本の歴史 (知の再発見双書 80)

  • 創元社 (1998年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784422211404

感想・レビュー・書評

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  • 「イギリスでは本を読むのに図書館を利用するが、フランス人はかならず趣味に合った革装の美本を買いこむ。イギリスでは、本といえば一週間か二週間楽しみ合うためのゲストでしかないが、フランスでは生涯の友となる。」
        (イギリス人書誌学者アンドル・ラングの言葉)

    ようやく入手した本だというのに、あまりの面白さにあっという間に読んでしまった。
    豊富なカラー図版で語る、本という媒体の歴史。
    西欧の、それもグーテンベルグ以前の手書き本時代からのスタートになっている。
    主にフランスが舞台になっているのは、最初に挙げた言葉のように、書物との付き合い方が非常に情熱的な国であるかららしい。
    大変なビブリオマニアであったというナポレオンの話はあまりに有名だし、工芸品・美術品としての書物にこだわりを見せたのもこの国ならではのこと。
    本の装丁が絶頂期を迎えた18世紀の、フランス王室の本が見開きで掲載されているページもある。紋章入りのモザイク装丁は、驚くほど豪華で美しい。

    美しいと言えば羊皮紙に書かれた文字もそうだ。
    だが一冊の本を作るには約15頭分もの羊の皮が必要で、かかる費用は決してばかにならない。
    節約のために文章を削ぎ落したり文字をぎっしりと書き込み、注釈は余白部分に記したという。
    荒俣さんの(蘊蓄という名の)後書きによれば、グーテンベルグによって「文字を上手に写す労働から解放」され、「記憶する労働からも解放」されたとするのは、非常に納得がいく説だ。

    そのグーテンベルグについてはほとんど資料がなく、確かなことは分からないという。
    しかしこの新技術がなかったら宗教改革など起こらなかっただろう。
    絶対王政時代には本の世界に細かな規制が入ったが、今とは違いネットもTVもない頃の話だ。
    言葉が人に与える影響を知っていた為政者が、権力でコントロールしようとしたのは分からないでもない。その危機を乗り越え、やがて啓蒙思想の時代へと移行していく。

    日がな一日書写に勤しんだ写学生たちはじめ、先人たちの努力には感謝しかない。
    こんなにも昔からひとは文字を書き、伝え、残そうとしてきたなんてね。
    残念なことに本書はフランス革命あたりで終わり、その後の本の歴史には触れていない。
    それでも読んでいて非常に楽しいのは、心弾むトピックがあちこちに見つかるからだ。

    写学生が本の余白に愚痴を描いたり、書き終わった後に喜びの詩を書いたり、顧客が趣味に応じて製本・装丁を施していた16世紀の頃の話や、行商人が瓦版を売っていた時代にノストラダムスの予言書がよく売れたとか、18世紀にサロンで生まれた読書会の様子などなど。
    幼少期の読書に否定的なルソーが、唯一推奨したのが「ロビンソン・クルーソー」だったとか。
    初期の印刷業の活気にあふれた様子などは、見ていてこちらの胸も熱くなってくる。
    装幀の進化をこの目で見られるのもとても嬉しい。

    小さめの版で手に取りやすく、読んでいてとにかく楽しい。購入して手元に置きたい本だ。
    すべての本好きさんに、心からお薦め。

  • 本は著者の意思、思想、空想が著者自身が滅んだ後も残る再生機であると同時に外見や挿絵などの芸術面も楽しめる道具です。
    このように色々な可能性を秘めた本は元々量産できないもので、大変高価でした。
    それが画期的な印刷法により徐々に読書層が拡大していきます。
    装丁はシンプルなものにはなりましたが、庶民でも本を楽しめる時代になっていきました。
    ヨーロッパを中心に綴られる本の歴史。
    図版も多く盛り込まれ、視覚的にも楽しめる一冊です。
    しかし…欲さえあれば本をいくらでも読める今の時代は、大変恵まれているんですねぇ。

  • 図版が多く、説明も端的で、さくさく読める。

  • コメントではなくて、授業用情報。
    この授業は聖書の翻訳を軸としているが、聖書の翻訳を巡る歴史は本の歴史とも大きく関わっている。本の歴史の概説書は様々あるが、これはフランス系の入門書。よみやすく、ビジュアルに訴え手に入れやすいので一度見てみるのをおススメする。

  • NDC(9版) 020.23 : 図書.書誌学

  • 本の歴史は、文字の、芸術の、思考の、権利の、印刷技術の歴史でもあった。人はいつから本を作り、娯楽として本を楽しむようになったのか。挿し絵というか、画像多めで順を追いつつ説明してくれる。
    画像と文章と画像の説明が入り交じり視覚的にはとても読みにくいが慣れればそうでもなく、画像たちに感動しながら読み進められる。
    愛書家は一読の価値ありじゃないかなと。

    本の扱いについては、どちらかといえば自分はフランス式だなぁと。

  • そのままの内容。本と呼べるものがどういう風だったのか教えてくれる。どこでどういう風に作られていたのか流通していたのかなど。図録も沢山載っていてとても面白い本だった。

  • テーマ史

  • とてつもなく素晴らしい本の世界入門。
    活版印刷以前について触れられているのが良い。

  • 写本時代の解説が特にお気に入り

  • 2013/9/7読了。
    ヨーロッパの書物の歴史が豊富な写真や図版入りで紹介され、博物館の充実した特集展示を見たような読後感。

  • 2013 8/29 冒頭部分くらいまで読了。司書課程資料室の本。
    図書・図書館史授業用。さしあたりすぐ授業で使いそうな古代ローマまでチェック。
    図版が多いのでいろいろ使えそう。

    以下、気になった点のメモ。

    ・p.1~ アリストテレス⇒デメトリオスの系譜について
     ・肉声を書き写したものではなく、書物を「書いた」人物としてのアリストテレスの重要性の強調

    ・p.18~19:古代ローマの本(巻物)を読む女性像
     ⇒・AD1世紀には本は珍しいものではなくなっていた?

    ・p.20~冊子の話
     ・codexとscrollは200~300年共存
     ・codexの片手での取り扱いやすさ

  • 【ひとことポイント】
    発明家の発想は想像を超え、現代に残る

    知の再発見 双書シリーズというものがあります。
    この本は、そのシリーズの一つで、シリーズ全てで軽く100冊を超えます。
    今回はその中から一番ふさわしいであろう本の歴史というものをお勧めします。
    中身は写真や注釈が多く載っており、文字数が多くても読みづらそうなイメージはありません。ぜひ、全シリーズ読破を目指しましょう!

    <情報学部 N>

    企画コーナー「成長する本棚」(2Fカウンター前)にて展示中です。どうぞご覧下さい。
    展示期間中の貸出利用は本学在学生および教職員に限られます。【展示期間:2013/6/6~】

    湘南OPAC : http://sopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1274829

  • 西洋の書物史。図版も目に楽しく、大満足。
    写本時代からのストーリーになっているので、最初から丁寧に読むのが楽しかった。
    元はフランスの人が書いたものに、荒俣宏さんが序文と資料編を加えているのかな?
    最近ちょっとカリグラフィにも興味があるんだけれど、写本の図版が美しく、眺めているだけでも楽しいです。

  • 図版を見てるだけでうっとりする。本好きにはたまらない本。

  • 本の歴史という意味では
    手書きの本の紹介が参考になりました。

    東洋では写経がずばり,手書きの本ですね。

    印刷の歴史、出版業の紹介は,本の歴史というよりは、
    本を作る歴史かも知れません。
    手書きの本もその一貫でしょう。

    最後に百科全書の紹介があります。
    本の中で、とくひつすべきものだという理解ですね。

    本の歴史というよりは、本に関連する視野の広い紹介という感じです。

  • ビシュアルも豊富で面白い。

  • 美術工芸品の域に達している「手がき本」から始まり、「グーテンベルクの活字印刷本」、その後に続く印刷技術の発展の歴史やら書籍流通の発達の歴史、思想界に与えた影響と続き、「百科全書」までをカラー図版入りで概説してくれています。  

    カラー図版部分を眺めているだけでもうっとりしちゃうような美しさで、本好きの KiKi にとっては読んで面白く、眺めて楽しい、「1冊で2度美味しい」本でした。  いや~、1冊でいいから、何語でもいいから(要するに読めなくてもいいから)、中世の美しい本を持つことができたら幸せだろうなぁ・・・・・。

    (全文はブログにて)

  • 本が好きなのに本の歴史を知らない。それはよくない、と思ってこの一冊はちょうどその問題を答えてくれる本だった 本の語源からはじまり、本の歴史がわかりやすく解説されている。

    ほぼオールカラーで絵や写真が掲載されているところがとてもよかった。

    5つのCONTENTS+資料編にわかれている。

    第1章………手書きの本
    第2章………グーテンベルク-謎の発明家-
    第3章………印刷術の飛躍
    第4章………出版業への規制
    第5章………本の勝利

    -ここで一部紹介-
    人類の思考の証人である文字を母体として、本は生まれた。本とはその文字を使って、ある素材の上にあるテキストを複製し、それを流布するためのものと定義することができる。
    これらの基本要素の組み合わせが、無限のヴァリエーションを生むのである。もちろん、中世の修道士が羊皮紙に筆写した写本も、れっきとした本だと言える。

    16世紀になると、印刷術は当時のヨーロッパ全域に影響を及ぼした2つの波、人文主義(ユマニスム)と宗教改革に大きく関与し始めることになる。近代社会の成立へとつながる
    これらの改革において、本は牽引車としてその役割をはたし、その一方は従来の社会秩序を』破壊しかねない存在として、権力者から警戒されるようになった。こうした背景のもと、
    読者層は拡大をつづけて、本はその伝統的形態の変化を加速していった。
    http://hajikin.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-4849.html

  •  好きなのに、いつの間にか失くしてしまっていたのでこの前の国際ブックフェアで買い直した

     2割引き…お買い得♪


     さて、「西洋における本の歴史」を豊富なカラー図説付きで紹介している本書

     見ているだけでもワクワクしてくるし、その上、軽くて持ち運びやすいというハード面だけでも最高なのであるが、もちろんソフト面、内容も充実している


     本書の面白いところは、「情報の媒介物としての本」ではなく、どちらかというと「工芸品としての本」に重きを置いているという点だ

     さすが、フランスの研究者と言うべきだろうか

     だから、グーテンベルクによる印刷革命を大きな要因として起きた「宗教改革」については多くを割かない
     
     その代わりに、


     文字デザインの変遷

     どのような装丁が為されてきたか

     判型の変遷

     紙の発明以前は何に書かれてきたか
     
     印刷革命以前はどのように作られてきたか

     時代時代で有名な本について

     プライベートプレスについて

     グーテンベルクその人について

     読書について
      
     どのように取引されてきたか
     
     出版業の規制について


     などについて多く取り上げている


     「社会の中の本」や「本が及ぼした社会への影響」ではなく、あくまでも「本というモノの歴史」を綴った本なのだ



     情報量が多いので、特に印象的だった点だけを書こう



     特に印象的だった点は2点ある


     まず、1点目は「写本について」

     グーテンベルクによって活字印刷が広まる前、本の作成方法といえば写本しかなかった

     容易に想像できると思うが、何百ページもある一つの本を全て書き写すのはとても大変な作業である

     今でもダントツのベストセラーであることからも分かる様に、当時も聖書が最も読まれた本であり、宗教に関する本が最も読まれていた

     そういった事情から、写本が行われるのはキリスト教会の「写本室」という専用の部屋で、信徒がお勤めとして行っていた

     そして、何時間も字を書きうつすという作業であるため、書き損じ写し損じも多く、正確に書き写された本は珍重されたようだ

     
     以上が「写本について」の説明だが、どこが印象的だったのか

     それは「写本」が宗教的な作業であったことだ
     
     「字を写す」と聞いて何か思い出さないだろうか

     そう「写経」にとても似ているのだ
     
     「写経」は行うことで、布教の助けとなり、修業になり功、徳にもなる
     さらに、「写経」でも装丁を行うらしい

     まさに写本と同じではないか

     但し、本書から察する限り、「写本」は「写経」に比べて布教や研究の意味合いが強いように思える

     キリスト教と仏教の差であろうか

     どちらもあまり知らないので滅多なことは言えないが、仏教の内省的な面がこの差を生みだしているように思った





     さて、2点目は「グーテンベルクについて」である

     ヨーロッパにおける活字印刷の爆発的普及は、グーテンベルクの発明によるとされているが、何と「グーテンベルク」という人が実在した証拠はないというのである

     唯一「ケルン年代記」という本に「ヨハン・グーテンブルフ」なる人物が印刷術をケルンにもたらしたとされているが、「グーテンベルク」という名前は出てきていないというのだ

     これにはかなり驚いた

     だって、印刷革命っちゃあグーテンベルクでしょ?

     それが実はいるかいないか分からないなんて、どんだけテキトーだよって話


     とは言うものの、確かに印刷革命を起こした「グーテンベルク」的な人物は確かにいたのだろうし、この発明が多くの人の協力でもたらされたものであろうとは思うので、そんなに目くじら立てることはないと思ったりもする

     でも、ねえ…

     こんなところから歴史研究の難しさが分かるってところか
     




     本書は、インターネットや電子書籍によって、その存在意義を脅かされている「モノとしての本」への愛を呼び起こしてくれる本である

     「モノとしての本」を伝える上で、本書のカラー図説は特に効果的であるし、記述も「本の歴史」からぶれることはない
     この手の本でありがちな途中で退屈になることもない

     今まで読んだ「本についての本」の中では、やっぱり一番素晴らしいと思える本なのだ

     「本好き」を自称するなら是非とも読んで欲しい一冊である

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