- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784479392743
作品紹介・あらすじ
九州で過ごした年月を、東京で過ごした年月が越えてゆく-地方出身者すべての胸を打つ、著者初の私小説エッセイ!
感想・レビュー・書評
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20代から東京に住んでもう20年以上が経つ。
実家に帰っても話が合う友達はいない。
東京にも同じ想い出のある友達もいない。
誰も自分の過去を知らない。。
私はそんな東京の暮らしが嫌いでない。
むしろ「○○らしいね」とか「昔からそうだよね」とかそう言われるのが好きでない。
これまでの私の積み立てが、今の私、以上。なのです。
そんな自分だけの感覚が
この本にはたくさん描かれていて不思議な感じ。
感覚は共有できても、だだそれだけなんだけども。
雨宮まみさんの本は、そういうのが多い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
地元から出てきて東京に住みながら、色々感じる自分のチグハグさ、そんな自分は苦手だったけれど、みんなそういうらものなんだと思えて気が楽になった。
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「これから、どうなるのだろう。東京も、私も、絶え間なく変わってゆく」ーーこの一文でこの作品は終わりを迎える。2010年代前半、資本主義的価値観で加速的に破綻の道を歩み続ける東京という街に生きる作者の実感が綴られている。
いま私は「東京という街に生きる」と書いたが、本作はあくまで『東京「を」生きる』だ。東京という街を「場所」という一面的な見方ではなく、価値観や生き方といったものとして筆者は捉えているように生きる。あるいは複雑な意思を持った巨大な生き物のように捉えているかもしれない。その化け物の中で、欲望に駆り立てられ、心を引き裂かれるように、暗闇の中でもがくかのように生きている。
2021年の今になって読むとどこか懐かしいような気もする。自分もあんなふうに生きていたなと。しかし東京という化け物もずいぶん魂を抜かれてしまったように思う。資本主義社会が駆り立てる欲望は所詮はフェイクで、この街にしがみつかなければ手にできないものを私たちは本当に必要としているのか。そんなことを考えながら読んだ。 -
心して読まないと、私の何かが変わってしまう恐れのある本。なぜ、そんなにも人の目を気にするのか、自信がないのか、謎な部分が多い反面、激しく心揺さぶられるところもあり、なんて正直な人なんだ、と衝撃を受ける。同じ福岡県民で女性で書く仕事をしていて、東京に住んだことはないけれど関東圏に住んだことのある身としては、共感できる部分もある。醜いところも美しいところも、どっちも真正面から体当たりでぶつかりたい人なんだろうなと思った。そうじゃなきゃ、こんな美しい文章は書けない。
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折に触れて読み返したくなる
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東京というまちの果てしない魅力とエネルギーと
そこで暮らすことの際限のないワクワク感と
それと引き換えの苦しさとを
痒くなるほどの言葉で詰め込まれた本 -
東京で、物と人と情報の多さにバランスを崩してしまいそうになった感覚を思い出しました。それらの移り変わりのスピードは速く、いつも足もとがふわふわしているように感じたものです。
このエッセイでは「ハンバーガーを我慢してブランドバッグを持つ」見栄が描かれていますが、私の場合は「社会的意義があることに挑戦する」という見栄があったように思います。
それは私にとって「痛い思い出」ではなく、あの年齢、あの場所でしかできなかった経験として概ね肯定的に捉えることが出来ていますが、当時は大した能力がない自分に失望し「所詮どこに住んで何をしても私は私でしかない」と痛感しました。
一方で、最善の環境での努力は報われやすいと教えてくれたのもまた東京であります。
きっと自分が揺らがなければ「東京だから」どうということは無いのでしょう。それでも東京に吹く風に惑わされてしまう。
切なくなるほど愛しく、少しほろ苦い青春時代を思い出させてくれる本でした。
雨宮まみさんの感性は読み手の心も抉るので苦手ですが、描写は好みです。
「雨の日の、夜のタクシーが好きだ。フロントガラスの水滴に滲む街の毒々しいほど鮮やかな光が綺麗で、いつまでも見ていたくなる。この景色を何時間でもお金で買えたらと思う。」 -
痛く苦しい本だった。
まっすぐで一生懸命で繊細で。
ごまかしなく信頼できる裏切らない誠実な、だから、こんなに苦しい。
私の代わりに苦しんでくれたのではないだろうかという気さえする。あなたが生きていたことをうれしく思う、そんな本だった。
ありがとう。 -
同じ地方出身者として、わかることもあり、自分を振り返るような気持ちになりました。
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東京の大学に進学した時。東京で一人暮らしを始めた時。東京の会社で働き始めた時。
その度に一度は胸が高鳴った。
けれど、僕らの日常というのは、油断するとすぐに新鮮味を失う。
気がつけば28歳になり、単調な毎日を暮らしていると感じる時がある。
そんな日常に彩りを取り戻そうと何度か試してみた。けど、持続しなかった。
そのためには継続的な努力と工夫が必要だと自分は感じている。
それが面倒で、また退屈な日々に陥ってしまう。
日常を楽しむというのは1つの才能なのだと思う。
雨宮まみという女性は、きっとそんな才能を持った人だった。
人生を楽しむための欲望を追求し続けた人だった。
だけど、その代償として孤独や苦悩を払い続けた人でもある。
40歳という若さで亡くなった彼女は、人生の最後の瞬間まで戦っていたのだと思う。
そんなありのままの姿をさらけ出してくれるから、この人のことを好きだと思える。この本を読んで良かったと思える。
退屈な日常に変化をつけたくて、自転車通勤を始めてみた。
蓋を開けてみれば、新宿と六本木の距離は通えない距離ではなかった。
朝の東京が、そして日の沈みゆく東京が、こんなにも綺麗だなんて知らなかった。
ちょっとした工夫で、僕らはまた新しい東京に出会うことができる。
そんなことを教えてくれる、魂からのエッセイだった。