さっと読める割には内容の濃い良書であった。
「無理かもしれない」「かろうじて手が届く挑戦」が成長を生む。
マルチタスクは百害あって一利なし。
作業時間50分+休息7分のサイクルが最も効率的。
休息は散歩や自然の風景を見るなど仕事から一時的に離れる。
「成長型マインドセット」を身に付ける。
ストレスを感じたら「チャレンジ反応」でストレスをポジティブに受け入れる。
マインドフルネスは短時間(1分)でも毎日続けることが重要。
人の感情は移るのでポジティブな人と付き合う。
優秀な人はやり続ける能力が秀でているので、毎日職場に来て、淡々と仕事をする。
自己を超越した目的をもつと脳はリミッターを外す。
(自己のための目的では身体を守るためストレスにさらされると「闘争・逃走反応」を示し、ストレスから逃げてしまう。
目的を定めて、日々の活動に取り入れ(見える場所に貼り出す)、毎晩振り返る(日記)。
・頭のなかで「無理かもしれない」という心細そうな声が聞こえたら、あなたは正しい道に立っていると考えていい。心がいつものコンフォートゾーンに戻りたがっているのだ。「かろうじて手が届く挑戦」とは、思い切って歩きなれた道から外れて、ややきつい道を進むことに他ならない。
・複数の仕事に同時に取り組むと、タスクが変わるたびに、脳は活性化させる領域を切り替えるか、または分割統治みたいに、タスクごとに一部の認知能力を割り当てる。その結果、マルチタスクで仕事をするとクオリティも生産性も低下することが、数多くの研究で証明されている。
・マルチタスクによって悪影響を受けるのは、短期的なパフオーマンスだけではない。ある研究によると、「慢性的に」マルチタスクを実践する人は、いらない情報を除外する能力も、パターンを認識する能力も、長期的な記憶力も振るわないそうだ。
・報酬を受け取るときよりも、報酬を求めて行動するときのほうが、ドーパミンの分泌量は多いのである。ギャンブル依存症はその典型。また同じ理由でスマホを手放せないでいる。
・スマホによる注意散漫を防止するには、視界に入れないことが一番いいのだ。ただしポケットなどではなくカバンや机の中など触れないところにしまう必要がある。
・高い判断力や知性が求められる職業に従事している人の習慣を調べた結果、作業時間50分+休息7分のサイクルが一番効率が良いという結論に達している。
・スマホの通知をチェックしてしまう、電子メールブラウザを立ち上げてしまう、ついぽんやりしてしまうなどして、なかなか高い集中力を維持できない人は、10~15分ぐらいの短い作業時間から始めて、週が変わるたびに作業時間を少しずつ長くしていこう。
・能力は練習で伸ばせるというこのような考え方を「成長型マインドセット」と名づけた。成長型マインドセットの生徒たちは、自分を追い込むのを厭わず、「かろうじて手が届く挑戦」を探し出し、たとえ失敗しても、それをポジティブにとらえて教訓を学ぶ。対照的に、固定型マインドセットの生徒たちは挑戦したがらず、状況が困難になるしあきらめてしまう。
・成長型マインドセットを身につけ、努力すればスキルは身につくと信じれば、成長の糧となる善玉ストレスともっと向き合えるようになるだろう。
・人間は反射的に、ストレスを最小限にとどめ、何としてでも避けようしする。ストレスを避けられない場合は、「ストレスに対処する方法」や「ストレスを乗り越える戦略」を駆使して、ダメージを最小限にとどめようとする。これを改めたほうがいいのはわかっているが、このような偏見を克服するのは簡単ではないらしい。
・ストレスにさらされたたきに「チャレンジ反応(ストレスは成長の機会で有意義なものと考える)」が起きると、人は自分でコントロールできることに集中する。恐怖感や不安などのネガティブな感情は気にならなくなる。物事を冷静に対処できるようになるし、かえって生き生きする人もいる。
・平凡な選手たちは、ストレスを回避すべきもの、無視すべきもの、抑圧すべきものと考えていた。ストレスがあると能力を十分に発揮できないと思い込んでいたのだ。他方で、一流の選手たちは、ストレスとそれに伴う強い感情は、能力を発揮する上で助けになると考えていた。ストレスがあると、身体的能力を最大限に発揮する準備ができるからだ。
・つまり、一流の選手たちはストレスに対してチャレンジ反応を示したため、あまり不安を感じなかったといいうわけだ。おまけにストレスを感じると、呼吸が速くなるなどの生理的覚醒が起きる。プールのなかで彼らは、その生理反応を爆発的な推進カへと切り替えたのだ。
・心を落ち着かせようとするよりも、「本番前の不安を興奮状態だと思い込む」と、有利に働く場合が多いと指摘されている。本番前の緊張感を抑えつけようとすると、本能は「何かがおかしい」と感じ取る。そうなると状況はさらに悪化するし、不安を打ち消そうと心と体のエネルギーを消耗してしまう―そのエネルギーを、本番に向けたほうがどれだけ有意義だろうか。
・「私はわくわくしているのだ」と自分に言い聞かせるだけで、「警戒マインドセット」(ストレスと不安を感じる状態)から「絶好機マインドセット」(活力に満ちあふれ、準備が整った状態)に切り替わるという。「心を落ち着けようとする人よりも、不安による興奮状態をわくわく感しとらえる人のほうが、能力を発揮しやすい」と結論づけている。
・順調に昇進して高い評価も受け、仕事はうまくいっていたが、自分には合わないと感じたそうだ。物理的な報酬や地位ばかりを追い求める自分に気づいたからだ。やがて仕事に集中できなくなり、せわしなく何かを考え続ける頭を落ち着かせることができなくなった。職場を出たあとも、心は常に職場にあったという。グーグル創業時の社員たちと同様に、心のスイッチをオフにできなかったのである。
・「そんなぼくが変わったのは、マインドフルネスを真剣に学ぼうと思つたのがきっかけでした」と彼はいう。規則正しく瞑想することを決意した彼は、1日1分の瞑想から始めた。ほんの数週間で、大きな変化が見られたそうだ。自分自身や自分の感情を敏感に感じ取れるようになり、どんな感情がどんな行動を引き起こしやすいかを意識できるようになった。問題解決をするときや仕事中は、頭のなかは相変わらずめまぐるしく展開していたが、それも夜には休められるようになった。人の話に耳を傾け、よく眠れるようにもなった。
・瞑想する時間を長くし、回数も増やしたところ、自分をコントロールできるようになり、まわりの意見に振りまわされなくなったそうだ。「たとえるなら、人生のすべてが良くなったという感じです」と彼はいう。
・瞑想の時間は1分間から始め、数日おきに30~45秒ずつ時間を延ばしていこう。瞑想は長くやることよりも、頻繁にやることが大事だ。短い時間でも構わないので、毎日瞑想しよう。
・人がぼんやりして空想をすると、脳の一領域がいつも活発になるのが観察できた。レイクルはこの領域を「デフォルト・モード・ネットワーク」と名づける。おもしろいことに、患者が課題に集中し始めたとたんにデフォルト・モード・ネットワークは不活発になり、タスク・ポジティブ・ネットワークが再び活発になったという。
・仕事から離れるには図太い神経がいる。期限が追っているときは特にそうだ。遠くまで散歩に出かける時間がないこともあるだろう。だが幸いにも、ちよっと歩くだけでも絶大な効果を期待できる。忙しくてパソコンの前から離れられないときは、フェイスブックやツイッターではなく、「ナショナルジオグラフィック」や「アウトサイドマガジン」にある風景画像を閲覧してまどうだろう。
・緊張しているなと感じるとき、心は脅威に対して構えている状態で、それはやがてストレスモードになる。キーボードやバーべルから離れて休憩を取ったあとも緊張が解けないし、休息の効果が半減してしまう。
・あなたの休憩がぐずぐずと居座るストレスに乗っ取られたかどうかはすぐに判断できる。大抵の場合、肩(力が入っていないか?)、前腕(筋肉が収縮していないか?)、あご(歯を食いしばっていないか?)の感覚でわかる。身に覚えのある人は、短縮版のマインドフルネス瞑想法をやってみよう。
・ストレスを感じると、人は往々にして内向きになって外界との間に壁を作りがちだからだ。最悪の場合、ストレスがどんどん大きくなると、頭のなかがその間題でいっぱいになって悪循環に陥ることもある。だが、友人と一緒にリラックスして過ごすことから得られるメリットは大きい。過酷な状況のあとは、そのメリットがさらに大きく感じられる。人との交流はいつでもできるが、リラックスできる環境でなければ効果は期待できない。同僚とカフェでコーヒーを飲んでも仕事のことばかり話していては、たいした癒しにほならない。そのため、交流するなら仕事のあとがお勧めだ。
・現代は、ー日中仕事ができる環境が整ったおかげで、インターネットをチェックしなくては、もっと働かなくては、と思わざるを得ない状況になったのだ。「昼間の作業だけでは仕事が終わらない」と自らを説得して、夜も仕事に追われる。
実際は、就寝直前まで働くなど到底お勧めできない。たとえ就寝の数時間前に仕事を終わらせたとしても、われわれが凝視するデジタル機器の画面の影響で、その後、何時間も眠りに支障を来すからだ。
・あれこれ考えてしまって落ち着かないときは、就寝前に簡単にマインドフルネス瞑想法をやってみよう。
・ピークの時間帯には意識が優勢になり、集中力と注意力が格段に増す。だがオフピークの時間帯には、くたびれていて集中力が途切れがちになり、創造力が活性化しやすくなる。となれば当然、朝型の人は夜に創造的な仕事をやるほうがはかどるし、夜型の人は午前中のほうがおもしろい発想が生まれやすくなる。
・伝染しやすいのはモチべーションだけではない。幸せそうな人(笑顔の人など)や悲しそうな人(眉をしかめている人など)を見ると、脳内でこれらの感情に関わるニューラルネットワークが活性化する。人間は感情移入しやすいだけではない。世の中には、伝染しやすい感情があり、伝染した大人は、つい同じような行動や振る舞いをしたくなるという。
・最高のパフオーマンスを発揮する人は常に優秀な人とは限らないが、やり続ける能力は秀でている。毎日職場に来て、淡々と仕事をする。社会科学のさまざまな文献によると「心構えをすると行動が誘発されやすくなる」という。能力を発揮する人はこのことに気づいていて、就業日にはとりあえず仕事を始める。
・歴史を振り返ってみると、人間が自己を超越する目的や個人を超える大義のために全力を尽くした結果、途方もない力を発揮したという話は枚挙にいとまかない。「自分よりも大きな目的のために一心不乱になると、自我が縮小するからだ」とストレッチャーは考える。
・自我は「自己」を守る役割を担っている。われわれが何らかの脅威に直面したときに、「逃げろ」と命令するのが自我だ。だが、われわれが自己を超越し、それに伴って自我が縮小すると、恐怖心や不安などの防御メカニズムが効かなくなり、驚くほどの力を発揮できるようになる。まったく新しい可能性が広がるのである。
・運動したあとに被験者が「疲労困ばいでもうこれ以上筋肉が動かない」と訴えても、電流で刺激を与えると、まぼ毎回筋肉は再び動けるようになる。
・疲労を覚えるのは体だという一般的な思い込みは間違いで、実際は脳だと結論づけた。筋肉が疲弊するのではなく、筋肉にはまだ余力が残っている段階で、脳がストップをかけるというわけだ。
・恐怖や不安に直面したとき、自我はわれわれを止めようとする。すなわち、人間は苦しい状況に陥ると、撤退するようにプログラムされているのだ。
・自分にとって核となる価値観を確認した人は、確認していない人よりも、脅威や恐怖を克服しようとする確率がずっと高くなるのである。
・不安な状況や、気後れしそうな状況になるし、脳は―すなわちセントラルガパナーか、自我か、自己が―反射的にわれわれを失敗から守ろうとする。われわれにストップをかけて、方向転換させようとするのだ。失敗しても、体が傷つくわけではないとしても、自我は心が傷を負うのも嫌う。だから、われわれが恥をかかないよう、安全なルートに導こうとする。心のリミッターを解除できるのは、われわれが「自己」を超越したときだけなのである。
・自分の仕事が大きな目的に貢献していると認識すると、日々の業務はおろか、雑用のパフオーマンスも上がる。
・賃金や名声などのよくあるインセンティブよりも、人のために何かをするほうが、ずっとモチべーションが上がりやすいことがわかる。
・燃え尽き症候群は、「闘争・逃走反応」と呼ばれるストレス反応と密接に関係している。人間は長期にわたって過度なストレスにさらされると、逃走反応が起きて、ストレス要因から逃げ出したくなる。燃え尽き症候群は、自分の能力を出し切ろうと無理しがちな人によく起きる症状だ。というのも、少しずつ成長し向上していく過程で、ストレスが何日、何週間、何カ月、何年と積み重なってしまうからだ。
・負荷と休息を交互に繰り返すと燃え尽き症候群を予防できる。といっても、能力の限界を押し上げようしすると(それが目標なのだが)無理がたたって境界線を越えることがある。これを越えると、燃え尽きたような気持ちになる。
・あなたが燃え尽き症候群になったとしても、基本的にはその仕事がら距離を置かない。むしろ、アプローチを変えつつ、その仕事との距離を縮めることになる。この新たな対処法というのは、あなたの仕事分野で「お返し」することだ。ボランティアでも、指導でも、何をしても構わないが、人助けに集中することが基本となる。人助けすると、脳内の報酬系や快楽中枢が活性化する。すると気分が良くなるし、仕事に再び前向きに取り組めるようになる。「お返し」することでかえって元気をもらい、モチべーションも上がるというわけだ。
・(自己を超越する)目的を定める。
①「核となる価値観」を5つ選び出す。②核となる価値観を「カスタマイズ」する。③核となる価値観に「順位」をつける。④「声明文」を書く。
・日々の活動に取り入れる。
①目のつくところに「目的」を貼り出す(不安に陥りやすい場所や、モチべーションを上げてもうひと踏ん張りしたくなりそうな場所がいいだろう。何かに挑んでいる最中に目を向けそうな場所に貼ること)。
②セルフトーク(心の中のつぶやき(短く具体的な言葉で何度も繰り返そう)は厳しい状況でもモチべーションし忍耐力をアップさせる)。
③「毎晩」その日の行動を振り返る(日記に自分の思いを書きつづりながら、生きていくうえで欠かせない本質的な問題について深く考えることだ。これをやると、免疫力がアップすることが実証されている。筆記療法にこれだけの効果があるのは、一番気にかかる問題について人目を気にせず反芻できるからではないかと科学者はいう。こうした考えや思いは、日記にでも書かない限り、誰にもいわずに心に閉じ込めがちだ。だが経験者にはわかるが、もやもやした感情をため込むと、精神的にかなりの負担となる。かといって、それを誰かに打ち明けるのも気が引ける。心の奥底にある価値観や感情を日記に吐き出せば、心の緊張がやわらぐし健康にもいい)。