『ゼクシィ』のメディア史 花嫁たちのプラットフォーム

  • 創元社 (2023年4月5日発売)
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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784422210216

作品紹介・あらすじ

圧倒的な情報量と存在感から抜群の知名度と影響力を誇る結婚情報誌『ゼクシィ』。
デジタル社会、雑誌不況といわれる現在においても紙の雑誌が売れ続け、「ゼクシィ=結婚」という記号を成立させるほどの社会的認知度を獲得し、コロナ禍による不況を経た後もブライダル業界から絶対的信頼を寄せられている。『ゼクシィ』は、いかにして「結婚式のバイブル」となったのか。
そして、誌上で描かれる「花嫁」のイメージはどのように変化してきたのか。

業界では常に「ひとり勝ち」といわれる『ゼクシィ』の絶対的地位を支える「ゼクシィ神話」成立の秘密と、恋愛情報雑誌としてスタートした『ゼクシィ』がブライダル情報に特化し、幾多の可能性のなかから花嫁たちをそれぞれの結婚式へと送り出す「プラットフォーム型雑誌」になるまでのメディア史を、同類他誌や地方版、海外版、ウェブサイトなどと比較しながら多角的に分析する。

感想・レビュー・書評

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  • おもしろかったのは30代以上の未婚女性を読者層に設定した大人ゼクシィに関する章。
    晩婚化が進んでいるデータを出しつつ、20代を想定している本誌よりも明確に広告量は少なく、そのぶん編集者による記事が多くなり読み物としての性格が強くなっているとのこと。

    表向きは晩婚化を示しつつも、ブライダル産業から「晩婚化は幻想であり30代女性は初婚のボリュームゾーンではない(金を落とさない)」と冷酷かつ合理的な判断を下されているのは、そこに広告を出す側も経営である以上はしかたないのだが、当然ながら大人ゼクシィは紙面でそんなことを匂わせるわけにはいかない。

    結果、大人ゼクシィは読者に幻想を提供する道を選ぶ。本誌を読むような若い女性に対する、大人としてのインセンティブを与えようとするのである。金銭的にも内面的にも余裕があり、男性の補助を必要としない自立した社会人で、それでいて自分の主役意識を抑えることができまわりへの配慮が行き届く、大人の女性。

    しかし、大人の女性に対する規範を提示するかのような幻想は失敗する。30代以上の未婚女性に向けられる社会からの抑圧的な視線があり、その抑圧をポジティブに読み替える内容だったのだろうが、規範的すぎたのであろうし、帰納的に抑圧的な視線を意識させてしまう。実際にはそのような立派な大人ばかりではない。金にも心にも余裕がなく自意識過大な大人などいくらでもいるのである。

    現在、大人ゼクシィの牙城はゼクシィnetというwebサービスにしかないそうである。そこでは社会的な規範を強調する記事は激減し、ファッションや挙式スタイルにおける大人らしさ、いわば表層的な規範を提示するようになる。若者らしいか大人らしいかの違いだけで、本誌とおなじ方向性に落ち着く。

    ゼクシィは恋愛に関する雑誌として産まれているが、そのあとは広く知られているように結婚情報を扱うことになる。そして、ブライダル広告を大量に載せる、結婚を予定している花嫁の実用的な雑誌となる。ちなみに当然のように「花嫁」と書いているのは、細かい変遷はあるとはいえ、基本的にゼクシィは読者に花婿を想定していないからである。花婿は花嫁の消費行動を阻害する要因と考えられているとのこと。

    ゼクシィの歴史は、伝統的な結婚観と併走し実用性を保持しつつ、(品のない言い方になるが)幸福さを感じさせながらも金になる価値観を提示し、現実と理想を絶妙な塩梅で女性たちに提示しつづけていた。
    そして大人ゼクシィの失敗は火を見るよりも明らかである。ゼクシィが読者に与える現実も理想も、結婚によって手に入るという前提があり、大人ゼクシィの読者にその前提はなかったからである。ゼクシィは結婚による現実を巧妙に神話化しながら理想を提示する。

    本書は博士論文が元になっている。ジェンダーや結婚に関する文章はいくらでもあるが、ひとつの雑誌の分析というニッチなテーマからそれらを炙り出す作業は新鮮だった。
    著者は中国人であり、論文は京大でのもの。ゼクシィを研究テーマに選ぶことを指導教員に伝えた際は「おもしろいじゃない」と言われたそうだが、たしかに目のつけどころが良かった。著者の細かな略歴も気になるところだが、今後も楽しみ。

  • 「『ゼクシィ』は結婚式を現実から乖離させ、非日常的なセレモニーを徹底させる装置なのである」(P309)
    実に面白い。
    ゼクシィとは何か、なぜ結婚式のバイブルまで上り詰められたのか、なぜ紙の雑誌が生き残れているのか。少しでも興味のある方、手に取って読もう。
    普通の書籍と考えると異常に多い注釈も、もと卒論からの派生本と改めて意識させてくれる(著者は中国人の方。日本人の意識をここまで理解できことを賞賛したい)
    やっぱ結婚はリアルであってネット情報だけでは物足りないんだなと気づかさせてくれました。

  • ふむ

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/790766

  • 登録番号:142222、請求記号:385.4/H81

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著者プロフィール

彭永成(ほう・えいせい、Peng Yongcheng)
1993年、
中国湖南省生まれ、『ゼクシィ』と同い年。2015年武漢大学新聞と伝播学部卒業。湖南衛視テレビ局の実習ディレクターや地元の外国語高校の日本語教師を経て、2017年4月京都大学教育学研究科に入学し、2022年3月博士号(教育学)を取得。2023年4月から桃山学院大学社会学部講師。
論文:「『ゼクシィ』における理想的な結婚イメージの創出-結婚情報誌からブライダル情報誌へ」(『マス・コミュニケーション研究』第97号)「ブライダル情報誌から見る30代花嫁の理想像の構築――「大人ゼクシィ」の分析を中心に」(『出版研究』第51号)など。

「2023年 『『ゼクシィ』のメディア史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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