「新婚旅行で、世界一周したい!」と言いはる人間がいる。
...わたしだ。
行きたい国が、チェコ、スイス、スペイン、フランス、イスラエルだから、どうせなら地球をぐるっと回って世界一周しようよ。
フライト時間が長ければ、深夜便にして機内で眠ればいいじゃない?
とまあ、楽観的な思考の持ち主が考えそうなことを考えているわけで、一般的な社会人が何週間も休めるわけないし、お給料だって雀の涙だ。
それなら、下調べだ。まずは世界一周のお手本を見てみよう、と思って手に取った本がこちら。
「男」とか「ひとり旅」とか書いてあるが気にしない。
著者は旅ライターの伊藤伸平さん。編集者・ライターとして「地球の歩き方」シリーズの創刊に携わり、現在も「地球の歩き方 オーストラリア」を担当されている。いわば旅のプロだ。
安いフライトやホテルを探すのには、コツがいる。
フライトはスカイスキャナーなどの比較サイトで、3ヶ月前から(ハイシーズンは半年前から!)探すと、安いチケットが手に入りやすい。
本書では、各アライアンスが発売している世界一周航空券ではなく(航空券だけで40万円〜)、片道切符の乗り継ぎで世界一周をするスタイル。この場合、トランジットの時間や滞在日数なども考慮した上で、チケットを発券することになる。
航空会社によっては無料宿泊などのトランジットサービスがあるので、事前に各ホームページでチェックしておくとよいだろう。
ホテルもトリップアドバイザーなどの比較サイトで探し、直前までキャンセル料のかからないホテルを押さえておく。キャンセル料が発生するまで安いホテルの空きが出ないかチェックするのがベストだ。
もしアメリカに行くなら、こんな手もある。
“宿泊まで1週間を切った主要都市の3〜5つ星ホテルの空室は、ホットワイヤーhotwireというサイトで格安で予約できる場合が多い。特にサイトの本拠地であるアメリカ主要都市のホテルは格安となるので要チェック”。
海外で使う携帯のフリーSIMは、アマゾンで購入できるAIS SIM 2 FLY GlobalかThree with 12GB dateが良いだろう。スペック的に、わたしは後者のほうが良いと思う。
本書の構成は、
1. 短期世界一周の組み立て方
2. 短期世界一周モデルプラン
3. 短期世界一周Q&A
4. 《ゲルニカ》を巡る短期世界一周
4の旅程が、タイトルから想像される以上に「大人の旅」だった。
旅は、テーマを決めるといい。
伊藤さんは「《ゲルニカ》を巡る短期世界一周」というテーマで、約33万円・9日間の世界一周した。旅程は、
羽田
↓
北京(無料トランジットホテル利用・北京観光)
↓
ニューヨーク(①ゴスペル、②メジャーリーグ、③自由の女神、④★国連本部など)
↓
パリ(⑤★ウンターリンデン美術館、ピカソ美術館、⑥オルセー美術館、ルーブル美術館)
↓
スペイン(⑦ビルバオ、ゲルニカ、マドリード観光、⑧★ソフィア王妃芸術センター、⑨トレド)
★は《ゲルニカ》鑑賞
①ゴスペルというのは、タイムズスクエア教会の日曜朝のミサに出席して本場のゴスペルを聴くことだ。
②メジャーリーグでは田中将大投手が登場すると知り、直前にスタブハブというチケット売買サイトでチケットを購入。
③自由の女神は事前予約しないと入場できない。
“女神像が立つ台座の中に入るのも数週間前の予約が必須、王冠まで登るチケットにいたっては、数ヵ月前に完売するのが当たり前だ。”
自由の女神は旅のサブテーマになり、その後の旅程にも変更を加えた。
④国連本部の安保理事会会議場ではツアーを開催しているが、ツアーでは《ゲルニカ(タピスリ)》を見ることはできない。著者は知人友人に尋ね、関係者を見つけ、頼みこんで見せてもらっていた。
⑤ウンターリンデン美術館があるコルマールは、ジブリ映画『ハウルの動く城』や、ディズニーのアニメ映画『美女と野獣』の舞台と噂され、最近注目を集めている町だ。 自由の女神像を造った彫像家バルトルディの故郷でもある。
⑥オルセー美術館2階にあるレストラン・ミュゼ・ドルセーは、美味しくて手頃な価格だそうだ。
⑦“ビルバオは2018年「世界のベストレストラン50」の授賞式を 行った美食の町。そう、バスク地方は世界有数のグルメ地区なのだ。そしてその「食」を支えているのがバル文化だ”。
⑧“日曜の午後は、ソフィア王妃芸術センターの入館が無料になる。すべての展示エリアは無料開放とはならないものの、《ゲルニカ》をはじめとする人気作品の多くは鑑賞可能だ”。
ここの《ゲルニカ》を見て心を鷲掴みにされた著者。思わず、涙ぐんでしまったという。
⑨“「スペインに1日しかいないのならトレドへ行け」という格言があるほどの世界遺産都市”だという。スペイン・カトリックの総本山のカテドラルは、期待以上のすばらしさだったそうだ。
帰国後、群馬県立館林美術館で開催されていた「ピカソ展-ゲルニカ[タピスリ]をめぐって」で《ゲルニカ(タピスリ)》を鑑賞し、旅は終結した。
なんだか、とても良い旅だ。知的好奇心が溢れていて、センス抜群だ。わたしも美術館巡りが好きなので、きっとめちゃくちゃ楽しいだろう。
生まれて初めて、旅程の組み方まで好きな人の紀行文を読んだ。
仏アルザス地方のシュークルート・コルマリーネの美味しさだとか、海外LCCに乗った感想だとか、旅先で得た知識をもとに、柔軟に旅程を変えたというような話を読むと、わたしも旅先に連れていってもらっているような気分になった。
p80
ディレイドバゲージで一番やっかいなのが、荷物が別の空港に行ってしまうこと。これはバゲージタグや荷物に貼られたバゲージシールのバーコードを機械が誤読することによって起こる場合が多い。
p94
クレジットカード払いがおすすめとはいっても、現地では多少の現金が必要となる。その場合は、現地ATMでクレジットカード利用のキャッシングがおすすめ。
キャッシング時のレートも各都市にあるマネーチェンジャーで行うよりも格段によく、銀行間取引レートに近い。キャッシングといってもあくまで借り入れなので、通常年利18%の利息がかかる。それでも、よほど多額にキャッシングしていない限り引き落とし時にかかる金利は微々たるもの。早期に繰り上げ返済できるカードであれば、ほぼ利息がかからない。
p99
なお宿泊まで1週間を切った主要都市の3〜5つ星ホテルの空室は、ホットワイヤーhotwireというサイトで格安で予約できる場合が多い。特にサイトの本拠地であるアメリカ主要都市のホテルは格安となるので要チェック。
p101
短期世界一周に適した海外複数国対応SIMはいくつかあるが、それぞれ利用可能な国・地域が異なる。代表的なのがタイの通信業者のAIS SIM 2 FLY Global、イギリスの通信会社のThree with 12GB date、ルクセンブルクの通信業者のMTX Connect、香港の通信業者のAIRSIM。この4つは日本のアマゾンで購入可能なのがありがたい。まず世界一周中に自分が訪れる国が、どの会社のSIMでカバーできるかを確認しよう。
ちなみに短期世界一周に料金的にも使用容量的にもおすすめなのがAIS SIM 2 FLY Globalだ(2019年9月現在アマゾンで3550円)。(中略)世界72の国・地域で利用でき、使用開始日から15日間有効。原則4G通信(国や場所によっては3G)、テザリングも可能で、データ容量はたっぷり6GB。
p102
世界一周の中でヨーロッパ滞在が長くなるのであればThree with 12GB dateも悪くない選択肢だ(2019年には9月現在アマゾンで2150円)。世界72の国・地域で利用でき30日間有効でデータ容量12GB。ただし通信はイギリスのみ4Gで、それ以外は原則3Gとなる。(中略)イギリスの電話番号めヨーロッパ内3000分の通話も含まれている。
p105
チケット売買サイト、スタブハブStubHub
p106
スタブハブはアメリカのメジャーリーグやNBA、ヨーロッパのサッカー主要リーグなどとオフィシャルリテーラー契約しているので、料金さえ納得できるのであれば安心して利用できる。同時にビアゴーゴーviagogoもオフィシャルリテーラーとして扱っているチケットの種類が豊富で利用価値が高い。なおオフィシャルリテーラー契約を結んでいるイベント意外のチケットは、個人売買の場を提供しているだけなので、利用はあくまで自己責任で。これらのチケット売買サイトを利用する場合は、チケットの受け取り方法にも注意をするのと。できるだけメールで届くEチケット、もしくは公演場所にチケットカウンターで受け取れるよう手配すること。
p111
機内持ち込みサイズは、一般的な航空機の場合縦・横・奥行きの合計が115センチ以内と規定されている。容量は40リットル前後だ。これに折りたためるトートバッグを入れておく。
p137
この地域にあるタイムズスクエア教会の日曜朝のミサに出席して本場のゴスペルを聴くのが目的だ。
もともとブロードウェイのマークヒーリング劇場だった建物を1989年から教会として使用しており、外から見る限り教会っぽさはまったく感じられない。中に入ってもそう。ホワイエは壮麗な彫刻や絵で飾られ、ミサが行われるホールはブロードウェイの劇場そのものだ。ニューヨークのど真ん中でゴスペルが楽しめる場所として、SNSでは有名なのだ(後略)。
信者ではない旨を告げて2階席の後ろの方へ。ミサの30分ほど前に到着したからよかったのだが、始まる前には信者の人はもちろん、観光客も大勢来ていて、座ることができない人もいるほど。
p140
ヤンキーススタジアムには、水の入ったペットボトルは持ち込めないようだったのでゲート前の荷物検査場で全部飲み干す。
「空のペットボトルは持ち込んだ方がいいわよ。中で水を補給できるから。それに中で水を買うと高いしね」
荷物検査係の女性が、水を飲み干す僕の様子を見てそう教えてくれる。
p146
自由の女神像は、今ではネット予約をしなければ、女神像が立つリバティ島へ行く船に乗るのも時間が読めないほど混雑する。女神像が立つ台座の中に入るのも数週間前の予約が必須、王冠まで登るチケットにいたっては、数ヵ月前に完売するのが当たり前だ。
p147
(前略)リバティ島には2019年5月に新名所の自由の女神博物館が完成していた。
p164
コルマールの町自体は奇跡的に戦火を逃れ、古い建物が数多く残っている。今回の旅のテーマを決めるまで、僕はこの町の存在自体知らなかった。しかしジブリ映画『ハウルの動く城』、ディズニーのアニメ映画『美女と野獣』の舞台という噂があり、日本のアニメファンの間では最近注目を集めているらしい。
p148
この像は1886年、フランスからアメリカ合衆国の独立100周年を祝って送られたというのは有名な話。
p156
ニューヨークからパリまでのフライト時間は約7時間半。
p159
『枯葉 Les Feuilles mortes』
p167
運河と愛らしい街並みが観光客に人気のプチ・ヴェニスと呼ばれるエリアを散策しながら、運河沿いに建つ一軒のレストランに足を運んだ。
アルザス地方はドイツ文化の影響を受けており、食べ物もどちらかといえばドイツに近い。僕がオーダーしたシュークルート・コルマリーネ(コルマール風シュークルート)もそうだ。(中略)コルマール風というのは、シュークルートにジャガイモ、そしてハムやソーセージ、ベーコン、厚切り肉など5種類の豚肉料理をのせたものだった。肉もソーセージも大きくシュークルートは山盛り。肉は旨味たっぷりだし、ソーセージも皮はパリッと中は肉感たっぷりで、その合間に食べる酸味のあるキャベツつけも確かにうまい。しかし、思いのほか量が多くて食べても食べてもなかなか減らない。
p180
ドラクロワの大作のひとつ《7月28日-民衆を導く自由の女神》だ。バルトルディはアメリカ独立100周年に贈るモニュメントの制作に際し、独立(勝ち取るイメージをこの絵の中に見いだし、女神の顔を自身の母親をモデルに制作を始めたのだという。
p181
1830年のフランス7月革命をモチーフにしたドラクロワの傑作。戦場の中、トリコロールの旗を掲げて民衆を鼓舞する女性マリアンヌ(フランスで共和制と自由のシンボルとされる女性イメージ=自由の女神)。王政復古したブルボン朝を倒し、市民革命を成功に導こうとする主題を、大きなキャンバスに力強く繊細なタッチで描いた作品が持つ力に、今更ながら圧倒される。そしてこの絵から、あの自由の女神像が生まれたことを思うと、芸術は人の心を突き動かし、新たなモノを生み出す力があるのだということを再確認させられた。
p182
(前略)美術館内併設のカフェやレストランが、雰囲気も良く、美味しいまのが手頃な値段で食べられるとわかった。その中で今回僕が訪れたのが、オルセー美術館2階にあるレストラン・ミュゼ・ドルセー。(中略)大きな窓から差し込む外光、高天井には美しい絵が絵が描かれ、優雅なシャンデリアもやわらかな明りを灯す。精緻な彫刻が施された壁、掛けられた絵など、どこかの宮殿のダイニングルームを訪れているのではないかと錯覚するほど。ランチタイムの寮費はプリフィックスで、値段と2コース24.5ユーロ、3コース31ユーロと手頃(2019年7月現在)。美術館内の企画展に合わせシェフが伝統的なフレンチにオリジナルの要素を加えて料理を提供。
p184
ヨーロッパの町ではエアコンのない一般家庭が少なくない。ホテルも3つ星以下だと客室にエアコンがない場合もある。ヨーロッパの夏は乾燥しており朝夕は比較的涼しく、その外気を取り込んでおけば、日中外が暑くても室内はほどよい気温に保たれるという理由らしい。
p192
ビルバオは2018年「世界のベストレストラン50」の授賞式を 行った美食の町。そう、バスク地方は世界有数のグルメ地区なのだ。そしてその「食」を支えているのがバル文化だ。
p199
日曜の午後は、ソフィア王妃芸術センターの入館が無料になる。すべての展示エリアは無料開放とはならないものの、《ゲルニカ》をはじめとする人気作品の多くは鑑賞可能だ。
この美術館は、18世紀に病院だった建物を改修した歴史的建造物サバティーニ館(旧館)と、2005年フランスの建築家ジャン・ヌーヴェルが設計したヌーヴェル館からなり、日曜午後はヌーヴェル館側展示は見られない。
p200
日曜午後に見学できるのはコレクション1と名付けられたサバティーニ館2・4階の作品群だ。ピカソをはじめ、ダリやミロなどの作品が展示されており、特に2階に有名作品が集まっている。
p202
何しろ「スペインに1日しかいないのならトレドへ行け」という格言があるほどの世界遺産都市。
16世紀の画家エル・グレコが魅せられて居を構えたタホ川に囲まれた古都は、当時とほぼ変わらない姿で今も存在しているのだという。
しかもスペイン・カトリックの総本山のカテドラルは、僕の期待以上のすばらしさ、すごさだった。カテドラルを見るためだけにトレドを再訪してもいい、と思ったぐらいだ。