100のモノが語る世界の歴史 (2) (筑摩選書 41)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480015525

作品紹介・あらすじ

定住生活から都市を、そして文明を築いた人類は、帝国の時代を迎える。強大な権力を手にした帝国の支配者たちは、図らずも同じ難題に直面する-異なる民族、異なる宗教、異なる文化をいかにして統治すればよいか。カリスマに頼り、権威を見せつけ、宗教にすがりつつ、興亡をくりかえした数々の帝国。彼らの産み落とした物に、人類の苦闘と発展の歴史を見る。大英博物館とBBCによる世界史プロジェクト第2巻。

感想・レビュー・書評

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  • 大英博物館の企画展を側面から説明する選書の第二弾である。遺物によって、その時代の深い物語を取り上げ、結果的に世界の歴史を語るという試みに私は賛成する。ここに選ばれている遺物は、何も説明されずに視れば単なる硬貨や絵皿や壺や瓦、像に過ぎない。現代の美術家でも作れそうなものも少なくはない。しかし、大英博物館というの世界最高峰の学芸員たちの語る物語を経ると、その遺物は忽ちに人類の思想と美意識が創った歴史の貴重な足跡に見えるだろう。第一巻と同じように、私は私の問題意識に沿って、35の遺物の中からたった3つだけを選んで、その感想を述べたい。

    漢代中国の漆器。(北朝鮮、平壌の近くで出土した漆塗りの杯。西暦4年)
    楽浪郡の出土品だ。司馬遷「史記」の時代、漢の皇帝武帝は紀元前108年に北朝鮮のあたりまで領土を広げ衛氏朝鮮を滅ぼして楽浪郡を初めとする漢四郡を朝鮮に置いた。それから100年が経った。これは前漢の終わりの頃に太守への贈り物としては当時の最高級品だった。どこが最高級品か。日本の漆器もそうであるが、本物は30回以上の塗り重ね、乾燥と硬化のための待ち時間等々で完成までに一か月以上のの時間と手間がいる。マクレガーはこれ一つで青銅の杯10個は買えただろうという。この当時、漢王朝は文字通り世界で一二を争う国だった。人口調査までしている。5767万1400人だったという。最もすごいのは、杯の底の周囲の帯に「銘」がある。そこには、製造工程の6人の職人、そしてなんと製品検査官の7人の名前がかかれているのだ。すなわちこうだ。「木の心材は○、上塗りは當、耳の持ち手の金張りは古、絵付けは定、最終研磨は豊、製品検査は宗、責任者は政府監督長の章、管理責任者の良、補佐官の鳳、その部下の執行官の隆、および事務長の褒である」当時日本は弥生時代中期、まだ大きな王墓は出現していない。青銅器時代が終わりに近づいていたころだ。漆器はあった。日本の漆器職人が中国に出向けば、すぐに職人になれただろう。しかし、この検査に7人もの人間を記録するような官僚体制を作るのには、それからさらに600年も必要としたのである。今気が付いたのだが、それは日本が製鉄を導入するのと同じくらいの年月を必要としたということになる。

    ウォレン・カップ(エルサレムに近いビテールで出土されたとされる器。西暦5-15年)
    漢代の漆器とほぼ同じ時に、遠く反対側の国で一つの銀器が作られていた。問題は器を作る技術ではない。そこに描かれていた「こと」である。
    この器には、成人男性と思春期の少年との間の性の行為の場面が描かれている。このゴブレットの技術もすごい。内側からの叩き出しで模様を作っている。パーティー用の器であり、その場にいるすべての人々の称賛を得るために作られたものであることは論を待たない。パーティーには一般的に男だけが出席する。ここに描かれているのは、ローマ人から見たギリシャ世界の性愛の姿ではある。我々が江戸時代の歌麿の春画を鑑賞するようなものだ。理想化されてはいるが、大っぴらに認められてはいない。それを象徴するのが、隅に描かれている奴隷が二人の姿を盗み見する姿である。この当時の社会に対する相対的なものの見方の「成熟さ」を、私は驚きをもって見ている。

    最後は唯一紹介されている日本の遺物を取り上げる。

    時代はぐっとさがって平安時代、鏡である。西暦1100-1200年。
    弥生時代に日本にもたらされた鏡は、この時代もいまだ青銅を磨いてその研磨された表面に映る機能で鏡の代わりにしている時代だった。しかし卑弥呼の鏡から約1000年後、裏の模様は極めて日本的なものに変貌した。飛翔する二羽の鶴というモチーフは極めて日本的であり、その流れる意匠は極めて独特である。また、長寿を願う祈りも込められている。この鏡が発見されたのは東北の出羽神社の池の中だった。平安貴族の娘が要らなくなった鏡を修験者に依頼して来世を願って投げ入れさせたものだろうということである。こにもやはり小さな「物語」がある。

  • シルククロード、インド洋、ヴァイキングたちの通商路など、世界各地での交流の跡を示すアイテムが多くなる。ただし新世界は別で、その孤立ぶりは際立つ。それでも似たようなレベルの工芸品を作っているのだから、人間社会のもつ基本的な可能性がなんとなく分かる。

    仏教、キリスト教、イスラム教といった世界宗教がらみの品が目立つ。面白い考察が、、、
    <blockquote>俗事に熱心に従事することによって得た莫大な物質的財産がなければ、富を手放し、世を捨てるようにわれわれを感化する記念建造物を立てられない</blockquote>

  • 金属加工品が増えてきた2巻。こうやって、博物館の資料とか見ていると大量の金が発掘加工されてきたように思うけど、実は人類史上25mプール3杯分でしかないとか。とても意外。

    「ヘブライのアストロラーベ」がかっこいいです。そして、驚くほど多機能。制作された当時は、現在のスペインにキリスト教とイスラム教とユダヤ教が共存できていた奇跡的な時代らしいです。互いに否定・迫害せずに過ごしていた時代もあるのだから、そこに戻れる日がいつかは来るはずなんだけど。そうすれば、このアストロラーベのような素晴らしいモノが製造される文化・文明も生まれるはずなんだけど。

  • ふむ

  • 歴史

  • 第二巻は紀元前300年から時代が下って西暦1500年までの、大英博物館所蔵の35点の説明。
    大英博物館といえばこれでしょ、の一点、「ロゼッタ・ストーン」も登場する。この展示いつでもはまわりに人がいるので、すぐわかる。裏も見られるようになっている。見ても書いてあることが理解できるわけではないが、このおかげでエジプトの象形文字が判読できるようになったと言う意味で、確かに価値のある一品だ。

    個人的には、現地に行ったことがあるインドネシアのボロブドゥールからの仏像頭部の説明は、現地ガイドの説明を忘れていた記憶が蘇ってきた。遺跡を前にした感動は、カイロのピラミッドに引けを取らないこと請け合い。これは絶対現地を訪れるべし。

    第二巻での日本製品は、12世紀の道鏡。羽黒山頂上の出羽神社にある御手洗池から見つかったモノ。

    また、シルクロードに関係したモノも数点紹介されている。
    ガンダーラの仏坐像は、上野の国立博物館にも似たようなモノが展示されていたな。

    さて、次巻第三巻はいよいよルネサンスに突入だ。

  • 文明が進み、だんだん人間どもも冷静になってきたせいか、第1巻の”熱さ”には負けるが、それでも面白いモノもある第2巻は紀元前300年から1500年まで。ウォレン・カップはローマ人もイギリス人も世界中の人もイヤらしい(古代ギリシャ人を除く)。可愛らしい外見にだまされてはいけないのは北米のカワウソのパイプ、モチェの戦士の壷。精巧で敬虔な気持ちになるアラビアのブロンズの手、ターラー像、ヘドウィグ・ビーカー。敬虔な気持ちを表すためのモノを作るためにはまずはすごい財産や地位があるという矛盾についての解説が面白かった。

  • テーマ史

  • このシリーズの「1」が「文明の誕生」だったのに続き、「2」は「帝国の興亡」。広域支配のための「モノ」と、広範囲にわたる流通を示す「モノ」が、多く紹介される巻になった。

    それにしてもこのシリーズには、時折「なんでこれが大英博物館に?」と思われるものもある。説明がある場合もあれば、ほとんど説明されないものもある。大英博物館にもたらされたストーリーもまた「モノ」の歴史には含まれているわけで、1巻の冒頭の「モノ」(ミイラ)にはそのことについて言及があるのだけど、十分展開されているのかどうか…限られた紙幅で「モノ」そのものに説明を割かなければならないのかもしれないが、「なぜ大英博物館にあるのか」という問題にもっと言及があるかと思っていただけに、ちょっと拍子抜けだった。

  • 資料番号:011473923
    請求記号:209マ

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著者プロフィール

1946年イギリス生まれ。1987~2002年、ロンドン・ナショナルギャラリー館長の後、2002~2015年、大英博物館館長を務める。邦訳に『100のモノが語る世界の歴史』がある。

「2022年 『人類と神々の4万年史 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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