ゼロ金利の経済学

著者 : 岩田規久男
  • ダイヤモンド社 (2000年6月発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478210314

作品紹介

景気、企業動向、円ドル相場、株価…「ゼロ金利」の背景と影響を平易に解説しつつ、日本銀行の問題点を指摘。前例なき金融政策、その功と罪。

ゼロ金利の経済学の感想・レビュー・書評

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  • 2000年春頃、初めてゼロ金利政策が実施され、
    その後8月頃に解除される前に書かれた本です。
    著者も金利政策だけではマネーサプライを増加させることはできない、
    と認めつつも、日銀による中長期国債の買入などによる
    量的緩和を行えば、ゼロ金利のキャッシュを保有した企業・個人が
    事業投資・証券投資に向かうことによりデフレが解消する、との
    教科書的記述が行われております。
    しかし、実証的にはそうはなっていません。
    それに対しては、金融緩和が小出しに逐次投入されたので
    各個撃破され効果が無かったとの反論もありますが
    いまひとつ説得力が弱いままであります。
    最近書かれた岩田教授の感情的な本に比べれば
    教科書的とはいえ、面白く読めました。

  • 2一有力な円高対策は何か
     ゼロ金利政策下の「非不胎化」と「不胎化」は同じではない
     金融政策委員会・政策決定会合での多数意見は、ゼロ金利政策の下では、為替介入資金を不
    胎化するか非不胎化するかで効果に変わりはないという。果たしてそうであろうか。
     ゼロ金利政策下で、銀行が超過準備(所要準備を超える準備預金)を保有し、供給された日銀資金がしばしば短資会社にとどまり、銀行の日銀当座預金を増やすまでに至らない状況では、不胎
    化か非不胎化かにかかわらず、日銀当座預金の総量に変わりはない。しかし、為替介入によっ
    て増加する日銀当座預金と、短期国債現先買いオペなどの金融調節によって日銀が供給する日
    銀当座預金とでは性格が異なる。
     日銀の金融政策は短期国債現先買いオペのように、短期の日銀当座預金の供給である。例え
    ば、1か月満期の現先買いオペの場合、オペに応じた銀行や証券会社は1か月後には資金を手
    当てして、日銀から短期国債を買い戻さなければならない。ゼロ金利政策下では、長期国債な
    どの長期債を保有している投資家は、長期名目金利が低いため、少しでも金利が上昇すると、
    金利収入を超えるキャピタル・ロスを被る可能性が小さくない。それは、次の理由による。長
    期国債の名目金利(利回りともいう)は、近似的には、国債の利子と1年あたりの償還差益の合計
    を、国債の流通価格で割ったものに一致する。したがって、国債の名目金利が上昇することは、
    国債の流通価格が低下することを意味する。つまり、金利の定義により、国債の金利が上昇す
    るときには、国債の保有者は国債の流通価格の低下により、キャピタル・ロスを被るのであるハ
    キャピタル・ロスを被る可能性が大きいときに、短期の日銀当座預金を長期国債に運用し、1
    か月後に短期国債を日銀から買い戻すために、長期国債を売らなければならないとすると、キ
    ャピタル・ロスを被り、銀行の長期国債の運用利益はマイナスになるリスクがある。そうであ
    れば、銀行は日銀当座預金をそのまま保有し、国債の購入に向けようとはしないであろう。こ
    れを、銀行が長期債価格の下落を予想して、長期債購入を控え、日銀当座預金というマネーの
    ままで保有するという意味で、「銀行は流動性の罠に陥っている」という。
     しかし、円売り介入によって増えた日銀当座預金は、1か月後に返済しなければならない日
    銀当座預金ではなく、永久に返済不要なものである。短期国債現先買いオペでも、円売り介入
    でも、日銀当座預金が増えるのは同じであるが、前者の場合には、銀行は1か月後に日銀に返
    済するという負債を負っているのに対して、後者はそのような負債を負っていない。このよう
    に、両者で銀行の資産・負債構成に違いが生ずれば、日銀当座預金の運用も違ってくるはずで
    ある。非不胎化で返済不要の日銀当座預金が増加すれば、中長期の国債や社債に投資しても、キャピタル・ロスを被らないように、それらを売るタイミング(売らずに、満期まで保有してキャピタ
    ル・ロスを避けることも可能)を選べるから、銀行がそれらに運用しょうとする可能性は高くなる。
    返済不要な資金であれば、多少、流動性が低くても貸し出しに運用しょうとする可能性もある。
     このようにして銀行の中長期の国債や社債、さらに株式への投資や貸し出しが増えれば、マ
    ネーサプライは増加する。
     将来の円高予想が、現在の円高をもたらす
     第2章第2節(73頁)で述べたように、99年8月から99年年末にかけての円高・ドル安は、
    米国国債と日本国償との金利差とは逆の方向に変化しており、米日金利差では説明できない円
    高・ドル安である。しかし、円・ドルレートに影響を及ぼすのは、米日金利差だけではない。
     いま、投資家たちが将来、円高・ドル安になると予想するようになるとしよう。この場合に
    は、日本の投資家たちは米国国債に投資すると為替差損を被ると予想することになる。したが
    って、米国国債の金利(以下、米国金利)が日本国債の金利(以下、日本金利)よりも高くても、この予想きれる為替差損を補って余りあるほどの米国金利の方が日本金利よりも高くなければ、
    日本の投資家たちは米国国債を買おうとはしないであろう。
     逆に、米国の投資家は、日本の金利が米国の金利より低くても、将来、円高・ドル安になる
    と予想すれば、日本国債に投資したときに為替差益を得ることができる。したがって、日本の
    金利が米国金利より低くても、予想される為替差益が十分に高ければ、日本国債を買おうとす
    るであろう。このように、投資家たちが将来の円高・ドル安を予想すると、金利差から見て米
    国債投資のほうが日本国債投資よりも有利であっても、日本国債投資のほうが米国債投資より
    も魅力的になる可能性がある。そのため、外国為替市場では、円が買われてドルが売られるこ
    とになり、円高・ドル安になってしまう。すなわち、投資家たちが将来、円高・ドル安になる
    と予想すると、現在の時点で円高・ドル安になつてしまう。
     99年8月頃の急速な円高は、こうした投資家たちの将来の円高・ドル安期待を反映したもの
    であると考えられる。それでは、投資家たちはなぜ当時、将来は円高・ドル安になると予想し
    たのであろうか。これについては、99年9月21日の政策決定会合の席上、日銀執行部は、「最
    近の円高は基本的には日本の景気回復期待に根ざしたものである」(この事の109頁の?を参照)
    と述べ、複数の政策委員会委員も、「日本経済や企業収益の回復を先取りしている面が大きい」
    と述べている。
     しかし、日本の景気回復が期待されたり、企業収益が回復すると予想されると、なぜ円高に
    なるかの説明はない。景気の良い国の通貨は高くなると漠然と考えられているようである。こ
    の漠然とした考えの妥当性はさしあたり問わずに、話を進めよう。当時、日本の景気回復が期
    待されるようになつたというが、米国の名目経済成長率は5・3〜5・4%程度であったのに
    対して、日本のそれは、99年第2四半期にようやく水面下からはい上がり、前年同月比0・05%のプラスの成長になつた段階であった。このように、日米の成長率にきわめて大きな差が
    ある状況で、多少日本の景気回復が期待されたからといって、120円台から103円といっ
    た急激な円高を説明することには無理がある。
     この景気回復円高説は極めて怪しげなものである。例えば、95年4月から5月にかけて円は
    急騰し、83円台で推移し、一時は70円台に突入し、日本国中大騒ぎになったことは記憶に新し
    い。しかし、94年の名目成長率は1%程度であり、95年の第1四半期は対前年比でマイナス成
    長の状況にあったから、到底、景気回復が期待されたとは考えられず、ましてや83円台とか
    70円台後半にも達するような円高は、景気回復期待では説明できない。
     リスク・プレミアムの低下を通ずる円安効果
     当時の、円高・ドル安をもたらした要因として、経常収支の黒字が累積したため、日本の個
    人や企業および金融機関が保有するドル建て資産額が大きくなったことが考えられる。各経済
    主体のドル建て資産保有額が大きくなれば、ドル安による為替損額はそれだけ大きくなる。し
    たがって、大きなドル建て資産を持った投資家ほど、一層の米国国債などドル建て証券への投
    資には慎重になるであろう。このように投資家がドル建証券投資に慎重になることを、投資家
    のリスク・プレミアムが上昇するという。投資家のドル建証券投資におけるリスク・プレミア
    ムが上昇すると、多少の米日金利差があっても、投資家は一層のドル建証券投資には慎重にな
    る。これにより、円高・ドル安が進む。いったん、円高・ドル安が進むと、投資家たちは、一
    層ドル建証券投資に弱気になり、一層の円高・ドル安を予想するようになる。その結果、さら
    にドル建証券投資に慎重になるため、円高・ド〜安が進む、というように、円高・ドル安をも
    たらす循環的メカニズムが働き始め、円高・ドル安が急速に進むことになる。
     それに対して、非不胎化政策により、既に述べたメカニズムを通じて、マネーが増加すれば、
    投資家が保有している資産全体の流動性と安全性が高まるから、ドル建証券投資の際のリス
    ク・プレミアム(為替レートの変動などに伴うリスクに対して、投資家が要求する収益率の上乗せ分)は低下し、投資家は以前よりもドル建証券投資に積極的になるであろう。その結果、ドル高・円安になる。
     このリスク・プレミアムの低下効果は、国内の債券や株式投資をも刺激する。国内の長期債
    投資の増加は長期名目金利の低下を、国内の株式投資の増加は株価上昇を、それぞれ促し、設
    備投資における資金調達コストを引き下げる。株価上昇は、企業のリストラ(日産自動車、ダイエ
    ーなどの最近のリストラはどれも株式売却益が資金源になっている)を助け、リストラ後の設備投資を促す。
    最近、M&Aが盛んであるが、これも低金利が追い風になっている。M&Aは国内設備投資で
    はないが、これにより企業収益が高まれば、将来、設備投資の増加につながる。銀行の自己資
    本比率も株価上昇により上昇するから、貸し出しにも良い影響を与えるはずである。
     以上のように、短期国債現先買いオペのような短期の日銀当座預金の供給では、銀行の中長
    期国債投資や貸し出しは増えないかもしれないが、円売り介入によって日銀当座預金を増やせば、銀行の中長期国債や社債の保有および貸し出しの増加によって、マネーサプライが増加し、
     景気刺激効果が発揮されると期待できる。
     購買力平価訳
     米日金利差が拡大して、金利面からは米国国債のようなドル債のほうが日本国債のような円
    債よりも有利であるにもかかわらず、急速な円高が起きるもう一つの原因(三は、右に述べた経
    常収支の累積黒字に伴うリスク・プレミアムの上昇)は、日本がデフレ経済に陥っている点に求められる。
     日本の国内卸売物価は、91年末から一貫して低下している。他方、この間、米国の生産者物
    価は一貫して上昇し続けている。これらの両国の物価は、両国の貿易財の価格を近似するもの
    と考えてよいであろう。したがって、この両国の物価の逆方向への動きは、日本の貿易財の価
    格が米国のそれに比べて一貫して低下していることを示している。
     日本の貿易財が米国のそれに比べて低下することは、円高・ドル安要因である。例えば、日
    本のパソコン1台が10万円であり、これと同じパソコンが米国で1000ドルであるとしよう。
    仮に1ドルが120円であれば、日本製パソコンはドルに換算すると約833ドルになり、米
    国製のパソコンよりも安くなる。そこで、米国の輸入業者は10万円の日本製パソコンを833
    ドルで購入して、米国で売って差し引き167ドルの利益を得ようとするであろう。ただし、
    輸入には輸送費等がかかるので、それらを差し引いたものが輸入業者の利益になる。この取引
    では、日本のパソコン輸出業者は833ドルを受け取って、それを外為市場で売って10万円を
    獲得することになる。これは、円買い・ドル売りに他ならないから、円高・ドル安要因になる。
     話を簡単にするために、輸出入に伴う輸送費等を無視すれば、日本製パソコンと米国製パソ
    コンが円建てでも、ドル建てでも同じ価格になるのは、1ドルが100円になるときである。
    したがって、1ドルが100円になれば、右に述べたような米国のパソコン輸入業者の取引に
    よる輸入は止まるので、外国市場でも円買い・ドル売りは収まり、円・ドルレートは1ドル1
    00円に落ち着く。
     このように、両国の同じような物の価格が等しくなるように、円・ドルレートが決まるとい
    う考え方を、購買力平価説という。これは、円とドルの購買力が両国の間で等しくなるように、
    円・ドルレートが決まるという考え方である。
     仮に、米国のパソコン価格が変化せずに、日本のパソコンの価格が5万円に低下すると、購
    買力平価説からすれば、円・ドルレートは1ドル50円になる。これから、購買力平価説による
    と、日本の貿易財の価格が米国のそれに比べて安くなると、円高になることがわかる。
      テフレが円高をもたらす
     第2章第2節で、為替レートに関して金利平価説を説明したが、そのときには、投資家たち
     が予想する将来の円・ドルレートは与えられたものとして説明した。購買力平価説は厳密には当てはまらないが、長期的には、実際の円・ドルレートは購買力平価説で決定されるレートに近づ
    く傾向を持っている。そうであれば、投資家たちが、将来の円・ドルレートを予想するときには、
    購買力平価説で決まってくる円・ドルレートを一つの手がかりにするであろう。
     図412は、この点を示したものである。この図で、日米卸売物価比率とは、日本の卸売物価指
    数を米国の生産者物価指数で割ったものをいう。したがって、この比率が低下することは、日本の
    貿易財の価格が米国のそれよりも低下することを意味する。この低下は、購買力平価説から見て、
    円高・ドル安要因、すなわち、円・ドルレートの低下要因である。
     図4−2によれば、右に述べた理論のとおり、日米卸売物価比率が低下するにつれて、円・ドル
    レートは低下傾向、すなわち、円高・ドル安傾向を示している。日米卸売物価比率は98年9月頃からわずかに上下に変動していたが、99年3月からは、一貫して低下傾向を示し、99年8月頃からの低下は急激である。こうした日米卸売物価比率の大きな低下傾向を反映して、99年8月頃から一段と円高が進んでいることがわかる。
     それでは、日本の卸売物価はなぜ長期にわたって低下し続けているのであろうか。その一因
    として、しばしば、日本の製造業の生産性が上昇していることが挙げられる。しかし、それ以
    上に、卸売物価の持続的低下をもたらしている要因がある。物価水準とマネーサプライとは密
    接な関係があるが、日本では90年代に入って、マネーサプライの伸び率が2〜3%で低迷し続
    け、物やサービスの市場でデフレギャップ(供給のほうが需要を上回る状況)が続いている。そのため、卸売物価の低下が続いているのである。
     以上から、デフレギャップを原因として、将来とも、物価(特に、貿易財にかかわる卸売物価)は下落するという期待が広範に存在しているために、円高・ドル安になるのであり、景気回復期
    待や企業収益の増加が期待されるから円高になるのではないことがわかる。日本国内では需要
    不足のため、物が売れず、価格が下がるから、日本の製造業は米国に比べて貿易面で競争力を
    持ち、輸出が伸び、輸入は減少する。この過程で、一方で、日本の累積経常収支黒字が増える
    ため、ドル建て資産に投資する場合のリスク・プレミアムが上昇し、他方で、購買力平価が影
    響して、将来、円高・ドル安になると予想されるようになる。これら2つの要因が働いて、円
    高・ドル安になる。このデフレ下の円高は、日本の輸出を減らし、輸入を増やすことによって、 景気回復の重しとなってしまう。この重しを軽くするためには、第5章で述べるように、量的緩和によりマネーサプライを増やし、デフレギャップを解消することが必要である。

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