フィールド言語学者、巣ごもる。

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422390055

作品紹介・あらすじ

話題書『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』
著者による、待望の新刊!

フィールドへ出られなくなったフィールド言語学者が語る、
最高におもしろい言語学のはなし。



著者は、大阪の国立民族学博物館に勤務するフィールド言語学者。パキスタンとインドの山奥で話者人口の少ない言語を調査しているが、2020年は世界規模の新型コロナウイルス感染症蔓延でフィールドへ出られなくなり、長らく「巣ごもり」をすることとなった。本書は、著者がそのような生活の中で、日常に溢れる様々な事象を言語学者目線で眺めて考えたことを綴った言語学的エッセイ。世界の多種多様な言語の例を用いながら、言語学の諸分野の知識が親切かつユーモアたっぷりに語られる、最高の知的エンターテイメント。イラスト:朝野ペコ



●「はじめに」より一部抄録
 日常には言語が溢れている。言語が溢れていないところは、人間の居ないところだけだ。

 言語学者は言語を食い物にしている。言葉を選ばなければ。だが、その事実を改めて大っぴらにしてしまうと、「危機言語が消滅したら、言語多様性が失われたら、マズいよね!」などと言語学者が幾ら声高に、意識高そうに訴えたところで、「我々の餌がなくなりそうだから、皆も気を付けて!」に聞こえてしまって白々しく響きそうだから、言葉遣いには気を配らなければならない。開けっ広げにそんな言いかたをするのは止そう。ちなみにここでの「我々」は聞き手(あなた)を包括していない。聞き手(あなた)を除外した集合である。

 もとい、言語学者は言葉に意識を向けがちである。憖(なまじ)っか言語について考える思考基盤の知識を身に纏ってしまっているため、意図的にその意欲を封じ込めない限り、不図した瞬間、耳目に触れた言葉を、言語学的に矯(た)めつ眇(すが)めつ愛で始めてしまったりするのが、言語学者の多数派である。僕はそう信じている。怠惰な生活態度に定評のありそうな僕ですらそうなんだもの、他の研究者たちはもっと熱心に物思いに耽っているに違いあるまい。

 言語学メガネを着用すると、日常の暮らしの中に、隠された一面が伏流のように存在しているのが、さもAR(拡張現実)かの如くに見えてくるのだ。

 本書は、フィールド言語学者である僕が、高尚さのかけらもなしに、そんなふうに言語学目線で漫ろに思った日々のアレコレを詰め込んだ一冊となっている。フィールド研究者を謳っていながら、世界規模の新型コロナウイルス感染症蔓延でフィールドに出られなくなり、テレワークも推奨されて、二〇二〇年の春以降は長らく「巣ごもり」をすることとなった。そしてそんな妙な事態になったものだから、時間の余裕ができるかもなどと勘違いして、筆のまにまに書き出したのである。……(以下略)

感想・レビュー・書評

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  • 【創元社ウェビナー講座】『フィールド言語学者、巣ごもる。』刊行記念オンライントークイベント 「フィールド言語学を、自宅で語る。」 | Peatix
    https://peatix.com/event/1916001

    商品詳細 - フィールド言語学者、巣ごもる。 - 創元社
    https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4259

  • 「日本語は特殊な言語である」という古今多数の主張に対し、データをもって「日本語は平凡とも稀有とも言いがたい」との結論に納得。
    特定の言語を持ち上げたり卑下することなく、どんな言語にも敬意を払う著者の姿勢には、相変わらず好感が持てる。

  • とーっても面白かった!年の初めに相応しい1冊だった。言語学エッセイと言えば黒田センセ一択だったのだがまさにみーっつけたという感じ。しかも吉岡氏お若い、どんどん書いていただきたい。漢字の使い方がユニークで刺激的。

  • 語り口調が面白い。ズバッと言っちゃうところもいい。

    それでいて言語学とは何か、がわかる読みやすい言語学書でした。
    体系とかの話がつらつらあってもわかりづらいけれど、こうして実例も交えて一節が短くまとめられていると、頭に入ってきやすかった。

  • 言語学なるものの端緒にサラリと触れた気になれるエッセイ風な読み物。文章は思った以上に砕けていて気軽に読めつつ、なるほどそう考えるのかという気づきもあり、なかなか興味深い。

  • 漫画やVtuberなど身近な話題から、「よくよく考えてみたらこの事象面白いな...」ということがたくさん出てきて、楽しみながら勉強になる良い本でした。
    日本語はわりと借用語を柔軟に取り入れるけど、アイスランド語や中国語など借用語に厳しい言語があり、それらは新しい概念を自国の言葉に落とし込んで表現するという話が面白かったです。
    あと有史以前の言葉をどのように追うか、という話で、地名への言語の残り方でその土地が元々どの語族の文化圏だったかがわかる、というくだりがすごく興味深かったです。

  • 大学で言語学を履修しようと考えている私にとって興味深い内容だった。特に、ハリーポッターで出てくる表現をウルドゥー語、ジュラ語、パシュトー語、マケドニア語など、筆者の専門?趣味なのかマイナーな言語でも紹介されていて、翻訳することの難しさを改めて感じたと同時に面白かった。言語学について身近な事例を用いて紹介されていて、入門書として良いと思う。

  • フィールドに出られないフィールド言語学者の言語学案内。

    新型コロナウイルスの影響がこんなところにも出てきているのだな、と。絶滅寸前の言語の話者は高齢のことが多く、採集はオンラインではなかなかできない。言語学者にとって危機が訪れているという。とはいえ、言語学がカバーする範囲はとても広く、分野によってはさほど支障がないこともある。そんな言語学の「今」のトピックを軽快に語っている本。動画共有サイトで配信者の日本語から新しい日本語の形を考えたり、様々な言語の翻訳があるハリー・ポッターを資料に登場人物の名前を比較・考察したり。「正しい日本語ってなんだ!」と一度でも思ったことのある人は手に取ってみるといいかも。

  • 言語学ってどこからどこまで?が何となくわかった気になる言語学エッセイ。
    著者はブルシャスキー語の研究者とのこと。ブルシャスキー語、存在をはじめて知った。それ以外にも次々と見ず知らずの言語が登場するのが楽しい。これでもかと放りこまれる事例から、世界にはいろいろな言語があるんだなと感嘆する。

    言語学マップを見るに、私がいま興味があるジャンルは、意味論や語用論のあたりらしい。なるほどー。
    難しくて全然ついていけない章もある。注釈の細かさと分量の多さに、注釈を真剣に読んでしまって、むしろ混乱したりもする。それも含めて、言語学者からみた世界の見え方はとても新鮮だった。

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著者プロフィール

国立民族学博物館 准教授/総合研究大学院大学 准教授。専門は記述言語学、ブルシャスキー語、地域言語研究。主要著書・論文に『フィールド言語学者、巣ごもる。』(創元社、2021)、Eat a spoonful, speak a night tale: a Ḍomaaki (hi) story telling(Bulletin of the National Museum of Ethnology, 46 (4), 2022)、「ブルシャスキー語の名詞修飾表現」(プラシャント・パルデシ、堀江薫編『日本語と世界の言語の名詞修飾表現』、ひつじ書房、2020)がある。

「2023年 『しゃべるヒト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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