フランス農村史の基本性格 (名著翻訳叢書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784423492055

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  • 1929年リュシアン・フェーブルとともに「社会経済誌年報」を創刊して「アナール学派」を旗上げしたマルク・ブロックの1931年の書であり、その後の中世史研究に決定的な影響を与えた歴史的名著である。ウェーバーやピレンヌの都市論の影響もあってか、ヨーロッパの団体自治の起源と言えば誰しも中世都市を思い浮かべるが、ブロックが本書で探り当てようとしたのは、歴史の表舞台には登場しない、つましい農民生活に息づく自治と連帯の精神の水脈である。

    ブロックが着目するのは中世フランスにおける農業技術と土地利用形態の地域特性であり、それらと共同体規制のあり方の関係を見事に解明している。中でも注目すべきは三圃式農業が普及していた北フランス一帯に拡がる開放長形型耕地である。そこでは家畜に引かせる有輪犁の方向転換が容易でないことから、土地は囲いの無い細長い短冊状に区画されている。耕地の利用は大きく三区分され、春麦→冬麦→休耕というサイクルを順送りに繰り返すが、休耕地では家畜の共同放牧が行われ、自然の堆肥で地味の回復を待つ。農作業の調整から共同放牧における家畜の管理に至るまで、各戸単位の自由は制約され、共同体のルールと慣行に強く縛られている。逆に言えば、そこに自治と連帯の契機が深く刻み込まれていた。

    こうした農村共同体の水平的(ギールケ以来のドイツ法の用語ではゲノッセンシャフトリッヒ)な秩序原理は、領主支配が浸透する以前に確立していたもので、農民層の階級分化に伴う垂直的(ヘルシャフトリッヒ)な秩序再編の波に晒されながらも、フランス革命期までその生命を保ち、領主支配に対して、時に実力行使も辞さない強い対抗軸を形成していた。ブロックが本書で抽出した農村共同体の自治と連帯は、同時に抵抗の拠り所でもあったのだ。後にナチスへのレジスタンスに身を投じて銃弾に斃れたブロックの生涯を思う時、本書の一行一行が悲痛な響きを帯びて迫って来る。

    文献資料を偏重してきた伝統的な実証史学に社会史という手法を導入し、ブローデルやウォーラースティンも含め現代歴史学に無視し得ない影響を与えた「アナール学派」を知るには、やはりマルク・ブロックは外せない。ただ安易な一般化を許さない叙述は錯綜を極め、門外漢を容易に寄せ付けないところがある。マルク・ブロックの生涯と主著をコンパクトに解説した二宮宏之氏の『 マルク・ブロックを読む (岩波現代文庫) 』は極めて優れた入門書だ。併読を強く薦める。

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著者プロフィール

1886-1944年。フランスの歴史家。リュシアン・フェーヴルとともに『社会経済史年報』誌を創刊し、アナール派を代表する人物。代表作に『封建社会』(1939-40年)、『歴史のための弁明』(1959年)など。

「2017年 『比較史の方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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