すでに起こった未来: 変化を読む眼

  • ダイヤモンド社
3.66
  • (22)
  • (18)
  • (40)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 396
感想 : 20
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478371381

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • The Ecological Vision の邦訳であるが、各章のつながりが不自然で、目次を原著と突き合わせてみると、残念ながら、31章のうちの13章の抜粋版だった。
    冒頭でドラッカーが述べているように、未完の本に含める予定だった一つの部品としてみるほうが正しいのかもしれない。
    貴重なドラッカの遺品の1つとしてみることもできる。

    Ⅰ部、Ⅱ部の、アメリカに関する記載の部分に、参考となるものが多かった。気になったのは以下
    ・アメリカの象徴的な人物は、アブラハム・リンカーンである。
    ・アメリカに特有の理念と制度は、政治の領域にある。今日のアメリカは最も歴史のある徹底した世俗的国家である。(アメリカは、反教会的な感情がない)
    ・二人の経済学者、ケインズとシュンペーターの対比、正しかったのはシュンペーターであった。
    ・ケインズの本当の敵は、シュンペーターでなく、シュンペーターが途中で袂をわかった、ドイツ新古典派であって、2人はともに敬意をはらっていた。
    ・ケインズ経済学を採用したイギリスとアメリカが停滞し、しなかった日本と西ドイツが驚異的な経済成長と遂げた。
    ・内部告発は一種の密告である。おそらく西欧の歴史において、密告を奨励した社会が、血なまぐさく悪名高い先制君主の時代だけだった。
    ・7000年前に誕生した”灌漑文明”をもって、文字を生み出したということで、人類の歴史のはじまりだった。灌漑文明の時代は、優れて技術的イノベーションの時代だった。
    ・第1次大戦が発生したのは、コミュニケーションが十分でなかったために引き起こされた。
    ・コミュニケーションをするのは常に受け手である。
    ・コミュニケーションと情報はまったく別ものである。

    構成は、以下になります。

    はじめに

    Ⅰ部 アメリカの経験
     1章 アメリカの特性は政治にあり

    Ⅱ部 社会における経済学
     2章 アメリカ政治の経済的基盤
     3章 利益の幻想
     4章 シュンペータとケインズ
     5章 ケインズ

    Ⅲ部 マネジメントの役割
     6章 マネジメントの役割

    Ⅳ部 社会的機関としての企業
     7章 企業倫理とは何か

    Ⅴ部 仕事・道具・社会
     8章 技術と科学
     9章 古代の技術革命に学ぶ

    Ⅵ部 情報社会
     10章 情報とコミュニケーション

    Ⅶ部 社会及び文明としての日本
     11章 日本画に見る日本

    Ⅷ部 社会を超えて
     12章 もう一人のキルケゴール

     終章 ある社会生態学者の回想

  • この間、ドラッカーの著作をたくさん読んできた。マネジメント系のもの、社会系のもの。自伝である「傍観者の時代」は、ドラッカーその人を知る上でも、20世紀の歴史を知る上でも実に面白い本だった。しかし、この「すでに起こった未来」は、他のいずれの著作とも違う。
    時代的な幅は40年にも及んでおり、内容も一見、関連性に乏しいと思われる13本の論文からなっている。

    例えば、マネジメントへの傾倒がなければ上梓していたという「アメリカ論」や、技術に焦点を当てた「仕事の歴史」にまつわる論文は、他ではあまり見かけないものだった。その他、シュンペーターとケインズに言及した経済に関する論文や、ドラッカーの独特の利益に対する考え方について述べた「利益の幻想」も、コンパクトにまとまっており分かりやすい。
    しかし、最も印象深かったのが、日本画から日本人を論じた「日本画に見る日本」と、「もう一人のキルケゴール」だ。

    ドラッカーが日本画をコレクションしていたのは有名な話だが、日本画に関する知識は半端ではない。そして単に日本画に詳しいだけではなく、日本画を題材に、日本固有の文化の卓越性を論じている。
    たとえば、外国から技術をとり込んだ後に、それを昇華させオリジナリティーを築き上げる能力。また、日本画における空間認識が西洋絵画のものと全く異なっており、知覚能力の独自性は他に類を見ないものだと語っている。この点については、現代における電子メディアの登場が、世界の見方を分析的思考から、知覚的なものの見方に変化させたというマクルーハンを引き合いに出し、日本の文化が持つ知覚能力の特性は、本質を把握して再構成する能力であるとして、これが近代的な経済活動の発展を導いたという興味深い指摘をしている。

    「もう一人のキルケゴール」は、1949年に書かれたものだ。ちょうど第2次大戦後で、第1次大戦からナチスがヨーロッパを支配するという、不条理の目撃者となったドラッカーの、人間と社会に対する絶望が窺い知れた。
    哲学の文脈でいえば、ヘーゲルやマルクスが問う「社会はいかにして可能か」や彼らの歴史観が、実存の忘却に導くとし、「人間の実存はいかにして可能か」という問いの重要性を語り、その答えを導いた唯一の思想家としてキルケゴールを取り上げている。
    ドラッカーは社会や組織について多くを語ったが、やはりその中心には人間が、客観的・抽象的な存在としてではなく、実体的、実存的な存在としてなければならなかったことがよく分かった。

    これら、何の脈絡もないような13篇の論文集のタイトルが、「すでに起こった未来」となっている。
    終章の唯一書き下ろしである「ある社会生態学者の回想」の中で、ドラッカーは、自身の造語である「社会生態学」の仕事について、「すでに起こってしまった変化を確認すること」と言っている。
    ここに集められた13篇の論文の全てが、すでに後戻りできない変化であり、大きな影響力をもちながら、いまだ広く認識されてはいない変化について書いているというわけだ。
    これらの論文から、主要な著作からは知り得ないドラッカーの一側面が知れるというだけでなく、ドラッカーの求めたものが何なのかということを知るうえで、本当に貴重な一冊だということができる。

  • 本書は94年の本であるが、既出の論文等をまとめたものである。ドラッカー晩年四部作と比べると、寄せ集め感がぬぐえず、本書のタイトルとの一体感が感じられない。最初から順番に読もうと思ったが、途中から不要と思った章は読み飛ばした(○×でつけた)。


    目次
    1部 アメリカの経験
    1章 アメリカの特性は政治にあり(1953)○

    2部 社会における経済学
    2章 アメリカ政治の経済的基盤(1968)○
    3章 利益の幻想(1982)○
    4章 シュンペーターとケインズ(1986)○
    5章 ケインズー魔法のシステムとしての経済学(1946)○

    3部 マネジメント社会的機能
    6章 マネジメントの役割(1969)○

    4部 社会的機関としての企業
    7章 企業倫理とは何か(1982)×

    5部 仕事・道具・社会
    8章 技術と科学(1961)○
    9章 古代の技術改革に学ぶ(1965)○

    6部 情報社会
    10章 情報とコミュニケーション(1974)○

    7部 社会および文明としての日本
    11章 日本画に見る日本(1981)○

    8部 社会を超えて
    12章 もう一人のキルケゴール(1949)×

    終章 ある社会生態学者の回想(本書のための書き下ろし 1992)○



    抜き出し
    1章 アメリカの特性は政治にあり
    p14 アメリカという国は、移民に対し、ただ一つの政治的信条を押しつけることによってのみ成り立っている。
    p15 世俗的政治と宗教的社会の共生。宗教団体がコミュニティ(=世俗)の重要な機能を堂々と引き受けている。
    p17 アメリカの政党の目的は主義を実現することではない。民主党・共和党の両党が、常に中庸を得た行動をする。
    p19 政府による上からの集団主義ではなく、下からの自発的な行為という集団主義。
    p21 アメリカを特徴づけるものは、民間の自発的な集団を通じた競争と協力の共生である。

    2章 アメリカ政治の経済的基盤
    p35 経済は、アメリカの政治決定課程において合意形成の推進力となってきている。
    p35 アメリカでは、関税・通貨・自由地(奴隷制禁止地域)などの経済的問題が、国を分裂させかねないイデオロギーの対立を中和するために使われてきた。
    p35 歴史上、アメリカは政治問題を経済化することによって亀裂を避けてきた。

    p44 アメリカでは、経済的利益を国家統一の効果的な動因とする考えが受け入れられた。
    p45 移民自身は、自治の経験がなかったし、政治活動の経験さえなかった。
    p45 あまりに多様な大衆が、一つの基本的な価値観にもとづいて、一つの政府のもとで、一夜にして、一つの国家を形成しなければならなかった。
    p45 ラテン・アメリカでは、異なる宗教や文化、異なる政治的価値観や信念、異なるイデオロギーの全てが、国家に対して不協和音となっていた。

    3章 利益の幻想
    p57 利益に関する最も基本的な事実は、「そのようなものは存在しない」ということだからである。存在するのは、コストだけなのである。


    8章 技術と科学
    p174 科学は哲学の一分野であり、科学を利用することは、科学の乱用であり、科学の堕落だった。
    p174 技術は、利用することに焦点を合わせていた。その目的は人間能力の向上にあった。
    p174 科学は最も普遍的なものを対象とし、技術は最も具体的なものを対象とした。科学と技術の両者に類似があったとしても、それはまったくの偶然だった。
    p175 1720年から1770年までの50年間のどこかで、技術に対する姿勢が大きく変わったにちがいない。
    p177 17世紀〜18世紀@イギリスにて
    農業は、労働力の半減と生産量の倍増を同時に実現した。その結果、農村から都市への労働力の大量移動が可能となり、食糧の生産から消費への移行が可能となり、産業革命が可能となった。
    p178 1776年 アメリカの独立宣言、アダム・スミスの国富論、ワットの実用蒸気機関の発明、ベルグアカデミー(鉱山大学)の設立。

    p184 技術革命が起こる前までは、緩慢な進歩の歴史があった。そしてあるとき突然、技術の急激な伝播がはじまった。
    p184 今日に至るも、一般史家と技術史家は、突然の技術革命に大きな関心を寄せていない。
    p185 技術は、行動の世界と知識の世界を結びつけるもの、人類の歴史とその知識の歴史を結びつけるものとなっている。
    p185 かつては端に散らばっていたにすぎない技術が、いかにして中心に位置づけられるようになったのかという問題こそ、今日、解明され、完全に研究され、報告されなければならない。


    9章 古代の技術革命に学ぶ
    p188 今日の社会制度や政治制度は、灌漑文明の時代に生み出されて確立されたものである。
     (一) 灌漑都市は、初めて政府を独立の恒久的な機関として生み出した。
     (二) 社会的な階層が初めて生まれた。農民・兵士・聖職者。
     (三) 灌漑都市は、初めて知識なるものを生み、それを体系化し、制度化した。
     (四) 灌漑都市は、個人なるものをつくり出した。

    p194 技術から学べること
     (一) 技術の大きな変化は、社会と政治のイノベーションを必要不可欠とする。
     (二) 技術の大きな変化は、社会と政治のイノベーションをもたらす。
     (三) 新しい客観的現実が決定するものは、方程式における重要なパラメータだけである。


    10章 情報とコミュニケーション
    p213 コミュニケーションは、知覚することである。
     「無人の森で木が倒れたとき、音は存在するや」
     コミュニケーションをするのは受け手である。
     知覚することは論理ではない。
     人間は知覚能力の範囲内でしか知覚できない。

    p218 コミュニケーションは、期待することである。
     人間は知覚したいと思うものを知覚する。期待されていないものは、そもそも知覚さえされない。

    p219 コミュニケーションは、関与することである。
     コミュニケーションは常に宣伝である。送り手は常にあることを理解させたいと考える。

    p222 コミュニケーションと情報は、まったくの別のものである。
     (一)コミュニケーションは知覚することである。情報は論理である。情報は形式的であり、意味を持たない。
     (二)効果的な要件が全く正反対である。
       コミュニケーションにおいて知覚されるのは全体像である。
       情報は、データが少ないほど、良質になる。
     (三)情報はコミュニケーションを前提にする。
       オーストリア陸軍のアルメー・ドイチュ(軍用ドイツ語)。オーストリア帝国時代、多言語軍の共通言語として200の単語からなる特殊言語が開発された。この情報システムは最後まで機能した。
     (四)コミュニケーションは、定量化できなければできないほど、よく機能する。


    11章 日本画に見る日本
    p243 家社会と個人主義
    p248 日本文化の二極性
     簡素な無の空間⇔装飾的で色彩豊かな構図
      装飾的:二条城、日光東照宮  簡素:桂離宮、将軍の暮らし
     女性:従順さ⇔実権と財布を握る
     子供:甘やかす⇔学校での規律
     組織:専制的であり民主的である。
    p252 日本画の風景
    p255 日本人の美意識
     なぜ、中国人は日本画を見てくつろぐことができないのか
     日本画は空間が支配する。空間が絵の構図を決めている。
     西洋画は幾何学的、中国語は代数学的、日本画は位相的。
    p261 十分と八十年
    p265 日本の伝統における知覚能力
     西洋の制度や製品の本質と形態を把握し、それらを再構成する能力。

  •  社会生態学者ドラッカーの論文集。1946~1992年に主に社会動向について書かれたものを編纂しており、中には難解なテーマを取り扱ったものもあるが、分かりやすく最も印象に残ったのは「日本画に見る日本」だった。ドラッカーが日本の美術に関心を持っていたことは知ってはいたが、美術を通じて日本人の価値観や社会的な特性にまで見通す眼力の鋭さは「さすがドラッカー」と思わせるものがある。この章には多数の画家や絵が紹介されているが、恥ずかしながら知らないことばかり。日本美術の素養があれば、ドラッカーの意をより理解できるかもしれない。この賞に紹介された画家や絵についても調べてみたい。
     ドラッカーの著作は数冊読んだが、日本を主題にした章や節は数多く存在する。マネジメントや技術史等、特定のテーマ別に再編纂したシリーズがあるが、「日本」をテーマにしたものがあればいいのに、と思うのは私だけであろうか?

  • 灌漑文明についての記述は大変興味深い、現代に起こっている急激な変化以上の変革が過去にあったことがわかりやすく紐解かれている、そしてこの現代に起こっている変革にどうすればよいのかも明快に指し示している。この人の見る能力は日本を述べる中に、女性が実権と財布を握っている家庭生活の現実がある、という辺りを見たときに間違いないと思った。図書館で数冊借りた後その中からこの本を購入した。
    情報とコミニケーションに関する考察は現代にも当てはまると思われる、情報とは何か、コミニケーションとはなにか、どういうあり方で意味があるのか、漠然としていた概念を見事に解き明かしてくれている、

  • 論文集
    ケインズとシュンペーターについての考察が絶妙

  • 2023/07/13 読了 ★★★

  • ウィズコロナ、アフターコロナについて考えるため、読みました。本書の内容を一言でいうと「既に起こっていることをもとに考えることが重要」です。未来を推測することはできないと言いながら、出版後20年以上経過しても内容が色あせていない慧眼に感服しました。

  • ・未来を予測しようとしても無駄。
    ・重要なことは「既に起こった未来」を確認する事である。すでに起こってしまい、もはやもとに戻ることのない変化、しかも重大な影響力を持つことになる変化でありながら、まだ一般には認識されていない変化を知覚し、かつ分析する事である。

  • 論文集だった

全20件中 1 - 10件を表示

P.F.ドラッカーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×