ドレスを着た電信士マ・カイリー: 評伝

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  • 朱鳥社
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784434132834

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  •  本書は20世紀前半に活躍した女性電信士マ・カイリー(名はマッティ、氏がカイリーであるが、マ・カイリーと呼ばれた。1880生-1971没)に関して、一部想像を交えて内容を補った半ノンフィクション(といっても大半は事実に基づいた記述のようである)の伝記である。

     しかし、本書の内容は実は伝記に留まらず複数の側面があり、それを同時に描写している特性がある。それは以下の通りである。

     ①伝記物としての物語
     ②子持ちの働く女性(離婚して片親)の取り巻く環境(100年のアメリカのキャリアウーマンに対する一般風景の描写)
     ③文化伝統にとらわれない新しい女性の生き方(フェミニズム・ジェンダーフリー)
     ④電信士という職業紹介・その職に就いた人々の日常風景・生活実態
     ⑤電信士を中心にしてはいるが、当時の労働環境の描写
     ⑥電信士という職業が現在のIT社会の文化に通じる意味合いがあることを折につけて紹介する。
     ⑦電信技術を中心にして、そこから派生する産業・技術史を若干詳述
     ⑧その他、100年前のアメリカ社会の社会常識・日常風景を描写

     これは読み手によって、特にどの側面に共感するか様々となるであろうことは想像に難くない。

     紹介が遅れたが、ここで電信士という技術と職業について若干記述する。

     電信の技術とは、電気を断続的に流し、その流と断の間隔、組み合わせ方によって、それぞれ固有の意味を定義しておくことで、電気の流れを受信した側でどういう意味の情報が送られてきたか解読して意味を理解(遠隔通信の完成!元祖デジタル通信)することである。固有の定義に従った信号情報を送信する技術および受信された情報を解読する技術をもったプロが電信士である。現在はソフトウエアによってデータの送受信後の内容を日常言語としてディスプレイに表示させて、誰でも直ちに了解できる仕組みになっているので、その技術は一般的には必要ないが、そういう意味において、電信士は生きたソフトウエアであると著者は表現している。

     また、当時の電信士の主な仕事場として停車場(鉄道の駅)があったが、これはそれぞれの発展に必要な事情がまさに合致した例であるといえよう。電信には、当然長距離に渡って、電線を引いて環境を整備する必要があるのであるが、これはまさに、鉄道を延長していく過程で一緒に電線も引ける環境が出現することを意味している。また、鉄道の側の事情をいうと、汽車を走らせるには単線方式と複線方式があるが、必要経費は当然単線方式のほうが安く抑えることができるが、単線だと上り下りの列車の運行状況、また先頭を行く列車が予定通り運行されていることを把握しないと事故になるわけである。ここにまさに電信で運行管理する需要が発生するという仕組みである。現代でも交通機関とコンピュータによる運行管理は切っても切り離せない関係にあるが、この関係の黎明期が150年前の電信黎明期・鉄道黎明期に遡ることは発見であった。尚、日本において初めて電信が行われたのはペリーが来航した折に、上陸して1km程の電線を引いて公開実験をした事例があるが、本格的な普及が始まるのは明治時代になってからである。

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著者プロフィール

横浜国立大学教授、[元]日本生態学会長
専門分野:生態学、海洋政策学、水産資源学
主著:『海の保全生態学』(東京大学出版会、2012年)、『なぜ生態系を守るのか』(NTT出版、2008年)、『生態リスク学入門』(共立出版、2008年)、『ゼロからわかる生態学』(共立出版、2004年)、『環境生態学序説』(共立出版、2000年)、『「共生」とは何か』(現代書館1995年、以上単著)、『つきあい方の科学』(単訳、ミネルヴァ書房、1999年)

「2019年 『ユネスコエコパーク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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