ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 1308
感想 : 116
  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480022721

作品紹介・あらすじ

《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。13世紀ドイツの小さな町で起こったひとつの事件の謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明、これまで歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の差別の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。新しい社会史を確立するきっかけとなった記念碑的作品。

感想・レビュー・書評

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  • レビューと帯でミステリー的な読み物と思い年末から挑戦してやっとやっと読み終えた。が、果たしてちゃんと理解できたか疑問。学術書とは、研究とは、こうして隅々にまで目を配り検証していく静かだけど長い熱意が必要なんだと思った。

  • 予備知識もなく衝動買いした本だが大当たりだった。社会史の書だが、ゾクゾクするような面白さはまるで推理小説を読んでいるよう。

    笛吹き男について、一般的に知られている話はグリムのドイツ伝説集によるものである。だが「鼠捕り男の復讐」というのは、どうも後付けのテーマらしい。最古の資料、リューネブルグ手書本に鼠捕りの話はなく、ただ1284年、笛吹き男に引率された130人の子供達がハーメルン市から姿を消した、とだけ書かれている。その理由は一切説明されていない。

    著者は、1284年に130人の子供達がハーメルンから消えたのは史実であると結論し、⑴なぜ子供達が失踪したのか、⑵なぜそれが有名な伝説となって今日の形で伝えられたのか、と疑問を投げかける。それに答えるべく、①当時のハーメルン市を取り巻く状況、②子供達を含む市民層の実態、③笛吹き男の正体、という3つの因子について、資料や論文をもとに自論を展開してゆく。

    本書の意義は、従来の西洋史学で黙殺されてきた都市下層民を取り上げた点にあるらしい。都市の最下層に生きる寡婦や被差別民である放浪者を、伝説の主役または語り手としてクローズアップしたところに新しさがあったようだ。

    民衆に光を当てるという、高邁な精神のもとに書かれた本なのだが、引き込むような語り口のおかげで、学問的下地がなくとも楽しめる。興味がある人には、肩肘張らずに一読することを薦めたい。

  • 以前、テレビで「ハーメルンの笛吹き男」の特集を観てすごく興味を持ちました。
    謎を解きたい、現地に行きたい、そう思いました。それから少し時間がたってしまいましたが、ブクログでフォローしてる方の本棚を拝見していたらこの本の存在を知り手に取りました。

    少し難しかったです。読み終えて思った事は、身分差、貧富の差、覇権争いは全世界共通してることです。過去も現在も一緒。たぶん未来も変わらないんだろう、被害を受けるのはいつも民なんだろうと思う。

    結局、謎は解けなかったです。でも、この本を読んで私なりに考えはまとまりましたけど。

  • ハーメルンの笛吹き男伝説についての先行研究を引用しつつ、批判的に検証した上で、自身の見解を添えている。

    ミステリーを読むような面白さ!というような謳い文句の新帯を携えて再ブレーク中の本書。
    ただ本書の主眼としては、伝説は事実なのか・子供達はどこへ行ったのか、などの謎解き要素よりも、どのように伝説が読まれてきたか・何故広く流布するに至ったのか、という受容史の考察に重きが置かれている。

    ナショナリストは祖国解放戦争の暗喩として、教会は庶民を教導するためのツールとして、啓蒙思想家は民衆の愚昧さの根拠として、ハーメルンの人々は市参議会への怨念の結集点として…主体や時代が変わる事でその意味付けも変化していく。

    もともとローカルな言い伝えに過ぎなかった笛吹き男伝説が、鼠捕り男伝説と合流し普遍性を獲得したという仮説は、他の民話の成立過程にも適用出来そうな考え方で、面白い。

  • 史料を丹念に紐解き、伝説が生まれた社会的、心理的構造を明らかにしていく。日本も当時は鎌倉時代。被差別問題も似たような構造であったことに気づかされる(外圧(モンゴル帝国:元寇)まで含めて)。思考過程も丁寧でそつがなく分かりやすい。

  • そんなにお気楽に読める本ではない。まず、舞台がヨーロッパの中世。
    現代の日本人にはそれだけで理解が難しくなりますが、本書は史料を読み解きながら丁寧に時代とハーメルンの町と人々を叙述して行きます。

    庶民や一般大衆を中心にした社会史は、網野善彦さん等の考え方に連なるものであると思うが、人間を根源的に解き明かす一つの考え方でもあると改めて感じた。

    また、作者が巻末でふれている老学者のあり方も、作者の学問に対する考え方をよく表していると思う。

  • グリムが記した童話として知られるハーメルンの笛吹きの真実を探求する興味深い書物。
    社会情勢や環境変化、身分制度やプロパガンダなど多方面から謎を解きほぐそおと試みる。
    どこまでも私達にはミステリーとしてしか映らない事件の真相はいつか暴かれる日がくるのだろうか。

  •  ハーメルンの笛吹き男の伝説には二つのモチーフがある。一つ目はハーメルン市における130人の子どもたちの失踪というモチーフであり、2つ目は鼠捕り男のモチーフである。近代において、グリムやブラウニングが文学的表現によって描いたこの二つのモチーフには、どのようなつながりがあるのか。あるいはいかなる経緯によってこの二つが一体となり、今に伝えられる伝説の形をなすにいたったか。
     賤民論で卓越した著書をものしている中世史家の分析はあくまでも明晰であり、明晰でありながらも知に偏るばかりでなく、情念のほとばしりを感じさせる。文字を持たぬ中世の庶民の肉声に真摯に耳を傾ける態度には感じさせられることが多い。
     ハーメルンの笛吹き男という特定の伝説を扱っているけれど、これ以降著者が展開する賤民論等の萌芽は本書のなかにすべて含まれていると言って良いと思う。
     面白すぎて唸りました。

  • グリム童話の「ハーメルンの笛吹き男」。ドイツのハーメルンの町に現れた男が笛の音でねずみを駆除してやるのだが、町は彼に報酬を支払わない。怒った男は笛の音で町の子どもたちを連れ去ってしまうというお話。ちょっと怖いが教訓も含んでいる、よくできた有名な童話だ。

    一方、中世ドイツの地方都市の文献を研究していた著者は1284年のハーメルンで130人の子どもたちが行方不明になっていた事実を知る。つながった童話と事実。なぜ子どもたちは消えたのか、笛吹き男は実在したのか、著者の歴史探求がはじまる。

    本書では、中世ヨーロッパの社会や生活、宗教、差別などを説明し、笛吹き男のような旅芸人やネズミ捕りの職人が実在しことを明らかにする。また、当時は植民のための市民の大量移住が起きていたし、子供だけの十字軍も編成されていたらしい。著者はこれら事実を組み合わせ、先人の歴史家たちの発表なども紹介し、様々な説を検討する。

    が、13世紀の小さな町での出来事だ。本書では断定的な決着までには至らない。しかし、それはしょうがないことだし、わからないままでいいんじゃないのか。ハーメルンでの悲劇が童話として現代まで語り継がれたことで歴史のすごさ、おもしろさを十分に味わえるのだから。

  • 面白いかった。
    資料が異常に少ないブリューゲルの作品の気持ち悪い感覚
    子供が【ただの小さい人】としての地位の低さ
    中世の貧しさ混乱不安からくる文化のカタチ
    そこらへんが良くわかった。

    あらたな考え方として
    町に住む人々の言い伝え、伝説みたいな話を、文書化の時点で=知識人(専門家)のフィルターが入る→地下層の人々の不安や思いが薄くなっていく→伝説の変化が生まれる

    事件の具体的な内容に隠れる当時の歴史的背景
    その社会から差別されていた対象とその変化
    宗教的な違いによる考え方捉え方の違い→悪の化身になった要因
    不安や抑圧されすぎて
    祭りとかして発散しないとやってられんわ!の気持ち
    無心に奇妙に踊る中世絵画の人々の顔

    帯に書かれている【歴史的推理小説!】というところよりも、
    著者が、自分が文書化する事で、
    最下層にいた、本当に地下に住む人たちの思いや、息づかい
    伝説の重み?伝説の色合いが変わらないように、
    とても気を配って描かれている所が感銘。
    いままでの この伝説の研究をしてきた専門家の時代やその人本人の立場まで考えて偏見がないか?の疑問を常になげかけている。

    薄い本だが、
    著者がこの伝説に出会った時の【鷲掴みされた】気持ちを大切に大切に研究し、分かりやすく私たちに伝えようと文庫化してくれた事に感謝

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著者プロフィール

1935-2006年。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。一橋大学名誉教授。専門は西洋中世史。主な著書に『ハーメルンの笛吹き男』,『中世を旅する人びと』(サントリー学芸賞),『中世の窓から』(大佛次郎賞),『西洋中世の罪と罰』,『「世間」とは何か』,訳書に『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』(日本翻訳文化賞)などがある。

「2019年 『西洋中世の愛と人格 「世間」論序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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