- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784473037275
感想・レビュー・書評
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古代から現代までのかなしい短歌を100首集めている。古代の和歌はわかりにくいが解説を読んで、なるほどと思える。現代の短歌はわかりやすいため、そのまま胸に響いてくる。かなわぬ恋の歌、男女や親子の別れの歌、生きていくことの無常の歌、有名人も無名の人の歌もある。たった31文字の歌の中で涙することもできるのだと思った。
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切なく哀しい歌100句と、歌人やその歌の背景が紹介された本。
「百人一首・悲しい版」といいたいところですが、一人の歌人の複数の歌が紹介されているため、「悲しい百首」というべきでしょう。
和歌はやんごとなき方々が雅な思いをつづっているものだと思っていましたが、この本を読むと、人の心を打つ名歌は、やはり歌人の引き裂かれるような感情から生まれてきたものだと納得します。
まずは第一句目を飾る、笠女郎(かさのいらつめ)の歌に圧倒されました。
「思ふにし死にするものにあらませば千たびぞわれは死にかへらまし」
(片思いのつらさだけで人が死ぬものなら、私は既に千回も万回も死ぬことを繰り返しているでしょう)
傍から読むと(きれいな情熱的な歌だな)と思う程度ですが、彼女は既婚者の大伴家持に10年にも渡る片思いをしており、その絶えざる苦しみを歌にしているそうです。
彼女のつらい恋の歌は『万葉集』に29句も収められているとのこと。
大伴家持はその万葉集の選に深く関わっていた人物であることから、二人の複雑な関係を考えるとクラクラします。
藤原良経(九条良経)は、Wikipediaには「頓死」としか書かれていませんが、天井からつき立てられた槍によって殺されたというショッキングな話も載っていました。
国語で「防人の歌」を学んだ時には、その社会的背景まではわかりませんでしたが、防人制度は白村江の戦いで負けたことから中大兄皇子が九州防衛に力を入れようと導入したことも、この本で知りました。
蘇我入鹿の暗殺と大化の改新を行なったほか、大海人皇子から額田王を奪い、防人制度で民衆を巻き込んだ人物。
歴史の流れの必然だったのかもしれませんが、大勢の人が不幸になり、その結果としてかなしい歌が多々生み出されました。
戦国時代の関連本は読んでいる方ですが、最上義光(よしあき)の娘の駒姫についても知ったのはこの本から。
哀れすぎる最期です。
もっと時代が近くなっての歌人としては、山川登美子が印象的でした。
与謝野晶子と鉄幹を奪い合った彼女ながら、身を引いて婚約者と結婚します。
これまで、晶子メインの本ばかり読んでいたため、ライバルの座を退いた登美子のその後のことは知りませんでしたが、それからの彼女の不幸な一生を知り、切なくなりました。
人がもがき、苦しみ、泣き叫びながら残した歌には重みがあり、人間普遍の感情を歌いあげているため、時代を越えてもなお今の私たちに訴えかける力を持っています。
歌人による丁寧な解説によって、美しい結晶のように磨かれた歌に秘められた、生身の人の思いを感じることができました。 -
図書館より。
セルフ企画「短歌を学ぼう」の一環。
万葉集の解説本の次は、いろんな時代の「かなしみ」を題材にした短歌集にスポットを当ててみた。
全体の印象としては、時代を限らないとしつつも、
万葉集・源氏物語・伊勢物語からの連投が目についた。
(万葉集では政治闘争で引き裂かれた恋人たちの交わした歌、源氏では桐壺の巻と宇治十帖から。また伊勢物語から教科書にものっている「玉と答へて」の歌をセレクト。)
個人的には、もう少し戦前・戦後の60年前くらいのものを多く入れてほしかった。。
右ページに歌1首、左ページに解釈と短い考察文という構成は読みやすく、また編者の文章も巧かったので途中でダレずに完読。
(しかし、誤植が多いのが目についた。しかも、恐らく編集途中に置換した文字なのか、同じ間違いがチラホラ…しっかりしてくれ淡交社!!)
以下、気にいった短歌を抜粋。
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相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後(しり)へに額つくごとし
(笠女郎)
水のやうになることそしてみづからでありながらみづからを消すこと
(永井陽子)
海底に眼の無き魚の棲むといふ眼の無き魚の恋しかりけり
(若山牧水)
君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがな
(狭野茅上娘子)
家にあれば笥に盛る飯を草枕 旅にしあれば椎の葉に盛る
(有間皇子)
捜し物ありと誘い夜の蔵に明日征く夫は吾を抱きしむ
(鹿島やす子)
わが世にはつひに逢ふべき人ならずただわびすけといふは冬の花(大井廣)
朱の硯洗はむとしてまなことづわが墓建てらるる日も雪か
(塚本邦雄)
森の奥より銃声聞ゆ あはれあはれ 自ら死ぬる音のよろしさ
(石川啄木)
終止符を打ちましょう そう、ゆっくりとゆめのすべてを消さないように
(笹井宏之)
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著者プロフィール
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