- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784473019424
作品紹介・あらすじ
茶室を理想の空間とするために、古来茶匠は構成・用材に至るまで数々の工夫をめぐらせてきた。本書は紹鴎をはじめとして利休・宗旦・有楽・三斎・織部・宗箇・遠州・宗和・石州・不昧らがかかわった茶室にその工夫と創意をたずね、茶匠たちの茶風を探る。
感想・レビュー・書評
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茶室建築の大家である中村昌生氏が、公開講座で講演した内容を本にまとめたもの。専門用語を極力避け、知識のない人でもすっと頭の中に入ってくる柔らかい言葉遣いで、茶室というものの本質が少しだけ見えたような気がした。
第一章は、最初に茶の湯専用の座敷を作った武野紹鴎と、「侘数寄」を確立した千利休の茶室について取り上げる。
茶の湯自体は室町時代から行われており、「茶祖」と呼ばれる村田珠光が茶の湯の精神として「侘」を打ち出した。その後、武野紹鴎が茶の湯専用の座敷を造るが、「侘」の精神から離れたぜいたく趣味に寄る傾向があったため、千利休が「侘数寄」の精神に戻し、究極の形を茶室に表そうとしたのである。
利休の造った茶室として有名な「待庵」は二畳の広さで、果たして客がくつろげるのだろうか、と私は不思議に思っていた。しかし「待庵」は、利休が「侘数寄」の究極の表現として作った実験的な茶室であったらしい。利休は、最小の空間を広く感じさせるために、窓のつくりや位置にこだわり、自由な飾りの創意工夫ができるよう、柱や天井を土壁で塗りまわす「室床」を生みだした。
利休の「侘数寄」を極めようとする精神は、茶の湯の地位を確立させ、弟子たちへと受け継がれていく。
第二章は千家の三代目、宗旦について取り上げる。宗旦は利休の精神をさらに追及し、一畳半で床までも取り除いた究極の「侘」の茶室を造る。一方で、利休の弟子である武将たちは、「侘数寄」を緩やかにする方向に進んでいった。第三章では、織田有楽、細川三斎、古田織部、上田宗箇、小堀遠州といった弟子たちの茶室を取り上げ、その特徴について語る。
また、茶の湯の動向をつぶさに観察していた貴族たちも自分たちの好みの茶室を造り上げた。第四章では貴族の茶室として、大徳寺塔頭にある真珠庵「庭玉軒」、後水尾天皇の別荘の一角に造られた「止観亭」、大阪の水瀬神宮にある「燈心亭」などを取り上げる。
さらに第五章では、武家の出でありながらも利休に心酔し、「侘」の草庵茶室にこだわった片桐石州、石州に影響を受けた松平不昧を取り上げる。
最後の第六章では、時代を経るに従い主流になってきた多人数で稽古のできる広間の茶室を取り上げ、千家の広間の茶室や近代の茶室を紹介する。
茶室は茶の湯道具の一つである、と冒頭で著者が述べているように、利休によって確立された茶の湯の「侘数寄」の精神が、時代や立場、好みなどにより、茶室の中でアレンジされ、発展してきたのだということが本書を読んでよくわかった。
茶室は決まりごとが多く、窮屈なイメージを持っていたのだが、実は先人たちが積み上げてきた哲学を尊重しつつ、自分なりに造り替えていくまさに「ものづくり」の感覚に近いのではないか、と感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
建築も茶の湯もよくわからないが、ものをつくるということはなんにせよたのしい。ヒトにとって一番大切なことは作意ではないかと思われる。自分の美意識と利便性に基づき、茶人が茶室を改変していく。工人が要求に応えるべく作意と技術で対抗する。茶室には匠同士の熱いコラボレーションがよく見て取れる。
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