なくなりそうな世界のことば

著者 :
  • 創元社
3.66
  • (31)
  • (50)
  • (63)
  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 1058
感想 : 91
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (112ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422701080

作品紹介・あらすじ

世界で話されていることばは、およそ7000もある。しかしいま世界では、科学技術の発展とともに、数少ない人が限られた地域で用いている「小さな」ことばが次々に消えていってしまっている。本書は、世界の50の少数言語の中から、各言語の研究者たちが思い思いの視点で選んだ「そのことばらしい」単語に文と絵を添えて紹介した、世にも珍しい少数言語の単語帳。耳慣れないことばの数々から、「小さな」言葉を話す人々の暮らしに思いを馳せてみてください。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ふと「死語」というワードを連想した。
    普段我々が使う「死語」は、「過去に用いられていていたが今は使用されていない言葉」のことを指す。(「〇〇なう」が死語認定されていることに先日動揺したばかり…)
    しかし本書の「死語」の方はずっと深刻で、担い手まで減少している。

    「数少ない人が特定の地域・環境で生活している中で用いている”小さな”ことばのほうが、(中略)文化から生じた知恵や、その生活ならではの認識・理解といったものを色濃く、純度高く反映していることだってあります」

    ここに集められたことばは、世界に点在する少数言語の中から専門家たちが厳選したもの。
    格言的なものかと予想していたが、挨拶に場所や物を示す単語だったりとまちまちである。エラ・フランシス・サンダース氏の『翻訳できない世界のことば』と雰囲気が似ており、何ならそちらで知ったことばに本書で再会したりもした。

    『翻訳できない…』の時も書いたけど、文化と言語は切り離せない。
    ジンポー語(話者数65万人/地域:ミャンマー他)の「シャターシュッマユッ」はいわば「月食」だが、直訳すると「月をカエルが飲み込むこと」になる。少なくとも現地では月食の原因はそう考えられていたようだ。
    我が国も月にウサギを派遣したりナマズを地中に寝かせたりしているのに、そうした伝承が消えゆく世界がある。

    「良い夢を!」って言われると、何故だかホッとするのは自分だけ?ティディム・チン語(35万人/ミャンマー・インド)ではこれを「マンパー!」と言う。夜に別れる時の挨拶との事で、温厚な(イメージの)ミャンマーの人に言われると安眠できそう。
    ことばの中でも、終生最多で使用しているであろう挨拶が忘れられてゆく世界がある。

    アイルランド語はEU公用語の一つでまだ希望があるように見えるけど、実際のところ話者は15万人に満たない。
    「ボハーントィーアハト」は「気晴らしや噂話のために家を訪ねること」で、シチュエーション的に童話に出てきそうだ。アイルランドと言えば妖精伝説が真っ先に思い浮かぶもんだから、このことばも自分には呪文みたいに聴こえる。妖精の目撃情報もここで交わされたのかな、とか妄想してみたり…。
    でも言語だけは伝説にしちゃいけない。

    最後の4ページはとりわけ話者が少ない言語、アイヌ語(5人)と大アンダマン混成語(0人)で締めくくられている。
    我々の「死語」は、使われなくなっても覚えている人・語り継ぐ(?)人がまだいるけれど、本当に担い手がいなければ絶滅とされるのだ。
    まだ生きている・話す相手がいることばを疎かにすると、冗談抜きで方言から「死語」になっていってしまう。

  • 世界で話されている言語は、およそ7000もあるという。日本語も母語話者が1億2千万以上もいるので、トップ10に入るらしい。

     しかし世界は、交通やメディアの発達で「狭く」なり、少数の人が限定された地域しか使わない「小さな言語」が、「大きな言語」に飲み込まれ、どんどん消滅している。日本においても、アイヌ語の話者は3~5人と事実上消滅している(日常使われない)。

     本書は、50の少数言語の中から、各言語の研究者たちが各自の視点で選んだ「その言葉らしい」単語に文章と絵を添えて紹介している、ちなみにアイヌ語は「イヨマンテ」が載っている。

     紹介されている言語は、はじめて目にするような少数民族の言語だったりするが、言語自体には優劣は存在しないのだ。

  • 数十万人の話者数の言語から始まって、徐々に話者数の少ない言語が紹介される。読み進めるほど切なくて愛おしい。

    生物種の絶滅とどの程度アナロジーが効くか分からないけれど、生物では残り5000体を下回ると絶滅が加速度的に進んでしまって、絶滅を食い止めるのはほとんど不可能になる。言語においては、どのレベルが限界水準なんだろう。

    世界が効率化やグローバル化の名のもとにますます均一化してきていて、言葉も文化も生活を取り巻く動植物までも、その多様性を減らしている。それが私にはとても切ない。この本を読むことも、ささやかな抵抗になるのだろうか。

    各少数言語の研究者たちが思い思いの視点で選んだ「そのことばらしい」単語たち。その地域の自然環境に即した言葉、生活文化に根ざした言葉、その地域で社会として大事にしている信条が取り上げられていて、とても愛おしく、個性がよく表れている。

    それぞれ例えば、インドネシアカリマンタン島、ドホイ語のボロソコモダップ(莫大な量の小さな何かが降る)。植物の種とか、虫とかが大量に降ってくるときに使われる言葉。これは南国の豊かな太陽の恵みがないと、単語として成り立つ頻度では出くわさないんじゃないかな。

    ペルー、アヤクチョ・ケチュア語のルルン(農作物が豊富になっている様子)。
    中国、ダグール語のボルトガイ(鞍をつけていない、から転じて「なるようにしておけ」)。
    この言葉だけで、農耕民族なのか、遊牧民族なのか、そして何に人生の幸福を感じるのか、何に誇りを思っているのか、伝わってくる。

    インド、ラダック語のショチャン(怒りっぽい人)は穏やかであることが美徳とされるラダック社会において、最も屈辱的なことばらしい。タイのような仏教国でこの考え方に振っている社会を知っているので、チベット語族と書いてあるのを見てここも仏教の教えを大事にしている民族なのかと想像の翼を広げた。

    『熱源』に出てきた、日本人に比較的近い言葉も登場。ギリヤーク(ニヴフ語)、オロッコ(ウィルタ語)、アイヌ語、それぞれ話者人数は100人、10人、5人。私はこれらの言語の消滅の瞬間と同時代を生きるのかもしれない。胸がきゅっとなる。

    そのほか好きだった言葉
    hiraeth ヒライス もう帰れない場所に帰りたいと思う気持ち、ウェールズ語
    bothántaíocht ボハーントィーアハト 気晴らしや噂話のために家を訪ねること アイルランド語

    これはぜひみんなに読んでもらいたい。みんなと一緒に共有して、少しずつでも忘れないでおきたい。そんな気持ちになりました。

    • Macomi55さん
      shokojalanさん
      ひとくちにアイヌ語といっても、北海道は広いし、色んな方言はあったのですね。
      村上春樹の「羊をめぐる冒険」のなかで、...
      shokojalanさん
      ひとくちにアイヌ語といっても、北海道は広いし、色んな方言はあったのですね。
      村上春樹の「羊をめぐる冒険」のなかで、本土からの移民や政府と折り合いをつけながら細々と生きてきたけれど消えてしまったアイヌ人のことが書かれていました。切ない話でした。
      2022/06/11
    • shokojalanさん
      Macomi55さんの「羊をめぐる冒険」のレビュー拝読しました。アイヌが出てくる話だとは知りませんでした。

      実はちょうど今母に「村上春樹が...
      Macomi55さんの「羊をめぐる冒険」のレビュー拝読しました。アイヌが出てくる話だとは知りませんでした。

      実はちょうど今母に「村上春樹が読めない」という相談をしていたところだったんです。短編をまず読むように勧められたので、うまく読み通せたら、「羊をめぐる冒険」にもチャレンジしてみようと思います…!
      2022/06/11
    • Macomi55さん
      shokojalanさん
      お母様と本の話が出来ていいですね。そういえば、私はそもそも義理の母に借りた「1Q84」が村上春樹との出会いでした。...
      shokojalanさん
      お母様と本の話が出来ていいですね。そういえば、私はそもそも義理の母に借りた「1Q84」が村上春樹との出会いでした。全体は覚えていないけれど、妙に記憶に残っている箇所がそれぞれあります。「羊をめぐる冒険」でアイヌのことが出てきたのは、主人公がひつじを探して北海道のある地方に向かう途中の電車の中で読んでいた、その地方の歴史書の中だったと思います。
      村上春樹は歴史のなかで忘れ去られていった人や物の姿をフワッと刷り込んでいくのが上手いのかな?と思います。
      2022/06/11
  • 世界には7000もの言語があるらしい。軽く目眩がしそうな、それでいてそれだけの言語があるということに胸がときめく気持ちにもなる。
    ユニークでかわいいイラストと共に、見開き2ページで一つの言語から一単語が紹介される。紹介されることばたちは生き生きとしていて、その言語を話す人たちの暮らしに思いを馳せられる。
    日本で最近認知度を取り戻したアイヌ語は、流暢に話す話者はもう北海道に3〜5人しか残されていないそう。本書の発行から6年経つ今、さらに減ってしまっているのではなかろうか、と寂しくなる。
    話者の多い大きいことばにばかり目移りしてしまうが、話者の少ない小さなことばにも思いを寄せる、喋れる人が少ないからとないがしろにしてはいけないとも思わされた。小さなことばがなくなるということは、世界が均一化されてしまうようで、寂しい。
    ぜひコーヒー片手に味わって欲しい一冊。

  • 世界のいろいろなことばで、あまり使っていないようなことばを絵とともに楽しめる。

    響きの良いことば。。可愛いことばをその国の独特の伝え方で教えてくれる。

    使わないとなくなっていくのかな…
    知らないままなくなっていくのかな…残念だけど。

  • これはなかなか切実な本だ。
    もしも自分が話す言語がこの世から消え去るとしたら、悲しいなどと言う言葉ではとても足りない。世界から見放された孤児のような気持になることだろう。
    このところ読み続けているアイヌの言語にいたっては、3人から5人しか話せる人がいないらしい。
    言葉が消滅するというのは、その背後にある文化や考え方も消滅するということだ。
    しかも、一度消えたら決して蘇りはしないだろう。
    なんということか・・もう手立てはないのか。

    世界で話されている言葉は全部で7,000もあるのだと言う。
    どれひとつとして同じ言語はなく、それぞれの優劣関係もない。
    特定の民族の、地域・環境の中で生まれ、時間をかけて育まれた財産なのだ。
    少数民族が用いるということで経済効果は生まないだろうが、彼らの歴史ごと消え去ってしまうようで、本当にやるせない思いになる。

    最初に世界地図が現れ、とりあげられている言語が使用される地域を示している。
    その言語は全部で50。
    話者数が多い順から挙げられ、最初はペルー南部のアヤクチュ・ケチュア語の「ルルン」。
    農作物が豊富に実っている様を表現する言葉らしい。
    90万人がこの言語を使用するという。
    その後だんだん話者数が少なくなるものを採りあげていき、アイヌは最後から2番目。
    その、無くなりそうな言葉は「イヨマンテ」である。

    解説も載せておこう。
    「捕らえた小熊を、一定期間大事に村で育て、お祈りをしつつその肉を村人全員で、心からの感謝とともに食べて、その魂を神の国へと送り返す祭り。神様は、ヒトの世に降りてくるときには動物などの姿に化け、その身の肉や毛皮ヒトへのお土産として持参するのだという。」
    ・・いつの日か、この記述だけが残って、はるかな思いで読む日が訪れるのだろうか。

  • 世界の50の少数言語。
    「小さな」ことばの専門家たちに選んでもらった
    「そのことばらしい」単語に、文と絵を添えて紹介する。
    少数言語が話されている場所が分かる世界地図有り。

    話者数90万人のアヤクチョ・ケチュア語から始まり、
    話者数0人の大アンダマン混成語で終わる、50の少数言語。
    ゾラン・ニコリッチ/著「あなたの知らない、世界の希少言語」を
    読んだ流れから辿り着いた本ですが、
    その地域の「そのことばらしい」単語と意味を提示しています。
    ウェールズ語の「ヒライス」は、
    もう帰れない場所に帰れないと思う気持ち。
    カルデラーン・ロマニー語の「ラタ」は、
    放浪の民ロマの軌跡を残す車輪。
    サーミ語の「スカーマ」は、
    北方のラップランドらしい、太陽の出ない季節という意味。
    ことばは、文化。
    その地域や民の、歴史や民俗、生活が込められている。
    しかし「小さな」ことばは徐々に担い手がいなくなってゆく。
    そして、失われたら甦ることがない、文化的価値ということ。
    公用語や教育言語、放送等で、その言語を守る国や地域の努力が
    ある場所は、まだ良い。多くは継承が無いまま消えてしまう。
    アイヌ語を話せるのが5人という事実は、あまりにも悲しい。

  • 世界のWEBは基本的に「英語」が支流、そうなると今後は「英語」が世界の主流になることは間違いなく、日本語も国内だけ利用されるだけで、さらに未来の子孫は「日本語」を使っていない現象になるかも知れない。すでにこの書にある「無くなりそうな言語」はその現象を見出している。本書には50言語紹介されているがすでに日本の「アイヌ語」なども数十人しか利用していないというのが現状だという。
    言語大国(利用者数)とは
    中国語:9億人以上(世界1位)
    英語:3億7千万人以上(世界2位9
       日本語:1億以上 (世界9位)

  • 先日、イラストレーターの西淑さんの個展を
    見に行ってきた際、当本を購入した。

    西淑さんがこの本のイラストを担当されており、
    イラスト集かのような美しい絵がたくさん
    描かれている。
    手元に置いてふとしたときに
    絵だけでも眺めたい本。

    本の内容については、
    世界にはたくさんの言語があるが、
    その中でも少人数で話されている言語について
    代表的な言葉をもとに紹介されている。

    言葉と文化は表裏一体で
    その言葉の意味が、その国では普通であっても、
    日本語では訳するのが難しい(日本語としてはない)
    言葉だったりして、使用されている国ならではの
    文化を象徴する言葉だったりして
    なかなか興味深かった。

  • 民族が減っていくということは言葉がなくなるということをこの本を読んで改めて実感。
    日本語が世界九位だということに驚きました。
    まだまだ、世界にはいろんな言葉があって、素敵な言葉がある。
    良い夢を!って、なんて素敵な挨拶。

    アイヌ語が入っているのも、心に刺さった。

全91件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

国立民族学博物館 准教授/総合研究大学院大学 准教授。専門は記述言語学、ブルシャスキー語、地域言語研究。主要著書・論文に『フィールド言語学者、巣ごもる。』(創元社、2021)、Eat a spoonful, speak a night tale: a Ḍomaaki (hi) story telling(Bulletin of the National Museum of Ethnology, 46 (4), 2022)、「ブルシャスキー語の名詞修飾表現」(プラシャント・パルデシ、堀江薫編『日本語と世界の言語の名詞修飾表現』、ひつじ書房、2020)がある。

「2023年 『しゃべるヒト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉岡乾の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
砥上 裕將
スティーヴン・ガ...
エラ・フランシス...
津村 記久子
大竹 昭子
塩田 武士
辻村 深月
宮下奈都
アントニオ・G・...
柚木 麻子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×