民主主義のつくり方 (筑摩選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480015839

感想・レビュー・書評

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  • 政治をより良くするための取り組みとして、NPOなど民間組織の活用と地方自治の充実を訴える識者は多い。宇野重規氏もその一人であり、本書もソーシャルビジネス(社会的起業)やNPOなどの例を取り挙げながら、民主導・住民主体のコミュニティの必要性を訴える、という内容になっている。

    本書の結論は、一見ありふれたものである。しかし、そこに至るまでの思考過程は他の論客とはまったく違っているように思われる。それは著者が、単純に「より民意が反映されやすい」といった理由で住民自治を理想としているわけではないからである。

    むしろ彼は、民意というものを懐疑的に捉えている。ルソーの唱えた「一般意志」を「あくまでフィクション」とし、「そもそも人間の意志とは、行為に先立って自明に存在するわけではない」とバッサリ言い切っている。しかも、影響力のないフィクションならまだいいが、それはしばしば独裁者の支配を肯定する口実に使われ、強大な権力とおびただしい数の犠牲者を生み出す源となってきたことは、否定することのできない歴史的事実である。

    現代の先進諸国では、政治不信が高まった結果として、「民意」を盾にするポピュリストの台頭が見られる。民主主義政治が行き詰まりを見せる中で、政治への信頼感を取り戻し、全体主義に陥る危険を少しでも遠ざけるためにはどうすればよいか。ここで初めて筆者は、住民参加型で、かつ多様な主体が運営に携わるコミュニティの在り方を提案し、共同体の中での実践的行動の積み重ね(筆者はこれを「習慣」と呼んでいる)を推奨する。うまくいけば、「自分たちの手で社会を変えられる」という感覚が市民に広まり、「どうせ投票に行っても何も変わらない」という無力感がなくなる。結果的に政治に対する不信が緩和されて、統治の正当性・信認が高まり、政治が安定、政治家は長期的な国益を考えて政策を実行できる、という好循環が生まれる可能性があるのだ。

    信仰を相対化し、伝統社会の紐帯を断ち切った結果、個人のアイデンティティーを喪失させた民主的国家と、経済学の発展とともに隆盛した功利主義的人間観に政治不信の原因を求めている点も興味深い。自らの信念を熱く語りつつ、民主主義の限界を冷静に見定める著者のリアリズムには、深く共感できるものがあった。

  • NPOの事例紹介への話題展開という結論ありきで、プラグマティズムを習慣論に限定解釈して論旨展開する手法は恣意的に感じ、疑問の残るところではあるが、大学1~2年生向けにわかりやすく書こうとしたのなら仕方ないのかなとも思う。ただし、もうちょっと学術的というか理論的な説明が欲しかった。著者は名のある政治学者のようだが、それでもプラグマティズムに関する知識が殆どなかったようで、やはりプラグマティズムの社会科学領域における適用遅延を感じさせる書籍でもある。

  • 共著かと思ってしまうくらい色々なところに話が飛んでいく。博覧強記というべきかまとまりがないというべきかはともかくとして、示唆に富む内容ではあった。一般意志というフィクションを前提とする〈ルソー型〉民主主義は、そのフィクションを信じない人との対話の回路を遮断してしまう。それならば、経験や習慣といったようなプラグマティストが重視する概念からスタートした方が、多様な考えをもった市民を政治に巻き込みやすい、というのが本書のメッセージなのか。未来について懐疑的でありながら絶えず試行錯誤を繰り返すというのは大変だ。

  • プラグマティズムという一つの思想を軸に「民主主義」を捉え直そうというもの。一方で政治思想史を専門としているだけあって、近代の政治学や経済学が陥った限界の指摘は面白い。しかし、プラグマティズムをアプローチにするのはともかく「民主主義」をテーマにする必然性があったかどうかは不明瞭である。問題意識とそれに応答する形で提示されるオルタナティヴに、思索の浅さを感じた。

  • 【目次】
    目次 

    はじめに 011
    民主主義への不信/〈ルソー型〉民主主義の隘路/主権論を越えて/プラグマティズムとは何か/習慣の重要性/本書の構成

    第1章 民主主義の経験 027
     1 アメリカという夢 028
    「想像力の夢見る場所」/民主主義の経験/イソノミア/トランセンデンタリズム/トランセンデンタリズムと民主主義/民主主義に先立つ「何か」
     2 プラグマティズムと経験 042
    経験とは何か/オリヴァー・ウェンデル・ホームズ/ウィリアム・ジェイムズ/「多元的宇宙」と「純粋経験」/ジョン・デューイ
     3 戦後日本における経験 055
    経験の消滅/戦後日本の経験/『災害ユートピア』/経験との出遭い/丸山と藤田

    第2章 近代政治思想の隘路 069
     1 閉じ込められた自己 070
    独特な人間像/「緩衝材で覆われた自己」/内面への撤退/内面と外面の分離
     2 依存への恐怖 083
    政治思想史のなかの依存/現代政治哲学と依存/ケアの倫理学/主権の確立と依存の排除/依存のパラドクス/相互依存的な自由
     3 狭まった対話の回路 096
    ホッブズの場合/ロールズの場合/経済学的思考の優位/なぜ政治は嫌われるのか

    第3章 習慣の力 111
     1 偶然から秩序へ 112
    ハビトゥスと習慣/パースの生涯/習慣によって生まれる宇宙の秩序/自己修正する習慣/知は社会的である
     2 習慣と変革 125
    ジェイムズとサンフランシスコ地震/ジェイムズの生涯/ジェイムズの習慣論/デューイの習慣論/習慣と変革
     3 民主主義の習慣 138
    プラグマティズムと民主主義/ハイエクの習慣論/ネグリ/ハートの習慣論/社会運動と習慣/習慣のソーシャル化

    第4章 民主主義の種子 153
     1 「社会を変える」仕事とは? 154
    二〇〇〇年代の社会変革志向?/ソーシャル・ビジネスとは何か/社会問題解決のための新たな習慣/ソーシャル・ビジネスと政治/変革の担い手
     2 「島で、未来を見る」 167
    地域における実験/人口の一割がIターンの島/「生き残りの戦略」/コミュニティデザイン/「島で、未来を見る」
     3 被災地に生きる 181
    「弱い」信念/製鉄の町・釜石の歴史/東日本大震災と復興/企業の「地元」化/「三陸ひとつなぎ自然学校」

    おわりに プラグマティズムと希望 195
    オバマとプラグマティズム/オバマの希望/リチャード・ローティ/プラグマティズムと民主主義/現代日本における「民主主義の習慣」/民主主義と希望

    あとがき(二〇一三年八月 まだ暑い夏の日に 宇野重規) [211-218]

  • 読了。民主主義のあり方を、プラグマティズムの視点から問い直し、人々の習慣のあり方にまで、射程を広げることで、現在のソーシャルビジネス、ソーシャルアクションに、新たな民主主義の可能性を見出している。

  • 民主主義に熟議は必要だが、決められない政治にもつながりやすい。

    ルソー型の政治に対して、南北戦争に発するアメリカのプラグマティズムの政治が、民主主義の打破する可能性があることがわかった。

    とはいうものの、アーレント、ハイエク、ロールズ等々、もちろんプラグマティズムの思想家の言葉が引用されているので、ある程度の思想史の全体像を知っている人が読んだ方が良いと思う。少なくても自分は再読の必要性を感じた。レビューは、その時に書こうと思う。

  • 宇野重規『民主主義のつくり方』ちくま書房、読了。深まる政治への不信と無力感。政治の回路もうまく機能していない現代日本。しかし容易に手放すことは私たち自身の首を絞めることになる。プラグマティズム型民主主義をヒントにその再生を目指す好著。

    http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480015839/

    トクヴィルが驚いたように、核はコミュニティの地生的自治。著者は一般意志よりもプラグマティズムへ目を向け、アメリカン・デモクラシーの「習慣」と「信じようとする権利」に「民主主義の種子」を見出す。国政の議論(大文字の政治)だけが民主主義ではない。

    「プラグマティズムの思考はけっして古びてはいない。むしろ、『答えがわからない』現代だからこそ、その思想的意義はさらに大きくなっている。民主主義像の転換を目指して、プラグマティズムの思想を探ってきた本書の結論である」。p.196

    本書は『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社メチエ)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)に続くデモクラシー三部作。プラグマティズムを頼りに、民主主義という習慣をローカルな場所から作り直していこうと試みる、具体的な一冊です。

    日本でプラグマティズムの評価は低い。しかしその「有用性」とは、単なる実際的に還元できない沃野を含んでいる。宇野重規『民主主義のつくり方』(ちくま書房)は、その消息を丁寧に浮かび上がらせる。あくまで原理的探究の本だが「一人でも多くの読者、とくに若い人」(はじめに)に読んでもらいたい。

    ただ、しかし、リチャード・ローティーをはじめ、プラグマティズムに準拠する政治思想の水脈というものは、決して枯渇しておらず、様々な展開があるわけだから、先にも言及したとおり「プラグマティズム=乗りこえられたかつての思想でしょ」みたいな図式は敬遠した方がいい。

    この2カ月、ほとんど、政治思想史の本ばかり読んでいる。近刊で言えば、国分功一郎『来るべき民主主義』幻冬舎新書、 想田和弘『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』岩波ブックレットを経て宇野重規『民主主義のつくり方』筑摩書房。民主主義が危機的状況だからこそ、相次ぐのかもです。

    『脱構築とプラグマティズム』は博士課程の時に手をとって、「おおー」と唸って、プラグマティズム再発見の契機になった一冊。しかし、思えば、プラグマティストであった鶴見俊輔さんの軌跡の如く、プラグマティズムとは常に「アクチュアル」な訳であって、「おおー」と唸った自分が阿呆ではあったのだ。

  • 民主主義においては、物事を決めるのに時間がかかると思われがち(実際そう)であるが、この理念を復活させる試みをしているのが本書。また、この理念を実践している例を挙げている。

    政治思想系の本は、概念を打ち出し、それを巡る議論をトレースして終わる本が多い気がする。このような本を読んでも、言葉遊びをしているなぁという印象だけしか残らない。しかし、本書は、民主主義の概念についての議論を展開するのみでなく、その実践についての具体例が挙げられている。この点が本書の良かった点である。

  • プラグマティズムの思想は興味深い。しかし、経験、あるいは習慣を重視することで既存の体制を強化する傾向、危険性があるのではないか、と感じる。「経験」の定義には賛同しますが、それはどのようにして可能なのか、もっと言及してほしかった。さらに言えばコミュニティへの期待は制度への不信と表裏一体になっている。制度をどう修正するかも含めて考察するのが政治哲学ではないのか。

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