- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784408552934
感想・レビュー・書評
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『どうして作家になろうと思ったのですか』という問いに、『作家になろうと思ったことはぜんぜんなかった。ただ猛然と小説を書きたくなっただけだ。ホルモンのせいです、としかいいようがない』という宮下奈都さん。『この本はホルモンから生まれたパクチーのようなものではないかと自分では思っている』、と独特な表現で説明されるこの作品は、
掌編小説 6編
自作品の解説 11編
他者作品の解説 6編
書評・映画評・CD評 22編
エッセイ 43編
アンケート 7問
ととても盛りだくさんな内容から構成されています。宮下さんは37歳でデビューされたこともあって出版されている作品の数が少ないため、掌編小説が6編も収録されていることにとても魅力を感じて手にしたのがこの作品です。読み始めると掌編小説はもちろんのこと、宮下さんならではのメモしたくなる言葉がそこかしこに散りばめられていて、とても読み応えを感じる読書になりました。
まずは目的だった掌編小説。6編収録されていますが、うち二つが絶品でした。まず一つ目。〈サンタクロースの息子〉。『ある日、何の前触れもなく夫が言った。「俺、サンタクロースになることにした」』という読者をいきなり置いてけぼりにするような書き出し。『息子はまだ五歳だ。私のことはともかく、この子を残して何も今サンタクロースにならなくても』と第一人称の妻までもが『サンタクロース』前提に話を続ける展開。そんな妻は『ねえ、あなたは日本人だし、痩せているし、髭も薄いし、どちらかというと色も黒いでしょう?』と『夫の背中に向かって話しかけ』ます。しかし、『もう決めたことだから』と短く言い放つ夫は『運命だ。最初から俺はサンタクロースになるべくして生まれ、この期を迎えて役目を悟った。立派なサンタクロースになることこそが俺の人生の意義になる』と至極真面目にストーリーは進みます。そして『翌日、夫は会社を辞めてきた』、さらには『大きなボストンバッグを出してきて荷造りを始めた』と『サンタクロースになる』という運命に向かって歩みを進めていく夫、そして…、と展開するこの掌編。短くまとめたストーリーの中に印象的な伏線を張り、そしてファンタジー要素を織り込みながら、最後に美しい伏線の回収による感動的な結末へと導いてくれました。掌編という尺を上手く活かした逸品だと思いました。
二つ目は〈花は環(めぐ)る〉。この掌編では、全編に渡って『白木蓮』を象徴として描画しながら展開していきます。そして主人公に『高校の同窓会』からの案内が届きます。『久しぶり。同窓会、帰ってくるでしょ?』と、『学校が終わると図書館へ通った。いつもふたりで並んですわって、問題集を解いた』というかつての友人からも電話がかかってきて…というストーリー。この作品は『福井県立高志高等学校同窓会誌「みどり葉」』という出典の記載から宮下さんが卒業した母校の同窓会誌に寄稿したものだということがわかります。こんな素晴らしい作品を読むことができる同窓会誌って、あまりに贅沢です。とても羨ましくなると同時に、本来部外者として読めなかったはずの作品を読む機会が得られたことに感謝したいと思いました。
また、書評では、私の大好きな辻村深月さんの「水底フェスタ」について宮下さんの視点での分析に感銘を受けました。『この小説の何がすごいかといったら、顔だ。登場人物たちの顔が目の前にはっきりと浮かぶ、その鮮やかさに息を呑む』。えっ!と思いました。『ひとりの少年がさまざまなことを知っていく物語でもある。知ってしまえは、もう元には戻れない』と続ける宮下さん。読み終えて、とても納得感のあるその書評に魅了されるとともに、先月書いた自身のレビューを読み直してみて、その読み込みの浅さと、レビューの改善の余地がまだまだあることにも気づきました。小説を読む、そしてレビューを書くという毎日の中で、私が常々目標としている『この本を読んでみたい!』と読んでくださった方に思ってもらえるレビューを書くための幾つかのヒントをいただいたように思います。
そして、43編もあるエッセイですが、そこかしこにキラキラと輝く表現が登場します。そんな中、宮下さんが考える自身のお子さんへの接し方に関してこんな記述がありました。何かと面倒ごとを後回しにしがちな自分について書かれる宮下さん。でも、『こどもたちに関してだけは、後まわしにしない』とはっきり書かれます。『後まわしにはしない。こどもには今しかないと思うからだ。今、お腹が空いていて、今、話を聞いてほしくて、今、ぎゅっと抱きしめられたくて。今を逃したら、次はない。肝に銘じている』と書かれる宮下さん。子育てに関しての真っ直ぐなお考えを垣間見た気がしました。
『次に書く小説がいちかばんいい小説になる、と信じて作家は書く。今が、そしてこれからがいちばんいいときだと信じて人は生きる。そうじゃなきゃ、つらい』と書かれる宮下さん。6編の掌編はもとより、書評、エッセイと、予想を遥かに超えて、とても盛りだくさんな内容を楽しませていただきました。『小説というのは、わからないことに言葉で挑むことだとわたしは思っている』、そして『「わからない」は「わかりたい」につながっていく。わかろうと思う気持ちには馬力がある』という宮下さん。『いい小説には答ではなく、問いがある。読んで「わかった!」と爽快になってもらうことより、「よけいわからなくなった」と考え込んでもらうことを目指したい』というそんな宮下さんの作品を、急がず慌てず、ひとつひとつ大切に読んでいきたい、そんな風に感じさせてくれる、魅力満載の作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
寄り添い、背中をそっと押してくれるような文章が好き。
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著者の魅力がたっぷり詰まったエッセイ集。家族とのほっこりエピソードにクスりとさせられ、年代が近いこともあって、そうそう! と思わされることも多々あり楽しく読めた。本の紹介や他作家の書評は積ん読が増えること間違いなし!
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宮下奈都の文章を読むと、どろどろしていた心にすっと風が吹くような感じがする。
理由はわからないけど、なんでか本当に何もしたくないときに読み始めた。本当は本も読みたくなかったのに、することがなく、本を読む以外に時間を潰せなかった。
そんな時こそ宮下奈都だろうと思って、無理矢理文章を追い始めた。最初のホルモンの話からどんぴしゃだった。
そういう気持ちになる事るよねえ、と共感したり、ふふっと笑ったりするうちに、あっという間に1つ目のエッセイを読み終わった。
もう、やる気がないことは忘れていた。
宮下奈都の文章はきれいな文章だと思う。そして、優しさが詰まっていると思う。
だから、読んでいるうちに心が洗われ、優しさに満ち、明日からなんとなく頑張っていこうと思えるのだ。
神さまたちの遊ぶ庭も読み直したいな。
また、宮下奈都は本の紹介がうますぎる。読みたいリストに何冊追加されたかわからない。
メモを起こして感想を書き直している1ヶ月後の今もまた本を読みたいなぁと思わせてくれるからすごいと思う。
結局、何が言いたいかって、宮下奈都の文章がとてもすきです。
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エッセイの間に差し込まれる掌編「サンタクロースの息子」が良かった。
その世界に関する説明がなく、色々と想像を膨らませられるところが好き。 -
羊と鋼の森に続く宮下奈都さん2冊目。
人生初のエッセイ本。
なんというか一瞬で宮下奈都さんのことが好きになりそうな本。
物事に対する感じ方とそれを表現する言い回し。
それがすっと心に染み渡る。
本当に読書のことが好きで、小説家という仕事に対して、丁寧に誠実にまっすぐに取り組んでこられたんだなとわかる1冊でした。
本書内で紹介されてるほかの小説も沢山読んでみたくなりましたo(。>∀<。)o
「うちは国宝」がパワーワードすぎてめちゃくちゃ笑いました
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良かった。こどもたちとの日々の暮らしとか、小説や音楽に対する気持ちとか。風呂に入らず本を読むっていうのはすごいな、と。とっても普通な感覚を大事にしている人だと思うのだけど、やはりそこは小説家で、独特の感性も持っている。紹介されている小説は読みたくなってしまう。
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作者のエッセイ、小説、書評、自著解説が詰め込まれた贅沢な文庫版。
個性豊かな3人の子どもの行動や言葉にそれでいいんだよとやさしく見守る姿が印象的。
そして読みたい本がさらに増えた。 -
掌編が全部よかった、特に「オムライス」「花は還る」
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宮下さんの言葉って心にじんわり優しく染みてくる。強く鼓舞してくれるわけでもないんだけど、優しく背中を押してくれる感じ。
あぁ、これでいいんだなって、自分の生き方に納得できる気持ちになる。 -
エッセイ集だけど、掌編小説がおさめられていて、良かった。
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羊と鋼の森を読んで、この人が好きになったけどそれからこの人の本を読んでなかった。今回2冊目だけど、ここんとこの読書意欲の低下もあって中断してしまいました。
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今までさまざな媒体で綴られてきたエッセイが、一冊にまとめられているほかに、これまで上梓された著者自身の小説やエッセイ集、一冊一冊に対するコメントや、他の作家の小説の感想なども所収されている。
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エッセイは、書き手のプライベートな部分が垣間見れるようで楽しい。子ども時代から学生、就活、結婚、引っ越し、子育て・・・。世界観は小説と同じで優しくほほえましく楽しい。
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2019.4月。
宮下さんがお子さんのことを書いた文章が好き。家族みんな個性はバラバラだけど、それぞれが楽しそうに己の道を進んでいそうで。のびのびおおらかな雰囲気の宮下さんのエッセイは、読んでいるこちらも気持ちよくなるのです。
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大好きな本や音楽、そして愛しい三人の子どもたちと共にある暮らしを紡いだ、著者初のエッセイ集。
私と同じ1967年生まれということで、共感できる話題が多い。『ノストラダムスの大予言』により、32歳で死んでしまうと達観したのも同じである。それでも今、家族ができて細やかながら幸せを感じながら生きる毎日の尊さは、あの頃知った『ノストラダムスの大予言』のおかげかもしれない。