- 本 ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784479308577
感想・レビュー・書評
-
あなたは、『連句』を知っているでしょうか?
『連句』?『俳句』じゃなくて?そうです、さてさては『連句』という言葉自体知りませんし、当然、全く知識がありません。これはなんなのでしょうか?『俳句』なら有名な松尾芭蕉さんのことを思い出しますが、『連句』というのはどんなものなのでしょうか?誰か教えてくれませんか?ポチッ!
『芭蕉さんといえば俳句だと思われているけど、俳句というのは明治になって作られた言葉で、もともと芭蕉さんたちが作っていたのは俳諧連歌って言われてたものなんだよ。連句はそれをもとにしているの』。
なるほど、便利な世の中ですね。答えが出てきました(笑)。松尾芭蕉さんが作っていたものは『俳句』とばかり思っていましたが、実はそうではなく、ここで話題にしている『連句』の元になったものなのですね。なるほど。『連句』についてもっと知りたくなりました。『連句』について誰かもっと詳しく教えてくれませんか?ポチッ!
さてここに、そんなあなたの疑問に答える物語があります。『連句』の世界が詳細な知識をもって語られていくこの作品。それだけでなく、”食”の世界も堪能できるこの作品。そしてそれは、『なにかの想いをこっそりこめて句を出す。だれかがその意味を読み取って、自分もこっそりなにかの想いをこめて句を打ち返してくる…』という先に繋がる『連句』の面白さにあなたもどハマりすること必至の物語です。
『三月のはじめ、実家に戻った。 勤めていた書店が突然閉店することになったのだ』と『大学を卒業してから四年ほど働いた』書店を後にしたのは主人公の豊田一葉(とよだ かずは)。この先のことを思い、『あたらしいことをはじめるならできるだけ若いうちの方がいい』と思うも、『自分はいったいなにをしたいのだろう』とも思う一葉。一方で『四年のあいだに本が増殖し』、『祖母が使っていた部屋に置くことになった』という中に、昨年亡くなった祖母の部屋で整理を始めます。そんな祖母の部屋に残された『本棚に近づ』くと、『小説に混ざって俳句の本』を見つけた一葉は『そういえば祖母はよく俳句を作っていた』、『いや、俳句じゃない。えーと、そう、連句だ』と過去を振り返ります。『ひとりで作る』『俳句』に対して、『複数の人が集まって作る』『連句』。『毎月連句の集まりに通っていた』という祖母に『いつか一葉もいっしょに行かない?』と誘われていたことを思い出す一葉は、『連句の記録』のノートを開きます。『なつかしい祖母の字だ』と開いたノートには『句がならんで』います。そんな中、『一月 銀座空也のもなか 二月 麻布豆源の豆菓子…』とお菓子の名前を見つけた一葉は『連句は休めないんだよ。わたしは「ひとつばたご」のお菓子番だから』と言っていた祖母の言葉を思い出します。さらに『一葉へ…いつか「ひとつばたご」に行ってわたしのことを伝えてくれるとうれしいです。そのときはこのお菓子を持っていってください…』という手紙を見つけた一葉は、『春の香りの菓子を携え 治子』という句が書かれているのを見て『行かなきゃ、と思』います。『連絡先のメールアドレス』を見つけ『自分が豊田治子の孫であること』等記して送信した一葉。やがて手嶋蒼子という人物から『よければ一度連句会にお越しください』と返信を受けた一葉は『行ってみようと心を決め』ます。そして、『お菓子は…』と思い、『祖母のメモ』に、『三月は「長命寺桜もち」とある』のを見つけた一葉。
場面は変わり、手嶋さんから言われた通り『筆記用具とお弁当、それに歳時記があるなら持ってきた方がいい』というアドバイスにしたがって予定の土曜日に会場へと向かう一葉は、まず言問橋にある『長命寺桜もち山本や』で桜もちを入手し、会場の西馬込へと向かいます。『どんな人がいるんだろう…大丈夫だろうか』と不安になる中、会場の襖を開けると『ああ、もしかして、一葉さん?』、『手嶋です。よくお越しくださいました』と迎え入れられた一葉。『こちらがこのひとつばたごの主宰の航人(こうじん)さん』…と面々を紹介される一葉が桜もちを差し出すと『うわあ、長命寺桜もち?治子さんがいつも持ってきてくれてた…』、『おいしそうですねえ』と喜ばれます。そして、『じゃあ、はじめましょうか…』と主宰の航人の掛け声に『カバンから歳時記と筆記用具を取り出す』面々。『今日は一葉さんがいらっしゃるので、少しずつ解説を加えながら進めていきますね』と『連句』について一つずつ解説しながらの『連句会』が始まりました。『まずは発句です。連句のはじめの句は「発句」と言います…みんなそれぞれその紙に句を書きます。そのなかで、僕が良いな、と思ったものを選びます』と説明する航人の指示に従って『短冊と呼ばれた紙に手をのばし、一枚取る』一葉。『一葉さんも一句書いてみてください…』と『発句は長句、つまり五七五…季語がはいっていなくちゃいけない…』と説明を受け思案する一葉ですがすぐには思い浮かべることができません。そんな中に出された句の中から『なつかしき春の香の菓子並びをり』を選んだ航人。それは、治子が『いつもその季節にぴったりのお菓子を持ってきてくれ』たことに思いを馳せるものでした。『では、次は脇です…』と進む『連句会』。そんな中に『祖母はここにいたんだ。わたしの祖母ではなく、治子さんとしてここにいる人たちと過ごした時間があったんだ』と理解する一葉。そんな一葉が『ひとつばたご』の集まりに参加する中に、自らが先へと歩んでいく道を見つけていく物語が始まりました。
“書店員の職を失った一葉は、連句の場のもたらす深い繋がりに背中を押され新しい一歩を踏み出していく。温かな共感と勇気が胸に満ちる感動作!”と内容紹介にうたわれるこの作品。第1巻が2021年3月に刊行され、このレビュー執筆時点で5巻まで刊行されている ほしおさなえさんの新たな人気シリーズです。ほしおさなえさんというと”活版印刷”に徹底的にこだわった「活版印刷三日月堂」シリーズが圧倒的に有名ですが、この作品では道具ではなく、コンテンツの側に光を当てていきます。それこそが『連句』です。『俳句』や『短歌』なら知っているけど『連句』って何?というのが私がこの作品を読み始めて抱いた率直な感想ですが、安心してください!もし、あなたも私と同じような思いを抱かれる方だったとしてもこの作品を読み終えた時には『連句』と、その面白さが語れるようになっていると思います。そう、この作品は”連句入門書”と言っても良いものなのです。かなり詳細な記述がなされていますが、まずここでは『連句』について最低限の知識をご紹介しましょう。
● 『連句』って何?
・『俳句はひとりで作るもの。でも連句は、複数の人が集まって作る。だれかの作った五七五に別のだれかが七七を付ける。それにまた別のだれかが五七五を付けて、というふうにつなげていく遊び』
・『連句を作っていくことを「巻く」と言います』
・『連句を巻く際、進行役となるのが「捌き(さばき)」。句は毎回みんなで出し合って、捌きがここに合う句を選んでいく』
・『連句のはじめの句は「発句」…発句は長句、つまり五七五…季語がはいっていなくちゃいけない』
・『二句目を「脇」と呼びます…発句と脇はふたつでひとつの世界を作る…だから季節は同じで、内容もあまり離れすぎていない方がいい』
最低限の記述を抜き出してみましたがいかがでしょうか?これだけでも『連句』のイメージがふわっと沸き上がるのではないでしょうか?もちろん、この先、どんどんどんどん深い世界が解説されていきます。私もここに今までのXX年の人生で全く知らなかった世界があることを知りました。面白いですね、この世界。そして、物語では『ひとつばたご』の集まりで完成した『連句』が章毎に作成されていく過程が描かれていきます。最初の章〈春の香りの〉では、『脇』まで出来上がった句が挙げられていますがご紹介しておきましょう。
『なつかしき春の香の菓子並びをり 蒼子
のどかに集う言の葉の園 一葉』
『句の下に作者の名前を入れる』という決まり事も紹介されます。そして、この句を見て『文字から春の匂いが漂ってくるみたい』と感じる一葉。いやあ、なんだか良い感じです。二章目以降もさまざまなやり取りの中に『連句』が完成されていきます。この『連句』ができていく過程を見るだけでもこの作品世界にすっかり魅せられてしまいました。
そんなこの作品は、実は『連句』以外の魅力にも満ち溢れています。その一つが『わたしは「ひとつばたご」のお菓子番』と認識していた祖母が残したメモに書かれた和菓子の数々が登場するところです。月一回の『連句会』。そんな場に参加することになった一葉は、祖母のメモに書かれた和菓子屋へと赴き、和菓子を買って会場へと持っていきます。この和菓子がまたたまらなく美味しそうなのです。二章目の〈一等賞になれなくても〉に登場する『向じま満ん草餅』をご紹介しましょう。『明治二年に創業した和菓子屋』という伝統あるお店の『草餅』です。
・『看板商品の草餅にはあん入りとあんなしの二種類がある。あん入りはこしあん。あんなしにはきな粉と白蜜がつく』。
・『外側の緑色のお餅の表面はつるんとして、ヨモギの香りがぷんと漂う』。
・『あんなし』は、『草餅にくぼみがあり、そこにきな粉を入れ、白蜜をかける』。
いやあ、もうこれだけで食べたい!という気持ちを抑えられなくなりそうです。ちなみにこの作品に登場する和菓子屋と和菓子は、小説の創作ではなくすべて実在するものです。つまり、我慢できなくなったら、食べにいくことができてしまう!これは良いですね!
『このあんなしを食べたかったの。きな粉も蜜もおいしいのよね』、『でも、あんも捨てがたいです』
そんな風に盛り上がる面々。”食”を楽しめる一面もある、それがこの作品のもう一つの魅力だと思いました。また、この作品では、主人公の一葉が勤めていた本屋さんで作っていた『ポップ』にも光が当たります。そして、そんな『ポップ』を起点にパン屋さん…と物語が繋がっていきます。そこには、それぞれのお店に関する、そうなんだ!という知識がさらに盛り込まれていきます。これは凄いです!もう一行一文字まで無駄がないくらいにまるで知識の泉のように、こんこんと湧き出してくるあれやこれやの知らない世界のお話。今までに850冊以上の小説ばかり読んできた さてさてですが、一冊の小説を読む前と読んだ後で、知識がここまで大きく膨らんだ作品は記憶にありません。この作品凄いです!
そんなこの作品は6つの章から構成されています。物語は、主人公の一葉が『勤めていた書店が突然閉店することになった』ことで実家へと戻り、増殖した本の整理をするために、昨年亡くなった祖母の部屋へと入ったことから動き始めます。祖母の本棚に『連句』のノートを見つけ『連句は休めないんだよ。わたしは「ひとつばたご」のお菓子番だから』と言っていた祖母のことを思い出す一葉は、意を決して『ひとつばたご』の集まりへと参加します。そこで、『連句』の世界へと踏み入っていく一葉は、ある思いに至ります。
『祖母はここにいたんだ。わたしの祖母ではなく、治子さんとしてここにいる人たちと過ごした時間があったんだ』。
『連句』の世界に触れ、その深い魅力に囚われていく一葉は、自らも句を巻き、『捌き』の航人によってその幾つかが選ばれてもいきます。物語は、そうして出来上がっていく『連句』で魅せていく物語が中心にある一方で、失業者の身である一葉が自らの生き方を模索していく姿が描かれていきます。そんな中に蘇る祖母の言葉。
『ねえ、一葉、別に一等賞にこだわらなくたっていいんじゃない?』、『一葉には一葉の良さがあるんだから、それでいいとおばあちゃんは思うなあ』
物語は、祖母のそんな言葉を振り返る一葉の姿も見せながら、かつて書店で好評を博していた一葉の『ポップ』が一つの起点を作り出していきます。人と人が『連句』で『和菓子』で、そして『ポップ』で繋がっていく物語。この作品は上記した通り、さまざまな分野の知識がとめどなく溢れ出す点がとても魅力の作品です。しかし、それ以上に印象に残るのが、人と人との繋がりという点です。5冊までシリーズ化もされているこの作品。この先どんな世界を、どんな繋がりを見せてくれるのだろう?2冊目を読むのがとても楽しみになる結末に、作品世界の魅力にどっぷり没入できた満足感を胸に本を置きました。
『句と句のあいだに集った人の想いがにじんでいる。これが連句の楽しみなのかもしれないな』。
祖母の残したノートをきっかけに『連句』の集まりに参加するようになった主人公の一葉。この作品では、そんな一葉が『連句』の世界に魅せられていく一方で、自らのあらたな人生に踏み出していく姿が描かれていました。『連句』の世界の奥深さにすっかり魅せられるこの作品。まさかの”食”の魅力にも溢れるこの作品。
小説を読むことで、自分の世界がどんどん広がっていく喜び、改めて小説を読む意義を感じた素晴らしい作品でした。 -
連句を巻いてる皆さん、本当に楽しそうです。趣味を始めるなら、一人じゃなく、他の人と創るものがいいな、と思えるお話でした。とっても楽しく読みました。
この本には、色々な要素が盛り込まれています。素敵な方々、食べ物や雑貨たちが登場します。まるでスイーツ盛り合わせのセット?みたいな、いろんな視点で楽しめる作品でした。
主役は、なんといっても「連句」ですね。句を詠むだけだと思っていた「連句」が、座のチーム力で「森羅万象」を詠む、「様式」の世界だったとは、驚きました。
そして次が、すでに亡くなった方々、特に主人公の一葉(かずは)さんのおばあ様の治子さんが印象的でした。孫娘にも連句を勧めた治子さん、一緒に連句はできなかったのですが、プランBは成功です。連句には人を救う力があるんでしょうね、治子さんはその経験から、孫娘の幸せを願い、連句を勧められたんでしょう。
治子さん、「朝ドラ」だったら絶対にナレーション担当ですね。
最後は、自称お菓子番の治子さんが選んだ和菓子たち、ネットで写真を見ながら読みました。おいしそうです。
それから、パン屋さんの「パンとバイオリン」さんのパンたち。グルテンとか気にせず、おなかいっぱい食べたかったです。
一葉さんが、元気を取り戻してきて、心配していたお母さんも嬉しそうでした。続編では、さらに元気になって、パワーをもらえることを楽しみにしています。 -
この作者さん、「三日月堂」「月光荘」「紙屋ふじさき」「ものだま探偵団」と読んできて、また別のシリーズに行ってみる。
今回の題材は「連句」。
勤めていた書店の閉店で職を失い実家に戻った一葉が、亡き祖母の遺品から連句のノートを見つける。亡き祖母のことを知らせに連句の席を訪れた一葉は、メンバーに迎え入れられ連句に参加することになる、という出だし。
なつかしき春の香の菓子並びけり
のどかに集う言の葉の園
連句とは全く知らなかった世界だが、最初の句からしてほんのり良かった。
次々と出て来る連句のルールがさっぱり頭に入らないのは困ったものだが、それでもなかなか興味深くはある。
『連句を続けていると月と花は別格に思えてくる。月がいつも空にあるのがいいんです』『月は満ち欠けがあるから月単位の時間を感じられるし、花はやっぱり生きているからかな』なんてとてもよく分かるが、年を取ればこそか。
連句以外にも、おいしそうな季節のお菓子や東京の色々な町の風情が描かれ、パンや苔や雑貨の話になったり、それらのお店を流行らすためのポップづくりの話になったり、飽きずに読める。
更には、連句のメンバーの年齢・性別・職業などが異なる人たちが、雑談の中では恋や男女の機微について語ったり、世俗的な句に飛んでみたり、そのあたりは森羅万象を描く連句の楽しみ方に似て、ここもまた面白く読めた。 -
とてもきれいな装丁に引かれ、さらにお菓子ときたら読むしかないっ!と思い手にとったが、あまり馴染みのない連句というのが物語の根幹で少し難しそうと思った。
しかし読みやすく連句の世界をじっくり知ることができた。言葉の表しかたって沢山あるのだな。
シリーズ物と知り、連句を通じてポップのお仕事も軌道に乗る一葉さんの今後と会のみんなとの関わりがどうなるのか気になる。
登場するお菓子や土地は知っている所ばかりでさっそく言問団子を購入した。今は反対車線の歩道にある桜と梅が咲き始めていてお花見にはぴったり。少し歩いたら長命寺のお店も草餅のお店もあり、あの辺りはいわば甘味ロードだ。
桃林堂さんなんて、昨年前を通った時に気になっていたお店だ。こんどまた行ってみよう…
あんみつ羊かんだけは知らなかったので、食べたいリストに追加。
後半本編そっちのけでグルメリサーチに使っていて申し訳ない…。 -
はじめましての作家さん。
でも、「活版印刷三日月堂」や「紙屋ふじさき記念館」などなどは書店で見かけたことはよくありました。そして、とうとうお菓子番という書名に惹かれて、シリーズものと分かっていましたが手に取りました。
主人公は豊田一葉。
勤めていた書店が閉店になった元書店員。
作品の主な舞台は一葉の祖母が通っていた連句の会「ひとつばたご」
登場人物は連句の会の人たちとその人たちの知人。
お菓子番というだけあってひと月に一回ある連句の会にお菓子を持っていきます。これらのお菓子は季節の和菓子が多くて、全く同じではないでしょうが知ってる物もあって嬉しく思いました。
また、連句というものを初めて知りました。
色々とルールがあるようですが、みんなで句を考えるシーンは面白かったです。
-
シリーズもの。
知っている土地が出てきて、嬉しくなりました。
次巻も読みながら、人と言葉を紡いでいく「連句」の魅力に触れていきたいと思います。 -
俳句もなかなか手にして詠むことがない。
ましてや、連句というのも今回初めて知ったわけで…。
なかなか馴染みないものに少々戸惑いもあり、読み終えるのに時間がかかってしまった。
それでも見知らぬ者同士が、言葉と言葉を繋げて36句で詠む。
人の使う言葉、知らないものに触れることで新しい言葉が生まれる。
不思議だけれど新しい発見をしたような気になる。
まさしく別な見方を知るための一種の冒険なんだろう。
ちょっとワクワク感もあるのだろう。
「連句では、一等賞はない。
丈高い句も軽い句もみんなちゃんと役割があり、良さがある。」という言葉が心に残った。
物語は、書店員の職を失い実家へ帰った一葉が亡き祖母から受け継いだ連句の会のお菓子番。
そこで世代の違う人たちとの縁で、パン屋そして園芸店さらに雑貨店のポップを手掛けることになる。
言葉を愉しむ会を続けながら新たな自分を発見するという清々しさも感じて新春にふさわしいと思った。 -
『連句』って面白そう!この本を読んですっかり魅了されてしまった。
勤めていた書店の閉店で、根津にある実家に戻った豊田一葉(かずは)。
亡くなった祖母の部屋の本棚で一枚の手紙を見つける。十二ヶ月分のお菓子の名前が並ぶ紙の裏には祖母の字で、「一葉へ。ひとつばたごの皆さんに私のことを伝えてくれるとうれしいです。
ずっと楽しかった、ありがとう」と書かれてあった。
「春の香りの菓子を携え 治子」
の句を見た一葉は、祖母に代わって三月の菓子「長命寺桜もち」を携え会に向かう。祖母の歩いた道筋を辿りながら自分の新たな一歩を踏み出す一葉にエールを送りたくなった。
連衆が座に集い連句を巻く(作る)
句は皆で出し合い『捌き』と呼ばれる進行役が合う句を選んでいく。
五七五の長句、七七の短句が三十六句つながる『歌仙』という形式を用いる。
「ひとつばたご」主宰の航人さんが解説を加えながら、『発句(ほっく)』『脇』『第三』…と次々に句が決まっていく。
「発句と脇はふたつでひとつの世界を作るように」季節は同じで名詞で終わる。
「なつかしき春の香の菓子並びをり」
蒼子さんの発句に、祖母の記憶を重ねて
「のどかに集う言の葉の園」と付けた一葉の句が『脇』に選ばれ嬉しくなった。
生前の祖母を知る人たちとの連句の会。
穏やかな雰囲気が伝わってきた。
決まり事はあるが自由に連想して構わない連句。なにかの想いをこっそりこめて句を出す。だれかがその意味を読みとり自分もこっそりなにかの想いをこめて句を打ち返す…連句にとても興味を覚えた。
季節の和菓子がどれも美味しそう!
パン屋さんのケークサレも食べてみたい。
物語の中には四季折々の東京の下町を巡る楽しみもあった。
鈴代さんから紹介された「パンとバイオリン」のポップを書いたことで、園芸店「houshi」、生活雑貨の「くらしごと」からも仕事の依頼がくるようになる。
一葉が書店員だった頃、お客さんとして来店していた萌さんと連句会で再会した偶然にも人の不思議な繋がりを感じた。
年齢や経歴を飛び越えて連句の"付け合い"が特別な繋がりを生む。こんな時間を私も持ちたいと思った。
-
タイトルから勝手に今乱立している食べ物系の話だと思って、発売当初はスルーしていたが、やはり何となく気になって読み始めてみたら、全く違う話だった。
不況で働いていた書店が潰れてしまい、無職になってしまった主人公の一葉。
亡くなった祖母の部屋で、祖母の連歌のノートを見つけたことから、祖母のメモにあった季節のお菓子を持って、祖母の通っていた連歌サークルへ足を向ける。
季節ごとのお菓子のチョイスは、実際にあるもので、読んでいても何だか楽しい。
そして、初めて知る連歌の世界。
奥深いけど、一葉の目線で分かりやすいように描かれているので、素人でも分かりやすい。
お菓子、連歌でも盛沢山なのに、無職の一葉は連歌サークルのメンバーの紹介でポップの仕事を始めることに。
そのお店にあった雰囲気で、紙や字体、筆記用具などを試行錯誤しながらポップを作成していく様は「紙屋ふじさき記念館」の百花と重なる。
登場人物もみな良い人で、いつもながらほっこりする。
連歌のことも、もっと知りたくなってくる。
長命寺の桜もちも言問団子も、この時期になると食べたくなるなぁ・・・
著者プロフィール
ほしおさなえの作品






なるほど、『連句』を体験されたわけですね。それはすごいです。この作品でもその場が描写されていますが、やはり本...
なるほど、『連句』を体験されたわけですね。それはすごいです。この作品でもその場が描写されていますが、やはり本物には叶わないでしょうし、本物を見ていればよりイメージしやすくなると思います。ただ自分の句だけがいつまでも選ばれなかったらどうしよう…とかそんな心配も少ししてしまいます。まあ、そういうものでもないのでしょうけど。やはり、本物の場を見てみたいですね。取り敢えず一傍観者として(笑)
この作品は『連句』だけでも読みどころ多々ですが、『菓子』に関して、『POP』に関してと話題豊富でとても興味深い一冊でした。
私の説明が不足していてごめんなさい、この短歌フォーラムは公募した短歌の紹介や表彰ためのもので...
私の説明が不足していてごめんなさい、この短歌フォーラムは公募した短歌の紹介や表彰ためのものでしたが、そのあと短歌や俳句の選者とゲストが集って、連句の催しがおこなわれたものです。会場の皆さんはその様子を楽しく拝見しました。
参考まで、ゲストの作家辻原登さんが、会場でお薦めしていた本がおもしろかったので紹介しておきますね。
『歌仙はすごい――言葉がひらく座の世界』(中公新書)
この本にある食や和菓子も美味しそ~です(^^
お餅にめがない私です(笑)
補足いただきありがとうございます。なるほどそういった場が用意されるんですね。
お薦め本、なるほど『連句』を作り上げてき...
補足いただきありがとうございます。なるほどそういった場が用意されるんですね。
お薦め本、なるほど『連句』を作り上げてきた歌仙こそが俳句の原点という捉え方ということですね。私はこの作品を読んでそんな『連句』には和菓子が必須という印象を持ちました。やはり美味しいものはいいですよね!