チェーンストア経営専門コンサルタント・渥美俊一氏の本。
287ページ。長い!
1926年生まれ(85歳?)、東大法学部卒。
読売新聞社を経て、日本リテイリングセンターを設立し、チェーンストア産業づくりの研究団体ペガサスクラブの主宰者でもある。
簡単に言ってしまえば、ダイエー・イオン・イトーヨーカ堂・西友・しまむらといった、
現在大企業と考えられる数多くの流通・小売を主とした企業を
各社が小さかった頃から先導し、たった半世紀弱で、
日本に現在の形の流通・小売の形を普及させた人。
一般には全く有名ではないが、産業の発達を考えると、とてつもなく偉大な人。
文章自体は、かなり難解
…というよりも、流通・小売の産業に従事していない人間には、常識的な知識・理解がなかなか進まないので、読みづらい。
また、半世紀前から現代までの流通・小売の企業をある程度把握していないと、文章中で書かれている内容がイメージしにくい。
少なくとも、自分は業界の門外漢なので、読みづらいと感じた。
その上、287ページあるので、結構時間かかりました!!
ただ、情報量に関しては、1800円という本の価格からすると、それ以上の価値はある。
雑誌の連載をまとめた本であるため、文章中、内容が重複する箇所が多分に見られ、
また、筆者自身の成果に対する「自信」が随所に見られるため、
巨人のナベツネを、イメージだけで「老害」と判断してしまう人には、
若干イラっとくる文章かもしれない。
(つまり、表面的な部分だけで他人を判断する人には不向きということ)
しかし、現代までの成果とそれに至るプロセス、現状の課題やその原因などに関して、
しっかりと指摘されており、その意味では、
日本の流通・小売産業の勃興における歴史的背景や裏事情などから、
この半世紀に起こってきたことまでをカバーする総合的な解説書としては、
非常に内容の濃い一冊だと思う。
渥美氏が指摘しているように、流通・小売産業は、
世界的に見た時、発展するのに非常に長い時間がかかるのが普通であり
また、日本には日本の商習慣という独特の事情があることが産業発展の障害ともなり得たが、
その事情を勘案しても、半世紀以内という短期間で現状の形を達成できたことは、
まさに「流通革命」と言っても言い過ぎではないのだと思う。
詳細な各論・原因分析などについては、再読の上で理解していきたいと思う。
この本の中で、渥美氏が一貫して説いているのは、
「日本人に真の豊かさを提供するために、流通・小売産業とはいかにあるべきか」
という視点であり、また、
「商業は国民の生活と日常の暮らしを守り、豊かにしていく一番重要な産業である」
という信念である。
その視点と信念に基づいて、渥美氏は、
日本にアメリカ的チェーンストアを導入し、商品の価格破壊を行ってきたわけだが、
それは一方では正しく、また一部では限界もあるというのが自分なりの考えである。
それは、現状の世界中での社会の行き詰まりが、
渥美氏が模範としてきたアメリカ的モデルの限界にある程度起因しているのではないか思うからである。
しかし、渥美氏が指摘するように、彼が導入してきた「流通革命」が完璧な状態で社会に定着しているわけではない。
また、この流通・小売だけが、社会の全ての幸福を担保するものでもない。
とすれば、我々に課せられた今後の課題は、
「真の豊かさ」という視点に沿った、より完璧な形の商業の在り方を作っていくことである。
また、流通・小売が、一般に低賃金になりやすいのは、
結局のところ、こうした産業が、社会の中で大切な産業であるという認識が乏しく、
また人材が集まらないために、産業として未成熟のままであるという事情も読み取れた。
個人的に、流通・小売に直接従事する人間ではないが、自分の仕事の中で、
以上のような視点を新たに取り入れていくことが必要だと感じた。