現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422390031

感想・レビュー・書評

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  • この本を読んでいるあたりから怒涛のように忙しくなって、感想を書く暇がなかった。そして、すごくおもしろかったことは覚えているけど、それ以外の記憶がない・・・
    と思ったけど、この本は、初めて聞くような話にあふれていて、あまりに興味深かったおかげで、忙しい忙しいと言いながらも、おもしろかった部分をこのブクログのフレーズにメモっていた。それを読み返していたら、断片的に思い出してきた。(ありがとう、ブクログ)

    「十進法ではなく、二十進法を用いている言語が多い」と言ったようなちょっとした(でもレアな)情報が何気なく書き添えられていて、そういう記述に会うたび、私の知らない世界への興味が激しくかきたてられて、まるでダイヤの原石でところどころキラキラしている道を歩いているみたいな本だった。

    特に、ブスカシについての章は、笑って、わくわくして、そしてホロリ。私たちが日常生活を必死で生きている中で、後ろに置き去りにして振り返らないようにしているものについて、書かれているような気がした。
    けっして「昔はよかった」というような単純な文脈ではないのだけど、でも、重要な何かと引き換えに手放さなくてはならなかった昔の何かを思う切ない気持ち。自分にもあるそんなものを思って少し心がかき乱された。

    例えばこの部分――
    『そんなクニシト村にも、やがて携帯電話の電波が届くだろう。村人たちは次第に多く町へ出て、現代の豊かな物質文化の利器に惚れる。谷肌を削って広い道を舗装するかも知れない。利便性を高め、動物との暮らしから動物が減っていくのも、時間の問題か。そういう変化を彼らが望むのなら、それが彼らにとっての「進歩」となる。それでも、土にまみれたブスカシへの熱狂は、これからも長く残ってもらいたい。手放したらもう二度と戻らないのだから。』

    著者の他の本もぜひ読みたい。

  • 友人と読書会の課題本として読み、大変面白く盛り上がった。
    まず、帯にもある様に「日本に帰りたい」、現地が嫌いというのに至る様々なエピソードと本人の感想がとても読みやすく、共感を持った。
    その一方で、言語学に関する幅広い知識や類例、発音の表記、各言語の表記等、真摯な言語学への態度も見えてきて、言語学という全く知らない分野の世界を垣間見れるようでとても興味深かった。
    私は本書の注釈が結構好きだが、特にアブジャド(子音だけを書く音素文字)の注釈における日本のネット文化で発生した表現がアブジャド式になっているというのは著者のパーソナリティや日本語という言語の表現の可能性が垣間見えてとても良かった。


  • 「はじめに」にて研究者として生きることの厳しい現実問題を述べ、むやみやたらに研究者を目指すことを阻止するような印象を受けるが、本書全編は真摯で、かつ研究への大きな愛に溢れていたように感じた。私自身はフィールドへ赴き泥臭い研究活動をするのが好きなタイプであるが、どんだけ本位ではない大変な思いをしてまでも、それを超える知的好奇心が吉岡先生を突き動かす原動力なのだなぁと随所に現れていたように思う。
    文系の研究者の卵として、2章では私が抱える不安を一つ一つ拭い去ってくれたように思う。バックパッカーの話や、理不尽な村人からの出入り禁止は共感しながら読みました。

  •  シンプルだが細かな部分に凝った構成。装幀も楽しい。
     内容も文句なし(この部分は、プロアマ問わず他の評者が詳しく書いている)。

    【書誌情報】
    『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』
    著者:吉岡 乾[よしおか・のぼる] 記述言語学(ブルシャスキー語)。
    形態:単行本
    定価:¥1,980
    刊行日:2019/08/27
    ISBN:978-4-422-39003-1
    判型:四六判 188mm × 128mm
    造本:並製
    頁数:304

    ◆はやく日本に帰りたい。
     ブルシャスキー語、 ドマーキ語、コワール語、カラーシャ語、カティ語、シナー語、カシミーリー語……。文字のない小さな言語を追って、パキスタン・インドの山奥へ――。
     著者は国立民族学博物館に勤務するフィールド言語学者。パキスタンとインドの山奥で、ブルシャスキー語をはじめ、話者人口の少ない七つの言語を調査している。調査は現地で協力者を探すことに始まり、谷ごとに異なる言語を聞き取り、単語や諺を集め、物語を記録するなど、その過程は地道なものである。現地の過酷な生活環境に心折れそうになりつつも、独り調査を積み重ねてきた著者が、独自のユーモアを交えつつ真摯に綴る、思索に満ちた研究の記録。
    https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=3989


    『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』(吉岡乾 創元社 2019)
    著者:吉岡 乾[よしおか・のぼる](1979-)  記述言語学。
    装画・イラスト:マメイケダ[まめいけだ](1992-)  画業。


    【簡易目次】
    もくじ [003-007]
    地図・言語分布図 [008-011]
    調査地へのアクセス [012-015]


      0
    遥かなる言葉の旅、遥かなる感覚の隔たり 018
    表記と文字のこと 032


      1
    フィールド言語学は何をするか 040
    インフォーマント探し 049
    ブルシャスキー語 056
    ――系統不明の凡庸なことば 058
    PCOからスマホへ 064
    物語が紐解くは 070
    異教徒は静かに暮らしたい 079
    ブルシャスキー語の父(笑) 087
    ドマーキ語 094
     ――諺も消えた 096
    インドへ行って、引き籠もりを余儀なくされる 102


      2
    好まれる「研究」と、じれったい研究 118
    バックパッカーと研究者 126
    コワール語 138
      名詞は簡単で動詞は複雑? 140
    文字のないことば 148
    カラーシャ語 158
      アバヨー! 舌の疲れることば 160
    フンザ人からパキスタン人へ 169
    言語系統と言語領域 178
    カティ語 196
      挨拶あれこれ 198


      3
    なくなりそうなことば 208
    ドマー語、最後の話者 215
    動物と暮らす 226
    シナー語 236
      街での調査は難しい 238
    出禁村 248
    ジプシー民話 256
    カシミーリー語 264
      変り種の大言語 266
    五〇〇ルピーばあさん 274
    ウルドゥー語 284
    インフォーマントの死 286


    「はじめに」(吉岡乾) [296-299]
    あとがきに代えて(内貴麻美(編集)) [300-301]
    参考文献 [302]
    プロフィール [303]

  • 一度ご縁があって研究についての講演を伺う機会があった、民博・吉岡乾先生が自分の研究についてつづられた著書が刊行されたと知り、少し遅くなりましたが読みました。

    どんなふうに調査を始めて進めていくか、長年の調査や研究をする中で考えていることが著者独特の語り口で赤裸々に語られていて読みごたえがあります。

    例えば、

    ・フィールド言語学者だからといって必ずしもコミュニケーションが得意なわけではない
    ・フィールド言語学者だからといって、そのフィールドやそこに暮らす人々のことが大好きというわけではない
    ・多くの言語を研究している言語学者だからといって言語を簡単に自由自在に操れる人ばかりではない(そして英語も得意とは限らない)

    というようなことが大きな辛さ・しんどさとともに語られつつも、全編を通じて研究への大きな愛が感じられます。

    言語学の研究をしたことがない私は、最初に吉岡先生のお話を伺った際に、なぜそんなに多くの言語を調査されているのか、ピンと来ていませんでした。
    本書を通じて、言語間の影響やその言語のオリジナルな姿への理解を深めるために、周辺で話されているさまざまな言語の研究も始められたのだなということがよくわかりました。

    パキスタン自体が自分にとってはかなり遠い世界に感じますが、さらに調査地のほうは想像がつきません。フンザ谷などは観光地でもあるようなので、いつかどんなところなのか行ってみたいなぁとも思いました。

著者プロフィール

国立民族学博物館 准教授/総合研究大学院大学 准教授。専門は記述言語学、ブルシャスキー語、地域言語研究。主要著書・論文に『フィールド言語学者、巣ごもる。』(創元社、2021)、Eat a spoonful, speak a night tale: a Ḍomaaki (hi) story telling(Bulletin of the National Museum of Ethnology, 46 (4), 2022)、「ブルシャスキー語の名詞修飾表現」(プラシャント・パルデシ、堀江薫編『日本語と世界の言語の名詞修飾表現』、ひつじ書房、2020)がある。

「2023年 『しゃべるヒト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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