雑踏の社会学 (ちくま文庫)

  • 筑摩書房 (1987年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784480021472

みんなの感想まとめ

都市の雑踏を舞台にしたエッセイは、東京の多様な表情や空気を感じさせる魅力に満ちています。著者は、街を歩きながら見知らぬ人々との交流や、無関心の中での匿名性を楽しむことで、都市の本質に迫ります。1984...

感想・レビュー・書評

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  • 社会

  • 2015/12/20

  • 1984年に刊行された単行本を文庫化したもので、文学、映画、音楽、演劇などの批評を織り交ぜつつ、東京という都市を紹介しています。

    かつて都市論のブームがあり、都市にあふれるさまざまな意匠を記号の消費という観点から読み解く試みが多くなされていました。本書は、そうした消費社会的都市論よりも古いスタイルで書かれた、文学的エッセイとなっています。

    本書のスタイルの一例を示すと、たとえば「町は雑踏があってこそはじめて生きてくる」という著者のことばをあげることができるでしょう。著者は、たがいに見知らぬ人びとのなかに入り混じることで、「暗がりが生れ、悪場所がはびこり、秘密のあえかな匂いがしてくる」と述べて、雑踏のなかにまぎれ込んで匿名の存在になることができるのが、都市の魅力だと語っています。「都市のいちばんのよさは「無関心」」であり、「だから酒場でいちばんいいサービスは「無関心」なのである」と著者はいいます。そして、「私にとっては渋谷というと“道玄坂から左”なのである」と述べて、井の頭線のガード下の焼き鳥横丁でひとり酒を飲むたのしみを綴っています。

  • 本書は1984年にTBSブリタニカより出版された単行本のちくま文庫版。でも,私が本書を買おうと思った「III 映画の東京地理学」など,いくつか単行本にはなかった文章も収録されているのとともに,文庫版にするのに東京以外の街に関する文章は除いたとのこと。川本三郎はいわずと知れたエッセイスト。一応本業は映画評論家ということになっている。しかし,先日公開された山下敦弘監督映画『マイ・バック・ページ』の原作も川本三郎。これで彼の知名度も一気にアップするか。
    といっても,私が彼の本を読むのは初めて。といっても,彼が関わった本はいくつか持っていて,特に田沼武能の写真に彼が文章を寄せた『昭和30年代 東京ベルエポック』(岩波書店の「ビジュアルブックエイド東京」シリーズ)については当然分析を加えたことがある。本書はおそらく,泉 麻人に関する文章を書いていた時に,泉に似た文筆家として,しかもタイトル的に購入したのだと思う。さらには,上に書いたように,「映画の東京地理学」なんて章タイトルをつけられれば,地理学者としては黙ってられない。そういえば,私の出身大学の杉浦芳夫氏が『文学のなかの地理空間』を1992年に発表した際に,川本三郎がどこかに書評を書いたとか何とかいう噂があった。本書のタイトルには「社会学」が冠されているが,本文中には社会学の文字はほとんどなく,その代わりにけっこう地理学の文字が散見されたのはある意味で面白い。しかも,著者は学問分野としてではなく「地理学」という語を使っているのだから。
    さて,といっても実は私はこの手の文章が好きではないのだ。日本の現代小説のほとんどが読めないのも同じ理由。脚本化されて映画化されたものは好きでよく観るのだが,活字としては素朴な実況中継的な文章が退屈で読み続けられないのだ。なので,本書も途中で嫌になったらやめようと思っていたが,意外にも抵抗なく読むことができた。目次を示しておこう。

    Ⅰ 雑踏のなかにこそ神がいる
      東京は歩くのが楽しい
      デモから見た町
      不易の酒場のすすめ
    Ⅱ 未完の町●新宿
      白い町●渋谷
      街と町●吉祥寺
      耐える町●池袋
      路地裏の町●赤坂
      歩ける町●銀座
    Ⅲ 映画の東京地理学
    Ⅳ 燃えていた町●阿佐谷
      わが町●荻窪
      若旦那になる町●麻布十番
      一つ目小町●神泉
    Ⅴ 場末回遊
    Ⅵ 地下鉄が変えた東京の「点と点」

    まあ,こんな感じで生まれた頃から中央線沿線を生活の場としている著者の東京論だから,当然論じる町は西に偏っている。私も同様に西に偏っているので,もちろん本書が書かれた当時1980年代の町の姿は知らないが,現在知っている記憶と照らし合わせて読むことができる。そして,社会学や地理学という言葉を使っても,結局は自分の価値観をベースにしたエッセイに過ぎないので語り口はいたってシンプルだ。前半はサントリーの広報誌に掲載されたエッセイということで酒の話が多く登場するが,いかにもマスキュリンな都市の断片が見事に描かれているともいえる。

  • 30年近く前に書かれた東京論である。それを今読み解くことの意義は何なのだろうか。明治から昭和初期あたりの東京論を読む時は、ほとんど異質の社会を見ているような感覚で読み進めるしかない。しかし、この本で描かれた東京は、私自身より少しだけ古い時代の体験で同時代感覚も確かにある。とはいえ、所詮は別々の時代と環境で生きてきた人間の感想に過ぎないというのも実感である。
    これから50年後、100年後、その頃の若者が昭和後期の東京を論ずるためにこのような本を渉猟するかもしれない。一つの東京体験であり、かつ、東京の一側面でしかないが、確実に記録され、記憶されていくべき東京論であろう。

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著者プロフィール

川本 三郎(かわもと・さぶろう):1944年、東京生まれ。新聞社勤務を経て、評論・翻訳活動に入る。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』、近著に『映画の木洩れ日』『ひとり遊びぞ我はまされる』など。



「2024年 『チーヴァー短篇選集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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