“呼びかけ”の経験 サルトルのモラル論

  • 人文書院 (2002年5月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (290ページ) / ISBN・EAN: 9784409040577

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  • 一時代を画した思想家や作家がいる。それだけに、時代が変われば見向きもされなくなる運命を持つ。当人には何の責任もない。問題の所在は、さかんに持ち上げ、やがて忘れてしまう此方にある。サルトルもその一人である。いや、そう言っては語弊があろう。没後も、数多のテクストが出版され、今でも研究者による研究が続いているのだから。しかし、世間は忘れっぽいものだ。なぜ今、サルトルなのか。その問いに答えようとしてこの本は書かれたとも言える。

    実存主義といえば、映画の中で黒いタートルネックを着たオードリー・ヘップバーンが小難しい科白を吐いて見せるほど一世を風靡した思想であった。サルトルは、その思想というか生き方を実践した思想家であり小説の実作者でもあり戯曲家でもあるという今でいうマルチタレントとして世界を席巻していた。「人間とは人間の未来である。」という言葉に象徴される前向きの発言やアンガジュマンとして知られる政治や社会への積極的な参加の表明は、新しい国家社会を創りあげていこうという戦後日本の思想界に強い影響力を持った。

    半世紀を過ぎ、最早戦後ではないと言われる日本に限らず、ソヴィエト連邦の崩壊に象徴されるマルクシズムの失敗は世界を新しい段階に移行させた。思想潮流としては、構造主義の出現が「人間の死」を標榜して以来、実存主義はすでに過去の遺物と成り果てたかに見える。かつて、マルクスは「哲学者は世界を解釈する。しかし大事なのは世界を変革することだ」という意味の名言を吐いた。世界は確かになしくずし的に変化したが、マルクスに限らずこの変化をよしとする者はいないだろう。人間は人間の未来のために何を為したのか。その問いに答えられる者はいない。

    自由、平等、友愛というのはフランス革命のみならず人類の普遍的な価値観と思われるが、自由であろうとすれば、平等でなくなり、平等であろうとすれば自由でなくなるというディレンマの中で、世界は友愛とは程遠いシステムをつくり上げてしまった。副題に「サルトルのモラル論」とある。今ほど、人間の生き方、倫理観を問われる時代はない。

    記号論、構造主義を経過した著者は、「呼びかけ」「贈与」という概念を鍵語に、サルトルをテクストとして読んでいく。特に、『嘔吐』を、ロビンソン・クルーソ-の物語やデカルトの『方法序説』と結び付けて読む方法は、かつてのサルトル論にない新しい読みの試みとして興味深い。ハイデッガーやレヴィナスを引きながら、著者が見つけたサルトルのモラルとは単純化を恐れずに言うなら、「共同体」を超えた未知なる「公共性」に向けて、パロールでなくエクリチュールを武器としつつ読者と作者の共同作業の果てに現出する可能性としてある、とは言えないだろうか。

    大文字の世界は、「自分と関わりなく」現実として存在する。しかし、本当に関わりがないのかどうかは疑問だ。世界は可塑的な存在である。我々がどう生きるかによって世界は変わる。変わった挙句が、構造的に何の変化もないということもあるかもしれない。だから何をしても無駄だというのも一つの思想的立場だろう。自分を離れて、遠いところから見るのでなく、世界の中にいて、何かをなし得る存在として自分を実感できる人に読んでほしい。

  • コミニケーションなんだよ。

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