反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

  • ダイヤモンド社
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感想 : 46
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478023228

感想・レビュー・書評

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  • お喋りな友人はいるだろうか。纏まらない会話を文字数制限無視して喋り倒し、聞いてもいないのに説明口調で話し続ける。勝手に脱線する。ボールキープし続けて、パスも出さないしキャッチボールもしない。自分の足下にボールを落とし、自ら拾って話し続けるのだ。知識もひけらかしたいのだろう、連鎖反応で注釈まで添えてくる。そんな人と会話すると、相槌さえも自殺行為になるから、ただただその場を切り上げる作戦に集中する。文字通り、我々は、そうした存在に時間と寿命を奪われている。

    本著は、そうした存在を本に閉じ込めたような仕立てだ。読書に体力がいる。その疲労感により、重みのある読書だという錯覚を味わう事も可能だが、多くは勘違いだ。論理的に、頭の整理をして話そうよ。いや、著者のスタイルを考え直してみる。ここで主張されているのは「反脆弱性」。…無秩序、非線形的、変動性の話だ。なるほど、規則性や体系を否定してきたわけだ。

    イライラの一例を本著から示そう。
    草食動物は毎日安定的に草を食む。肉食動物は、不定期に獲物を獲得する。だから、人間はタンパク質は断続的に食べる方が良いのだ、と確信したらしい。そうした観点からも断食は身体に良い。万事がこんな調子で、根拠が無さすぎる。それに対して、「自分に理解できないからといって不合理とは限らない」という名言まで登場する。後件肯定の誤謬のような言葉も出てくる。著者自身が、誤謬に取り憑かれている気がする。

    しかし、こうした本にエンカウントした場合の対処法がある。会話と同じ。発話の単語から思い付きで横に逸れた論旨は斜め読みしても良くて、拾い読みしながら煩く感じたら畳んでしまう事だ。勿論、球数が多いので、これは勉強になるなという内容も多く、全てを否定するものではない。

  • タイトルの反脆弱性というのは、脆弱性の英語「fragility(もろさ)」の対義語がないことから、著者が作り出した造語“Antifragility”の日本語訳。

    あらゆる物事は、脆弱、頑健、反脆弱の3つに分けることができ、この本で最も大切とされているのは、この反脆弱性です。

    反脆弱性と言われ、ぱっと頭に浮かんだのは、心理学の「レジリエンス」でした。
    また、先日読んだ「ネガティブケイパビリティ」も、「不確実性に耐え抜く力」と捉えれば、こちらに当てはまると思っていましたが、この本ではそれらは「頑健さ」というカテゴリーになります。

    反脆弱性とは、簡単に言えば、「不確実性を糧にして成長すること」です。
    これだけで考えれば、なんだレジリエンスと一緒ではないかと思うかもしれませんが、
    反脆弱性は、「能動的に小さな失敗をすることで、成長していくこと」を言います。

    人は快適性・利便性・効率性を求めて、リスクやストレスを避けている、と著者は説きます。
    また、こうしてリスクを避け続けると、ブラックスワン(システムが一気に崩壊すること)にでくわし、大きな損失を生み出します。
    (この箇所を読んで、この本がコロナウイルス関連本の中にあったことの意味がなんとなくわかりました。)

    全体を通して読んでいて、この本が素晴らしいと思った点は、筆者が自分の主張と行動を合わせていることでした。

    一見、普通なことのようにも思えますが、言っていることとやっていることが矛盾している人はかなり多くいます。

    リスクを負うべきだと言いながら、自分だけオプションをもらいながら安全圏にいる人など、数えればきりがありませんが、著者が本の中でバッサバッサと力強い言葉で切り付けていく様は、痛快で、英語がもう少しできたら原本で読みたい、と思うほどでした。

    文章に力がこもっていて、日本語訳にもそのエッセンスが見事に詰め込まれていて、文章の奥ゆかしさを改めて実感させられました。

    大切なのは、著者の考えを知り、自分ならどうするべきかを導き出すことだと思います。

    知識を得るだけでは、脆いと思います。行動に移し、身銭を切り、失敗を繰り返すことで経験は磨かれ、自分だけの経験則(ヒューリスティック)は作られていくのだと思います。

    「反脆さ」という考えを知ることにとどめることなく、自らも「反脆弱性」を身につけていきたいですね。

  • 上巻につづき、おすすめの本です。

    七面鳥問題というものがあります。
    七面鳥はかいがいしく世話をしてくれる飼い主からの愛を毎日感じて生きています。今まで毎日受けている世話という"データ"によると、今後もずっとこの幸せな生活が続くことが予測できる、と七面鳥は考えました。この幸せが終わりを告げる、という証拠はどこを探しても見つからないのですから。しかしクリスマスイブがやってくると、七面鳥は屠殺されて飼い主の食卓に並びましたとさ。

    著者は、今までのデータを元にして今後を予測するのはとても困難であることの例として、この七面鳥問題を挙げています。"証拠がない"ことは、"ないことの証拠"ではないのです。
    馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんが、実際多くの人はこの七面鳥と同じような間違いをおかしています、
    例えば2008年頃の投資家達。彼らはこの成長が終わる"証拠はない"、として、今後もこの成長が続くと"予測"していました。しかしリーマンショックによってその成長は終わりを告げます。

    この七面鳥の誤謬からわかるように、現実世界という極めて複雑なシステムにおいては、予測というのはほぼ無意味です。どんなにデータがあっても、この予測不可能性は原理的にかわりません。
    上下巻を通して、著者はこのような世界でどう生きていくか、についての方針を与えます。

    この下巻の付録にはグラフを用いたわかりやすい解説があり、本編でなんとなくの理解で終わっていたものも、数学的、視覚的な表現で理解を深められるようになっています。

  • 傑作。
    日々、考えていた事感じていたことにピタリと当てはまる考えをいただいた。
    結論はシンプル。それにいたるまでの様々な事例を上巻で。
    下巻ではそのまとめが加速するつくりに夢中になる。

    ブラックスワンが起きる前提にたち、想像外の変動に耐える方法として、常に脆くない姿勢を持っておきたい。
    特に、身銭を切ることによる行動に信念を添える考えは人としての倫理観を考え直すのに参考になった。

  • とても示唆に富む本なのだけど、色々考えてしまって進みませんでした。でも、もう少し通して理解しないといけない内容でした。自分もモデルを作っていたからわかるけど、モデルは基本的に線形結合。特に一昔前の多変量解析は線形推定検定論以外の何物でもない。ただ、こうした推論で行くと、どうしてもテールの事象、すなわち出現確率が小さくて、でも起こった時のエクスポージャーが大きなものは過小評価されてしまう。特に損失期待値などを出そうものなら、頻度の小ささでエクスポージャーの大きさを見失ってしまう。ただ、テール事象は思ったほど起こらないことではない。そして起こった時に関連性があって、連鎖的に起こる事象も無視できない。その時のエクスポージャーの大きさは推論の域を超えているかもしれない。それから、昔からあり淘汰されていないものが正しいという考え方。リスクを取っている奴が偉いという考え方。どれもこれまでの自分の思考と違うように思うけど妙に説得力がありました。この辺が消化しきれていないけど、とても気になった点。いずれまた整理します。

  • 下巻で印象に残ったのは、「否定の道」と「身銭を切る」という所。舌鋒鋭く他者を批判するところは、読んでいて楽しい物ではなかった。アメリカ人だとスッキリするのかな?

    294 ページに、この本の本質を表す言葉が紹介されている。
    「全てのものは、変動性によって得または損をする。脆さとは、変動性や不確実性によって損をするものである。」

    反脆さは、変動性によって損をしないといったところか…

    医原病とか、まあ、なんとなくそうなんだろうなぁ〜とか頭の片隅に残る情報が多かった感じで、結局のところ、反脆さの例を長々と読まされ、モヤっと感が残った。

    シンプルに長過ぎる本。

  • 教科書の"知識"には、ある次元が抜け落ちている。平均の概念と同じで、利得の隠れた非対称性が見落とされているのだ。世界の構造を研究したり、「正しい」か「正しくない」かを理解したりするのではなく、自分の行動のペイオフ(対価)に着目するという発想が、文化史の中からすっぽりと抜け落ちてしまっている。恐ろしいくらいに。いちばん大事なのは、ペイオフ(事象によって生じる利得や損失)であって、事象そのものではない。p42

  • 「なんでも強くしすぎると想定より強い外力に対しては無力。ある程度の弾力が必要だ。」とのメッセージ。
    色々なエピソードを交えながら書かれているが長すぎると思う。

  • 反脆弱性を意識することで、世界の見方が変わる。

  • 作者がキレまくっていて、ある意味面白い。
    過激なところもあるが、力強いメッセージが多く勇気づけられた。
    小さくて失敗ができて選択肢があるのは強い証拠

    つながりがあると思う本
    失敗の科学
    選択の科学
    世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか

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