草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束 (だいわ文庫 I 335-3)

著者 :
  • 大和書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479306849

作品紹介・あらすじ

時は文政。江戸の通油町にある本屋・草紙屋薬楽堂が特別に誂えた大切な表紙紙が盗まれた-知恵者の売れっ子女戯作者・鉢野金魚と貧乏戯作者・本能寺無念は、金魚の遠き友への想いがこもった唐紅色の紙を取り戻すために、現場となった表紙仕立屋・播磨屋を訪ねるが…。江戸の本屋を舞台に戯作者=作家が謎を解く!人情と不可思議、噂と真実、癒えぬ悲しみと明日への希望-読み心地満点、ますます快調の大人気シリーズ、待望の第三弾!

感想・レビュー・書評

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  • 唐紅色の約束、か。
    なるほど。
    おけいちゃんは現在で言えば、生きにくさを抱えた子なのかもしれないな。
    金魚という友だちを得たことで少しでも救いになってくれたらいい。

    そして無念の幽霊嫌いの原因が明らかに。
    七年もの間、よく耐えたね。
    「自分だけが生き残ってしまった」という後悔がそうさせてしまったのかもしれないし、本能寺無念というペンネームにも、その気持ちが現れているのかも。
    ともかく、少しずつその傷が癒えればいいなぁ。

    今巻は、松吉と竹吉の薮入りを描いた短編「薮入り」、勘兵衛とかつての愛弟子との淡い懸想「名月を杯に映して」、真葛が著した『独考』をどうにか本にしようとがんばる長右衛門のスピンオフが挿入されていて、物語に奥行きを与えています。

  • 主人公達の過去に触れる今巻
    幕間には脇役たちの物語も充実していました
    旦那の墓前に参らない金魚の想い、無念の幽霊嫌いな理由、短右衛門の妻子、全てが事件と推理によって明かされていく手法が面白い

    ずっと貫兵衛さんが推しなんですが、やっぱりいい人です

  • ★どこに行ったんだろうね(p.226)

    ・この巻は薬楽堂の面々にまつわる話。
    ・長屋の金魚の部屋の前に老人の幽霊?
    ・松吉と竹吉は薮入りで実家に戻りたくなかった。
    ・金魚が自作の表紙用に選んだ貴重な色の紙が盗まれた。新キャラ? の「けい」は主役になれるタイプだった。もしアニメ化して声優当てるなら悠木碧さんあたり? 金魚、けい、真葛の三人が会うところをぜひ見たい。
    ・貫兵衛が忍びに襲われた。なぜ?
    ・毎年末数日行方不明になる無念の居場所を探れ! 期待の新人舟野親玉はいつか登場するのか?
    ・真葛の「独考」は出版できるのか?

    【一行目】
     鉢野金魚は、闇の中で目を開けた。

    ▼薬楽堂についての簡単なメモ

    【薊/あざみ】貫兵衛のかつての部下でクビにならなかった一人。くノ一。
    【為一/いいつ】葛飾北斎のこと。
    【いく】伊三郎の妻。まだ若い。
    【伊三郎】仕立屋(製本業者)「播磨屋」の主。
    【植字/うえじ】活字のこと。木の活字はあったが仕上がりがあんまりよくなかったようで廃れていったらしい。
    【上杉幸三郎/うえすぎ・こうざぶろう】駿河国池谷家中で北野勘兵衛の上役だった。
    【卯助/うすけ】岡っ引き。島田屋から袖の下をもらっている。
    【花魁】公的にはもう花魁という制度はないがいくつかの妓楼ではその習慣を残している。昼三(ちゅうさん)、附廻(つけまわし)、座敷持(ざしきもち)の三つの階級があり、昼三の中でも呼出昼三(よびだしちゅうさん)が最高位。梶ノ鞠はそれに位置する。
    【推当物/おしあてもの】金魚の造語らしい。今で言うミステリ。
    【織田野武長/おだの・たけなが】戯作者。本名は加藤権三郎。尾張藩士で定府の勤番侍。暇潰しで書いている小説がそこそこ売れている。無念と親しい。
    【掛香/かけこう】梶ノ鞠の禿の一人。名は邪気を祓うために匂い袋を部屋に掛けたりすること。夏の季語。
    【梶ノ鞠/かじのまり】吉原の妓楼、松本屋の花魁。
    【北野貫兵衛/きたの・かんべえ】→貫兵衛
    【葛飾応為】北斎の娘。本名は「栄/えい」。美人画の腕前は父をしのぐ。枕絵も描く。
    【葛飾北斎】すぐれた絵師。
    【鼎逸道/かなえ・いつどう】絵師。東雲夕月と同時期に白澤屋に拾われた。
    【貫兵衛/かんべえ】北野貫兵衛。元は池谷藩の御庭之者(密偵)。その全体を仕切る総領。今は在野の国学者。後にあるできごとで金魚たちと知り合い読売になった。便利に使われている。
    【きく】徳兵衛の妻。
    【きさ】短右衛門の妻。夫婦喧嘩が絶えず三河町で子どもとともに別居中。本なんてたいしたもんではなく本屋もすぐつぶれると思っている。
    【煙管/きせる】この時代は客には茶より先に煙草盆を出すほど喫煙率が高かったらしい。金魚も煙草をたしなみ煙管は何本も持っており季節や状況に合わせているようだ。舞妓さんの簪や着物の柄なんかみたいなもんか。
    【金魚/きんとと】鉢野金魚。主人公。本名は「たえ」。元は吉原の大見世「松本屋」の女郎で源氏名は「梶ノ葉」。粋な女。持ち込み原稿を携えて薬楽堂にやって来た。今で言えばミステリを書く。リアルでも謎解きが得意。「お前ぇの戯作、まだ誰も読んじゃいねぇだろう」「あたしが読んでる」第一巻p.35。ふてぶてしいが自分の間違いを認めるのにやぶさかではない。
    【けい】短右衛門の娘。七歳。弁が立ち言い出したら引かないめんどくさいタイプ。うーん、金魚に似てるのかも。実際に会うと主人公にできるキャラクタだった。
    【下駄出何歩/げたで・なんぽ】戯作者。日本橋の呉服屋の若旦那。駄作しか書かないがなぜかそれなりに売れている。
    【源兵衛】天明堂山野屋の主人。書物問屋の仲間行司の一人。
    【故山堂】書肆。武家の多い通りにある。古書売買に重点を置いている。
    【しげ】松吉の母。兄弟や父と一緒になって松吉をいじめるが本当はいじめたくない。
    【仕事】《仕事は気がついた奴がさっさとやっちまうのがいいんだよ》第三巻p.19
    【慈念坊英俊/じねんぼうえいしゅん】修験者(すげんざ)。無念の家族の弔いをしてくれる。
    【東雲夕月/しののめ・ゆうげつ】→夕月
    【島田屋】薬楽堂の二軒隣の呉服屋。主人の惣右衛門が薬楽堂の土地を欲しがっている。
    【白澤屋天下堂/しらさわやてんかどう】地本屋。「華之吉原 傾城揃踏/はなのよしわらけいせいそろいぶみ」という摺物を吉原とタイアップして花魁たちの、いわばブロマイドを比較的安価に発行した。
    【素人戯作試合】長右衛門発案の、今で言えば新人賞。
    【次郎兵衛】松吉の兄。次男。
    【慎三郎】帳屋の益屋大五郎の息子。
    【清之助/せいのすけ】薬楽堂の若き番頭。優男。ヤットウを学んでいて木刀を持つと人が変わるとよく言われる。ふだんは真面目だがおもしろそうなことには食いつく。
    【竹吉】薬楽堂の小僧。本名は「勘次郎」。しっかりしていて気が利く。実家は万屋だったが夜逃げして行方不明。
    【出し看板】店の前に置く看板でごみ箱兼用。放り込まれた紙ごみは再生して使う。
    【只野真葛/ただの・まくず】おそらく実在の人物(自分で調べたわけでないので断定はしない)。随筆「独考(ひとりかんがえ)」を薬楽堂に持ち込んだ女性。本名は綾子。長右衛門の幼馴染み。滝沢馬琴も認めているがお上への批判満載で本にできない。
    【辰五郎】仲御徒町で武家の家を回ってご用を聞く御用聞き。
    【巽屋短右衛門/たつまや・たんえもん】薬楽堂の主人。妻のきさ。息子のの徳次郎、娘のけいとともに三河町で別居中。
    【巽屋長右衛門】薬楽堂の主人の父親。隠居はしてるが元気。「巽屋」と呼ばれたら怒る。薬楽堂という名前がお気に入りのようだ。ご隠居と呼ばれたら怒る。「大旦那」と呼んでもらいたいらしい。さっぱりした性格のようだ。おもしろそうなこと大好き爺い。
    【太郎兵衛】松吉の兄。長兄。
    【天神堂北田屋】主は小平(こへい)。露骨な挿絵の艶本や残酷描写の読本を売りさばいている店。
    【天明堂山野屋】漢籍や古典を扱う書肆。物之本屋。主人は源兵衛。
    【藤吉】播磨屋の職人。
    【徳次郎】短右衛門の息子。十三歳。次男だが長男が死んでいるので薬楽堂の跡継ぎになる予定。母はどっかの大店に婿入りさせて養ってもらおうと考えているようだ。
    【徳兵衛】金魚と善右衛門の家で世話係だった。
    【常世/とこよ】元常世大夫。松本屋にいた。今はお歯黒溝の女郎。金魚の推当の師匠みたいなもの。
    【虎次郎】陸奥屋の二代目。先代の虎次郎は色つけの名人だった。
    【中野勝之慎/なかの・かつのしん】浅草小石川富坂町代地に住まう小普請組の武士。内職は筆工。家の前に女の幽霊が出るというウワサ。
    【鉢野金魚/はちの・きんとと】→金魚
    【はな】伊三郎の娘。
    【はま】薬楽堂の通いの下女。三十四、五歳。
    【播磨屋】表紙仕立屋。今で言う製本業者。主は伊三郎。
    【彦次郎/ひこじろう】吉原の四郎兵衛会所に詰めている若い衆。
    【筆工】版木用の原稿の文字を書く仕事。内職にしている武士も多い。金魚は文字が上手なのでそのまま印刷に使えるが、場合によっては男文字の方がいいと考え他者に依頼した。
    【他人事】「なに言ってんだい。他人事だから面白いんじゃないか――。それに、他人の方が物事の本質がよく見えるもんだよ」第一巻p.105
    【一ツ葉/ひとつは】梶ノ鞠の禿の一人。名は羊歯の一種で夏の季語。
    【ひょっとこ屋】無念行きつけの居酒屋。
    【舞台】時代は文政。徳川家斉の治世。江戸。
    【舟野親玉/ふなの・おやだま】「素人戯作試合」の応募者。滅法面白い怪談噺を書く。言葉遣いや文字の感じから若い武士かと思われる。
    【北斎】あの葛飾北斎。夕月に絵を見せた。
    【本多左門/ほんだ・さもん】北町奉行所の同心。島田屋から袖の下をもらっている。
    【本能寺無念/ほんのうじ・むねん】→無念
    【又一/またいち】白澤屋の主人。商売は成功しているが人間性は小物っぽい。
    【又蔵】貫兵衛のところで働く彫り師。かつては御庭番で貫兵衛の部下だった。
    【又兵衛】故山堂主人。屋号は藤田家。
    【松吉】薬楽堂の小僧。本名は「捨蔵」。実家は小作人。ちょっとぼんやりしたところがある。最初の話でなんか怖いものを見た。
    【万吉】貸本屋。
    【三河町】人足ふうの若い衆が多い。
    【みね】薬楽堂の通いの下女。十二、三歳。
    【みよ】ひょっとこ屋の小女。
    【陸奥屋】紙屋。製造から販売まで。
    【無念/むねん】本能寺無念。わりと有名な戯作者だがそれでも生活は苦しく薬楽堂に居候しているむさ苦しい男。たぶん長身でルックスは悪くない。しだいに金魚に惹かれていってるようだ。いつも書くのに苦労しているし何かあったら金魚についていってるしいつ作品書いてんのやとは思う。北条氏が鎌倉で執権政治を行っていた時代を舞台にした伝奇小説が得意。幽霊噺を一笑に付すあたりに限界がある。じつは幽霊が怖いようだ。毎年同じ時期に二、三日留守にする。本名は進藤重三郎(しんどう・じゅうざぶろう)。御家人進藤又右衛門の三男で生まれてすぐ油問屋の菱田屋に養子にだされたが後に実子が生まれかつ自分が実子ではないと知り弟を主にするため家を出た。
    【村越平左衛門】旗本のご隠居。きさを別居させるための貸家を紹介してくれた。
    【茂助】松吉の父。小作人。
    【薬楽堂/やくらくどう】草紙屋。江戸では地本屋(じほんや)と呼ぶが差別化のため上方うふに「草紙屋」を
    名乗る。まあ、街の本屋で薬楽堂は出版もする。施設はけっこうデカいがそれでも「うちは手狭だからよ」と言う。
    【弥次郎】ひょっとこ屋の主人。
    【夕月/ゆうげつ】東雲夕月。絵師。梶ノ鞠を描いていて行方不明になった。天狗に拐かされたというウワサも。
    【幽霊】松吉は思った。《幽霊はこっちの都合では現れてくれない――。》第三巻p.98
    【六兵衛】薬楽堂の隠居した元番頭。清之助の父。「面白いことはみんなで楽しむのがようございます」第一巻p.63。わりとノリノリの爺さんだ。

  • 霊感商法って昔からあるのねー.
    ちょっとみんなの過去?育ちが悲しいわ…

  • 今回はメインストーリに加え、他の登場人物を主役に置いた小噺もあった。
    メインストーリー、今回は登場人物人物の身近にことが起きて、その分入り込んで読めた。
    面白かった。とくに無念の話はなかなかいい展開だったなぁ。


    2020.9.1
    86

  • 金魚が主人公の話の間に、聞き書き藥楽堂波奈志として、脇役の人たちを主人公とした話が入り、さらに本編でも登場人物の過去や、これまで表に出てきていなかった設定が明らかになってきていて、ますます面白くなってきている。3つの短編のそれぞれで、金魚の煙管や煙草入れの趣向が違っていて、季節ごとのお洒落の様子も楽しい。この巻では名前だけしか出てこないけど、只野真葛さんもまた登場してほしいな。ぜひおけいちゃんと会わせてあげたい。

  • 無念と金魚がお互いを何となく意識し合っていて、気にかけているのが微笑ましい。
    ちゃきちゃきした金魚の性格が良く出た謎解きも、パキッとしていて気持ちいい。

  • 盂蘭盆会 無念の推当/ 藪入り /唐紅 気早の紅葉狩り/ 名月を盃に映して /無念無惨 師走のお施餓鬼/ 生姜酒

    金魚の推理が冴えてる。でもその推理で「どうだ」とは言わない。真実を確かめ、うまく収まるように話を持っていく。挟まれた、他の登場人物がメインのお話がいい味を出している。

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著者プロフィール

1960年、岩手県生まれ。大阪芸術大学芸術学部を卒業後、2000年に『エンデュミオン エンデュミオン』(ハルキ・ノベルス)でデビュー。『エリ・エリ』(ハルキ文庫)で、第1回小松左京賞を受賞。14年には「風の王国」シリーズ(ハルキ時代小説文庫)で、第3回歴史時代作家クラブ賞・シリーズ賞を受賞。「採薬使佐平次」シリーズ、「江戸城 御掃除之者!」シリーズ、「よこやり清左衛門」シリーズ(ともに角川文庫)や「草紙屋薬楽堂ふしぎ始末」シリーズ(だいわ文庫)、など、多岐にわたるジャンルにて活躍している。

「2023年 『大一揆』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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