夢野久作全集 8 (ちくま文庫 ゆ 2-8)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480026781

作品紹介・あらすじ

狂気の世界、脳髄の地獄…。「瓶詰地獄」「冗談に殺す」「少女地獄」ほか完成度の高い小品群。

感想・レビュー・書評

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  • 新鮮な当て字が横溢していてなかなか面白かった。

    ・「瓶詰地獄」
    先に読んでしまったからか、初読時の衝撃は蘇らず。
    時系列が間違っていると言う指摘があるが気にならなかった。
    もし三通の手記が偽物だったらと考えた方が遥かに悍ましい。
    ・「一足お先に」
    結局は全部が夢だったのか。
    ・「狂人は笑う」
    「青ネクタイ」や「崑崙茶」と言ったアイテムが妄想に取り入れられている点が絶妙に良かった。
    ・「キチガイ地獄」
    話が随分巧妙だなと思っていたら新聞記者Aだったと判明し納得した。
    彼にとっては壮大な虚構物語を築き上げるのが半分趣味みたいなものではないか。
    ・「復讐」
    品夫の計画通りだったとしたら相当怖い。気絶したのも演技だったのだろうか。
    ・「冗談に殺す」
    完全犯罪を遂行しようとしてもそう上手くは行かない。他人の目から見れば明らかに異常に映っているのが分かって何とも滑稽だった。
    ・「木霊」
    頭の中から自分の声に呼び掛けられるなんて現象は未体験だが、現実に起こり得そうなので怖かった。
    罪悪感に責められて身の破滅に向かって行く思考が悲しかった。
    ・「少女地獄」
    良い年の男性が少女に騙される二編、若い女性が殺人鬼の男性に騙される一編。
    「何でも無い」は、虚言癖を持つと災禍を招きかねない事態に陥る事を感じた。
    彼女自身でもどうしようも出来なかったのだろう。
    「殺人リレー」は普通に現代でも有りそうな話だった。
    「火星の女」は、歌枝の強靭な復讐心が伝わって来た。
    しかし一方で、偽善者の森栖校長に愛情を感じていたのが不思議だった。

  • 収録作のラインナップが素晴らしい。→ 瓶詰地獄、少女地獄、一足お先に、キチガイ地獄、復讐、冗談に殺す、木魂。
    忘却と狂気の地獄世界へようこそ、といった感じか。解説でもちらりと触れていましたが、『ドグラ・マグラ』に通じるエッセンスがどの作品にも散りばめられており満足度高いです。(夢野久作読んでみたいけど、ドグラ・マグラは長くて大変そう……という人の入門向けにオススメしたい短編集ですね)

  • 久作の短編でも最高傑作と名高い瓶詰地獄、そして私が初めて読んだ久作作品である少女地獄が収録されている。

    青空文庫で少女地獄を読んだときの言い知れぬ衝撃。
    高3の冬だった記憶がある。その後大学時代に再読。今回24歳で再再読。
    短いスパンでも再読したくなる作品。

  • カバー装画に採用された竹中英太郎「哀しみのマリア」も凄まじい
    全集第8巻。
    「復讐」のみ初読、それ以外は別の本や青空文庫で既読だったが、
    大まかに言ってテーマは狂気と地獄で、
    やはりこの塊は強烈。
    語り手が皆、
    上目遣いで舌足らずな喋りを披露している気がするなぁ。
    お茶マニアは分けても「崑崙茶」に戦慄するのであった。

  • 少女地獄が読みたくて買った短篇集。お話ごとにさまざまな地獄が目の前に展開します。どの短編にも漂う狂気がすごい。江戸川乱歩のエログロに狂気やキチガイを加えると夢野久作になると思う。読後まで残る、この感覚はクセになります。

  • 瓶詰地獄、少女地獄などを既に読んでいたから手に取りやすかった…のか?
    狂気が広がってて読んじゃいけない本を読んだ気分でした。中学生で読んだので、読み返してみたらどんな気分になるんだろ?

  • 地獄を味わいながら究極迄に追い詰められた精神、苦痛に喘ぎ悲嘆する様を、遺書として瓶詰めにする。瓶の中に地獄そのものが幽閉される。当に瓶詰にされた怨念の現像化された地獄。(瓶詰地獄/読了)

    聖書に問いかける様な痛ましい感情描写、奇怪窮まる夢の残像。艶く女の切り落とされた乳房と何処へか向かう足の共通するニオイ。展開の漂流を、何処と無く示すかの様に漂わせた奇々怪々の出来事は、順を追って紡がれてゆく。
    ドグラ・マグラを単調にした様な、幾重にも重なり続ける夢現の狂気。悪しからず、足借らず、…の猟奇殺人と夢遊の恐ろしさ、饒舌と無言の混沌。
    中々に面白い話だった。
    (一足お先に/読了)


    この登場人物の唖女からは、常軌を逸した妖艶さ、女の深い執念を思わせられる。奇怪な擬音を発する事で狂気を漂わせながら、その渦中に呑まれた男は女に盛る筈であった薬によって、最終的に自死を図る。
    言葉を話さない事にこそ、凄まじい情念を籠める事が出来るのだと痛感した。
    懐妊した人間扱いされない女の美しさが見事としか言えない。
    (笑う唖女/読了)

    残酷でグロテスクな背景描写と染められた思考に依る歪曲した愛執の念が艶かしい色を視界に映す。阿鼻叫喚の中に在る白人と黒人の冷淡で暢気な言葉が与えるコントラストが美しい。
    心中を究極美とした噺である処も好きだ。
    (支那米の袋/読了)

    軸がブレている故にアヤフヤにされてゆく黒幕の存在。感染するかの様に拡がる狂気。
    短編で味気は少し足りないが、それなりに珍妙な文章だった。
    (崑崙茶/読了)

    夢野型式の混沌の極みのノンストップスピーキング。精神異常者の焦点がブレた世界を一個として成り立たせる様描き出す筆力には圧巻されるのみ。
    トチ狂った世界の種明かしの顛末は、狂気とも狂喜ともつかない無間地獄。
    ドグラ・マグラを完成させる事を只管に切望した彼の心理が解る気がした。
    (キチガイ地獄/読了)

    笑いに始まり笑いに終る。
    人形に只管話し掛ける少女の狂気と快楽殺人。現実への狂った視点は夢野ならではの無間の狂喜を喚起させる。
    非常に短い話であるが、その世界は類を見ない喜劇の骨頂である。
    (狂人は笑う/読了)

    新聞記事から入るという奇妙な構成。登場人物の各々の容貌と性質。陰と陽の綯交ぜられた何とも形容し難い絶妙の接点と交点。対照と平行、垂直な線を繋ぎ合わせる様な人物の関連性と、夢野久作独特の書簡体形式…それも遺書として、単調に喜劇的悲劇を描き、含められた様な感情の底は果しなく奈落の底へと手招く。後味の重さをずっしりと遺す様に、恰も遺書を書いた当人が文を通じて念を送り続ける様に、読了後に睨め付ける哀れな女の姿が映し出される様だ。
    (少女地獄/読了)


    他。
    この中で一番好きな作品は、「木霊」かも知れない。
    どれも素晴らしく、各々の狂気と混沌、グロテスク、時間・感覚麻痺を備えて居るが、其れが一番に美しく、又均衡の取れたものが「木霊」であるようにも思った。

  • このおどろおどろしい表紙はなんとかならないのかしら。

    初夢野久作。
    瓶詰め地獄を始めとして、妄想記者の話など、秀逸だぁ、すごいー。
    「病院」の、ホラーとエロのないまぜになった、脊髄にぞわぞわ来るような雰囲気が素晴らしい…w
    ドグラ•マグラ、読みたいと思いつつまだ手がでない。

  • 夢野久作全集を6~7年ぶりで読み進めた。
    夢野久作といえばキチガイオチ・夢オチ・自殺オチの3つでほぼ成り立っているような面があるのだが、この巻は特にそれが濃かったように思う。
    基本的に登場人物は狂っているか、もしくは自殺する。
    夢野作品未読で神経がまともな人がこの巻だけ読んだとすると、随分しょうもない作家に思えるかもしれないが、代表作「ドグラ・マグラ」を真っ先に読んだ自分にはその原型というかアウトラインのようなものが感じられて、夢野作品を堪能することができた。
    やはりこのキチガイ感は久しぶりに読んでも面白い。
    昭和初期の狂人事情を存分に描いている。
    狂気をユーモアに昇華して笑い飛ばすような豪放磊落さもあり。
    そんな中、「木魂」のワンシーンに心を打たれた。
    土手の上から父を呼ぶ息子。
    そしてその土手を必死で登り息子にたどり着く父親。
    何だか自分の父性が湧き上がって切なかった。
    夢野作品らしくない場面なのだが、それ故かやたら印象に残った。

  • 世間でいう「いけないこと」がなんというか、切なく美しく書かれている

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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