ガンディーとタゴール (レグルス文庫 219)

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  • 第三文明社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784476012194

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  • こうして引用をしていて思うのは、
    もう自分の内的世界の豊饒さのみを求める時期は、
    終わったのではないかということ。
    孤独の中で、神秘に眼を輝かせる態度はこれからもずっと保持していたいけれど、
    思想はさらに深く、本質に手が触れるように、追求していきたいけれど、
    それのみを人生の目的とする生き方は、僕にはおそらくできない。
    タゴールがそうであったように、内面の豊饒さが保持できるようになったならば、
    つまり環境や状況にさゆうされない詩的な認識を持てるようになったのであれば、
    人の中にいて、人の中の歓びや悲しみに、ぐっと入り込んでいくような
    そんな在り方でいたいと、希求しているのかもしれない。
    無理に変えようとはしないけれど、
    そう変わっていくのであれば、それが人間としての道であるのならば、
    流れにのって、そうなりたいと素直に思う。



    タゴールの歌が人間の魂のことばであること

    ベンガル語を母語とする地方の人々の専有物にとどまらず、それらの詩の底流にひそむ思想性によって、ベンガル語圏を超えてインドの他の地方や世界中に… それは万人の心に共通の、人間の魂の音色そのものであるといってよい

    タゴールの横溢する天分と精力は、詩・小説・戯曲・音楽・舞踏・絵画といった文学や芸術の分野だけ発揮されたのではありません。彼は政治の分野でも、初期インド民族運動の有力な指導者の一人として、民衆の先頭に立って反英自治運動を展開しました

    私には、彼の言っていることは一言も理解できませんでした。しかし、その物静かな、ちょっと舌たらずな声の流れるような旋律と、彼の存在の荘厳さが、幼い私の心にもひしひしと、痛いほどに感じられ、私は呪文にかかったように、その場にじっとたちすくんでいました。やがて気が付くと、私の頬に涙が流れていました

    子どもが本来秘めている知識欲や好奇心を刺激しひきだすことが、教育の第一理である

    精神体験はけっして環境の美や、整備された宗教的状況のなかで来るものではない

    タゴールは本質的には詩人・思想家であり、彼が積極的に政治や社会問題に関与したのは、ひとえに時代に生きる人間としての、やむにやまれぬ責任感や同胞愛からだった

    政治や教育などの実践活動に従事するときも、彼は百パーセント詩人であった

    (言葉を)教えることの主な目的は、意味を説明することではなく、心の扉をたたくことだ。

    言葉の意味や内容理解が先行して、日本語のもつ美しさ、言葉の抑揚や響きの美しさを耳をとおして味わい、たのしむ教育が忘れられているように思われる。

    子供は歌詞の意味より、まず歌を口ずさみ、音をとおして言葉にしたしみ、おのずから歌の心を理解してゆくものです。一つ一つの言葉の意味は、後になって、ときには大人になってから理解することが多いのです。

    タゴールにおける詩的・思想的内面化と、後年ガンディーが「(時代の)偉大な勲平」と呼んだ人類へと世界への怠りなき目配りという、一見相矛盾するかに思われる二元性の萌芽である。その間の事情をこのようにみごとに分析している
    ‐ 極端な主観主義と客観世界へのけなげな憂慮という彼の内なる二元性こそは、少年時代から死にいたるまで終生かわることのなかったタゴールの人間性の基本的な特質であった。この二元性はけっして止むことはなかった。言い換えると、精神の均衡はけっして完全にくつがえされることはなかった。ただ、釣り合いをとるための力の平衡が、年齢や経験とともに変化しただけである。自己に沈潜する主観主義と憂鬱な自己省察は、静澄な神秘主義へと成熟したが、いっぽう、客観世界‐すなわち自然と人間への関心はますますその地平線をひろげ、人類への憐憫の情を深めたのである‐

    タゴールは、いっぽうでは神を畏れ、大自然の美に酔う神秘詩人・浪漫詩人でありながら、同時に貧しく善良な庶民の上にのしかかる社会の不正や外国支配の圧制に鋭い批判の眼を向け、さらには人類の運命を憂慮し、警鐘を鳴らし続けたヒューマニティーの兵でした。そして彼の心は、それら両極のあいだを、ときには祈りと瞑想の詩人の方へ、またときには、怒りと心痛の予言者のほうへと、あたかも時計の振子のように大きく揺れ動きましたが、いずれがタゴールの本領であったかと、問うことはできません。なぜなら、振子そのものがあtゴールだからです。


    この美しい世界で わたしは 死にたいとは思わない、
    人々のなかにまじって わたしは生きてゆきたい。
    この日光のもと、この花咲ける森で
    生きとし生けるものの心のなかに 住処がほしい。…
    人間の歓びと悲しみをもって わたしは歌を編もう―
    もしそれで 不滅の家を築くことができるなら。

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著者プロフィール

1928年和歌山県生れ。同志社大学神学部卒業。インド国立ヴィッシュヴァ・バーラティ大学准教授を経て、帰国後、名城大学教授等を歴任。名城大学名誉教授。現代インド思想・文学専攻。


「2015年 『女声合唱とピアノのための 百年後』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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