スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478000847

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  • 世銀の要職という体制側だった人間だからこそ、体制側を公正に批判できる権利と義務がある。それゆえに、彼からは私利私欲を離れた思想の健全さを感じ取ることができる。一時期、慶応義塾大学の客員教授もしていた日本通のノーベル経済学者の分析は貴重です。
    そして、本書は2007年出版ですが、序章と1章以外は「週刊ダイアモンド」掲載コラムを加筆修正したものです。
    2007年当時はブッシュ政権の批判が目立ち、逆に中国を擁護する内容が散見されます。「人権を守るための企業責任とは何か」という一文まで書いているわけですから、当然「共産主義」という体制の独善性についての配慮もあってしかるべきでしょうが、経済学者にそこまで求めるのは酷な話でしょうか?
    とはいえ、トップの責任についての厳しさは容赦ありません。エンロンの元CEOケン・レイが部下のやっていることは知らなかったと責任逃れの発言をしていることに対して、「会社の成功はすべて自分のおかげ、失敗の責任はすべて他の所にある」と思い込んでいるが、彼はその法外な報酬をどうすれば正当化できるのだろうか?という批判をしています。
    また、TPPの問題と怖さについても言及していますので、日本人なら必読でしょう。(最近では脱炭素社会という聞こえのいいトレンド(経済ゲーム)にうまくのせられてしまう日本の指導者にはもはや絶望的です)
    最後に、筆者のプロフィールです。

    ジョセフ・ユージン・スティグリッツ(英: Joseph Eugene Stiglitz、1943年2月9日 - )は、アメリカの経済学者、コロンビア大学教授。1965年 シカゴ大学に移り、宇沢弘文に一年間指導を受ける。1979年にジョン・ベーツ・クラーク賞、2001年にノーベル経済学賞を受賞。IMFの経済政策を厳しく批判している。
    スティグリッツの著名な業績は、ある経済主体が他者の私的情報を得るために使用される技術であるスクリーニングに関するものである。情報の非対称性の理論に対する貢献により2001年、ジョージ・アカロフ、マイケル・スペンスと共にノーベル経済学賞を受賞した。さらに、研究面で数多くの優れた論文を書くだけにとどまらず、自ら経済政策を遂行する立場にもなった。
    2000年7月、スティグリッツは発展途上国が政策を模索することを助け、より多くの市民が経済政策に参加できるようにすることを目的として、コロンビア大学にInitiative for Policy Dialogueを共同設立した。
    数学的手法を使わずに東欧の社会主義体制が失敗した背景や、市場における不完全情報の機能、「自由な市場」が資本家にとって実際はどのようなシステムなのかというテーマに関する見解を著した。
    主張:
    世界の指導者に対し、国内総生産(GDP)の検証で思い悩まず、繁栄を測るより広範な指標を重視するよう呼び掛けている。
    2010年10月現在の欧州中央銀行(ECB)やアメリカの連邦準備理事会(FRB)の超緩和政策は、景気回復を後押しするというより世界を「混乱状態」に陥れていると批判し、日本やブラジルなどの国々は輸出業者の防衛を余儀なくされていると指摘している。
    金融市場にシステムの機能を損なうような取引を控えさせ、世界的危機が貧しい国に与えた打撃に対して償う資金源とするために、金融市場に新しい税を導入するべきだとの見解を示している。また、銀行が私利を追求しても(=貪欲)、それは社会の幸福にはつながらないと指摘している。
    アジアの経済統合はアメリカが市場を支配することへの対抗勢力として非常に重要であることを強調し、南北の貿易格差や国際的な財務不均衡、およびその不安定さといった欠陥を是正することにもなるのではないかと期待している。
    単純な貨幣数量説に従ったマネタリズムには根拠となる理論がなく、一部の実証分析があるだけとして批判しており、コストプッシュ・インフレに対して利上げで対応するような機械的に行うインフレターゲティングには批判的な立場をとっている。
    ・IMF批判
    2002年の『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』の中で彼は、グローバリゼーションの必要性は認めた上で、反グローバリゼーションはむしろワシントン・コンセンサスへの反対を示すものと見ている。その上、いわゆる東アジアの奇跡は、最小政府を志向するワシントン・コンセンサスに従わなかったからこそ実現したものとしており、ワシントン・コンセンサスに対する疑問を呈している。また同書ではIMF批判が展開されており、IMFの推し進めた資本市場の自由化は、アメリカの金融セクターのために広範な市場を開拓した反面、その本来の使命であるはずのグローバルな経済の安定には寄与しなかったとしている。またIMFをG7の債権国の代理者と位置づけており、貧しい国々が貧しいままであるような制度設計をした米国の金融セクターに対する不満を表した。
    その一方で、IMFと表だって対立はしないもののIMFの方針に全面的に従うということもせず独自の発展政策を採っているポーランドなどの国々の成功事例を挙げている(のちにIMFにはリーマン・ショック直後の2008年11月からポーランドから元首相のマレク・ベルカが転身し、2010年6月にポーランド国立銀行総裁として本国に戻るまで欧州局長を務めることになるが、この期間ベルカは国際的な資本移動に関してIMFの公式ブログサイト「iMF Direct」上で最近のIMF内部のマネタリズムの風潮とはかなり異なる、ケインズやスティグリッツと同様の見解を精力的に披露している)。
    IMFなど既存の機関に取って代わるものとして中国主導のアジアインフラ投資銀行や新開発銀行を支持した。
    ・規制緩和
    規制緩和についてこう述べている。「目指すべきは規制緩和などではない。議論すべきは、適切な規制とは何か、ということである。規制なしで、機能する社会はありえない。問うべきなのは、どんな規制が良い規制なのか、ということである。規制緩和が世界金融危機を引き起こした。規制緩和がバブルを生成させた。もちろん、そんなバブルのような好景気は持続可能なものではない。アメリカが率先して金融部門で規制緩和をして、その結果、世界全体が打撃を受け、この大不況に突入した。」
    ・緊縮財政
    欧州連合(EU)が緊縮財政政策を推し進めていることについて、「誤った政策」だと指摘し、欧州域内と米国の経済成長鈍化につながるとの見方を示している。また、EUの緊縮策は間違いなく成功の見込みが最も薄いもので、欧州は自殺に向かっていると語っている。イギリスの財政赤字の削減開始は時期尚早とするゴードン・ブラウン元首相を支持している。
    ・TPP
    タイ政府に、環太平洋戦略的経済連携協定は危険であり、その多国間協定に参加しないように助言をしている。協定内容が非公開であり、製薬会社が自分たちの利益増加のために薬価制限の上限撤廃を求め政治家にロビー活動を行っているためである。協定参加による薬価上昇は、タイ国内産業とりわけジェネリック医薬品産業に打撃をあたえる。
    TPPについてこう述べている。「実際の貿易協定の批准書は、何百ページとあり、そんな協定は「自由」貿易協定ではなく「管理」貿易協定である。こうした貿易協定は、ある特定の利益団体が恩恵を受けるために発効され「管理」されている。アメリカであればUSTR(米国通商代表部)が、産業界のなかでも特別なグループの利益を代弁している。TPPはアメリカの陰謀だと揶揄する人もいるが確かにそういう側面はある。実際に自分が関わったケースでも、二国間の貿易協定で途上国に大変な犠牲を強いることがよくあった。たとえば、ジェネリック医薬品の価格は高騰し、医療へのアクセスが難しくなり、多くの人が死ぬことになる。環境や資本の流れなどあらゆるところで、悪い影響が国民に降りかかってくる。貿易協定は人々の生活を苦しめる結果を生む。もうひとつ例は、GMO(遺伝子組み換え生物)についてである。USTRは日本人の利益のことはまったく念頭にない。日本にとって重要なのは、反・自由貿易的だとか、反米的だと批判されても、その批判に屈しないことである。もし日本が危機的な状況に陥りたくないのなら、重要なことは、アメリカ流のやり方を押し付けるウォールストリートやアメリカ財務省の言いなりになるべきではない。自由化や規制緩和という政策課題を考えるときにはとても慎重になるべきである。日本は本当に必死になって交渉する必要がある。」
    またTPPについてこうも述べている。「TPPはもしかすると期待するほど役に立たない、悪い影響をおよぼすかもしれない。TPPのすべてが明らかになっているわけではないが、医療や知財についても議論されており、イノベーションが失われる危険性もはらんでいる。また、TPPの一部明らかにされている内容によれば、参加国はタバコに関する規制を課すことができなくなる。そうなると、アヘン戦争のようなできごとの二の舞になりかねない。何よりTPPは交渉のプロセスが明らかにされていない。それはすなわち透明性が欠如しているということ。米国はNSA(アメリカ国家安全保障局)を通じて他の国々の動向を確認できたが、他の国々は米国が何を考えているのかを把握できていない。つまり、TPPは米国の、それも米国企業の利益に資するものになるということだ。」
    ・社会格差の是正
    アメリカのシステムをゆがめているのは富裕層で、経済に貢献する以上に稼いでいると指摘し、富裕層に対し増税をすべきだと主張している。
    2012年の時点において労働者の労働環境改善や福利向上を目指し、ジェフリー・サックスやローラ・タイソン、ロバート・ライシュなどと協同し米国議会へ2014年度までに現行の時給7.25ドルから9.80ドルへの最低賃金引き上げを求める手紙を送っている。
    2014年の時点においてピーター・ダイアモンド、エリック・マスキン、ロバート・ソロー、ローレンス・サマーズ、マイケル・スペンスなど主要な経済学者達と共に、米国の最低賃金を2016年までに10.10ドルまで引き上げるよう米国大統領と米国議会に請願している。
    ・日本について
    日本の海外援助について「日本は世界第二位の経済大国であり、グローバリゼーションを良くするために責任を負っている。日本は経済発展を実現した国でもあり、世界の平和や貧困撲滅に前向きに取り組んできた国である。日本に対しては、今後も途上国援助に積極的に関与してもらいたい」と述べている。
    日本がバブル崩壊後から10年以上も名目GDPの成長不全やデフレーションに陥っていることを指摘し、その状態から経済を好転させるために財政赤字を紙幣増刷によってファイナンスするように提言している。新しく刷られたお金を人々が持てばそれらの人々のいくらかが財やサービスの消費にお金をまわそうとするだろうし、銀行など金融機関が貸し出しを増やし景気を刺激するからである。これはいわば政府が発行する紙幣、すなわち政府紙幣のことである。
    日本の経済を刺激する方法に、円高を食い止め製造業の輸出競争力を向上させる、サービス産業の強化、富裕層の資金を低所得の人たちに行き渡らせ格差の是正に取り組むこと等を挙げている。日本の円について「日本のデフレの原因は、為替の影響が大きかった。円安が続けば、その状況は変わる。現実問題として、アメリカが金融緩和を進めれば、円高になるので、対抗することが必要だ」と述べている。
    2013年3月21日、安倍晋三首相と会談した。翌22日、東京で記者団に対し、日本の金融政策を通じた円相場の押し下げは正しいことだとの認識を明らかにし、安倍首相の経済政策について楽観的な見通しを示した。
    安倍首相の経済政策「アベノミクス」の副作用が懸念されていることについて「実施しないほうが将来的なリスクになる」と述べている。
    アベノミクスについてこう述べている。「安倍総理が掲げる三本の矢のなかでもっとも難しい三本目の矢の成長戦略については、持続可能な成長を促すためにいかにお金を使うか、これは非常に難しい問題である。イノベーションといえば、人が働くコストを省くことに焦点を合わせてきた。その結果、他方では高い失業率に悩まされている。これはパズルみたいなもので、失業率が高いときに、さらに失業者を増加させることにつながる、労働力を省くイノベーションを追求していていいのか。」
    日本についてこう述べた。「アベノミクスでは、拡張型の金融政策が必要だということを認識している。また強力な財政政策が必要であり、そして規制緩和など構造上の強力な政策が必要であるということを認識している。世界の中でも、包括的な枠組みを持っている数少ない国だ。日本は公共債務が多い。予算の状況を改善しながら、同時に経済に対して刺激策を講じることができるかどうか。私はできると思っているが、それに成功するためには各々の政策を慎重に設計しなければならない。構造改革を考える際は、どのような大きな問題が日本の前に立ちはだかっているのか、またどんな構造改革によって効率を改善し、国民の幸せを改善できるのかを真剣に考えなければならない。そのため、人々は製造業からシフトしなければならない。だからこそイノベーションが必要になってくる。生産年齢人口の減少を調整した場合、日本は過去10年間、OECD諸国の中で最も成功している国の1つだ。ここで必要なことは三本の矢と呼ばれる包括的な経済政策に関する行動計画だ。まず金融政策はターゲットを絞ることで成功している。これを拡張型の財政政策で補完すべきだ。そして規制をコントロールして、経済に刺激を与えることができるか。私は、こうした構造上の改革を日本が成し遂げ、持続可能な繁栄を遂げることができ、そして世界に対して模範を示すことができると信じている。」(ウィキペディア)

  • ・内容が若干古い
    ・少々難しい

  • 2007
    ノーベル経済学賞受賞した経済の大家

  • (08.5.29)

  • 8ポンド(購入時:1,750円)
    新品

  • ノーベル経済学賞受賞者であるスティグリッツ先生による寄稿記事を
    『週刊ダイヤモンド』誌が連載していたもの。
    内容は、雑誌連載ゆえの区分そのままだったため、
    安直な弱輩者は、不謹慎にも気になったトピックのみを読んだ。

    第3章以降は、ブッシュ政権の経済政策全般に対する批判に終始しながら世界経済を解説。

    視覚データ・図が皆無かつ縦書き体裁。

    他畑からの読者としては、顰め面をしてしまうことも多い装丁だった。



  • スティグリッツの2003年から2007年にかけての経済コラム集。スティグリッツは、1997年のアジア通貨危機に対するIMFの救済策内対する問題点を経済学的に明らかにした勇猛果敢なマクロ経済学者。
     タイを発祥とするアジア通貨危機は、「返済能力の問題」か、あるいは「流動性の問題」かであった。IMFは通貨危機を「返済能力の問題」と認識したのである。ここが誤診の始まりで、その誤診の上に、構造解改革の要求まで付け加えた。IMFの97年の対応については後日詳細を明記できたらなと思うが・・・・・。

     IMFの改革も主導したとされている。
     
     また、フリードマン流のマネタリズムに対しても疑問を呈し、インフレターゲットに対しても「実質金利」を下げることで投資が活発になるという経路について疑問を呈して、これを批判している。実質金利は、短期国債と長期国債の相対的な供給量を変えることによって、資産の価格に影響を与え、よって長期実質金利に影響を与えることが出来るとしている。金融政策は実質金利よりも、むしろ信用のアベイラビリティー(可用性)を通じて景気に影響を及ぼすのである、としている。信用供給の方が重要だと説いている。インフレターゲット(物価安定化金融政策)については、スティグリッツは反対しており、2002年時から「転向」したようである。というのも、「スティグリッツによる日本経済再生の処方箋」として黒木氏が掲載している通り、インフレターゲットを再生の処方箋として述べているからである。
     巻頭論文に「21世紀はじめの日本と世界」が掲載。これだけの紙幅があれば、十分に述べたいことが述べられるだろう。似たような経済論集にクルーグマンの「クルーグマン教授の経済入門 (日経ビジネス人文庫)」「良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)」があるが、それらとの対比で言うとスティグリッツは「社民」よりの言辞が目立つ。それならそれでいいのだが、その根拠の明示が少なく、理論を説くといった風情がないのも肩透かし気味。

     各コラムが、紙幅の関係もあってだろうが、短いので、それぞれに読み応えがないのが非常に残念。
     
     とはいえ社民的なマクロ経済学が、日本のマクロ経済学者には少ないように思うので、彼のような視点からの日本経済に対する指摘は、すこぶる貴重なことであろう。マクロ経済が、あまりに「自由主義」へ傾斜しているのは、その学者が自由主義=価値観からも自由であるとの錯覚を持つことからも、正当性を過激に主張する根拠を与えることになり、「政治的」に危険でさえあるからである。

  • 「経済教室」って書いてあるけど経済学について特に良くわかるようになるわけではない。スティグリッツの経済に関する意見書をまとめたようなもの。グローバリゼーションやブッシュ大統領の政策を批判している。グローバリゼーションについてはそれ自体を否定しているわけではないけど、ケインズの「長期的には我々は死んでいる」の言葉を引用して長期的には恩恵を受けるとしても短期的には人々を不幸にするんだからそこに経済政策が必要になるというようなロジックで論を展開している。最近の世界経済のトピックをおさえるという点ではすごくよい本。

  • スティグリッツ教授のブッシュ批判です。

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