マヤ文字解読

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  • Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422202266

作品紹介・あらすじ

4冊の絵文書、1000年の沈黙を守る石碑の記号、450年前、スペイン人神父が書き残した謎めいた手稿…わずかな手がかりから、いったいだれが古代マヤの暗号を読み解くのか。

感想・レビュー・書評

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  • 読解法が失われてしまっていた一つの文字体系を解読するというプロセスが、これほど面白いものだとは想像していなかった。

    古代文字の解読はパズルのようなもので、そのプロセスは暗号解読のような天才の直感と数学的な推論によって進んでいく世界であると考えていた。しかし、この本に語られていたマヤ文字解読の歴史は、もっと幅の広い知的な取組みであり、またそこに生まれる人間関係のドラマも含めて、様々なことを考えさせられた。

    マヤ文字の解読は、エジプト文明のヒエログリフやメソポタミア文明の楔形文字などと比べて、時間がかかった。その背景にはいろいろな要因があったようである。

    まず、ヒエログリフの解読に決定的な役割を果たしたロゼッタ・ストーンのような、他の文字体系と比較できる充実した使用例の史料がなかった。そのため、解読の初期段階では、石碑にマヤ文字とともに描かれている絵の内容や、現在も残っているマヤ言語の発音から、数字(日付)や単語の発音を頼りに読みを推測するといった手探りのプロセスが続いた。

    もう一つ、マヤ文字の解読の複雑さを増した要因として、その文字体系がある。マヤ文字は、アルファベットやひらがなのような表音文字と漢字のような表語文字(かつて表意文字と呼ばれていたもの)を両方とも含む文字体系である。

    そのため、アルファベットが解読できれば少なくとも音のレベルでは読むことができるというものではなかった。

    表語文字の作り方は、音を表す部分と意味を表す限定符の組合せという、漢字におけるつくりと部首の関係のような構造を持っている。ここでも、石碑の絵の意味と文字の表す意味を照らし合わせたりしながら、その意味を探り当てる作業が進められていった。

    これらのことから、マヤ文字を解読するというプロセスは文字の並びをパターン分けしながら可能性のある単語に当てはめていくというようなパズルのような作業にはとどまらず、マヤ言語の発音や構文、マヤの歴史や習俗に関する知識も含めた、言語学や民族学などの幅広い知識が活用されて達成された。

    本書を読んでいてもっとも興味深かったのは、このような様々な知の体系が混ざり合いながら解読が進んでいったプロセスである。

    一方で、多くの学問の世界にあることではあるが、研究者自身の固定観念や偏見、党派争いなどがマヤ文字解読の研究の歩みを遅らせ、しばしば長期間の停滞を生み出した様子も、赤裸々に描かれている。

    例えば、当初、多くの学者は、マヤ文字によって書かれているのは宗教儀式の内容であり、歴史や日々の生活の記録などは含まれていないと考えていた。これは、マヤ文明の広がりを非常に狭く捉える考え方で、様々な史料の解釈に影響を与えてしまっていた。

    また、碑文学者は言語学的な知識やマヤ言語の習得を軽んじた時期が長く、それによって文章の構造や内容の把握、表語文字の中にある意味と発音の分析がなかなか進められなかった。

    さらに、文字体系は絵文字から象形文字・表語文字を経て表音文字へと抽象化の方向へ発展するという考え方、そしてマヤ文字は表語文字の段階にとどまっており表音的な要素はないという思い込みが、表音文字と表語文字の組合せという文字体系への理解を大きく遅らせた時期もあった。

    これらの解読の歴史をみると、科学の発展の歴史だけでなく、異文化理解といった意味でも、われわれの知識の幅や偏見の有無がどれほど大きな影響を与えるのかということを感じざるを得ない。

    言語の体系は世界中にたくさんの種類があり、文字の体系もまた非常に多様である。そしてその中には相互に直接的に影響を与えたわけではなくても、類似性のある体系を発展させてきた事例もある。

    マヤ文字の解読に貢献した学者のうちの少なくない人たちが、他の言語、特に中国語の表記(漢字)などに関する知識を持っていたというのは、非常に興味深い事実である。専門分化だけではなく相互参照のプロセスが、知的活動には非常に重要だということを感じさせられた。

    最後に、本書の流れの中では余談的な事柄ではあるが、マヤ文字の文字体系の説明に、日本語の表記の方法が頻繁に登場したのは、とても印象に残った。マヤ文字は表音文字と表語文字を併用しているだけでなく、表音文字も子音と母音がセットになった音の単位ごとに作られており、アルファベットよりもひらがなに近い表記法になっているなど、日本語の表記ととても近いということにも驚かされた。

    なぜ日本語は、表音文字だけでも表記できるにも関わらず、学習に時間がかかる複雑な表語文字の体系を捨てず、それらを併用するというより複雑に見える文字体系を維持、発展させて来たのかというのは、改めて考えてみると興味深い謎である。そして、相互に全く接触がなかったマヤ文明でもこのような文字体系が使われていたということを知ることができたのも、本書を読んでのうれしい収穫だった。

  • 未解読のマヤ文字を解読するまでの道のりは色々な人が少しずつ正解を手繰り寄せていくものでした。

    碑文等が出てきて、それを正確に模写したりと、今なら性能の良いカメラがありますが、昔は大変だったろうなとしみじみ思いました。

    同じく解読を目指していても、立場や考えの違いから対立してしまうのは仕方ないのでしょうね。
    もちろん、協力して解読をしている方々も出てきます。

    反対の説を唱える学者がその道の権威だと、その方の功績ゆえに、新しい学説は受け入れられず、解読が進まないとか、人間関係が大変そうでした。

    絵柄にしか見えない文字を解読した方々は本当にすごい。

  • ふむ

  • とにかく装幀がカッコいい。
    カバージャケット(表紙だけでなく裏表紙も!)のみならず本体表紙もレリーフのようなエンボス加工。
    まるで石板。ちょっと重いけど、それも”らしい”

    日本語が漢字仮名混じりで書くように、マヤ文字も表意表音が混じってた。
    それを絵解きするのに世界中のたくさんの学者が現れては喧々諤々。
    以前読んだビタミンC発見に関する本でもそうでしたが、誰か一人の説が全部正しかったわけでなく、一部は正しいものの、誤った道へと迷い込み、帰ってこなかった人多数。間違っていても当時の権威の主張が主流で、黙殺・批判されることも歴史のお決まり。
    それぞれ正しいことを言っているのに、他人を誤りだと批判しちゃいかんよという、インドの盲人たちと象の話を思い出しました。
    それにしても一筋縄ではいかないこの文字解読を、母国・母語ではない人たちがぐいぐい進めていくのは凄いな。(何故かマヤ文明があったメキシコが力をいれないばかりか外国人締め出してたらしい)

    Cover & Jacket Illustrations : Front, Back-Cortesy of Ian Graham. Spine-Cortesy of John Montgomery.
    原題 / "BREAKING THE MAYA CODE"(1992)

  • マヤ文字はどうやって解読されたか、マヤ文字解読の研究史。
    言語学の知識がさっぱりないので、言語学の話になると何を言ってるのかさっぱりわからなかったが、研究の進め方や研究者の人となりについつ面白く読めた。

    ヒエログリフもそうなんだけど、あの絵文字を読もうと挑戦しようという気になるだけでも尊敬する。

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