことはないと思います。
    もう少し、小説に添った優しい言葉ならすんなり胸に届いたのになぁ…と思いました。

  • 久しぶりに読んだ少し若い恋愛小説

  • みーんな、誰もが抱える劣等感や羨望
    でもそれも含めて自分なんだって、
    今ある小さな自分なりの幸せに気づけるお話。

    結婚式というたったひとつの出来事なのに
    こんなにも人によって見方も感じ方も変わる。

    自分が持っている宝物には、
    人はなかなか気づけない。

  • やっと結婚式をあげた理香子と裕人。
    仕事をバリバリこなす亮と鈴子。
    予期せぬタイミングで家庭を持った章太郎。

    理香子がプロポーズされる場面では、なぜかわからないけど涙がでた。
    なかなか、ちょうど良いタイミングっていうのは仕事も結婚も難しいんだろうなあ

  • 大学のゼミ仲間6人。
    その中の10年来の恋人ひと組が
    ようやく挙げた結婚式。

    でもお互いが渋々でもなくて
    結婚するならこの人しかいないと
    ずっと心に決めていて。

    それでも結婚に至るまでに
    10年の歳月が二人には必要不可欠で。

    この結婚式を挙げた新郎新婦と
    かつてのゼミ仲間の男女4人。
    その中の一人と結婚した女性がひとり。

    この結婚式を境に
    それぞれがそれぞれの視点で
    自分のこと パートナーのこと
    家族のこと 来し方行く末のことを
    じっくりと見据えてゆく。

    ある者は 前進を決断し
    ある者は 現在の自分を肯定し
    ある者は それでも動けずにいる。

    ひとりひとりの個性も話す言葉も
    すっきりと腑に落ちる。
    自分に当てはまることなど少ないけれど
    それでもこの人たちの悩みや考え方に
    ほんのりと共感できてしまう。

    そうして思った。

    人は自分がどんなやつかを分かった上で
    それを分かってくれる人のそばにいたいと願う。
    自分がどんなやつかを分かっているのに
    離れずに寄り添ってくれる人を
    生涯の友人として選び選ばれる。

    夫婦もそうなのだろう。

    この物語に集う男や女たちからは
    気取りも気負いも感じない。
    生きていれば無理もないと思える頑張りや
    自分ですら気づいていない素敵な優しさを
    みんなが内側に持っている。

    誰が読んだとしても きっと
    自分がたどってきた足取りを
    間違いなかったと信じさせてくれる物語。

    読後には 傍らにいる人に優しくなれそう。

  • 瀧羽麻子作品、3冊目。
    大学時代の友人の結婚式の一日をベースに、それぞれの想いを綴った連作短編。
    章ごとに主人公が変わります。

    面白かったのですが、なんだろう…あまりに今の自分とオーバーラップすることが多くて、感想を書くのが躊躇われました(苦笑)。
    ちょうど同じ年代で、結婚を意識し始めた頃だったので、この中の特定の誰に、というわけではないのですが、それぞれの想いの中で共感できる部分がありました。
    最後の章太郎の妻、ゆかりの話『あおい芝生、あかい花』は文庫版だけに収録されている作品のようですが、この作品もあって良かったです。
    私は結婚せずに仕事を続けているタイプですが、結婚してたら…あるいはこの先結婚したらどうだろう…と思うことがあります。
    だから、結婚をしているゆかりの想いも一緒に読めて良かったです。
    「隣の芝生は、あおい」というのは、そうなんですよね、きっと。

    今はあまり客観的に読めないのですが、少し年を取ったら、また違う感想を持つのかな、と思いました。

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著者プロフィール

1981年、兵庫県生まれ。京都大学卒業。2007年、『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。
著書に『ふたり姉妹』(祥伝社文庫)のほか、『ありえないほどうるさいオルゴール店』『女神のサラダ』『もどかしいほど静かなオルゴール店』『博士の長靴』『ひこぼしをみあげて』など多数。

「2023年 『あなたのご希望の条件は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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