音羽幼女殺害事件: 山田みつ子の心の闇

著者 :
  • 青春出版社
3.42
  • (3)
  • (3)
  • (12)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 53
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784413033060

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1999年に起きた幼女の殺人事件。加害者は同じ幼稚園に通う子供の母親で、被害者の母親とは「ママ友」であった。普通の主婦が家族づきあいをする幼女を殺害、死体をバッグに詰めて新幹線に乗り、地中に埋める。そして、自首した加害者が、なぜ殺害に及んだのかがわからないと語る。なんとも不気味な事件として報道されていたことを覚えている。

    被害者家族のいじめが事件の発端になったとか、加害者は小学生受験戦争社会の被害者だという意見もあった。

    本書は本事件の全15回の裁判を通して、加害者、山田みつ子の殺害動機に迫ろうとするドキュメンタリー小説。

    今の時代ならば、山田みつ子の過去を並べると、PTSDとか、うつ病、発達障害など何らかの精神障害と結論付けられるだろう。それくらい不安定な人生を送っている。

    そしてこの人の最大の不幸は、運良く夫と知り合い、結婚し、出産してしまったことだと思う。まともで、一般的で、幸せな人生を送る常識が欠けていたし、その修復ができないまま成長してしまった。夫に「私が犯罪者になったら、どうする?」なんて問うのは、まともな精神じゃないだろう。

    この人のそばに偶然、存在してしまった被害者家族には同情するしかない。

  • 夫が家庭に無関心のわりに逮捕するときだけ親身になってて変なの。新聞もとらせないカーテンもつけない細かい家庭、さらに孤立した人間関係。みつ子のしたことに同情の余地はないけど育った家庭や周りの人にも恵まれなかったな。筆者があまり文章に色をつけずに読み手側に委ねているようなところがよかった。

  • フィクションである森に眠る魚を読み、ノンフィクション作品を手に取る。
    こちらのほうが事実に即しているが、当事者や周辺事情などは闇の中。

  • この事件についてほとんどなにも知らなかった私は、お受験失敗による嫉妬が原因で相手の子を殺めたのだろうと勝手に推測していたが、そんな簡単な話ではない。過ちを犯した女性の生い立ちや、そのなかで形成された完璧主義で周囲に過剰適応する性格、夫やその職場との関係など、様々な事柄が複雑に絡み合って起きたことだった。なんの罪もない幼い子を殺した事実はいかなる理由があっても許されないが、しかし夫に胸の内も明かせず、無趣味で、ただ母親として狭い世界に生きていた彼女には同情を禁じ得ない。

    以下最終陳述からの引用

    私は法廷で、事実としてあったことを話しました。相手が悪いように話したのではなく、私の受け止めかた、心のありようを語ったのです。とても狭い世界で、狭い視野で生活したため、春奈ちゃんのお母さまに、こだわりが生じたのだと思います。

  • 当時のワイドショーや電車の中吊りで「お受験」が事件の発端になったのだとばかり思っていたけど、ちょっと違ったんですね。
    同じく「『ママ友』の難しさ」も当時事件の糸口とあげられていたけど、本書を読んでそれもしっくりこない気がしました。
    何かと思いつめがちな加害者の性格や夫(やその職場)との関係なんかも知ると「○○が原因」「○○が引き金」と簡単には言い表せないと思いました。
    加害者にしかわからない、というか加害者にもハッキリわからないモヤモヤした感情が潜んでいるように感じます。

  • ママ友怖い

  • 佐木さんの本を読んでいる今日この頃。
    読んでいて暗くなるわけですが、「お受験」などの状況って当時とほとんど変わっていないような気がする(むしろ加速しているのか?)
    もちろん、それはこの事件の一面にすぎないわけだけど…。

  •  現在放映中のドラマ、「名前を忘れた女神」を見ていると、この事件を思い出さずにはおれない。それから気になって気になって、探して見つけた。佐木隆三でしたか。ひさしぶり。
     お受験がらみだの、ママ友同士の確執だのと、当時、ワイドショウで騒がれていた。傍聴にも長蛇の列だったようだ。裁判はさくさく進み、あっという間に判決が下りたと記憶する。犯行の動機について、あくまでくちをつぐんだ容疑者は、その後どうなったんだろう。
     子をはさんでの母親同士には、大同小異、互いのココロを乱すには充分な、ねたみそねみ嫉妬がつきまといがちである。それは、時に恐るべし化け物じみた変化を見せるものなのだろう。本当に、いやなものだ。おとこにゃあ、わかるまい。
     とはいえ、どうあっても、幼い子を殺害する理由にも、言い訳にもならない。弱きものに手をかけるとは、いかようなる理由があっても、許されるものではない。しかし母親であるならば、誰しもが、ママ友関係において、「一瞬の殺意」を当たり前にもつわけで、わたしだってあるし。
     でも、「殺したい」から「殺す」にいたるまで、何重もの倫理のプロテクトに阻まれているはずなのに、それを壊してまで罪をおかす心理状態って、いったいどうなんだろう。

     丁寧に丁寧に、手繰っている。
     時に、手を合わせつつ、祈りながら読んでいる。

     そして、読了。
     意外や、報道で知るほどに「黙秘」でもなく、たまっているものを全部吐き出していた。ただ、動機については当人も「わからない」。
     お受験がらみのみならず、知られざる事実がたくさん登場した。
     摂食障害、実家の複雑な家庭での生育歴、自殺念慮、自殺未遂、さまざま。強迫性の、精神症状がかなり強く出ているが、かといって、殺害シュミレーションは周到、計画性ありあり。まるで、夢のできごとのように、殺害へ吸い寄せられていく。明確な意識的殺意、というより、無意識にあやつられたかのような印象。
     また、よきデキたオットかと思っていた僧侶、なんてことない、おんなを家事ロボットとみなすただのオトコ風情。冷静すぎる、というより、感情がないのか、思うほど取りみだしがない。それを「悟り」というには、ちょっとちがうというか、説明がつかないかんじ。
     だが、殺人をおかした妻と対峙して、はじめて己が生業にめざめたのか。自首を促すまでの数時間が、この夫婦にとって、最良の共有しえた時間だったのだろうか。
     その後がやけに、気になるふたりだ。

      

  • またいつものユミさんのところで見掛けて予約した本です。


    当時とても話題になり、ワイドショーでも長い時間取り上げられた事件で、私も興味深く見ていました。まさかお付き合いのあるお母さんが犯人だったとは!とかなりの衝撃でした。


    でもテレビで取り上げられなくなると、全然分からなくなってしまうので、忘れてしまって、結局どうなったの?と思っていたのです。この本では判決までが書かれてあります。





    本当はどうなんだろう。本を読んでいくとその気持ちがどんどん大きくなってしまいました。犯人の言っていることは全て被害者のお母さんが否定しています。でもそれが全て真実ではないんじゃないかとも思ってしまうんですよね。


    確かにかなり曲解されてるとは思います。言ってもないことを言ったと証言していることも事実かもしれない。だけど、ここまで犯人が思うまでにはそれなりの言動があったんじゃないかと思ってしまう。





    子供を通じての親同士の付き合いって本当に難しいんだと改めて考えさせられました。


    そして私は大丈夫かなと考えずにはいられない。どちらの立場にもなる可能性があると思うから怖いです。


    でも私は大丈夫でしょうと思うけれど。





    他の事件についても本を出されているので予約してみます。

  • 1999年に起きた2歳の春奈ちゃんが殺害された事件の裁判記録。山田みつ子被告の異常な被害者の母に対する嫌悪感と、相談できる相手のいなかった寂しい日々が明かされています。もし、誰かが山田みつ子の話に親身になっていれば起こる事のなかった事件だと思います。殺された春奈ちゃんがかわいそうで、言うに言われぬ気持ちになりました。

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1937年4月15日朝鮮咸鏡北道穏城郡訓戒面豊舞洞167番地で生まれる。
1941年12月末朝鮮から関釜連絡船で広島県高田郡小田村へ帰国。
1950年6月広島県高田郡小田村中学校から八幡市立花尾中学校へ編入。
1956年4月福岡県立八幡中央高校を卒業して八幡製鉄所入社。
1963年5月「ジャンケンポン協定」で第3回日本文学賞を受賞。
1976年2月「復讐するは我にあり」で第74回直木賞を受賞。
1991年6月「身分帳」で第2回伊藤整文学賞を受賞。
2006年11月北九州市立文学館の初代館長に就任。

「2011年 『昭和二十年八さいの日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐木隆三の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×