江戸絵画の不都合な真実 (筑摩選書 2)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480015044

作品紹介・あらすじ

近世絵画にはまだまだ謎が潜んでいる!又兵衛、一蝶、若冲、蕭白、芦雪、岸駒、北斎、写楽を取り上げ、その作品を虚心に見つめ、文献資料を綿密に読み解くことで、社会的・政治的・文化的「不都合」として隠蔽された「真実」を掘り起こす。特異の絵師たちの等身大の人間性を深く掘り下げ、絵画に隠された意味を読み解く刺激的試み。

感想・レビュー・書評

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  • <目次>
    第1章  岩佐又兵衛~心的外傷の克服
    第2章  英一蝶~蹉跌の真実
    第3章  伊藤若冲~「畸人」の真面目
    第4章  曾我蕭白~ふたりの「狂者」
    第5章  長沢芦雪~自尊の顚末
    第6章  岸駒~悪名の権化
    第7章  葛飾北斎~富士信仰の裾野
    第8章  東洲斎写楽~「謎の絵師」という迷妄

    <内容>
    ベテランの研究者の江戸時代の有名絵師たちの真実を語るもの。絵の話よりも歴史的な「真実」を丹念な史料から選り抜き、通説や盲説を叩き切っていく。若冲の話が面白かった。若くして青果問屋の主を引退し、ただただ絵に没入した「世捨て人」的イメージだったのだが、そうではないことをあかしてくれた。北斎と「富士信仰」も面白かったし、岸駒の話は、この絵師に詳しくなかっただけに、興味がわいた。

  • 美術史が歴史学の一種であることを改めて実感させる書。
    岩佐又兵衛、英一蝶、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、岸駒、葛飾北斎、東洲斎写楽を取り上げ、主にその経歴について、一般に(なんとなく)広まったイメージと異なる事実を史料に基づいて語る。“不都合な真実”は今となっては何それ?という感じだが、出版された2010年も、すでにアル・ゴアの映画(2006年。ゴアのノーベル賞受賞が2007年)から時間がたっているので、なんでこのタイトルにしたのかよくわからない。学術的には確立しているのに過去に定着してイメージが更新されないのは、それが受け入れられにくい=不都合だから、という感じなんだろうか。
    又兵衛については、経歴について意外な話が出てくるわけではなく(むしろ信長は、少なくとも荒木村重の謀反時には、一般の印象と違ってかなり辛抱強かった、という話は出てくる)、PTSD重大視への反論のつもりのようだが、著者自身、又兵衛は山中常盤物語絵巻を描くことで母の非業の死による「PTSDを克服した」と書いているので、反論になっていないような。誰もトラウマを受けることを排除せよとは言っていない(無理だから)んだから。
    若冲が隠居後も町年寄として命も賭して役人の不正に抗した(オタク芸術家ではなかった)とか(これは既にWikipediaにも記されていた)、自負心の高い芦雪や岸駒が京都で嫌われ者だったようだとか、一蝶と不受不施、北斎と富士講の関係及びそれらの信仰の江戸時代における重要性とか、私には新鮮な話ばかりで(富士講とか、レジャー的なものだと思っていた! 本当に中高の教科書で取り上げないのが不思議だ。)、それぞれの絵師と作品への興味を一層掻き立てられた。
    著者の熱い思いが感じられる筆致で、それが面白いところでもあるのだが(京都人の外来者や出る杭に対する陰湿さとか、九州出身で職に就いてから京都で暮らす著者の私怨を感じさせる。それが”不都合な真実”なのか?)、筆の勢いか突拍子もないことが引き合いに出されて、引いた箇所もかなりあった。
    不受不施派の平等思想の話から、なぜかクロムウェルのアイルランド人虐殺の話が出てくるし(クロムウェルは「宗教者」とは言えないと思う)(p.61)。
    画料が高いと悪口言われている岸駒が実は社寺の復興に力を尽くしていた話で、なぜかエコロジー批判が出てくるし(p.177)。
    岸駒の関連では、なぜか平山郁夫(の名前は出てこないが、「原子爆弾の被災者であることを声高に述べ"世界平和”のために作画していると公言して文化勲章を貰った画家」という物凄く悪意の籠った言い方している。)批判が出てくるし(p.178)。そんな接点がありそうにも思えないが、個人的な恨みでもあるかと思うくらい。余程嫌いなのだろう。

  • 近世絵画にはまだまだ謎が潜んでいる!又兵衛、一蝶、若冲、蕭白、芦雪、岸駒、北斎、写楽を取り上げ、その作品を虚心に見つめ、文献資料を綿密に読み解くことで、社会的・政治的・文化的「不都合」として隠蔽された「真実」を掘り起こす。特異の絵師たちの等身大の人間性を深く掘り下げ、絵画に隠された意味を読み解く刺激的試み。(袖)

    英一蝶に岸駒と、あまり知らない絵師の解説は大変ためになり、面白かったです。また、知っていると思っていた若冲や蕭白の、通説とは違った一面を紹介されているのも刺激的です。
    ただ、ところどころ言葉の棘が強いので、ひっかかりました。

  • 絵そのものよりも、それを描いた絵師の思想・来歴、ひいては時代背景を読み解こうという本。

    岩佐又兵衛
    おやじが、信長に反旗を翻したが結局は一族郎党を置いて逃げた荒木村重。「山中常盤」は一族が処刑されたトラウマから来るPTSDの治療であるというのが著者の見立て。しかし、まだ又兵衛は物心もついていない年齢であったので、PTSDは明らかに言いすぎ。ただし「山中常盤」に限らぬ凄惨な題材は、まだ血なまぐさい戦国の世が記憶に新しかったことの影響だろうか。

    英一蝶
    四民平等を唱えるなどして禁教であった法華宗不受不施派の信徒であったと。島流しの原因であったかもしれぬし、流された先で子を成すなど生活が苦しくなかったのも信徒の支援によるものであろうと。

    伊藤若冲
    大典和尚の文章のおかげで「おたくキャラ」で通っているが、町年寄として他の町との紛争を粘り強く、命懸けで解決したと思しき記録がある。「伏見人形七布袋図」も奉行を訴えて死んだ伏見義民へ捧げたものだと。

    曾我蕭白
    金龍道人という無頼の僧と、「狂者」同士ということで絡めて。伊勢に多く作品を残している。

    長沢蘆雪
    武士の出であることを鼻にかけていた。周りからも疎んじられたのではないかと。晩年は作風も乱れていく。旅好きで師匠の応挙に代わって、遠方に作品を納めに行ったりしていた。

    岸駒(がんく)
    成り上がりのために、スノッブな京都人に何やかやと揶揄された。しかし、官位を買うのも故郷加賀に錦を飾りたいがため、晩年は寺社修復にお金を出していたようで、著者は岸駒に肩入れする。

    葛飾北斎
    冨士講の話。長谷川角行から始まり食行身禄が断食して入定し中興の祖となる、これまた禁教。江戸八百八講(実際は三百講くらい)といわれるくらいで、何回も禁令が出されたのは盛んであった証。著者は土持(土木普請、信者がボランティアで行った)というペンネームを北斎が手紙で使ったことでもって、少なくとも関心を寄せていたろうと言う。

    東洲斎写楽
    正体は、阿波の能楽師である斎藤十郎兵衛で決まりだよ、と中野三敏氏の研究を紹介。武士なので役者浮世絵を堂々と描く訳には行かず。第三期の作品に本職の浮世絵師による偽者が紛れ込んでいるのは、いざという時の申し開きのための蔦重の作戦。

    時に著者の物云いは乱暴だが、絵を通して、その時代の空気に迫るさまは面白い。

  • もう少し美術的な観点が強いほうが好み。
    内容は初めて目にするようなものばかりだけど、絵のもつ力が伝わってこなかった。

  • 文章が独特で読み辛い。内容は尖っていて、読んでいてニヤニヤする面白さ。

  • PTSDへの主観まみれの振りに引き、荒木村重(というか自説)に都合のよすぎる信長公記解釈に引いて積み。絵のチョイスは面白そうだったけど解説が合わない。

  • 又兵衛、一蝶、若冲、蕭白、芦雪、岸駒、北斎、写楽ら8人の画家の隠蔽された真実を明らかにするという試みは、刺激的で成功している。写楽、若冲、又兵衛以外のエピソードは、初耳でどれも興味深い。特に、北斎の章に出てくる食行身禄という富士講の行者には驚いた。このような急進的な思想を持ち、躊躇ない行動をした宗教家が存在したことは、全く知らなかった。蕭白、岸駒のところで強調される京都人のいやらしさもなかなか凄い。これらの新事実が続々と発見されるのも、江戸時代の史料(和本)の豊かさの証明でもあるのだろう。

  • 面白かった! 富士講と北斎との関係など。 レビューはまた後で

  • 歴史的予備知識(それも常識レベル)が薄い私には、ちょっと困難。流し読みできない。

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著者プロフィール

狩野 博幸(かの・ひろゆき):1947年福岡県生まれ。日本近世美術史家、前京都国立博物館名誉館員。九州大学文学部哲学科美学・美術史専攻卒業。同大学院博士課程中退。京都国立博物館を経て、同志社大学教授。専門は桃山絵画、江戸絵画。特に狩野派・長谷川派・琳派・18世紀京都画派が研究領域。京博時代は、数々の名企画展を手がけた。主な著書に、『目をみはる 伊藤若冲の『動植綵絵』』『狩野永徳の青春時代 洛外名所遊楽図屏風』(小学館アートセレクション)、『反骨の画家 河鍋暁斎』(新潮社 とんぼの本)などのほか、美術全集、美術展図録の解説など多数。

「2022年 『江戸絵画 八つの謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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