貝貨崩壊の原因として、雲南に対するタカラガイの供給が途絶した可能性を挙げることができる17世紀前半には東ユーラシアのタカラガイ供給地であったモルディブ諸島と琉球をめぐる環境は激変した。(中略)琉球は、1609年の島津入りを契機に、日本の幕藩体制のなかに組み入れられた。琉球の激動は、タカラガイ輸出に何らかの影響を与えたと考えてもよいであろう。明朝向けの貢納品として大量のタカラガイを王府に収集する仕組みが、17世紀前半には崩壊したと推定される。(pp.174-175)
貝貨崩壊の過程から、均一性・希少性に加えて、もう一つの要素が火星の条件であることが明らかとなる。
それは、持続性である。
貨幣となるモノが将来にわたって供給され続けられる見通しが失われたとき、そのモノは貨幣であることを止める。持続性は売買が成立するその瞬間から、将来にわたってそのモノが供給され続けられるという見通しである。持続するという見通しが疑われたとき、そのモノは貨幣として受け取られることを拒否される。換言するならば、貨幣を支えるシステムに対する信用とすることもできよう。(p.207)
場所は時代によって意味づけられ、時代は場所によって貫かれている。時間と空間とが交差する場は、宇宙の始まりから終わりまでのなかで、唯一絶対のものなのである。(中略)ナルニア国物語では、ガス灯の立つ場所は、救世者が表れる聖地であった。聖職者でもあった作者が、エルサレムをそこに仮託していると考えてもいいだろう。ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教の聖地となり、いま紛争の渦中にある、あのエルサレムである。(p.365)