夢野久作全集 9 (ちくま文庫 ゆ 2-9)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (669ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480026798

感想・レビュー・書評

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  • ちくま文庫から刊行されている夢野久作全集の第9巻。著者が、構想・執筆に10年以上の歳月をかけた日本探偵小説三大奇書の一つ「ドグラ・マグラ」です。「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と言われていますが、精神に異常はきたさないですが、何を読んでいるのか分からなくなる瞬間はありました。言葉の迷宮に迷い込んだ気分です。ただ、日本語の面白さを感じることの出来る文章です。1935年発表の作品ですが、むしろゼロ年代にあってもおかしくない作品なのではないかと感じました。

  • ドグラ・マグラ。

    文系は行きすぎると自殺するけど、理系は行きすぎると人を殺す。

  • 気がおかしくなる物語……ということだったが、読んでみると『入れ子』の構造が複雑に絡み合っていて、気がおかしくなりそうだった。
    物語の筋を頭で整理して、時系列に並べ直して、人間関係や関係性を頭に入れて……入れ子が複雑で情報の整理が大変。









    あらすじを追ってみる。



    主人公は記憶をなくして目が覚める。物語は、『記憶を取り戻す』事を目的に進む。
    話が進むと、主人公は『ある殺人事件の犯人』という疑惑が持ち上がる。
    主人公は母親と婚約者を殺して気がふれた人物であるということがわかる。



    物語は『記憶を取り戻す』という事よりも、『なぜ母と婚約者を殺したのか』に変わる。
    それらは大学教授が事件について調べた書類を元に語られる。



    ……この辺りで、私はめげそうになった。
    『書類に書いてある事件の話』が何度も繰り返される。
    さらには話は「なぜ人を殺すことになったか=精神遺伝のせい」という理論が展開される。
    そこから「精神遺伝はなぜ起きたか」という話へと移行する。
    主人公の存在は物語の枠になりはて、物語の主題が「事件」へと移ったように感じた。

    さらに、二人の教授の対決という、主人公置いてけぼりな方向に話が向かう。主人公の存在が消えかけたところで、再び主人公の視点が戻ってくる。

    しかしここからまた、話が二転三転する。



    『全ては夢幻なのではないか』



    ここまで長々と読んできたものが、夢物語疑惑になる。
    しかし、どこまでが夢でなにが現実なのかは曖昧。



    最後には、『全ては再び繰り返されるのではないか』という疑惑の中で、主人公は意識を失う。

    目が覚めてから、色々と議論を得て、結局
    『自分は思い出せない毎日を繰り返しているのでは?』という疑問で終わり、最初と同じシーンが最後に繰り返される。

    何が事実だったのかが、さっぱり分からない。



    長々と物語を読んで、物語の事実は『記憶を失った主人公が目覚めて、再び気を失った』というこれだけである。

    主人公の記憶と言われているものは、どこからどこまでが事実なのかが分からない。
    疑惑だけが沢山膨らんで、『おそらく、事実であろう』事は多々として提示されるが、全て『事実である』という確証は示されない。さらにそこに、推測と物語独自の理論が絡んで、何を差し出されているのか……何を読んでいるのか分からない。





    長々と読んで、情報を頭で整理しながら読んでいたのに、最後の最後にはひっくり返される。まだ単純に『すべて夢でした』と言われた方が分かりやすいが、これは『夢でした』とは示さない。



    『事実かもしれないし、事実ではないかもしれない』



    曖昧模糊としたひっくり返しで、『すべて事実として読んでもいい』が『全ては嘘かもしれない』どちらでも読めてしまうというのがまた、嫌らしいなと思った。



    気がおかしくなる物語……というのはある意味では頷けるが、その前に大半の読者は、物語を追えなくて脱落しそうだなとも思った。
    かくいう私も、途中を流し読みした脱落者。



    中国の物語の部分、言葉が硬くて意味が分からなくて読むのを諦めた。その後の説明部分で物語の概要を読み取った。



    再び読みたいかと言われたら、もう、ごちそうさまです。と言いたい物語。そっと、本棚の片隅に仕舞い込みたい本。

  • 読んでいて全く先が読めなかった。
    長大な原稿の文章が続いた所から集中力が切れてきたと同時に、アンポンタン・ポカン氏の演説辺りから狂気性が増してきた。
    この大作が描かれた100年以上前から精神科学が存在していたと言う事実に感慨深くなった。
    禍々しい運命を辿った呉一郎(だと思われる主人公)が可哀想になった。
    隣室のモヨ子らしき女性?も似た様な境遇にあるのか。
    冒頭歌の「胎児の夢」が物語の深層を表している様に感じられてならない。
    構造が複雑で虚構の層によって混乱させられている気分になった。
    実際何が真実なのか分からない。
    誰かの詳細に読み解かれた解説を読みたい。

  • 読んだのはkindle版(底本が本書で、元は青空文庫)。なかなかに読みごたえがあってよかった。

  • ドグラマグラ
    1935年(昭和10年)

    福岡の誇る作家、夢野久作の代表作。
    完成までに20年費やしたというだけあって、構想の緻密壮大さ、自在に変化する文体の絢爛豪華さ、縦横無尽の饒舌ぶりと膨大な知識量、予断を許さないストーリーの奇怪な屈折ぶりなど、どれひとつとっても傑作、あるいは怪作の名にふさわしい。

    舞台は明治後半の福岡市。
    ところどころ出てくる福岡市の地名がまた懐かしい。

    数十年ぶりに二度目を読むわけだが、訳が分からなくなって、頭が痛くなってきた。

    いやはや。
    凄い作品だということを再認識させられた。

  • 合い言葉は「ちゃかぽこちゃかぽこ」

    それにしても栞を挟む場所に困ってしまう本でした。
    作者にしてやられた感があります。

  • 空前絶後の遺言書を越えれば、後はジェットコースターの如くクライマックスまで読み進めることができます。キチガイ地獄外道祭文で挫折せず頑張っていただきたい作品。

    果たして「私」は呉一郎なのか、それとも単なる精神異常者の一人なのか。読むごとに印象の変わる、まさに奇書の名に恥じない作品です。
    「私」が呉一郎であるかどうかはともかく、結末は夢野久作節ここに極まれり!と言えます。
    あれやこれやと考察する私達を、久作先生は草葉の陰から呵呵大笑しつつご覧になっているのではないでしょうか?

  • だいぶ前に読了していたものの登録してなかった…。

    いやぁ…途中何回も挫折しそうにりながらなんとか読み終えた。
    夢野久作を知らずにこれから入ると私みたいに苦労するのじゃないかと思う。とりあえず読みやすい短編から入って、それが好きだったらこっちを読むって方がまだとっかかりやすいのかもしれない。

    読むと精神に異常をきたすと言われてる本書ですが、確かにこれを完全にもし理解できたとするなら…少し違う次元にいけるのかもしれません…。

  • 高校生の時に読んで、あーなんかすごい話だったなーとは思ったものの、よく分からない部分の方が多かった。
    で、その後夢野久作全集を読んで、ドグラマグラは一番最後に読んだ。

    そうすると夢野久作の考え方や文章の癖や雰囲気が脳髄に馴染んだおかげか、祭文のところもスラスラ読めたし、何より本編の複雑さに惑わされず読むことができた。

    自分なりに考えた推論は、主人公の言ったままの出来事(母を殺され、暗示によって人を殺し、記憶を失い、離魂病によって時間の感覚も掴みきれないまま同じ実験を繰り返している)がそのままのドグラマグラという話の結末(無限ループとも言えるが)という説と、あとは普通の精神病院に入れられているただの青年が、自分には許嫁がいて心理遺伝によって人を殺すように暗示されて二人の教授の実験材料にされていると思い込んでいるだけで、実際には隣の部屋に許嫁はいないし、二人の教授なんていうのも実は存在していなくて、ただひとり檻の中でそんな妄言を吐き散らしているだけ……という説。

    これまで読んできた夢野久作の短編を反芻すると、精神病を患っている主人公の話はうかつに信用しちゃいけないなあと思い、そうするとどこまでが事実かは分からないにしても、どっかしらドグラマグラの主人公も自分の作り上げた世界と真実がごっちゃになっているのではないかと。

    作中に出てくるドグラマグラという小説と、最後の最後、主人公が教授室から飛び出して意識朦朧となって、また教授室に戻ってくるところは(主人公の推理通りのストーリーだとしたら)どう解釈すればいいのか判断できていないけど、夢野久作が言うように五回読めば五回それぞれ違った解釈、読後感になるというのは本当にそうだなあと思った。

    できれば彼のように記憶を失ってもう一度ドグラマグラを一から読みたい。

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夢野久作の作品

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