徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

著者 :
制作 : 塚田 穂高 
  • 筑摩書房
3.85
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本棚登録 : 340
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480016492

作品紹介・あらすじ

◎いま、もっとも包括的な、現代日本の「右傾化」研究の書!

何が、どこまで、進んでいるのか――
ヘイトスピーチ、改憲潮流、日本会議など、「右傾化」とみなされる事例には事欠かない。
ならば日本社会は、全般的に「右傾化」が進んでいると言えるのか?
その全体像を明らかにすべく、研究者・ジャーナリスト・新聞記者・編集者ら第一級の書き手21人が総力を上げて検証。
「壊れる社会」「政治と市民」「国家と教育」「家族と女性」「言論と報道」「蠢動する宗教」の全6部において、
それぞれ実態を明らかにしていく。

「日本の右傾化」を考えるためのブックガイド、関連年表も付した、圧巻の400頁!

感想・レビュー・書評

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  •  日本の右傾化を様々な面から分析し、検討している本である。
     個人的には憲法二十四条について論じている第Ⅳ部「家族と女性」が印象に残った。戦前回帰を志向する勢力は、一見文句のつけようのない文言で自分の思惑を巧妙に実現しようとするが、憲法二十四条の改定案は、それを最も端的に表していると思う。
     例えば自民党は、世界人権宣言を参考にしたとして、「家族は、社会の自然かつ基本的な単位として、尊重される」という一文を入れることを提案している。素直に読むと別におかしなことは言っていないし、確かに世界人権宣言に同様の記述はある。ただし世界人権宣言には、この前提として、婚姻が当事者間の自由で完全な合意のみで成立するという規定があり、個人の意志で夫婦となったものが尊重されるという流れになっている。
     ところが自民党案は、この前提を無視しているどころか、現行の「婚姻の成立は両性の合意のみに基づく」という規定から「のみ」を削除しているのである。これは旧来の家同士の結びつきのように、必ずしも両者の合意ではない結婚を許容する余地を拡大することに繋がりかねない。そのうえで家族が「尊重されるべき一つの単位」となると、夫婦は容易に別れられるものではないという縛り強くかかることになるだろう。家族が基本単位として尊重されるということは、家族自らが自分たちの関係を簡単には解消できないものととらえない限り、成立しないからである。
     この一見麗しい傾向は、油断していると、DVの許容や、子供を持てない関係、例えばLGBTへの不寛容へ、更には高齢者への社会保障の後退へと容易に結びつく。親の面倒を子供が見るのが「自然かつ基本的な単位」である家族のあるべき姿だからである。
     その他本書は、教育、宗教、報道等からこの国の右傾化を多角的に考察している。「浅い」「実証抜き」などと書いている書評も少数見かけるが、私は、この国の右傾化をこれほど深く、しかも簡潔にまとめた本を他に知らない。得るところ大である。是非一読を勧めたい。
     本書の編者はまだ若い学者である。研鑽を積み、更なる良書を世に送り出してほしい。

  • 社会、政治、教育、家族、報道、宗教などさまざまな論考集。

    自民党の政策の右傾化は、台頭してきた民主党に対抗するためで、世論や支持基盤の変化ではなかったという中北の論考が注目。また竹中により、世論調査の分析から有権者の右傾化は否定され、安倍首相の支持は主に経済政策に基づいていると示される。
    ネット上の、特に政治に関連する言説空間が世論だと見誤ってはいけないのである。

    2006年の教育基本法改正が、逐条的解説により、理念の部分からの変更であり深刻なものだったとわかる。
    その他に、憲法24条(家族秩序)、夫婦、3世代住宅税制(事業仕分けにかかれば瞬殺されるようなものであり、官僚も無理筋だとわかっているようだが、こんな政策が実現してしまう)など次の狙いがあげられていく。

    江藤淳が広めた、米国が日本国民に罪の意識を植え付ける洗脳活動(WGIP)をしたという陰謀論。洗脳の効果がいまだに続いている点には何の根拠もないが、使い勝手がいい陰謀論なので注意が必要。
    その他に、「日本スゴイ」言説や慰安婦問題も取り上げる。

    突如現れ2016年12月に安倍支持の800人全国デモを行ったUNITEだが、参加者は全て統一協会の手配だったという。
    生長の家から分派するように始まった幸福の科学だが、幸福実現党の憲法試案は大統領を元首とし天皇を軽く扱うなど、保守運動の思想的劣化にすぎないとか。
    むしろ宗教関係で警戒すべきは、衰退気味の組織宗教ではなく、個々人の内面である文化宗教のレベルへの働きかけではないかという

  • 日本の右傾化、「何が、どこまで、進んでいるのか」を各分野の第一級の書き手21人が総力を上げて検証した本。「壊れる社会」「政治と市民」「国家と教育」「家族と女性」「言論と報道」「蠢動する宗教」と6つの分野(21章)で構成されています。

    先の都議選の結果を受け多少の遅れが想定されるとは言え、この間の一連の政治動向を見ていると、日本の右傾化は顕著で改憲に向けた動きが強まる中、大きな危機感を感じています。しかしその全体像を把握することはできておらす、何が問題になっているかをつかみたいと思っていました。はじめにも書かれていますが、各分野各章が今の社会が抱える問題をつかむ入り口となる中身をもっており、読み終えて知らないことの多さ、深く物事をつかむ大切さを感じさせられた気持ちです。

    とりわけ、〈新自由主義と社会ダーウィニズム、新しいレイシズム、有権者の右傾化、国の家庭教育への介入、税制で誘導される家族の絆(三世代同居税制があるのを初めて知りました)、WGIP論、暴走する権力と言論の自由等〉が、強く印象に残りました。

    モノ言えぬ時代であってはいけない、人権擁護のために闘い、多様性を認め合うことが大事だと思います。首相の「こんな人たち」発言が問題になるのは、社会がまだ健全なんだと思います。自分のこの社会を構成する一員として、きちんと考え役割を果たしていきたいと改めて考えています。

    みなさんにお勧めします。

  • ざっくりと日本社会について書くのではなく、政治、教育、宗教といった分野ごとにそれぞれ注視してきた人たちが書いているので、非常にわかりやすかった。
    著者によって見方も温度も違うのも良い。

  • なかなかの厚みがある本書だが、各章とも著者・テーマが違うので意外にもサラッと読めるし、興味のあるところだけ拾い読みという読み方も出来る。一部、個人的に納得のいかない記述の多い章もあったが、全体的には共感できるところが多かった。特に第3部以降は学ぶところが多かったように思う。

  • 21人の執筆者がそれぞれの関心領域について書いたもの。各領域に関するイントロダクションが読めるので、入門編としてはもってこい。
    なかでも憲法24条に関する記述は興味深い。9条ばかりが前面に出ているが、右傾化に関する本命は24条のようですね。
    とはいえ、それぞれの文章は短いので概論で終わっていたり検証不足に感じたりすることはある。それを求めるなら、参考文献に当たるべきなのだろう。

    編者が書いている
    「沖縄、大阪、外交、防衛、労働、企業、大学や、日本青年会議所(JC)などの経済団体、モラロジー研究所や倫理研究所などの修養団体など、紙幅や執筆者の都合で取り上げきれなかったテーマは数多い」
    というのは、確かにそれらも読みたいと思わせる。
    でもまあ入門編としての役割は本書で果たせていると思いますけど。

  • 2017年の出版の本だが、安倍政権が行ってきた様々な施策が日本の右傾化をパックアップしている事実を如実に示していることが確認できる.教育分野での締め付け、報道や言論に対する規制、特定の宗教への肩入れなど2023年の現在でも批判され続けている問題の根本が当時からくすぶっていたことが分かった.民主主義の根幹が揺らいできていることを正しく認識し、それを警告する立場にある言論人がある程度存在していることは、ひとつの安心材料だと感じた.

  • カルトと政治が密接に関わる国、日本。弱くなった自民党に擦り寄るカルト。カルトの言いなりになる自民党議員、残念なことになっている。真面目にこの現実に、向き合わないといけない。

  • 鈴木エイトさんの論考目当てで買いましたが、いずれの論考も参考になりました。特に自分は創価学会のことほとんど知らなかったです。結党からこれほど強い関わりがあったとは。

  • 22/09/17読了
    つまみ食いで読了。
    有権者、市民社会が右傾化しているのではなく、自民党に右傾化が見られる、ただしそれも民主党との差別化に端を発しているもの、なのが興味深かった。

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著者プロフィール

塚田穂高(つかだほたか):1980年生。上越教育大学大学院准教授。専門は宗教社会学。日本の新宗教運動、宗教と政治、政教分離問題、カルト問題、宗教教育などの研究に取り組む。単著に『宗教と政治の転轍点』(花伝社)、編著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)、共編著に『宗教と社会のフロンティア』(勁草書房)、『近代日本の宗教変動』(ハーベスト社)、『近現代日本の民間精神療法』(国書刊行会)など。

「2023年 『だから知ってほしい「宗教2世」問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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