デザインのGENTEN 原点から現点、そしてフチュールへ (帝京新書)

  • 帝京大学出版会 (2025年3月5日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784434355325

作品紹介・あらすじ

世界的なデザイナー、コシノジュンコ氏による「教養新書」初の書き下ろしとなる本書は、ファッションから工業意匠、イベントプロデュースまでを手掛ける自身の「デザインの思想」を掘り下げる。天と地、人工と自然、光と影、四角と丸のように、それぞれが独立して混じり合わない「対極」を生かす「対極の思考」。文化と経済の共存共栄を目指しながら日本のアイデンティティー回復を図る「アール・フチュール(未来芸術)」の活動。余分な情報をそぎ落としてモノ・コトの核心に迫る「引き算の思考」。これらによって、自身のデザイン世界がどう豊穣になったのかを検証し、デザインの未来を予想する。友人の三宅一生、高田賢三両氏との親交、パリコレと社会主義諸国で開いたショーの舞台裏、コロナ禍における活動など、豊富なエピソードを交え、デザインについて「喜びと元気と未来を人びとに与える」「新しい生活を人びとに提案する」と言い切るコシノ氏。「カタチ、モノ、コトは、デザインを通じてのみ、商品・サービスから『作品』」に飛翔する」との言葉を受け止めるとき、彼女がなぜ「ファッションデザイナー」ではなく「デザイナー」を名乗ってきたかが理解できる。【帝京大学 創立60周年(2026年6月)企画】

感想・レビュー・書評

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  • ファッションの本質と時間性: ファッションは過去と未来を結びつける移動手段であり、小さなタイムマシンであると捉えられています。未来を予見させる力を持つ一方で、決して未来に連れて行くわけではなく、現実の地点を出発し、現実の地点を辿る手段であることが強調されています。移動手段による時間の感覚の差異も指摘されています。
    「ファッションは述う。移り行く物でもあるファッションは、現在と未来を結ぶ移動手段である。小さなタイムマシンである。」
    「ファッションは未来を幻視させてくれる。“占い”のように予感させる。それは決して、私を未来には連れてはくれない。現在の地点を出発し、現実の地点に到達する。」
    デザイナーとしての原点とパリコレクション: 著者自身のパリコレクション初参戦の経験が語られています。当時の日本の状況や自身の意気込み、シャネルやジバンシィの創作現場への衝撃が描写されています。また、親友でありライバルである高田賢三氏や松田光弘氏、金子功氏らがまだ海外経験を持っていなかったことが、当時のファッション界の状況を示唆しています。
    「私はパリコレクションに初参戦した。ファッション界の渦中に身を投じた。シャネルやジバンシィの闘作現場を垣間見た。アルバイトの私は気負っていた。」
    「東京五輪開催で高まった戦後ニッポンの高揚感が、私に伝わらなかったわけはない。ファッション界を牽引することになる親友でライバルの高田賢三氏(ケンゾー)も、松田光弘氏(ニコル)も、金子功氏(ピンクハウス)も、クリスチャン・ディオールのショーを観覧し、パリを歩いたことはなかった。」
    「対極の思考」と「対極の美」: 著者のデザイン哲学の根幹となる「対極の思考」と、それを具現化する「対極の美」の概念が提示されています。これは、和と洋、人工と自然、思議と不息議など、相反する要素を宇宙の中心から交互に見つめ、その両極を繋ぐ糸の中心に立つ視点から生まれる美意識です。
    「対極の思考をはっきり自覚したのは、妊娠と出産を経験した一九八〇年から。和は一方の極。洋は他方の極である。」
    「広い宇宙の両極を結んだ糸の真ん中に私は立っている。そこから、あちらの極と、こちらの極とを交互に見る。私を此処へ導く『対極の思考』は、宇宙の真ん中から、宇宙の両端を見る視点である。」
    「私が拘る『対極の美』は、『対極の思考』を現象化すること。そして、美しい宇宙の両極からデザインを究めること。」
    丸と四角の象徴性: デザインにおける基本的な形である丸と四角が、それぞれ自然と人工、安定と変動、無限と有限といった対極の概念を象徴していると述べられています。人間は不完全でありながら、自然を模倣して完全な形を生み出そうとすることが示唆されています。
    「丸は自然であり、四角は人工である。」
    「丸は安定と調和を表し、無限と大地を意味する。四角は変動と間隙を表し、有限と利便を必要とする。」
    「私たち人間は不完全である。完全な丸や直線を創造することは難しい。特に観念の世界ではそうである。私たちは自然を模倣して完全な丸や直線を創り出そうとする。」
    ファッションにおける合理と非合理: ファッションは合理の極にも非合理の極にも存在せず、その両極を結ぶ糸の中心に位置するものであると論じられています。丸い人体を覆う衣服の制作過程で直線的なテープメジャーを用いる矛盾が、その象徴として挙げられています。
    「ではファッションはどこにあるのだろうか。ファッションは、合理の極にはない。不合理の極にもない。両極を結んだ糸の真ん中。」
    「丸い人体を覆う服は、制作過程でテープメジャーを使う『直線を測る物差しや定規』と同じ存在感をテープメジャーは発揮する。」
    絶対的存在と人間の創造: 自然界に存在する美しい丸(梢子の頭、卵子、目、細胞の核など)は絶対的存在の御業であり、人間が作ることができるのは四角や直方体であると指摘されています。この対比から、人間の創造の限界と可能性が示唆されています。
    「確かに、円卓を隙間なく並べて使う人はいない。人間の創る物は、四角であり、直方体である。」
    「では人間は何を創れるのか。絶対的存在のなせる御業は、美しい丸を選んでいる。梢子の頭は丸い。卵子は丸い。目は丸い。そもそも、人間の身体は丸い。細胞の核が丸いのも、最も安定した形状だからである。」
    デザインの力と未来への示唆: オリジナリティのあるデザインによって生活が向上する可能性が示唆されています。「アール・フチュール(未来芸術)」という概念が提示され、対極の思考を軸に未来の芸術を概念化し、日本に根付かせる必要性が述べられています。ヘーゲル弁証法の「アウフヘーベン」の概念を用いて、ビジネスの世界から芸術の領域へと作品性を高め、保存していく統合過程とその結果が、未来芸術の方向性として示唆されています。
    「オリジナリティのあるデザインによって、生活が向上する?」
    「『対極の思考』を軸に未来芸術(アール・フチュール)の概念化を推し進めていく必要がある。私はそう思った。」
    「成熟社会の中にあって、企業が創り上げてゆく製品は、いま、その作品のアイデンティティーをアート(芸術)という領域へアウフヘーベンしつつある。」
    「アウフヘーベンは、哲学の弁証法で使われる川語『アウフヘーベン』を記していることに、K.ヘーゲル哲学の核心である。商品やサービスをそれが留まっているビジネスの世界から引き出し、いったんは否定し高めて、そして保存する、その統合過程と結果を指す。」
    企業メセナと文化の隆盛: 1980年代後半から1990年代初頭にかけての日本の企業メセナの活況が紹介されています。サントリーホール、Bunkamuraなどの大型複合文化施設の誕生や、サントリー学芸賞・地域文化賞の創設などが、文化が都市空間に躍り出た象徴として挙げられています。著者の提唱するアール・フチュールの活動が、こうした文化隆盛の時代背景の中で捉えられています。
    「一九八九年三月、日本初の大規模複合文化施設『Bunkamura』が誕生した。それによって、大和・渋谷には文化活動が顕彰されるようになった。文化が都市空間に躍り出たのである。」
    「それに先立ち、一九七九年二月には『サントリー学芸賞』『サントリー地域文化賞』が創設され、社会・文化の独創的で優れた研究・評論活動や地域文化の発信に貢献した団体・個人が顕彰されるようになった。」
    「一九八六年十月、東京初のコンサート専用ホール『サントリーホール』が開館した。」
    「技術道」と「芸術道」: フランスのメディアが著者のビジネス活動を「技術道」、芸術活動を「芸術道」と呼んだことが紹介され、日本の「柔道」「武士道」を好むフランス人らしい発想であると評されています。柔道とスポーツとしてのJUDOの対極の共存が、著者の目指す「技術道」と「芸術道」の両極共栄の理想と重ねられています。
    「フランスのマスメディアは、『デザインの未来宣言』に繋がるビジネスの活動を『技術道』と呼び、芸術の活動を『芸術道』と呼んだ。日本の『柔道』『武士道』が好きなフランス人らしい発想である。」
    「つまり、『技術道』と『芸術道』の両極共栄である。」
    「柔道と、スポーツを楽しむJUDO(ジュードー)は対極に共存している。礼を重んじる武道の柔道と、スポーツを楽しむジュードーの対極共栄である。私が目指してきたのはこれなのである。」
    協業と影響: 建築家や音楽家、彫刻家など、様々な分野のクリエイターとの協業が紹介されています。また、柳宗悦らの「民藝運動」が芸術・文化支援活動であったという視点から、著者の活動との類似性が示唆されています。
    「柳宗悦*河井寛次郎*浜田庄司の三氏らが進めた生活文化運動『民藝運動』の芸術・文化支援活動だったからである。私たちの挑戦は芸術文化運動であった。」
    アサヒビール本社ビルとフラムドール: アサヒビール本社ビルのデザイン(泡が溢れるビールジョッキを表現した外観や、屋上の金の炎のオブジェ「フラムドール」)に関するエピソードが紹介されています。当時の社長であった樋口康太郎氏が、多くの候補者の中から著者の紹介したフィリップ・スタルク氏を選んだ経緯や、フラムドールに対する賛否両論が語られています。樋口氏との親交を通じて、ビジネスの楽しさや深さ、建築空間や都市空間についても学んだことが述べられています。
    「二〇二階建てのアサヒビール本社ビルは、隅田川の右岸から眺めると、泡が溢れるビールジョッキを表現しているのが分かる。白と頭頂部の白い外壁により。」
    「屋上には、金色の炎のオブジェが輝いていた。フランス語でフラムドール。」
    「隣接する『スーパードライホール』のオブジェを設計したのはフランスのデザイナー、フィリップ・スタルク氏である。当時社長だった樋口康太郎氏は、多くの候補者の中から私の紹介したスタルク氏を選んだ。」
    「樋口氏は、私のよき理解者であり、アール・フチュール運動の担い手でもあった。」
    三宅一生氏との共通点とデザインへの志: 三宅一生氏とのデビュー時期の近さや、春・秋冬のコレクションをデザインしていた共通点が述べられています。三宅氏の「(前略)工藝は雑器において凡ての仮面を脱ぐのである。」という言葉が引用され、著者の「対極の思考」と共鳴するデザインの本質が示唆されています。デザインが人々に喜びと元気と未来を与えるものであるという著者の信念が改めて表明されています。
    「三宅一生氏は一九七三年にパリコレクションデビューを果たした。私のデビューは一九七八年である。二人の親友だった高田賢三氏(一九三九~二〇二〇)はそれより早い。」
    「この三宅氏の言葉は、私の『対極の思考』とどこまでも響き合う。」
    「そうなのだ。デザインは、喜びと元気と未来を人びとに与える。」
    「原点」「現点」「玄天」: 著者の考える時間の概念が示されています。「原点」は過去を滋味し、「現点」は現在を表し、「玄天」は未来を指すとされています。「玄天」は著者にとって宇宙のことであり、それに迫ること、すなわち円や球のような形を追求することが示唆されています。点、線、面を繋いでも球は簡単には作れないという考察から、デザインの奥深さが示唆されています。
    「『原点』は過去を滋味し、『現点』は現在を表す。そして『玄天』は未来を指す。」
    「『玄天』とは、私にとって宇宙のこと。それに迫ることである。カタチで言えば、円や球のこと。」
    「点を作り、線を作り、面を作っても、球は簡単には作れない。」
    大阪万博のユニフォーム: 1970年の大阪万博におけるパビリオンのユニフォームデザインを担当した経験が語られています。タカラ・ビューティリオン、生活産業館、ペプシ館の各ユニフォームのデザインコンセプトや、それぞれのパビリオンのテーマとの関連性が示唆されています。
    「一九七〇年の大阪万博で、私は三つのパビリオンのユニフォームを担当した。宝塚ファミリーランドのタカラ・ビューティリオンは建築家の黒川紀章氏から、生活産業館は池坊専永氏の堺武人氏からそれぞれ直接、制作を依頼されたのである。来場者がパビリオンのユニフォームでパビリオンを判別できるかどうか、さらに、パビリオンの設定したテーマへ、来場者の理解を促せるかどうかが、必要条件であった。」
    時間軸と共時性: デザインは人々の生活スタイルを捉えることであり、「過去・現在・未来」を与えるデザインは、人々の暮らしに深く関わると述べられています。通時的(歴史の流れ)と共時的(同時性)は対極にあるという認識が示されています。
    「デザインはそもそも、人びとの生活スタイルを捉えることである。『過去・現在・未来』を与えるデザインは、人びとの暮らしに深く関わる。」
    「そして、通時的と共時的は対極にある。」
    ジェンダーレスな視点: 著者が性別にこだわらない理由として、故郷である岸和田のだんじり祭に小学生から高校生まで男女関係なく参加していた経験が挙げられています。自身の醸し出す「中性的なオシャレ」の源泉が、ジェンダーフリーな祭りの環境にあったと考察されています。
    「私が性に拘らないのには理由がある。私のふるさとである大阪府岸和田市の『岸和田だんじり祭』に、小学生から高校生まで参加していたからである。つまり、ジェンダーフリーである。」
    「男性とも女性とも判別のつかない、私の醸し出す『中性的なオシャレ』の世界がそこにあった。」
    ザ・タイガースの衣装: デビュー前のザ・タイガースのステージ衣装を依頼されたエピソードが紹介されています。メンバーの個性を引き立てるピンクのフリル付きブラウスや、金モールを派手に施したジャケットなどをデザインしたことが語られています。GS(グループサウンズ)の他のバンドのコスチュームも手掛けたことが述べられています。
    「布施氏が所属する芸能プロダクションから間もなく連絡があった。近くデビューするザ・タイガースのステージ衣装を作ってほしいと頼まれた。ザ・タイガースは、沢田研二氏がボーカルを務めるグループ・サウンズ(GS)のバンド。」
    「メンバーの長身を引き立てるピンクのフリル付きブラウス、金モールを派手に施した怪しいジャケットなどをデザインした。」
    スポーツとファッション: スポーツとファッションの親和性の高さが指摘され、機能的でシンプル、印象が強く、格好良いことがスポーツウェアの条件であると述べられています。プロ・アマ混成参加チームのユニフォームデザインや、F1のリア・フォードチームのスポンサー、ポロ競技のスポンサーなどを務めた経験が紹介されています。
    「スポーツとファッションは親和性が極めて高い。機能的でシンプル、印象が強くてカッこイイがスポーツウェアの条件である。選手がパフォーマンスを最大限に発揮できる素材、カタチ、色でなければならない。」
    ヴェルディ川崎のユニフォーム: ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)のユニフォームデザインを担当したエピソードが紹介されています。クラブカラーの緑と、ポルトガル語で「緑」を意味する「VERDE」が由来であることが説明されています。ユニフォームに描いた太いストライプは、サッカーボールのカタチやボールの軌跡と呼応させたデザインであることが明かされています。
    「一九九〇年代初めだった。当時、読売クラブ(現東京ヴェルディ)のユニフォームをデザインした。クラブカラーは緑。クラブ名もポルトガル語で『緑』を意味する『VERDE』が由来。ユニフォームに描いた斜線の太いストライプは、サッカーボールのカタチやボールの軌跡と呼応させたのである。」
    フジドリームエアラインズの制服: 静岡県に本社のある航空会社フジドリームエアラインズ(FDA)の客室乗務員の新しい制服を2024年にデザインしたことが紹介されています。制服のデザインを通じて、「喜びと元気と未来」を顧客と社会に与える存在へと転化すること、企業の沿革や社史を考慮したデザインの重要性が述べられています。「三方よし」の精神(売り手よし、買い手よし、世間よし)が、制服デザインにおいても重要であることが強調されています。
    「静岡県に本社のある航空会社『フジドリームエアラインズ(FDA)』から依頼があり、客室乗務員の新しい制服を二〇二四年にデザインした。」
    「制服のカタチ、色、素材、着心地は社会化されると同時に、顧客と社会に『喜びと元気と未来』を与える存在に転化するのである。制服の可能性を広げる条件になり得るのである。」
    「『三方よし』は、『売り手よし』『買い手よし』『世間よし』のことである。私にとっての『三方よし』は、『自分への貢献よし(自利)』『顧客への貢献よし(利他)』『社会への貢献(公利)よし』ということになる。」
    宇宙への想像力: 宇宙服や宇宙船をデザインした経験はないものの、デザインが止まると惟寂の世界が広がり、宇宙への想像力が掻き立てられるという感覚が述べられています。
    「宇宙服は、デザインしたことがない。宇宙船も、デザインしたことがない。デザインが止まると、惟寂の世界が広がり、宇宙への想像力が掻き立てられる。」

  • 2025-新書28冊目

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